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「#幼馴染」のBL小説を読む
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ストイック者の愛情表現

 頑固者で冷徹無慈悲そしてかなりのストイック、鬼よりも鬼らしく慈悲など求めていけないなどと言われている獄卒仲間であり血の繋がりは無いけれども家族であり兄妹であり大切な恋人谷裂は今日も訓練に勤しんでいる。任務がお互いに無い日は良くこうして呼び出されて訓練の相手を手伝わされるか別々の訓練等をしている。まあ、付き合った時点で甘い恋人達の日常は描いてなかったから良いけれども。

「八十五……八十六……」
「はーいあと一分だよー」
「八十七……八十八……」
「あの、谷裂……重くな、」
「さ、きほども言っただろうが……八十九、これが、訓練だ……九十」
「……」

 一生懸命、私の身体を背中に乗せて腕立て伏せをしている谷裂。ある程度の訓練をし終わり休憩をしていたところに急に谷裂がこちらに向かって「俺に乗れ」なんて言い出した時は本気で頭おかしくなったのかと思った。その考えが見透かされたのか谷裂はいかつい顔を更にいかつくさせ「腕立てをする。だから錘代わりになれ」と言い出した、初めて恋人に言われたからかなり戸惑ったが最後は半ば強制的に背中に座らされて今に至る。
 というか腕立てしているのに全然私の座っている軸がブレないってのはある意味凄くないか、けれど成果は出ているのか彼の背中や額からは汗が滲み出ている。
人を乗せて腕立てなんて漫画ですら見たことないのに平然とやってのける谷裂はやっぱり凄い。

「はい終了。お疲れ」
「ぐっ、……あと十回は行けると思ったのだがな、まだまだ訓練が足りないか」
「もう十分すぎるほどしたでしょ、一回休んだ方が良いよ」
「だが、」
「はいはい今日は風も気持ち良いから座って!」

 止めなければどこまでも訓練に夢中になりぶっ倒れるんじゃないかな、と思いながら汗をタオルで拭く谷裂を風通しの良い場所に移動させて座らせる。
なにか言いたげに顔をこちらに向ける谷裂だったが私はそれを無視して水を渡すと、足を広げて座っていた谷裂の足の間に控え目に座り込んでそのまま後ろに寄りかかる。ビクッと谷裂の身体が跳ねたが、今までこうしたスキンシップなど取ったことがない私にはこういう恋人達にしか出来ない行動というのは密かな憧れだった、相手が相手だから言わなかったのだけれども。

「な、おい名前」
「さ、最近任務続きだったから……」
「おい、汗もかいていて気持ち良いところじゃないだろ離れろ」
「そんなもの一緒に訓練してれば分かるよ。……私が、こうしたいの」
「……、」

 最後は半ば言いくるめるように言えば無下に引き離すことも出来ないと狼狽している恋人谷裂は頭上でため息を零して何も言わなくなった。
良かった、と私自身も気付かれないように安堵のため息を零してそのまま身体を預けるように寄りかかれば訓練で逞しい谷裂の身体は熱を帯びており背中から伝わってくる、頭ももたげれば鼓動が激しい心音が聞こえてくる、あれ、緊張してるのかな。それは、普段全くくっ付いたりしないからこういうのに慣れていない私もだけれど。

「……いつまでこうしているつもりだ」
「私が満足するまで」
「誰か来たらすぐ引き離すからな」
「はいはい。誰もきませんよーに」
「……」

 先輩達も今日は任務とかだから、多分道場には来ないだろう。というか元々道場に来る人たちは少ないし今は忙しい時期だから殆ど書類作成や任務に追われる人たちばかりだろう、早いうちにやらなければいけない仕事を休みを貰わず片付けておいてよかった。おかげでこうしてゆったりした時間を過ごせているし。 

