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熱で溶かされる

「名前ちゃんこんにちは〜」
「あ、姉さん……こんにちは」

 獄都にも四季は存在しており、現在は夏真っ盛り。現世の夏と比べると比較的涼しく過ごしやすいが暑いものは暑い。今日は任務も無いので街で買い物をし終わり屋敷へ帰ろうとした矢先に玄関先に任務から帰ってきた、先輩姉さんがいた。結構動いたのか汗が滲み出ているがどこか涼しげだ。部屋に戻ったら冷たいものを飲んでレシピ作りでもしようかなと頭の片隅で考えている間に明るい声色で挨拶されたので私も返せば姉さんはこちらに近付いて笑顔を向ける。陰で、彼女は大和撫子と言われているほど美しい人だ、艶のある黒髪にすらりとした体躯、優しげな微笑で虜にされた男性獄卒は少なくは無い、聞けば女性獄卒でも何人かいるらしいし。

「今日暑いわね〜、夜は涼しくなると良いのだけれど」
「ふふ、お疲れ様です。倒れないようにしてくださいね」
「あらあら、有難う。……そうだ、これあげるわ」
「……?」

 姉さんは、持っていた紙袋から一つのアイスを取り出すと私に手渡す、渡されたそれを受け取ってみれば僅かに水滴が零れているアイスキャンディだった、なんでこんなもの? と思いながら控え目な笑みを浮かべている姉さんに目を向ければ、薄い唇が動く。

「任務先で貰ったのよ、けど私部屋にあるから、貰ってくれると嬉しいな」
「有難う御座います!」
「うふふ、それじゃあね」

 報告に行かないと、と付け足して姉さんは長い髪を靡かせて屋敷の中へと消えて行った。残された私は手にあるアイスを暫く眺めた後、急いで部屋に帰ろうと思い小走りで屋敷の扉を開けた。
 本当は食べ歩きをしたかったけれどそんな行儀の悪い事は屋敷内では出来ないので、部屋に付いたと同時に、荷物を冷蔵庫や棚に突っ込みアイスを覆っているフィルムを破き白い湯気を出しているアイスを口に銜えるが、口にした途端広がるアイスの味に思わず顔をしかめてしまった。

「あ……みるくだ、これ」

 ミルクキャンディ、味が分かった途端にそのミルクの味が一気に口内に広がって舌に張り付いていたアイスはじわじわと溶け出して舌に染み込む。強い牛乳の味が一気に鼻まで広がったので思わずそれを離して顔を顰める。最悪だ、よりにもよって苦手な味のアイスを貰ってしまうとは、こうなったら最初に味を聞いておけば良かった。

「あー……もう」

 開けちゃったものは仕方ないから、食べるしかないか。お腹壊さなければ良いけど、丸テーブルの前に腰掛けてなるべく味に意識を向けないようにアイスを舐める。牛乳は、やはり嫌いだ、妙ににおいが強くて味もあまり好きではない、けれど他の乳製品なら全然食べれるのに……、意識しないとミルクが口の中に広がる。終わりが見えない苦行に頭を悩ましていると、ふいにどたどたと足音がして、扉が乱暴に開かれた。

「名前ー! 遊びに来たぜ!」
「っ、平腹?」

 同じ仕事仲間であり、恋仲である平腹がにこにこ笑顔で、どこかで買い物してきたのか袋を携えて部屋にやって来た。前から口を酸っぱくしながらノックをしろと言っているのに彼は部屋にやってくるたびノックを忘れる、もう諦めて何も言わなくなった私もアレだけれども。
銜えていたアイスを離して変わらずにこにこ笑顔の平腹を見ていれば、ずかずかと無遠慮に部屋に入り込んで私の隣に座り込んだ。走ってきただろうに、息一つ乱していない。

「んぉ? なに食ってんの?」
「アイス、先輩姉さんから貰ったの」
「まじか! オレも名前と一緒に食おうと思って買ってきたんだぜ!」
「嘘、見せて」

 袋の中身はアイスだったのか、丸テーブルに置かれた袋を覗き込めば私がフィルムに包まれたパッケージにはチョコ味と書かれた、私が今舐めているのと同じ棒付きのアイスキャンディが二つ並んでいた。おぉ、チョコ味とは……さすが長年付き合っているだけか私の好みの味を熟知している。

「チョコだー、……食べたいな」
「でもそっち食ってんじゃん、コレ冷蔵庫入れてこうか?」
「あー……あのさ、これミルク味で処理に困ってたところなんだ」
「んじゃあオレがそっち食うから名前こっち食えよ!」
「……良いの?」
「おう、構わないぜ」
「じゃあ、お願いします」

 控え目にアイスを渡せば、平腹は快くそれを受け取ってくれて豪快に銜える。私は袋に入ったアイスを取り出して残りを冷蔵庫に入れてフィルムを剥がして少しだけ小ぶりなチョコ味のアイスに齧りついた。ほんのり苦いビターチョコ風味であまりの美味しさに笑みが零れそうになる、幸せだ。

「んー……平腹ありがとね」
「これ美味いな、名前の方も一口くれよ」
「はい」

 元々は平腹が買ってきてくれたものだし、銜えていたものを口から離して差し出せば、平腹はきざっ歯の口から真っ赤な舌を覗かせてそのまま舐める。その光景を見たとき妙に色気があって、顔に熱が溜まったような感覚がしたので顔を逸らせば、平腹は私の考えを察したのかにんまりとした笑顔を浮かべて顔を覗きこんだ。こいつ、たまに自覚無しに色気ある行動をするから反応に困る。しかし平腹は私の心中なんか気にせずにニッと屈託のない笑顔を浮かべた。

