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仲良き事は美しき哉

 たいてい異性と接する場合が多いのは飲み屋のお姉ちゃん達、どの人もみんな気さくで良い人ばかりだから女の子なんてみんなそんなもんかと思っていたけど、彼女は違った。

「なんでアタシが木舌と一緒なのよ!」
「まあまあ、おれは嬉しいよ」
「ア、アタシはちっとも嬉しくなんかないんだから!」

 顔を真っ赤にして言われても説得力なんて皆無なのは気付いてないのかな。今回の任務は廃屋探索、本来名前と組むはずだった相手が急病で行けなくなったので代わりにおれが行くことになったのだ、おれと組むと分かった瞬間に名前は嬉しそうに頬を緩ませたと思ったらすぐに「足を引っ張ったら許さないんだから!」と指差して言われた。色んな飲み屋に行っているが今までに見たことがない古典的なツンデレ少女、全てが新鮮すぎて見ていて飽きない、こんなこと言ったら絶対怒られるけど。

「名前、床が脆いから転ばないようにね」
「分かってるわよ、アタシはアンタなんかと違ってしっかりしてるもの」
「そっかそっか」
「なにへらへら笑ってるの。アンタも気をつけなさいよ」
「心配してくれるの?」
「か、勘違いしないでよ! アタシに迷惑がかかるからやめろって言ってるの!」

 腕を組んでプイッと顔をそらす名前、うんうんやっぱり可愛い、自然と頬が綻ぶのが分かる。現世ではツインテールというものがツンデレ少女の古典的なものらしいけどそれを言ったら「アタシがツンデレ? ばっかじゃないの!」と言われた。まあそのあと照れ臭そうに「暑いから今日だけよ」なんて言ってツインテールやってくれたんだけどね。
 廃屋を探索していると、微妙に感じる怪異の気配、これには名前も気付いて顔を強張らせる。

「……怪異の気配が強いわね」
「そうだね。暗いしどこにいるかも分からないから気をつけて行こうか」
「アタシにかかればどうってことないわよ」

 名前は鞄からランプを取り出すと灯りをつける。これで少しは探索がしやすくなったな、ぼんやりと薄暗く灯るランプで辺りを見回す。けれどやはり光りは微妙なものだからシンと静まり返った廃屋は少しだけ嫌な気配が身体を走る。名前がキュッとおれの袖を掴んできた、

「名前、怖くない?」
「アタシに怖いものなんてあるわけないでしょ、見くびらないでよね!」
「あはは、どうだろうねぇ」
「殴るわよ木舌!」

 妙に気が強いくせに小心者なところが名前の良いところであり悪いところだ、ツンが激しいから素直になれないのかも知れないけど。
にこにこしながら名前を見ていると「なに見てんのよ変態」と言葉を投げ捨てられて、ずかずかと前に進んでいく。と、同時に名前の足元から変わった形の影。あれ。これまずいかも。

「名前ちょっと、」
「なっ」

 待って、と言おうと手を伸ばした瞬間に名前の身体が宙に浮いた。一瞬のことだったんで理解が出来なかったが、すぐに怪異の仕業だと気付いた。落ちたランプを急いで拾い上げて前に灯せば、廃屋の広い廊下にぎりぎり収まり切っている、触手が何本も付いた怪異がいつの間にかおれらの前にいた。想像以上の不気味さに背筋が一気に凍り付いた。
 違う、今はそうじゃない、急いで名前の方に目を向ければ触手が何本も絡み付いている、首、お腹、足、触手自体に棘があり名前の身体を締め付けるたびに血飛沫が跳ねる。

「名前!」
「がっ……!」

 棘が容赦なく彼女の身体に喰らい付き血があふれ出る。棘の痛みもあるが、触手自体が容赦なく名前の細い首を締め付けたり手足を変な方向に曲げようとしているからこのままだと骨が折られるか首を折られる。その前に始末しなければいけない。

「きっ、したっ……にげ、あぐっ!」

 断末魔が響いて、驚いて目を見張れば怪異の傍に右腕。声が小さくなっていく名前を見れば右腕が引き千切られており彼女自身も今にも死にそうだった。一瞬で目の前が真っ暗になり脳内で何かが切れる音がして、おれは足元に落ちていた彼女の武器を拾い上げる。