「……獄都で今ひったくり多いらしいよ」
「持ってきていたのか」
「一応ね、緊急な連絡来るかもだし」
 
 水と一緒に持ってきていた携帯に電源をつけて今のニュースを谷裂に見せるように傾ければ谷裂はニュースが気になるのか身体を持ち上げて私の肩辺りに顔を近づけて携帯の画面を覗き込む。急接近した谷裂の顔と仄かに香る汗の匂いと、谷裂の匂いで顔に熱が溜まって赤い顔のまま画面に夢中の谷裂の顔を凝視してしまう。

「ちっ、暇な奴もいるもんだな、警察は何をしている」
「う、うん……」
「なんだ、歯切れが悪いぞ名前、なっ、っ!?」
「うわ谷裂大丈夫!?」
「〜っ……!」

 私との距離感に気付いた谷裂はすぐに顔を真っ赤にさせて後ろへ引いたかと思えば壁に頭をぶつけて言葉こそ出さないが悶絶している。というか音からしてかなり痛そうだったけれど……。

「問題ない、……気にするな」
「で、でも」
「平気だと言っている」
「……」

 たんこぶ出来てないと良いけど……。

「えっと、よしよし」
「おいふざけているのか、」
「わー坊主頭ー」
「おい、聞け!」

 ぶつけてない部分を、宥める目的で撫でてみれば坊主頭特有のじょりじょり感が手を伝ってきた、この感触やっぱり好きだ。身体を捻って頭をわしゃわしゃすれば声を荒げた谷裂は私の頬を掴んで引き寄せる、息が掛かるくらい距離が縮まって思わず息が詰まってしまった。

「っ、」
「たく……いっそ両手を縛り付けるぞ」
「ご、ごめん……、えっと」
「なん、……! ん、んんっ!」

 近い、という意味合いで軽く彼の胸板を押せば谷裂も気付いたのか紫色の目を見開いて先ほどのように一気に顔を赤くさせると咳払いで誤魔化すように私から顔を遠ざけた。吃驚した、無意識のうちにこんなことを仕出かすとは……心臓に悪い。

「吃驚した……」
「お前が変なことをするからだ」
「えへへ、ごめん。けど、ちょっと嬉しい」
「……」

 あ、照れてる。この空気を打破するためにどうしようかと思えば、ふと谷裂の手が目に付いた。

「……手」
「は?」

 思わず手に取って掌を見つつ自分の掌と合わせれば、自分のものである手と彼の手の大きさが遥かに違いすぎて感嘆の意が空気と一緒に吐き出された。他の先輩達も身長が大きい分手も大きいけれど、谷裂の手はまだ別次元に大きく見える。これなら頭を簡単につかめるわけだ。

「谷裂の手、やっぱり大きいね」
「……男なのだから、当たり前だろう」
「いやけど、……他の人たちよりも大きいよ。骨ばってるし」

 幾分大きく、それに伴って太く出来ている手や指を色々な角度で見て自分の掌と重ねて彼にも見えるように立てている膝にその手を移動させて少しだけ顔を傾ける。相変わらず私のやりたい事が分からないのか難しそうな表情をしている谷裂。

「おい、一体何がしたいんだ」
「んー……スキンシップ、みたいな。ほら大きさ全然違う」
「……」
「ここまで大きいと色々便利だろうねー、ちょっとやそっとじゃ壊れなさそう」
「はあ……お前の考えは読めない」
「私も何がしたいのかよく分からないけど、……こういう時間も楽しいって思うよ」

 急に照れ臭くなってはにかむように笑えば眉間に皺が寄っていた谷裂の顔が少しだけ和らいで、重ねていた掌を少しだけ動かしたかと思えば急にその手を持ち上げてまじまじと見つめる。私の手なんか見ても何も楽しいことはないのだけれど……一体どうしたのだろう。

「谷裂?」
「お前の手は小さいな」
「え」
「無駄に柔らかくて、下手に力を入れればすぐに折れそうなくらい華奢だ」
「え、折る気ですか……!?」
「阿呆。そんなことをするか」
「冗談だよ。けど、そんなに華奢に見えるかな?」
「ああ、ほんとに小さく細かい……触れるのすら躊躇われる」

