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理性と愛で揺れ動く

 ふっと、無意識に重たいため息が零れた。今回の長期出張はかなり体力を使い徹夜続きだったので疲れが当然溜まるのは当たり前か、なんて屋敷の玄関へと歩くきながら肋角は口に銜えていた煙管の紫煙を吐き出しぼんやりと考える。

「(殆ど連絡が出来なかったが、大丈夫だっただろうか)」

 扉を開く前に、激務に追われろくに対応出来なかった部下と、もう一人部下であり別の感情を向けている少女の姿を思い浮かべて扉を開く。玄関の扉を開き中へ入れば屋敷内はシンと静まり返っており誰も居なかった、今の時間帯はお昼過ぎなので大体の人たちが任務や各々好きな時間を過ごしているのだろう。

「……ふう」
「肋角さん、お帰りなさい!」

 このまま自室へ戻り書類を作成するか、と考え煙管の火を消せばふと自分の名前を呼ぶ声が聞こえたので目線を向ければ鍛錬中なのか汗まみれを顔をタオルで拭き水が入ったペットボトルを持った木舌がいた。

「木舌か。ただいま」
「夜に帰ってくると思ってたんですけど、早かったですね」
「ああ、早いうちに抜けられたからな」
「名前なんか今日ずっとそわそわしてましたよ」
「そうか、後で会いに行ってやらないとな」
「あ、そうだ、みんな今道場で訓練してるので行ってみたらどうですか?」
「全員か?」
「はい、全員です」

 にっこり笑顔の木舌の言葉に肋角は目を丸くする。今日は特別な休みなわけでもなかったが、特に可愛がっている部下達が非番とはなんたる偶然。話を聞く限り一番気にかけていた部下であり、恋人の名前も交っているらしい、一度部屋へ行こうと思ったが自分の帰りを心待ちにしていると、という恋人の情報を聞いた瞬間会いたくてたまらなくなった。それが顔に出ていたのか、木舌はさらに深い笑みを浮かべて「行きましょうか」とだけ言って肋角に背を向けた。

「(怒ってないと良いが……)」

 長期出張の初日辺りは、自分が暫く屋敷を留守にすると言った時に寂しげに笑った名前が頭から離れなく頻繁に連絡を取っていたが日数が過ぎるたびに忙しさは日に増してメールの返信も出来なくなり電話すら取る余裕がなかった。しかし名前は返信が来なくても必ず一日一通は連絡をくれたが、ろくに対応出来なかったことを肋角はどう謝れば良いかと道場へ向かいながら考えた。



 道場へ入れば部下達の声が響き渡り徹夜続きの頭には少しだけ響く。窓は全て開け放たれており中から心地良い風が吹いているが汗を流して鍛錬している部下達の熱気が少なからずこもっていた。少しだけ道場を見渡せば、素振りをしている斬島をちらちら見ながら同じように素振りをする谷裂、一方的なライバル意識が成しているものだろう。平腹は竹刀を振り回し遊んでいる田噛に至っては日当たりの良い場所で寝ている。一番気にかけている名前を探せば、彼女は佐疫と稽古をしていた。

「あちゃ〜……さっきまで真面目だったのに」
「くくっ、いつもと変わらない風景で良いじゃないか」
「あ! 肋角さん!」

 二人で会話をしていたのが平腹には聞こえていたらしく、大声で名前を呼ばれた瞬間その場にいた全員が平腹の方を振り返った。

「肋角さん、帰ったんですね」
「お帰りなさい」
「お疲れ様です」
「……お帰りなさい」
「ああただいま」
「肋角、さん!」

 顔をほこらばせる部下達に肋角自身もゆるゆると頬が緩むのが分かった。谷裂、斬島、佐疫、田噛の顔を見てほっと息を零すと、遅れて名前の声が耳朶を打った。すぐさま肋角が反応すれば慌てた様子で名前が彼の元へ走って駆け寄ってきた。肋角は、暫くぶりに見る名前の姿をしっかり目に焼き付けた。訓練をしていたからか頬はうっすら赤く染まっており、道着が少しだけ乱れた部分からは汗が滲み出ている、久しく目に入れていなかった恋人の、見慣れない道着袴姿や赤い顔や汗で思わず生唾を飲み抱き締めたい衝動に駆られるが肋角は目を細めて何も感じなかったように表情を作る。

