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獄卒依存方法マニュアル

目の前で背中を向けて本を読んでいる奴の後ろから、静かに腕を伸ばして背中に抱きつけばピクリと身体を震わせて身体を硬くした。

「名前」
「田噛?」

 長い年月をかけて、彼女を振り向かせるために押したり引いたりを繰り返してやっと手に入れることが出来た彼女の名前。押してアピールするだけではしつこい奴になるだけだから時にわざと遠ざけるように接したりもしていた、見事名前は俺に意識を向け、頃合を見て想いを伝えて今に至る。
 けど、まだ足りなかった。名前が、普通に俺の事を“好き”という感情だけを向けているのに納得がいかなかった、もっと、意識を俺に向けて欲しい、そう、俺が傍にいないと可笑しくなるくらい。

「明日も非番だろ」
「うん、あ、……出掛ける?」
「いや、めんどくせぇから良い」
「じゃあ、一日部屋?」
「……明日は用があるから無理だな」
「そっか」

 残念だね、なんて身体をこちらに向けて苦笑する名前。本来ならばここで多分会話が終わると思うが妙に独占欲が強くなった俺は名前の顔を真っ直ぐ見て柔らかい髪の毛を梳きながらか細い腰に腕を絡ませる。

「ったく、一日会えないわけじゃねぇだろ」
「んー……」

 微妙に頬を膨らませる名前の頬を押さえてこちらへ向かせれば少しだけ寂しそうな表情を見せてゾクゾクする。こうして、時折ジキルとハイドを上手く使い分けて接していけばいつか彼女は、本当の意味で俺の者になるだろう。

「名前、こっち向け」
「っ」

 ほのかに濡れた唇に自らの唇を押し当てそのまま舌で舐めればピクリと身体を跳ねさせて俺の方に縋り付いた。蕩けたような双眸が射抜いて身体に変な熱が溜まりそうだった、求めている視線、感情、もう少しで、もう少しで上手く行くはずだ。

「田噛、好き、です」
「……知ってる」

 先ほどと同じように濡れた唇に吸い付きながら彼女の青白い肌に触れるためシャツの中に手を忍ばせれば一気に緊張の色が張り詰めたのか唇や身体がかたまった。理性が先に行動に現れ身体を起こして馬乗りになれば面白いくらいに顔を赤くする名前。

「痕、ここら辺まだ残ってんな」
「だ、だって朝だったから」
「……」
「んっ、」

 青白い肌に妙に目立つ赤い模様に舌なめずりをして再び同じ位置に唇を押し当て吸い付けば吐息とも取れるような声が名前の声が俺の耳朶を打っていく。
 どうせ制服を着たら、襟元で首の痕は見えないはずなのに付けようとするものならば名前は頑なとしてそれを拒む。
ここで変に意見を述べば俺の作戦は思い通りにいかなくなる、だから名前の意見を尊重するが痕はどうしても付けたい、から背中や腹にずっと唇を押し当てて何個も作っていく。

「た、がみ……、んっ」
「ん……、なんだよ」
「くすぐったい……」

 照れ隠しなのか顔を見せずに呟く名前に身体の中心の熱が溜まるがここで下手に優しくしてしまえば後々来る俺の印象が薄くなる、どうせ身体を重ねるなら、事後でも色濃く俺のことを思い出して勝手に身体が火照るくらいまで俺をコイツの身体に刻み付けたい、いや、そうしなければ俺の意識を全てコイツに刷り込ませるのは無理だろう。

「くすぐったいのくらい我慢出来るだろ」
「う、で、でも」
「嫌なら止めるぞ」
「っ……」

 生理的に流れた涙が睫を濡らしていき頬に赤みが増していく。鬼といえど欲求には勝てないのはやはり生きているうえでの性だろう、だからこそその部分を突いて意地悪くすれば名前は表現し難い表情を見せる。

「いじわる……」
「じゃあ、止めるか」
「え……」

 浮かび上がりそうなにやけを押さえて身体を起き上がらせれば熱が身体に篭っている名前は驚きで目を見開き寂しそうな表情を見せた、ああ、そうだ、俺はこいつのこういう顔も好きなんだ。背筋が別の意味でぞくぞくしてこのまま裸にひん剥きたいのを押さえて平常心を保つフリをして背中を向ければ、寸止めを喰らった名前はきっとこのあと縋り付いてくるだろう、

「あ、あの田噛……」

 ベッドから降りようとした瞬間に名前は蚊の無く声で俺の名前を呼んだかと思えばそのまま背中に控え目に抱き付いてきた、ああやはり、欲求には勝てないのか。
そのまま振り向かずに「なんだよ」とだけ声を掛ければ察して欲しいのかただただ無言で背中に頭を押し付ける名前。そろそろ自分自身も限界が近かった、が、ここで折れたら俺の計画は失敗する。

「えっと、……あの」
「言いたいことがあるならちゃんと言え」
「〜……」

 普段こんな焦らしたことがないから言いにくいのだろうか。そうだろうな普段は俺が我慢出来ない分すぐに及ぶから、思えばあの時はまだ恋愛感情は純粋で真っ直ぐだったかも知れない、いつから歪んだのか。

