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君と過ごす幸せな時

「名前、待たせてごめんね」
「あ、ううん……平気、です」
「そんなに畏まらなくても良いのに」
「ご、ごめんなさい……」

 恋人の名前は、獄卒である鬼なのに妙に感情が繊細で、他人の目を酷く気にする性格だ。他人に嫌われることを恐れる故に自ら発言したり進んで物事に取り組もうとする事が少ない、いわば内気な子だ。それは恋人に対しても同じで、何回言ってもやはり俺の意見に合わせようとしたりするし、会話が続かない事が多い。それでも彼女が好きだから別に苦ではない、彼女と一緒にいるだけで俺は幸せだ。
 彼女はとても綺麗な子だ、枝毛のない艶のある黒髪に長い睫、彼氏の欲目を覗いてもとても美しい。静かにベンチに座る姿は正直見惚れてしまっていたのは内緒だ。

「それで……一体どうしたの?」
「今日、何の日か分かるかな? 多分分からないと思うけど」
「え? えっと…………」

 困ったように眉を潜める名前、ああ困らせてしまったかな。けれども俺の問い掛けに真剣に考えてくれる姿は凄く嬉しいかもしれない。うんうん唸りながら考え込む彼女の頭に手を置いて優しく撫でれば不思議そうな表情で俺の顔を覗きこむ。

「ごめん。……今日はさ、名前がここに来て二百年経つんだよ」
「あ」
「百年記念の時はまだ付き合っていなかったら、……お祝いさせて欲しいと思って」
「わ、わたし何かに……? 良いよ、そんなの」
「ううん、俺がやりたいんだ」

 彼女が、人間から鬼の姿となり獄卒になった日から二百年が経っている。つまりは今日は彼女の誕生日でもあるのだ、百年記念にお祝いをしたかったのだけれどその時はまだ俺と名前はただの同僚という間柄だったし特別な関係でもない限りお祝い事なんてしない。けれども、今ではただの同僚から愛おしい恋人だ、お祝いしないわけにはいかない。
申し訳なさそうに目を伏せた名前に笑いかければ、やはり遠慮しているのか表情はあまり明るくない。

「わたしは、佐疫くんに何もしてないのに……」
「じゃあ、今度の記念日は一緒にお祝いしてくれる?」
「……うん」

 はにかむように笑って俺の手を握り締める彼女のは温かい。じんわりと心が温かくなって彼女の額に口付ければ面白いくらい身体を跳ねさせて青白い顔を一気に赤く染める。ほんとうに、彼女は可愛い。

「さ、佐疫くん!?」
「ふふ、ごめんね。……で、これがお祝い」
「……? ……わあ」

 用意していた袋から、この前買い物していたら偶然見つけた髪飾りを彼女の手の上に置いた。銀色のくし型で、小さな結晶型の飾りが揺れる中で特に存在感を表すのが雪の結晶のチャーム、陽に当てればきらきら光り、奥底が透いているような綺麗な水色、俺の瞳の色であり、彼女が前に好きと言ってくれていた色。

「女性にこういったものを贈るのは初めてだから……気に入らなかったらごめんね」
「うう、ん……! すっごく綺麗で素敵……わたしなんかに、有難う」
「……ん」

 頬を赤らめて胸で髪飾りを抱く名前、あまり見たことのない嬉しそうな表情で俺も幸せな気持ちに満たされて目を細めて微笑めば彼女は宝物を貰った子どものように目を輝かせて様々な角度からその髪飾りを見つめる。好きな人に贈り物をして、こうして喜んでもらえるという事はなんて幸せなんだろう。
 けれど、最後の言葉がどうも気になったので俺は彼女の頬を撫で、きらきら輝く瞳を見つめて口を動かした。

「でも名前、わたしなんか、という言葉はダメだよ」
「え……?」
「俺は名前のためにコレを贈ったんだ、君に似合うと思って、君だけを想って買ったんだよ?」
「ご、ごめ……」
「謝っちゃだーめ。そこは、嬉しい、って言ってほしいな」
「ふふ、……凄く、嬉しい」

 有難う。先ほどよりもはっきりと告げられて俺は我慢出来ずに笑みを浮かべれば名前も幸せそうにはにかんで、その艶のある髪の毛を持ち上げたかと思うと丁寧にその髪飾りを髪に挿した。初めて見る髪を上げた名前の姿にも心臓が高鳴ったけど、思っていた以上にその髪飾りは似合っていて、思わず息を呑んだ。

