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愛ト狂気ハ紙一重

 最近、先輩達の様子が可笑しい。何が、とか、どんな風に、と聞かれたら言葉に詰まってしまうのだけれど長年一緒に過ごしていた私にはその変化を感じ取れる。言葉には出来難いけど、なんというか、情緒不安定と言えば良いのかな。
 その悩みを誰にも打ち明けられないし、連日の任務のストレスで私は不眠気味になってしまった。

「名前、目の下のクマが凄いぞ」
「いや、かなり不眠が続いてて……気がつけば寝てるんですけど自分一人じゃ起きられないときもあるし」
「……本気で辛いなら、連休を貰った方が良い」
「そうですね、……とりあえず早く寝れるように今日はもう寝ますね」
「部屋まで送る」

 一人にさせておけん、と眉間に皺を寄せる谷裂先輩。

「いえ、大丈夫です」
「なにかあったら時、お前一人じゃ何も出来ないだろう」
「……」
「お前の面倒を見れるのは俺くらいしかいない」

 正直ここ最近谷裂先輩の様子も変だからあまり一緒にいたくは……けどこれ以上言っても多分押し問答だし意味がないから私は「お願いします」とだけ言った。谷裂先輩は満足そうな表情を見せて、私の手を握り締めて部屋まで送ってくれた。繋がれた手に力が込められて少しだけ痛い。

「有難う御座いました」
「眠れないようなら俺の部屋に来い」
「か、考えておきます」
「……じゃあな」

 くるりと踵を返して、帰っていく谷裂先輩の後姿を見送る。離れたと同時に何故だか安堵の息が洩れて私は布団に潜り込んで目を閉じた。

「名前、朝だよ」

 身体を揺さぶられて小さく唸りながら目を開ける、前に違和感を感じた。誰? ここは女子の屋敷だし、布団越しに聞こえる声は明らかに低い。確かめるべく重たい瞼を起こして顔を上げれば、綺麗な緑色の瞳とぶつかった。

「……え、木舌せんぱ、い?」
「おはよう名前」
「は、なんで、ここに!?」

 ぼやけていた意識が一気に覚醒して、布団を抱き込んだまま後ずされば不思議そうに首を傾げる木舌先輩。え、本当になんでここにいるの? 私起こして欲しいって頼んでもないし、ましてや任務も一緒じゃない。どういうこと?

「だって名前、最近一人で起きるの辛いって言ってたでしょ?」
「は?」
「だから、今日からおれが起こしてあげる」

 言葉を失った。確かに、最近不眠が続いていたから起きるのは辛いと言ったけど、それを言ったのは、談話室に一緒にいた谷裂先輩だ。口がかたいあの人だから他言するような事は絶対ないのに、どうしてそれを知っているの? 不自然に笑顔を貼り付けている木舌先輩が恐くなって、取り合えずお礼だけ言って帰ってもらおうと思った瞬間に、頬を撫でられた。

「っ、木舌先輩?」
「寝起き、凄く可愛いね」
「っん、や、っ……」

 顔が近付いてきて、いきなり肩を覆っていたシャツがズラされて木舌先輩の唇が触れた、ビクリと身体が跳ねたときには遅くて、そのまま木舌先輩は私を抱き締めて肩から首にかけて舌を這わせてくる。寝起きで熱かった身体がさらに熱くなって、荒い息がこぼれ出る。

「あっ、……先輩っ、んっ」
「ねえ、何で昨日谷裂といたの?」
「え、」
「どうして? なんでおれじゃなくて、谷裂なんかに相談したの」

 絶句しかなかった。どうして、それを知っているの? それになんでこんな事をするの? 私達別に付き合っているわけでもないのに、こんなことをする木舌先輩の感情が読み取れなかった。渾身の力を込めて彼の肩を押せば、吃驚した表情の木舌先輩。

「名前?」
「やめて、ください! 先輩なんか変ですよ!?」

 心臓が大きく震えていて、荒い呼吸を整えながら叫べば木舌先輩はゆるゆると口角をあげて私の手を掴んだと思えば顔を近づける。

「っ、」
「おれは、ずっと名前とこうしたかったんだよ。なのに、谷裂なんかと一緒にいた名前が悪いんだよ」
「や、やだっ」

 首筋に噛み付かれて、音を立てて吸われる。同時にピリッとした痛みが走って、いた、と声を出せば満足そうな木舌先輩の顔が見えた。

「なんで嫌がるの? わざわざ起きられないっていうからこうして起こしにきたんだよ? まあ、谷裂とのことも気になったんだけどね」
「で、でも自分そんな話っ……!」
「嫌なの?」

 緑色の目が歪に細められて、背筋が凍った。地を這うような低い声と表情のない木舌先輩、見たことがないその風貌にゴクリと唾を飲む。

「あ、あの……、」
「名前、……なぜ木舌がいる」
「あーぁ、見付かっちゃった」
「谷裂、先輩」

 任務が一緒の谷裂先輩が部屋にやって来た。多分、幾ら待っても来ない私を心配してくれたのだろう、木舌先輩は悪そびれた様子も見せずにおどけた表情でベッドから降りる。それを見ていた谷裂先輩は不自然に顔を顰めるだけだった。