「名前」
「……た、い」
「……」
「シ、シた、い」

 消え入りそうな呟かれた言葉はしっかりと俺の耳に届いた。その言葉は理性の色を解くには十分すぎた、ゆっくり振り向けば少しだけ顔を明るくする名前の唇にキスをすれば早く、と言わんばかりに俺の方に身体を摺り寄せる。

「田噛、」
「……加減は、しないぞ」

 乱暴に押し倒しシャツを捲り上げた。



 事後のあとは、日によって反応を変える。時に疲れたから寝る、と素っ気無く返事をしてスキンシップもせずに寝る、その後名前が無反応だったら自分から話し掛け向こうから話し掛ければそれにぶっきら棒に答える。またある時は優しさを見せて甘やかしてやる、こうして二つの優しさや素っ気無さを上手く使い分ける事によって徐々に名前の中では俺の存在が大きくなっていく。
 なぜ分かるのか、というのは俺が泊まらずに部屋へ帰るときの反応で分かる。今までは少しだけ名残惜しそうな表情だけを見せていた名前が、少しずつ変わってきている。

「じゃあな」
「なんか、田噛が部屋にいないと落ち着かない……」
「……いっそ俺のところに住めよ」
「…………、男子の屋敷でしょ、ダメだよ」

 一瞬だけ考える素振りを見せた名前に口角が上がりそうなのを耐えた。前までは似たような発言をすれば即答で「無理だから」と言われたが、上手い具合に飴や鞭を使い分けている成果がそろそろ出てきたようだ。未だに名前の手は俺の服を掴んだままだった。

「ね、ねえ泊まってかない? もう夜も遅いし」
「……」
「あ、無理なら良いんだけど……」
「……夜、我慢できるかわかんねーぞ」
「!」

 淡い期待を抱かせてその期待に答える。全て思惑のうち。面白いくらい掌で転がってくれる名前が堪らなく愛おしくなりそのまま首筋に舌を這わせれば熱い吐息を吐き出す。
 依存させる方法、やはり一番大切なのは緊張と快感を上手い具合に分け与えることだ。飴と鞭、ジキルとハイド、全て頭をフル回転させて慎重にやらなければ意味がない。恋人同士なら割と簡単にいくと思うが実際他人同士だったらどうなるのだろうか、その場合俺なら理性に任せて監禁をしちまうかもな、自分の歪みっぷりに自嘲してしまう。
どうせなら、完全に俺に依存したらいっそどこかに閉じ込めてしまおうか、そうしたら誰にも見られることもなく触られることも無い。問題は行方不明を扱いを受けた後だが時間と労力を使っていけば上手く行く気がする。

「田噛……、明日も、一緒にいて欲しい」
「用事があるって言ってるだろ。無理だ」
「っ、……」

 随分コイツも変わったな、付き合いだしてもこんな事は言わなかったのに、俺が彼女を丸ごと者にしたいと思った時から少しずつ見せた本性に操られ徐々にこいつの中での俺の意識も変化を見せて自分自身の独占欲や依存心が顔を見せ始めたのだろうか。ならば本望だ、寧ろそれしか望んでいない。

「最近田噛が傍にいないと、凄く寂しくて……」
「……」
「一緒に暮らすって言われたとき嬉しかった、本当になればなって、」
「けど無理なんだろ?」
「そ、うだけど」

 つっけんどん気味に言えば尻すぼみ状態の名前、鞭を言葉で与えて行動では飴を与える、泣きそうなのを堪えて震える名前の身体を抱き締めて頭を撫でてやれば甘えるように名前を吐き出して同じように俺の身体に抱きつく。
もう少し、まだ本の序の口に過ぎない、どうせなら俺が傍に居ないと可笑しくなり俺から離れたくないと思わせるくらいまで行かないと意味がない。身も心も全て俺に依存させなければ意味がない。

「お前だけがそう思ってるんじゃねーよ」
「え……?」
「俺もお前が必要だ。だけど、もう少しだけ待ってろ」
「それって、」
「……ちゃんと、愛してる。一生傍にいろよ」

 耳元で囁けば一気に熱を帯びて壊さんばかりの勢いで腕に力が入る。自らがいなくても平気と思わせながら結局はお前が必要だ、と思わせてほんの数回愛の言葉を囁く。普段投げ掛けない言葉を聞いた彼女は嬉しくなり、更に俺に対する意識が強くなる。

「(いっそ、どこかに閉じ込められたら良いのにな)」
「なんか、田噛の事好き過ぎておかしくなりそう」
「問題ないだろ」
「うん?」
「……なんでもねえ」

 いつか、お前は俺の手によって可笑しくなるのだから。ゴールはきっと目前まで来ている、押さえ切れない興奮を必死に抑えて俺は名前にバレないように小さく笑った。

「(俺も大概、歪んでいる)」

 愛しすぎたから、好き過ぎた故の狂気だ。そんな歪み方すら快感に感じた。






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ひな様リクエスト、計算して自分に依存させる田噛でした。付き合う前でも良いけど付き合った後も足りなくなりもっともっとと欲しているうちに多少自覚ありのヤンデレに変化していくのも良いなーと思いながら書きました。田噛はジキルとハイドを上手く使い分けて簡単に人を洗脳したり依存させたりしそう、だなと思いました。頭の良い人は恐い。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
ひな様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました。

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