「これ美味いな!」
「そ、そっか……うん、美味しいね」
「けど、こっちの方が美味しそう」
「っ、」

 平腹の熱い掌が頬に触れて、顔を引っ張られたかと思った瞬間にアイスで冷え、ミルク味とチョコ味が交った唇が私の唇に喰らい付いた。唐突な事で思わずアイスを落としそうになるがアイスを握っていた平腹の手が器用にその手を掴んで難を逃れた。

「ん、」
「……んー、っ」

 身体が熱くなって、顔を離そうにも平腹が許してくれず、はむ、と上唇を甘噛みされる。
いきなりの行動で身体が熱くなるし、脳内が蕩けそうだ。

「ひ、ら、」
「すっげぇ甘いな、名前とチョコの味する!」
「そりゃアイス食べてるから、」
「けど、足りねぇからもっとしたい」
「ちょ、んん!」

 有無を言わさず、平腹の熱い舌が私の唇を舐め上げて口内に舌を捻じ込まれる、これは本格的やばい、と思った私は空いている片手で平腹の首元を思い切り押せば「ふぉ!?」なんて変な声を上げて平腹が離れた。
軽く乱れた息を整えるためアイスを口に含んで、軽く平腹を睨みつけて、言葉を吐き捨てるように言う。

「アイス溶けるし、熱い」
「え〜? 良いじゃん名前のケチ」
「ほら平腹も早く食べちゃおう」
「ちぇっ」

 溶け始めたアイスを口に含んで、火照った身体を冷やそうとアイスを食べるのに集中すれば平腹は唇を尖らせつつも溶け始めているアイスをバリバリと噛み砕く。いやいや豪快すぎるでしょ。

「なあなあ名前」
「な、」

 今度はなんだ、と思いつつも顔を傾ければ啄ばむように軽く平腹がキスをしてきて満足気に舌なめずりをしている。こいつ先ほどの言葉が理解出来ていないのか、声を荒げる前に私の手に持っていたアイスに平腹が喰らいついて半分ほど持っていかれる。

「ああ!」
「名前食うのおせぇよ、オレもっとキスしたいんだけど」
「い、今したじゃ、ん」
「全然足りねぇんだよ、んー」

 アイスを口に溜め込み、頬袋に膨らませた平腹がアイスを一気に咀嚼するとまたキスをしてくる。口いっぱいに広がるチョコの味と、沈み始めた熱がまたじわじわ上り詰めて頭がくらくらしてきた。もう、対抗するの諦めようかな。
夏場なのに、どうして平腹はこうも年中元気なのだろうか、私は暑さでほぼぐったりしているのに……少しだけその元気さが羨ましい。

「早く食わないともっとキスするぞー」
「わ、分かったから! あと口元も拭いて」

 チョコで少しだけ汚れている平腹の口元をティッシュで拭っていると、その手を掴まれて手首に冷えた唇が押し当てられて少しだけ身体が跳ねる。
そろそろ脳内で事態が追いつけないまま平腹を見ていると、黄色の瞳が楽しそうに細められ言葉を投げ掛けられる。

「いっぱいちゅーしてー、名前にも触りたいなー」
「え、えええええ」

 まだ昼間なんだけど、と言おうとしたけれど、私の背後に移動した平腹はそのままお腹辺りに腕を絡ませて首元に顔を埋める、綿毛のようにふわふわした髪が当たってくすぐったいが、溶けて垂れそうなアイスを全部口に含んで口内で溶かした瞬間に平腹が首筋にキスしてきて思わずアイスを吐き出しそうになる。

「ん!?」
「名前身体すっげー熱い、お、アイス食い終わった?」
「う、ん」

 ゴクリと少しだけ固まったアイスを無理矢理飲み込んで頷けば、後ろで満足そうな、ため息みたいな音が聞こえてきて頬に平腹がキスをする。身体が密着しているし、平腹が身体に触って来るので燃えそうなくらい身体が熱い、死にそう。

「んじゃ、ちゅーして良いか?」
「……」

 この空気でそれを聞くか、と思いつつも頷けば平腹は満足そうに目を細めてさっきと同じように唇に喰らい付いて啄ばむように何度も唇を合わせてくる。熱いけど、行き場のない両腕に寂しさを覚えて、一度だけ顔を離して身体を捩って平腹と向かい合わせになり背中に手を回した。

「んぉ?」
「……む、向かい合った方が、首痛くないし」
「そっか! こっちの方が顔よく見えるもんな」

 本心を理解していないか、まあ平腹らしい。苦笑を零しつつも顔を上げれば、唇にキスをしたり頬や額に平腹はキスを落としてくる、平腹も逃がすまいと本能が出ているのか強い力で私の背中に腕を回している。正直熱いけど、全然嫌な気はしない。

「名前ー、大好き、すっげー好き」
「私も、平腹が好きだよ」

 笑いかければ、楽しそうに笑う平腹と目が合ってそのまま唇にキスをする。と、同時に苦しいくらいに抱き締められて犬みたいに擦り寄られる。やはりコイツ、大型犬だ。可愛くて頭を撫でれば嬉しそうに身体を揺らす平腹が可愛くて、私も力いっぱい彼を抱き締めた。






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桜坂様リクエスト、平腹とイチャイチャ夢でした。
テーマを夏にして、そこからアイスでイチャイチャさせようという設定が最初から浮かんでいたのでアイスそっちのけで後輩獄卒にちゅーする平腹が出来上がりました。地味に大和撫子先輩を気に入っております。平腹は後輩獄卒が何かしていようがお構い無しに構って構って!ってしてきそうです。犬だ。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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