 壊れ物を扱うかのように、ぎこちなく私の手を包み込んだ谷裂の手は熱くて汗でお互いべたついているにも関わらず嫌な気は全くしなかった。
谷裂の口からそういった言葉を聞くのは初めてで、妙にドキドキした鼓動を抑えて私は彼の背中に寄りかかる。前ならこうして触ったり身体を密着させるだけで俊敏な動きを発揮し逃げていたのに、くして身をかためているが受け入れてくれるのは大きな進歩だ。

「なんか、谷裂丸くなったね。昔はこうして優しく触れたりしなかったのに」
「女、子どもは触れればすぐに壊れるし子どもはすぐ泣くから苦手だったのにな、お前と時を過ごしているうちに価値観が色々変わった。全く俺らしくない」
「あはは……」

 元の性格はほとんど変わらないけど、私と付き合ってからは角ばっていたものが少しだけ削れて丸くなっている、身長や足の長さの問題で歩くスピードも、付き合う前は「もっときびきび歩け」と言われてたのに付き合ってから暫くした後は彼が黙って歩幅を合わせてくれるようになったし……。嬉しくて思わず表情を緩めれば、谷裂はふっと息を吐いて私の腰元に腕を絡め髪の毛に顔を埋めてくる、え、どうした。

「本当に、お前といると俺が俺ではなくなる」
「それは良い事なの? それとも悪い事?」
「さあな」
「というか、あの頑固者ストイックな谷裂がデレてることに違和感ありありで頭回らないんだけど」
「……」
「いたたたた! 出る! 内臓出る、ほんとに出ちゃうからっ!」

 さすがに思ったことをそのまま吐き出したのがまずかったか、明らかに今の雰囲気では言ってはいけない言葉を吐いてしまったので呆れた谷裂のがっしりした腕に力が込められ私のお腹をこれでもかというほど締め付ける、胃の中のものが逆流してきて本当になにか出そうになり思わず叫ぶ、やばい、このままだとやばい。

「はあ……お前はほんと、斜め上を行く発言をするな」
「褒め言葉? なんか貶されてる感否めないんですけど」
「だからこそ、飽きない」

 優しい声色で囁かれて控え目に頭にキスが降りてきた。うわ谷裂が凄くデレてる! なにか悪いものでも食べたのかな、それとも酔ってるのか、……どっちも考えられる。
なんとなく、付き合う前と関係が変わらないから本当に付き合っているのか、想い合っているのか少しだけ不安だったのだけれどもちゃんと愛されているんだ、嬉しい。

「谷裂」
「なんだ、変なことは言うなよ」
「言わないよ! ……うん、大好き」

 ちゅ、と触れるだけのキスをしてふは、と破顔一笑すれば頑固で冷徹無慈悲で鬼よりも鬼らしいというレッテルを貼られている谷裂は顔を赤くさせ、身体を熱くさせて私の身体を持ち上げる。え、持ち上げる?

「……ん?」
「余計な戯言はお終いだ。さっさと訓練へ戻るぞ」
「もう終わったんじゃ、」
「まだだ、腕立てをノルマ達成出来なかったらリベンジするぞ」
「えっと、もしかしてまた」
「乗れ」
「(うわー)」

 甘い雰囲気なんて彼には似合わなかったのか、まあそれが一番谷裂らしいから当たり前か。

「名前」
「ん?」
「……俺も、お前を、す、…………好いているのは、忘れるな」
「え」
「二度目は無い。さっさと訓練をするぞ」
「〜っ谷裂っ!」
「な!? だ、抱きつくなおい!」






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悪猫様リクエスト、恋人谷裂とイチャイチャ甘でした、が、申し訳ありません全然谷裂とのイチャイチャが書けませんでした、とりあえずスキンシップすればイチャついてるように見えるだろうなんて甘い考えな私を殴ってください。谷裂は酒でも入ってない限りはブレないだろうなと思います、しかし背中に乗せるのは夢主だけとか。谷裂と後輩獄卒だと後輩獄卒がリードしそう。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
悪猫様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました。

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