「……名前を傷つけたんだ、ただで済むと思わないでね」

 思い切り武器を振り上げて、彼女を締め付けている触手の根元を切り刻めば瞬間に怪異は悲鳴にも捉えられる叫びをあげて名前を離した。床に叩きつけられる前に名前の服の襟を掴んで静かに床に降ろす、同時に床を蹴り上げて怪異に向かって刃を刺す。

「怪異如きが名前に触れるなんてちゃんちゃら可笑しい」

 抉るように武器を怪異の体内に埋め込んでカラダの中をかき回せば怪異は耳をつんざくほどの悲鳴を上げて消滅していった。血を拭って武器を放り投げると、床に座り込んでいる名前の元へ近付いて声を掛ける。

「名前、大丈夫?」
「木舌っ……」
「もう平気、安心して」
「……!」

 かたかた震える名前にそっと触れた瞬間に、彼女は弾かれたように抱き付いてきた。勢いが強くそのまま尻餅をつけば名前は涙声になっておれの身体にしがみ付く。

「よしよし、大丈夫だよ。怖かったね〜」
「ち、違うわよ! これはアンタの顔に付いた血が不気味だから見ないようにしているだけなんだから。怖かったとかそんなんじゃないんだからね勘違いしないでよ!」
「うんうん、よしよし」
「ちょっと撫でないでよ!」

 強がりを言う彼女が可愛くて頭を撫でればすかさずツンデレ発言。ほんとにもう素直じゃないんだから。ゆるゆる口角が上がるのが押さえ切れなくてニヤニヤしていれば名前は少しだけ顔を上げておれを見る、転がったランプでぼんやり彼女の顔が見えるが心成しか赤い。

「まあ、でも……あり、がと……」
「え、なに?」
「う、うるさい! さっさとその汚い血拭きなさいよね! 馬鹿!」
「おれに貸してくれるの?」
「服汚したら洗濯係のお姉さん困るでしょ!」

 おれから離れて名前はポケットからハンカチを取り出し、そっぽを向く。ほんと素直じゃないんだから、でもまあ、貴重な名前のデレを見れたから良いかな。

「名前って、やっぱり可愛いね」
「なっ、な、なに言ってるのよ馬鹿! 馬鹿木舌!」
「痛いっ、髪は引っ張らないでっててててて!」
「どうせ他の子にもそんな事言ってるんでしょ!」
「え?」
「……」

 あれ、デレてる? むくれ顔でおれを睨む名前がたまらなく愛おしく感じて、反射的に抱き締めればびくりと身体が跳ねたが大人しくなった。ああヤキモチ? なにこの子ほんとに可愛い。

「おれ、こういう言葉は好きな人にしか言わないよ。……好きだよ、名前」
「〜っ……! ア、アタシその倍以上、……なんだから!」
「(ああヤバイ)」
「んっ!?」

 もうだめだ。本能に任せて柔らかい唇にキスをする。

「……っ、なにすんのよ変態!」
「ったあ!?」

 すぐに唇が離れたかと思えば、彼女の容赦ない平手打ちが飛んできてクリーンヒット。行き成りのことで歯を食いしばって無かったから唇の中切れたし。痛いなぁ、苦笑しつつ頬を擦って彼女を見れば茹でダコのように顔を真っ赤にして仁王立ち。そして、搾り出すように小さな声で言葉を放つ。

「そ、そういうのは……へ、部屋でやるもんでしょ……! 考えなさいよ……!」
「!」

 今晩彼女を泊まらせよう。おれは心の中でそう決めた。







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月城様リクエスト、ツンデレ少女と木舌です。
ツンデレ少女は書いたことが無かったので、とても楽しかったです、ツンデレは正義。
私の中でツンデレはツインテール、巨乳、ミニスカニーハイというイメージが強いです、すみません自分語りです。
最後は無理矢理感が凄いですが、お気に召さなかったらお申し付け下さい。
月城様のみお持ち帰り下さい。この度はリクエスト有難う御座いました。

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