「名前、」
「〜っお帰りなさい、肋角さん!」
「っ、と」

 名前を呼ぼうと口を動かしたと同時に、なにか糸が切れたのか泣きそうになりながらも笑顔を浮かべて自分の身体に飛びついた名前をしっかりと受け止めれば存在を確かめるかのようにきつく腕を絡めて胸板に顔を埋める名前に得も言わぬ感情がわきあがるが、肋角はただふっと息を吐いて彼女の頭を撫でる。

「ただいま。連絡がおろそかになってすまなかった」
「忙しいのは分かってましたし、気にしないで下さい」
「とか言ってここ最近元気がなかったのはどこのどいつだ」
「なっ、田噛先輩!」
「殆どろくに食事もしてなかったな」
「玄関の扉の音がするたびに顔明るくさせてて、」
「相手が違ったら犬みたいにしょぼくれていたのを知らないとでも思ったか」
「うわああああ! 止めてください! 色々えぐられる!」
「お酒飲んだときなんか本音ぶちまけてて凄かったね〜」
「先輩達ほんと黙ってください!」

 顔を真っ赤にして叫ぶ名前と、楽しそうに自分がいない間の恋人の状態を話す部下達、いつもと変わらない雰囲気に肋角は我が子達を見守る父親のように目を細めて見ていた。その子ども達だと思っていた一人と、恋人関係になるなんて誰が思っていただろうか、顔を真っ赤にして弁解を繰り返す恋人の頭を撫でれば、こちらを振り向きはにかんだ表情で手を握る名前に、色々なものが溜まっていた肋角にはそれさえも刺激的で既に理性はぐらぐら揺れていた。

「なんだ、寂しかったのか?」
「そ、そういうわけじゃ……っ、肋角さんのばか」

 意地悪く彼女の頭を撫でながら聞いてみれば、否定はするもののやっと会えた恋人を前にして意地になれなかった名前は茹蛸のように顔を真っ赤にしつつも「寂しかったです」なんて唇を尖らせて肋角の服を掴んだ。
 多分本人は意識していないのだろうけど、こちらとしてはその行為などは無自覚に誘っているようにしか見えなく、肋角も少しづつ帯び始める熱を抑えるのに必死だった。

「悪かった、休暇をもらえたので暫くはゆっくり出来るぞ」
「じゃあしっかり身体を休めてくださいね」

 ふにゃりと笑った名前はよほど嬉しいのかそのまま肋角の腕に絡み付いてきた。薄い通気性の良い道着を着ている名前が腕に絡みついたと同時に、柔らかいものが押し当てられ意識しないように必死に絶える。彼自身も、もうそろそろ我慢の限界が近い。
なんとなく様子がおかしい肋角を見て、すぐに察したは佐疫はパン、と手を叩いて声を荒げた。

「時間ももう夕飯前だし、そろそろ解散しようか」
「そうだね〜、疲れたし」
「お前はほとんど何もしていないだろう」
「オレ風呂はいりてーな!」
「……飯の前に風呂行くか」
「そうだな。名前はどうする」
「……自分は、」
「俺の部屋に行くだろう? 名前」

 佐疫の言葉に、各々これからの予定を口にしている中で斬島が名前に問い掛けた。それを聞き入れた名前は、暫く考える素振りを見せていたが、少しでも長く一緒にいたいと思っていた肋角が彼女を後ろから包み囁けば一瞬驚きで身体を跳ねさせた名前が、これでもかというほど身体を熱くさせて頷いた。それ見て、肋角は口元を緩ませる。

