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夜中の訪問者

 任務が午後にある日は夜遅くまで本を読むに限る。時計を見れば日付が変わる前だったので本を置いてトイレに行こうと立ち上がった瞬間、部屋の扉がノックされた。

「ん……?」
 
 こんな時間に誰だ? 考えられるのは同じ屋敷に住んでいる先輩姉さん達の誰かくらい、……確か、彼は今日は飲む約束があるって言っててまだ帰ってこないだろうし。というかわざわざ部屋に寄らないか。呆れるくらいめんどくさがり屋だし、こっちに寄る目的も無いから確立なんてほぼ皆無だ。

「はーい」

 一応、武器の大鉈を扉の近くにおいて扉を開ければ、急に目の前が真っ暗になって背中と腰を引き寄せられた。

「名前……、帰ったぞ」

 くぐもった声が上から降ってきて、引き寄せられた背中と腰を男性のものかと思われる腕にがっちりホールドされる。いきなりのことで言葉も出ずに慌てふためきながら必死で身体に絡みつく手から逃れようともがけば思いのほかすぐに誰かの身体は離れて、鉈を持ち出そうとした瞬間に頬を掴まれ上へ持ち上げられた。こうされれば嫌でも相手の顔が見えるわけで、顔を視界に入れた瞬間に声にならない声が洩れた。

「あ、?」
「んだよ……もう寝るところだったのか?」
「は、え、た、田噛?」

 朱色を帯びた頬に、とろんとした橙色の三白眼の瞳。気だるげに吐き出された言葉はわずかに酒臭くて少しだけ顔を顰める。酔っているな、いつもなら酔わないようにセーブしているのに……お偉いさんとかもいるって言ってたから強制的に飲まれたのかな。田噛の目を見ながら色々考えていると、喋らない私を見て疑問に思ったのか田噛はゆっくり言葉を吐く。

「明日非番だろ……起きてろよ」
「ま、待って田噛、ここ女子の屋敷っ、というか私の部屋」
「俺達の部屋だろ……」
「ええええええ……」

 俺達、という言葉に戸惑いつつも、この屋敷の人たちに見つかったら色々面倒なので部屋に招き入れる。うーとかうーん、なんて意味の分からない言葉を吐きながら田噛は無遠慮に私のベッドに倒れこんで仰向けに寝転がった。暑かったのか、上着を脱いでいてワイシャツのボタンはいくつか外されている、え、上着どこ置いてきたコイツ。頬に触れれば火傷しそうなくらい熱くてため息を零しつつも冷蔵庫から水を取り出して彼に差し出す。

「はい田噛、水」
「んー……」
「上着着てないみたいだけどどこ置いてきたの?」
「水うまいな……」
「(ダメだこりゃ)」

 完全に酔ってる。重たそうな身体を起こしてペットボトルに入った水を一気飲みする彼を見つつ、次はどうするかを考えてみる、お風呂は……酔っている時に入ると危ないけど一応聞いてみるか、その後は酒臭いであろう服を洗濯して部屋着を渡さなきゃな……私は田噛の母親かよ。

「田噛お風呂は?」
「行く前に入った」
「ん、じゃあ部屋着出すからその服ちょうだい」
「いらねぇ……このまま寝る」
「ダメに決まってるでしょ。酒臭いだろうし、寝辛いよ」
 
 ずっと前に、泊り用に置いていった田噛の部屋着をタンスから取り出している間に、チラッと彼を見るとペットボトルを握り締めながらボーっとどこか一点を見つめている。酔っているから頭が朦朧としているのか、眠いのか……多分どっちもだろう。早く、と言おうとする前に田噛はゆっくりした手つきでワイシャツのボタンを外していき床にポイッと投げ捨てた。

「あ、こら」
「名前、こっちこい」
「え。うわっ!?」

 手の掛かる子どもだなあ何て思いつつ投げ捨てられたワイシャツに手を伸ばした瞬間、素早い手つきで私の腕を掴んで自分の方へと引き寄せてきた、なぜだか浮遊感、反射的に瞑っていた目を開けば真下には酔いで赤らんでおり吐息を零す田噛の顔。……右手は未だに掴まれたままで腰には彼の手、髪の毛がベッドに散らばっているし多分私田噛を押し倒している状態かも知れない。

「ご、ごめんすぐどく!」
「良い。このままでいろ」
「でも」
「良いっつってんだろ」
「ん、っ」

 腰に置いてあった田噛の右手がするすると登っていき耳元を撫でて、後頭部に触れた瞬間顔を引き寄せられて唇に噛み付かれる。唇が触れ合った瞬間にお酒の匂いが私の口内に入ってきて酔いそうだった。そんなことをお構い無しに田噛は私の唇を熱い舌で舐め上げるとそのまま強引に口内に舌を捻じ込む。

「ん、ちょっ」
「っ……黙って、ろ」
「ふあっ……ん、」

 熱っぽい田噛の瞳が視界に入った瞬間、妙に身体が熱くなる。お酒の匂いと凄く熱い田噛の舌でくらくらしてきた、気がつけばつかまれていた右手は自由になっていて右手を押さえていた田噛の左手は私の背中をしっかり押さえつけて逃げられないようにしている。舌が、歯茎をゆっくりなぞって裏唇をちろちろ舐めるたびに吐息が洩れて力が抜けていく。
 半裸の田噛の身体が凄く熱くて、私の身体にも伝わってくる。