「じゃあね名前、また後で行くから」
「っ……!」
「おい大丈夫か」

 さっきの木舌先輩の冷徹な顔が頭からこびれ付いて、身体が震える。それに気付いた谷裂先輩は私の頬に触れて顔を覗きこんだ。けど、その瞳ですら恐くなって思わず目を瞑ってしまう。

「名前?」
「平気、です。着替えるので外で待ってて下さい」
「……分かった」

 もう嫌だ、なぜだかそんな感情が渦巻いて泣きそうになる。とりあえず、谷裂先輩に迷惑をかけるわけにはいかないし、少しだけ零れた涙をティッシュで拭いでゴミ箱に放り込んだ瞬間、違和感を感じた。

「あれ、」

 ゴミの数、減ってない? ゴミ出しは一昨日やって、昨日もゴミをいくつか入れていたから底はゴミで埋まっていたのに、覗き込んだ時ゴミはあからさまに減っていた。そういえば、昨日の朝切った爪もなくなっている。え、なんで。

「……き、着替えよう」

 きっと気のせいだ、そう自分に言い聞かせて私はパジャマを脱ぎ捨てた。昨日、部屋に来たのは書類を一緒に作成していたのは確か……。席を外した機会は何度かあった、違う、違う違う違う先輩がそんな事する訳ない。けど、前から薄々感じた他の先輩達から感じる違和感。不安でたまらない。

「名前。遅いぞ」
「! は、はい。すみません今開けます」

 着替え終わったので、髪も纏めず上着を着ないでシャツのまま扉を開ければいつも通りの谷裂先輩。不安げな表情が伝わったのか、先輩はまた眉間に顔を寄せて私を覗き込む。

「木舌に何かされたのか」
「っ、平気です、大丈夫です」
「そんな顔をして大丈夫なわけあるか。だから俺の部屋に来いと……こうなる事を予想して俺が泊まれば良かったのか」
「は、谷裂先輩?」
「これからは、俺がお前の傍にいる。目を離すわけにはいかない」

 肩を掴まれて、真剣な紫色の瞳が私を射抜く。普通なら、恥ずかしくて真っ赤になるところだけど、光のない紫色は私に恐怖心を煽るのには十分すぎた。唇が震えて、冷や汗も流れてきた。どうしよう、どうしよう、

「名前、……あれ、谷裂もいるんだ」

 再び扉が開いて谷裂先輩と同じく任務が一緒の佐疫先輩が出てきた。見た瞬間に、私は息を飲んだ。佐疫先輩、私と谷裂先輩を見た瞬間、本当に一瞬だけだけど表情が違った。……気のせい、だよね。

「二人共、なにしてるの?」
「佐疫か。なんでもない」
「……」
「早くおいで。ああそうだ、谷裂、肋角さんが任務について聞きたい事があるからって探してたよ」
「……分かった」

 なにか言いたげな谷裂先輩だったが、相手が肋角さんだから動くしかないのだろう、渋々離れて谷裂先輩は部屋を後にした。残された私と佐疫先輩、本当は出て行って欲しいけど、何も言えない。……そうだ、髪を纏めて上着を着なきゃ。

「すみません、もう少しお待ち下さ、」
「ねえ」

 髪を纏めようと持ち上げた瞬間に、後ろから誰かに抱き付かれた。声を上げて身体を跳ねさせれば、息がかかるほど近くて耳元で吐息が聞こえた。震えながら後ろを振り向けば光の宿ってない目をした佐疫先輩がいて、驚きよりも恐さが募り上げ全身の血の気がゆっくりと引いていくのが分かる。

「や、やだ佐疫先輩!」
「谷裂に、なにを言われたの?」
「え」
「今は別にそれは良いかな、それよりもここだよね」
「っ……」

 髪をかきあげられて、佐疫先輩は舐るような声色で私の首筋に指先を這わせる、触れるか触れないかのような動きで這うから、妙な感覚が全身を伝って吐息が洩れた。

「今見た限り部屋のゴミが増えてないから、木舌が泊まったなんてことはないよね。ということは、このキスマークは朝付けられたの?」
「うっ、さ、えきせん……ぁっ」
「こんな分かりやすいところに付けるなんて、木舌絶対わざとだよね」
「ご、ゴミって、……っ」
「あれ、知らなかった? ……まあ、知らない事もあるほうが良いよね」
「っ、やだ!」

 どういう意味、いや、すぐ分かった。ゴミの減りは間違いなく佐疫先輩のせいだ。なんでこんなことをするんだろう、理解出来ない。居たたまれなくなって逃げるように身体を暴れさせれば佐疫先輩は離れて、いやらしいくらい口角を吊り上げたかと思えば素早く私の両手を掴み上げて壁に叩き付けられた。衝撃で思わず「ぅぐっ」なんて声を洩らせば、光が宿ってない水色の瞳が射抜くようにこちらを向いていて、恐怖で言葉が出ない。