「……どう、かな?」
「似合ってる、……凄く綺麗だよ」
「よかった。このチャーム、佐疫くんの目を同じ色だね」
「あ、嫌だった?」
「全然! そ、そういうのじゃなくて……変なこと言ってごめん……」
「ああからかってごめんね、冗談だよ」
「わたし、佐疫くんの目の色……好きだから」

 照れ臭そうに首をすくめると、雪の結晶が静かな音を立てて揺れ動く。改めてこう言葉にされるととても照れてしまう、俺も彼女の目の色も、彼女自身も好きだから、お互い思っていることは同じだと思うと凄く嬉しい。
他にもチャームが星や月、雫などあったけれど俺が数ある中で雪の結晶を選んだ理由、言っても良いのだろうか。

「ねえ、どうして雪、なの……?」
「ん?」
「あ、き、気に障ったなら……ごめん」
「違う違う、全然怒ってないよ」
「っ、」

 途端に少しだけ沈んだ表情を見せる名前を宥めて、髪を崩さないように頬を撫でれば少しだけ不安げな顔をした名前がいたので安心させるべくそのまま彼女の桃色の唇にキスをすれば多少驚きつつも、すんなり俺を受け入れてくれた。理性が崩れそうになるが、ここは外なのですぐに顔を離して彼女の頭を揺れ動く結晶にソッと触れて、囁くように言葉を紡いだ。

「名前は、雪みたいな子だなって、思って」
「わたしが、雪?」
「そう。……儚くて、気がつけばスッと消えてしまいそうな時がある……けれどとても綺麗で傍にいるだけで幸せになるんだ」
「さ、最後は違う、と思うけど……」
「名前は綺麗だよ。……凄く、けど、きちんと触れておかないと、あっと言う間に消えてしまいそうだ」
「佐疫くん……」

 今その場にいる彼女の存在を確かめるように、何度も何度も頬を撫でれば不思議そうな顔をした名前を目が合う。とても綺麗で、触れたらすぐに消えてしまいそうなほど繊細な名前、一瞬でも目を離せばどこかに溶けてしまいそうで……時折不安になることもある。

「名前、」
「……わたしは、ずっと佐疫くんの傍にいるよ。これからも、ずっと」
「名前、俺」
「こんなわたしを、受け入れてくれるの貴方しかいない、もん」

 説き伏せられた瞳に魅入られている時に、彼女の顔が近付いて不器用ながらも温かい唇が触れ合ってキスをされる。内気で内向的な彼女が、自らこうして唇を重ねることに驚きで目を見張ればすぐに恥ずかしげに顔を逸らされて、からかうように雪の結晶が音を立てて揺れた。
驚きでただ黙っていると、怒らせてしまったのか、と一気に顔色を変える名前がいて控え目に俺の手に触れてきた。

「あ、ご、ごめんなさい……っ、わたし、か、勝手なこと、して」
「……嬉しい」
「え……?」
「されるのは、照れ臭いけど嬉しいものだね」
「……っ、」

 これ以上赤くしたら死ぬんじゃないかというくらい赤面してもじもじしている小動物のような名前を抱き締めればその身体はとても熱く熱が俺にも伝染しそうなくらいだ。「あ、あの」とか「う……」なんて言いながらもそっと俺の背中に手を回して背を叩く名前、愛おしさがこみ上げて少しだけ力を込めれば、名前が小さく囁いた。

「……佐疫くん、す、き」
「俺も、好きだよ」

 滅多に言われない言葉を言われない言葉を囁かれると、その言葉の重みはとても倍以上に感じるのは人間も同じなのだろうか。こうして人間と同じように恋をして何気ない日常を過ごす、これからもずっと。

「名前」
「なに?」
「……誕生日、おめでとう」
「……うん」

 何十年、何百年後も、ずっと君を愛し時を刻み続けるのだろう。ゆっくり彼女の髪に手を通せば、陽の光で輝く雪の結晶が静かに揺れた。






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理保様リクエスト、記念日に夢主に髪飾りを贈る佐疫でした。
佐疫は贈り物のセンスが抜群に良さそうなイメージがあります。内気な女の子は、あまり書いたことがなかったのでとても新鮮でした、この夢主は何となく雪のイメージがあります、儚いみたいな……。瞳も雪みたいな綺麗な透き通ったような色かなぁって考えてます。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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