「あ、っ」
「んっ……お前の唇、冷たくてきもち……」
「うっ、ん……!」

 一瞬だけ口が離れたが、またすぐに噛み付かれて舌をぢゅ、と吸われたり絡めとられる。逃げようと思っても結局器用な田噛の舌に捕まるので大人しく舌の動きに集中する、力がほとんど出なくて、顔が離れた頃には文字通り田噛を押しつぶつすように彼の身体にほぼ全体重を預けてだらしなく開いた唇を必死に動かす。

「は、……た、がみ」
「んだよ……もう疲れたのか」

 力が無いまま彼の首元に頭をもたげて荒く息を吐いていると、胸元からは田噛の心臓がどくどく響いていてこっちまでおかしくなりそうだった。さっきよりも熱い田噛の身体、私自身もじわじわと熱が登ってきて妙な気分。それよりも、身体に熱が篭っているし、下にいる田噛の体温が凄く、

「熱い……」
「……じゃあ、脱がす」
「!?」

 意味分からない、驚きで顔を上げる前に勢いよく田噛の身体が起き上がりそれと同時に私も転がり落ちる、そのまま本当に酔っているのかと疑いたくなるほど素早い動きで私の上に移動すると顔を近付けて首元に吸い付いた。

「んっ、や、なに」
「ほら腕上げろ」
「う、」

 有無を言わさず部屋着を引っ張られてお腹が丸見え、コイツほんとに酔ってるのか。抵抗を試みるも酔ってほぼ我を忘れている彼には意味がなくて問答無用で上のシャツを脱がされた。寝る前だから下着なんかつけておらず直に空気が触れる胸元を両手で隠せば田噛は不機嫌そうに眉を潜めて私の手を掴んで制する。

「今更見られたって恥ずかしくねーだろ」
「そういう問題じゃない、馬鹿っ」
「んなこと言ってっと電気付けたままやるぞ」
「……」

 言葉に詰まれば目の前にいる酔っ払いはいやらしく口角を吊り上げる、うわ笑った。こんなタイミングで笑顔なんて見たくなかった。

「名前」
「ぁっ、でん、きは?」
「めんどくせぇ」

 電気云々言っておいたくせに彼はそのまま私の胸元に唇を落として舌を這わせる。ぴりりと電流のような何かが身体中を走り抜けて身体を震わせれば田噛の指がショートパンツを履いている私の足を器用に撫で上げてきた、呼吸が荒くなって変な声が洩れ出てくる。

「やっ、っ……たがみっ」
「シーツじゃなくて、こっちにしがみ付け」

 縋るものが無いから、近くにあるシーツを握り締めている私に気付き、耳元で囁いたかと思ったら手を持たれて彼の首の後ろに持っていかれる。少しでもくっ付いていたいんだなーなんてくらくらする意識の中で言われた通りにしがみ付くと耳を舐められて内腿を撫でていた手が胸にいった。
手が動くたびに胸の形が変わって、息が刻み刻みで洩れ出る。耳の中で熱い舌が暴れまわるのでじわじわと変な熱が身体に留まって縋るように田噛に強く抱きつく。色々と、限界が近付いてくるのが分かる。

「っん」
「名前」
「な、に……?」
「好きだ」

 唾液の音が響いていた耳元で、少し荒い息と共に吐き出された言葉に思わず目を見張ると恥ずかしさで居たたまれなくなったのか田噛は私の背中に手を回して抱き付いてきた。お互い半裸状態だから、熱も、じっとり滲み出る汗も全部伝わってきておかしくなりそう。
視線をズラせば、黒髪から覗く赤みを帯びた耳が見えて、それがとても嬉しくて、愛おしくてゆるゆる口角をあげて囁く。

「わ、たしも好き、です」
「……加減できねぇから、覚悟しろよ」
「え、待って、」
「待てねぇ」

 優しく唇を落とされた時に見えた田噛の顔は、酒ではない別のなにかがとても赤かった。



「ばかっ、田噛のばか……!」
「……悪かったって言ってんだろ」
「今軍服洗濯に出してるからセーラーで行こうと思ってたのに……!」

 翌日、寝るのが遅かったから起きたのが十時くらいになってしまった。身体のだるさもあるが、それ依然にいつの間にか身体中にたくさん付けられている赤い跡、胸元や肩、お腹はともかく、こいついつの間にか太ももやらふくらはぎにもつけていて虫刺されなんて言葉で誤魔化せないくらい酷い状況。寒くも無いのにタイツもおかしいし、ズボンないし……足切って再生させるか。
 睨むように跡をつけた本人を見れば気まずそうに目を逸らすだけだった。

「サボっちまえよ」
「あとで先輩達に怒られるの誰だと思ってるの」
「……めんどいけど、切るか」
「やっぱり、それしかないないよね……」
「で、もう一回やるぞ」
「は!?」
「そっちの方が治り早いだろ」

 ナイスアイディアと言わんばかりに瞳を輝かせている田噛は扉の近くに置いてある私の大鉈を持って構える。足を切るのに抵抗は無いが、後半の田噛の発言に問題ありまくりだ。

「ま、待って田噛っ」
「んじゃ時間ねえだろうからすぐやるぞ」
「え、ちょ、ま、あああああああああ!」

 結局、すぐに足は再生したけど私のやつれ具合と、首元を異常に埋め尽くす絆創膏で先輩達に凄く意味深な目付きで見られた。あの野郎絶対許さない。






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ルイン様リクエスト、田噛で甘くて微裏でした。田噛が間違って夢主の部屋に帰ってきて「ただいま」みたいなニュアンスを含ませたかったので満足です。お泊り用に彼や彼女の服がお互いの部屋に置いてあったら激しく萌えます。田噛は意外と甘えん坊だと嬉しいです、酒が入ると素で出てくる。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
ルイン様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました

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