「名前、肋角さんも疲れているだろうから程ほどにね」
「寧ろ名前の方が心配な気がするけどな」
「なんとなく言いたいことは分かりますけど木舌先輩も田噛先輩も黙ってください」
「……頑張るんだな」
「斬島先輩!?」
「あはは、ほら解散しよう? 肋角さん、お疲れ様でした」
「ゆっくり休んでください」
「ああそのつもりだ。お前達もしっかり身体を休ませろよ」
「じゃあまたあとでな名前、肋角さん!」
「お疲れ様でした。鍵は閉めておきます」

 みんなで帰ろうと思っていたが、それぞれが何となく空気を読んだのか名前と肋角を残して道場を後にした。今だ道着と袴姿の名前は更衣室から小走りで荷物を取り出し「このままで帰ります」と言い窓が全て閉められているのを確認して道場の電気を消す。夕方近いこともあり、灯りがなくなった道場にはオレンジ色の光が射し込んでいた。
 心成しか嬉しそうにしている名前に愛おしさを感じた肋角は、前を歩き出す彼女の手を掴んで自分の方に引き寄せた。

「え、ろ、肋角さん?」
「……やっとお前の顔を見れた。暫く会えないのはやはり精神的に辛いな」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。ずっとお前のことを考えていた、……この感触も、久々だ」
「あっ」
「無自覚に誘ってくるから、皆の前で我慢するのが大変だったんだぞ」

 長らくぶりの名前の、声や顔、匂い、抱き付いたときに感じる感触。全てが愛おしく久々に感じた名前自身に既に自分の理性は崩れていた。人が来る、なんて可能性はお構い無しに肋角は両サイドが逆三角形に開いている袴の中に手を入れて名前の太ももを撫で上げる、一方の名前も、声は抑えつつも久々に感じる肋角の手の感触や匂い、全てに置いて身を委ねているだけだった、

「はっ……ろ、っかくさん」
「ああ場所が場所だったな。すまない、すぐに俺の部屋へ行くぞ」
「うわっ!?」

 彼女と一緒に歩くと身長や足の長さの問題でどうも普段自分一人で歩くよりも遅くなるのすらもどかしかった肋角は華奢な名前の身体を軽々持ち上げるとそのまま肩に担ぎ道場を後にする。既に熱を帯び始めている自分の身体に苦笑しながらも、ずっと会えなかった彼女に自分が溜まっていたものをいかに疲れさせないようにするか考える。

「ろ、肋角さん、お疲れなのに大丈夫なのですか?」
「お前が、疲れを癒してくれるのだろう?」
「……っ、が、んばります」

 顔は見えないが多分顔は真っ赤だろう。自分の背中の服がぎゅっと握られ、多分いざ事に及んだら我を忘れてしまうな、なんて考えに至った。

「名前」
「はい……?」
「夕飯が遅れたらすまない」
「!?」

 スキップしそうなのを抑えて、肋角は早歩きで自室へと向かっていく。


「多分、あの二人夕飯来ないだろうね」
「え? なんで?」
「察しろ馬鹿が」
「……夜食に何か取っておくか」
「じゃあおれ等は飲もうか!」
「一々酒を出すな木舌!」






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椎無様リクエスト、無自覚に誘ってくる後輩獄卒と最終的に我慢出来なくなる肋角さんでした。道着袴って、夏場でも冬場でも暑いし寒いんですよね……だが中々色っぽいと思う。肋角さん、見た目的には余裕そうだけど徐々に理性がグラついてきて佐疫が声をかけなかったら多分そのまま後輩獄卒拉致ってたと思います。
後輩獄卒も、感情は人間よりは希薄ですから泣きはしないもの何らかの私生活に少し影響は出てて先輩達に心配されてたり。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
椎無様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました。

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