「ねえ、どうしてそんなに拒絶をするの? 好きな人のものくらい集めたくなるのは普通でしょ? そんな風に名前が怯える理由が分からないんだけど」
「さ、えき先輩……!?」
「早くしておかないと、名前が取られちゃう。それだけは、嫌だ」
「〜っ!」
「好きだよ、大好きだよ、……愛してる」
「佐疫先輩、おかしいですよ……」
「だって、俺名前が大好きだから。……愛してるって言ってるじゃん」

 両手は完全に塞がれていて、血が止まりそうなほど力強く握り締められている。ぎしりと骨が軋む音が耳元で響いて、脳内で警報が鳴り響いて身体に熱が溢れ出た。蹴りを入れようにも、見たことが無い佐疫先輩の表情のせいで足が竦む。泣いて喚こうなら殺される、全てが嫌になって舌を噛み切るために口の中に力を入れたら、両手を掴んでいた強い力が消えた。不思議に思い無意識に閉じていた目を開ければ、私の胸元に血のついた剣先が見えて、佐疫先輩が崩れ落ちる。

「なっ……、」
「……え、」
「おい、大丈夫か」
「あ……くっ、斬島先輩……!」

 刀を引き抜いて、私の肩を優しく掴んだのは斬島先輩。恐怖から逃れた安心感で涙がぶわぁっと溢れ出して力が抜けた。しかし崩れ落ちることはなくて、斬島先輩が私の身体を支えて涙を優しく拭ってくれる。

「騒がしいと思ったら、一体どうしたんだ」
「せんぱっ、じ、自分っ……自分……! うああああああああ……!」
「……落ち着け。大丈夫だ」

 嗚咽が漏れ出して、嗚咽交じりに言葉を放とうにも言葉が出てこなくて、私はただ泣く事しか出来なかった。私が体験した恐怖を感じ取った斬島先輩は、身体を持ち上げて倒れている佐疫先輩から私を遠ざけるとそのまま抱き締めて頭を撫でる。
今まで感じていた違和感なんか嘘みたいに優しい手つきに、ただ私は先輩にしがみ付いて泣く事しか出来なかった。

「あああああ、せんぱいいいいいい!」
「……名前、ここに一人でいるのは危険だ」
「うぇっ……?」
「お前を狙っている奴は他にもいる。……放っておけばもっと危険な目に遭う」
「せんぱ……?」
「好きだ。名前は誰にも渡さない」
「っ」

 抑揚の無い声、頭に触れていた手が急に冷たくなるような感じがして、ぞっと背筋が凍った。身の危険を察したのか、私は急いで離れようとしたならば、更に強い力で抱き締められて離れられない。さっきの安堵は気のせいだった、やはり、彼もどこか歪んでいる。いつから、いつからこんなことになった? 脳内ではどうすることも出来なくて私はただ声を荒げる。

「嫌だ! 先輩離して!?」
「好きだからこそ、お前を危険な目に遭わせたくない」
「あっ」

 首筋に衝撃が走った、と同時に私の意識がぷっつり途絶えて、そのまま脱力したように斬島先輩に寄りかかる。

「……愛してる、お前は誰にも渡さない」


 足を繋ぐ枷はひんやりとしていて、立ち上がるたびに鎖同士がぶつかり無機物の音が耳に残る。
斬島先輩も、もしかしたらこうしていたのかな。気絶した私を連れて部屋を出た斬島先輩を見つけた彼は、私を介抱するという目的で私を連れ去って自室に監禁した。純粋すぎる故に病んでいて、手の施しようがないことに気付いたのは数日前。
今日も帰ってきた、歩く気力もない私は気だるげに彼を見つめる。

「名前、」
「……お帰りなさい。    」

 頬を撫でる手は冷たく、愛おし気に見つめる彼は、私の知っている彼ではなかった。けれど、たぶんあのままずっと日々を過ごしていても、いつかは誰かの手によってこうなっていたのかもしれない。私以外、みんな壊れてしまった。

「(違う、……私も)」

 この生活が妙に心地良いと感じた私も、どこか壊れてしまったかも知れない。
私は、幸せだ、……そう、幸せ、なんだ。






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花火様リクエスト、獄卒メンバーでヤンデレ話です。なぜだか谷裂、木舌、佐疫、斬島が浮かんだのでこの四人をメインに書かせて頂きました。最後のお相手は想像にお任せ致します! 書いているうちに楽しくなってしまった長くなってしまいました……! 結局みんな狂ってるんですよね、最終的にそうなりました。ゾッとするかは分かりませんが、一応狂気感は出せたかと、思います……! この中でまともなのは多分谷裂ですね、一番まともかと。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
花火様のみお持ち帰りください。この度はリクエスト有り難うございました

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