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「#幼馴染」のBL小説を読む
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愛おしいお人形さん

「こんにちは、名前さん」
「あら、こんにちは木舌くん」

 屋敷で働いている名前さん、仕事はもっぱら屋敷内のお掃除でいつも竹箒を持って玄関や廊下を掃除している。艶やかな黒髪は陽の光で一層美しく輝いており色白で小さな顔にはいつも笑顔が貼り付いていた。おれ等よりも幾分年上なため、一部の人たちからは「姉さん」なんて愛称で親しまれている。
 彼女はとても美しい、人形のようだ、彼女に似せた人形が作られたらおれは迷わず買うかもしれない。ここに来たときからおれの世話もよくしてくれていて、いつしか姉、という感情が恋へと変わっていったのはつい最近。恋などしたことがないから最初こそ戸惑いはしたが、受け入れるのに時間は掛からなかった。

「今日もお仕事ですか?」
「いえ、今日は非番なんで名前さんに会いにきました」
「あらあら、お上手ですね」

 くすくすと控え目に笑う名前さんに、胸が高鳴る。こうして想いを伝えても彼女は大人だからかすぐに上手く交わしてしまう。彼女から見たら、おれはただの可愛い弟なんだろうか。

「名前さん、おれ、本気なんですよ?」
「うふふ。お気持ちは嬉しいですが木舌くん、憧れと恋は、似ているようで全然違うのですよ」
「……」
「木舌くんは、恋に恋をしているんです。こんな私なんかよりももっと貴方には素敵な人が現れますよ」
「っ……」

 どうして、どうして彼女は信じてくれないんだろう。真剣な想いはいつだって彼女にとっては冗談にしか捕らえられておらず、こうして言えば彼女は真っ直ぐおれの目を見据えて言葉を投げ捨てるだけだった。細められた瞳に強い威圧感を感じて、思わず怯みそうになる。

「けど、おれ」
「……お気持ちは、とても嬉しいんです」
「名前さん、……」
「さあもう行きましょう。私もゴミを捨てに行きますから」

 おれよりも低い彼女は、少しだけ背伸びをしておれの髪を撫でるとそのまま踵を返して行ってしまった。

「(なん、で……なんで、いつも貴女は)」

 いくら言っても信じてくれない、彼女の中でのおれは、弟、男にも満たない存在。なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。おれはいつだって貴女のことを見てきて想って来たのに、……どうして、どうして貴女は。

「名前、掃除か」
「あ、……こんにちは」

 聞きなれた声が耳朶を打って、その後に聞いたことも無いようなうっとりした名前さんもか細い声も聞こえて、勢いよくその場を見る。

「お前のおかげでいつも屋敷は綺麗だな」
「そんな、これが私のお仕事ですから」
「このあと、待ってる」
「……はい」

 目の前が真っ暗になった。見慣れた同僚と、そんな同僚を愛おし気に見つめ、ゆっくりともたれ掛かる名前さん。誰がどう見ても、それはれっきとした恋人同士にしか見えない。

「嘘、だろ」

 なんでそんな、甘えるような目でそいつを見ているの、どうして縋るように、甘ったるい声を出しているの。おれは、そんな表情も声も見たことも聞いたこともない、ぐるぐるぐるぐる色々な感情が渦巻いてきて拳を握り締めれば皮膚が裂けて血が滲む。

「……全く、可愛い人だなぁ」

 好きな人がいるなら居るって言えば良いのに。ああ、もしかしておれにヤキモチを妬かせたかったのかな……そうだ、きっとそうだ、なんだ、彼女は結局おれのことが好きなんだ。純粋だった感情が、どす黒いものに変色していったのに、おれは気付かなかった。それくらい、彼女に夢中だったんだ。彼女さえ手に入れば構わない、それくらい、愛していたんだ。彼女に似せた人形が出来たなら、迷わず買っちゃうくらい。



 夜、ほとんどの人たちが寝静まった女子の屋敷へ入り、彼女がいるであろう部屋へと歩いて行く。既におれの中には彼女をものにする、という感情しか残っていない。
高鳴る心臓が外にも聞こえてきそうだ、震える手で扉をノックすれば案の定彼女はすぐに出てきた。おれを見た瞬間、驚きで目を見開いて一歩後ずさった、

「え、き、木舌くん?」
「こんばんは……名前姉さん」
「な、んで?」

 お風呂上りなためか、石鹸の良い香りがする彼女の身体を押して部屋に追いやっておれもそれに続いて部屋に入っていく。昔はよく通っていた彼女の部屋は、今でもほとんど景色は変わっておらず彼女の匂いが色濃く染み付いている。

「名前さん、おれ、やっぱり貴女のことが」
「ま、待って木舌くん! 貴方、今なにをしているか分かっているの?」
「分かってるって? おれは、貴女に気持ちを知って欲しいだけなんだ」

 強く抱き締めれば壊れてしまいなほど細い彼女の身体を抱き締めれば彼女の匂いと、石鹸の匂いが一気に鼻腔を擽っておれの身体を熱くする。これだけで理性が崩れそうに鳴るがなんとか耐えて、縋りつく様に彼女のやわらかい髪に顔を埋める。

「好きだ、好きなんだ……名前さん、……名前」
「っ、木舌くん離して……!」
「なんで、なんでおれを拒否するの? おれは本気なんだ!」
「何度も言っているけど、貴方が私に抱いているのは、」
「憧れなんかじゃない! れっきとした恋だ! 貴女を見れば抱きたいと想うし心臓がうるさいくらい鳴り響く、キスしたいって思うし名前を呼ばれたら凄く嬉しいんだ!」
「……、」
「姉さん、おれ、名前が大好きなんだ。だから、こっちを向いてよ……」

 振り払わないから、脈はあると思ってる。ただひたすらに彼女に縋り付いて思いのはけを全て吐き出せば、名前さんは暫く黙った後に渾身の力を込めておれを突き飛ばす。勢いがありすぎて、尻餅をつきそうになりながらも何とか体制を保てば、目の前には酷く歪んだ顔をみせる名前さんがいた。

「申し訳ありません、私は、貴方の気持ちに答えることは出来ません。いくら見ても、あなたは私の中では可愛い弟なんです。男性として、異性としてみることは出来ません」
「っ!」
「今夜の事は無かった事にしますから、お願いです……出て行ってください」
「なんで!?」
「え、」
「どうしておれじゃダメなの? ねえおれはこんなにも貴女のことを愛しているのに、ずっとずっと何百年も想いを募らせてきたのに、何度も想いを告げたのに貴女はあしらってばかりだった。それでおれがどれだけ辛い思いをしていたか分かりますか? なんでおれじゃなくてあいつなんですか!?」
「木、舌くん……私は」
「この跡も、あいつに付けられたんだろ!?」

 色白の首筋に付いた赤いものを、皮膚ごと抉るように指を突き入れれば怯えたような目付きで、身を庇う名前さん。なんでそんな目でおれを見るの? あいつに向けた表情をおれに向けてないんだろう、自分が自分じゃないようで、勘違いしている感情と彼女に振り向いて欲しい感情が一気に渦巻いてどうすることも出来なかった。
もう、彼女さえ手に入ればどうでも良くて、彼女の部屋に置いてあった箒に手を伸ばして思い切り振りかぶった。

「おれは、こんなにも貴女を想っているんだ!」
「っ!」

 彼女のどこが好き? と聞かれたら迷わず中身と答える自信がある。そりゃあ見た目も綺麗だから見た目も入っているけどやはり優しくて、穏やかで、大和撫子という言葉がとても似合う彼女の性格がとても好きだった、けど、それ以上に彼女の笑顔も好きだった。控え目に三日月を描く桃色の唇に、朱色を帯びた頬、細められた瞳は吸い込まれそうで見る度に胸が高鳴る。だから気になった、彼女が笑顔が無くてもおれは彼女を想う事が出来るのだろうか、好きでいることが出来るのだろうか。

「名前……いま帰ったよ。遅くなってごめんね」
「……」

 答えはすぐ見つかった。部屋に連れ出したときから消えた彼女の笑顔が無くてもおれは彼女を愛する事が出来た。艶やかな黒髪は部屋の中でもうっすら輝いていて、光を失った瞳で表情を変えずただ一点を見つめる彼女、愛おし気に生気の宿ってない頬に触れても彼女は反応しない。それすら愛おしいと想うおれは、狂っているのかも知れない。
似せられた人形じゃなくて、本物を手に入れることが出来た。まるで人形のようだけど、愛がなくても、全然構わなかった。

「ずっと傍に、離れさせないよ。……おれの愛おしいお人形さん」

 彼女はとても美しい、とてもとても、---------それはまるで、人形のように。






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輪廻様リクエスト、ヤンデレ木舌でした。最初は夢主目線で収集癖で束縛タイプの木舌さんだったのですが、たまには病んだキャラ視点で行って見たいなーと思って大幅に内容を変えました。木舌さんは年上お姉さんキャラも似合いそうだと思って年上夢主にしてみました。名前も呼び捨てだったり姉さんだったりと不安定な木舌さん。夢主自身最初は抵抗したけどきっとどうする事もできなくて壊れてしまったのではないでしょうか。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
輪廻様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました。

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