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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -



きょろきょろと通路の端から端まで見渡し、誰もいない事を確認すると、キルケは談話室の扉を閉めて、近くのソファに座わった。



「んぁー…」



ポケットから小さな手鏡を取り出して、キルケは口の端を指で引っ掛けて、痛い程に伸ばしながら、じっと手鏡に映る自身の口…特に犬歯を凝視する。



「あー、やっぱりいつもどおり…かな?」


『なにやってるの?』


「ひぎゃ!?」



音もなく後ろから首に抱きつかれて、キルケは思わず悲鳴をあげた。けれど、耳元で聞こえた声の主がリヴだとわかると、すぐ傍に来るまで気づけなかったのは、談話室の扉をそっと開けてから、浮いて接近してきたからだと納得してホッと胸をなでおろした



「もう…驚かせないでよー」


『ふふ、ごめんね?それで、何してたの?』



小さな謝罪の後に聞かれた質問に、キルケはバツの悪い顔をした。しかし、その原因すらも分かっているかのように、リヴは不思議な顔をせず、不敵に笑いながらキルケの答えを待った。



「いや…えっと…なんでもない、よ?」


『そう?…ちなみに言っておくけど、私に噛まれたからって、吸血鬼になったりはしないからね?』


「えぇ?!そうなの?!」



それとなく言ったリヴの発言に、キルケは声を荒げて反応した。それは最早、気にしていた内容を暴露したも同然な反応で、後になってから「あっ」とキルケは顔をしかめていたが、もちろん、わかってて言ったリヴはおかしそうに笑みを浮かべていた



『だから、心配しなくてもいいよ?』


「心配は…してなかったんだけど」


『けど?』


「ほら…私普通の人間だから、私も…リヴちゃんと一緒な吸血鬼になれたらいいなって…」



平凡だからこそ望む異常。それが例え、敬遠や畏怖される存在だとしても、リヴに向けられたキルケの視線は羨望だった。その瞳に、リヴは目を瞬かせた後、ゆっくりと口元に弧を描いた。チラリと見えた鋭い犬歯が、なお妖艶さを増していて、キルケは密かに息を飲んでいた。



『…変わってるね』


「あはは…それはよく言われてる」



「ついこの前も他の住人に言われた」と苦笑するキルケと、そのままリヴは談笑をしていた。けれど、不意にリヴが、開けっ放しのドアの方へ視線を向けた。



「?…リヴちゃん?」


『…ううん、なんでもない。ねぇ、今日もちょっと血をちょうだい?』


「え、え?!何でその流れに?!」


「こーら、リヴ!」



遠くからピシャリと届いた声に、犬歯をのぞかせた口をリヴは閉じた。そして、同時にふわりと浮いた体は、リヴの意思ではなく、レール伝いで近づいてきた審判によって抱きあげられたものだった。



「僕がちょっと目を離した隙に、他に目移りするなんてどう言う事だい?」


『はーい。ごめんね?審判』



手を合わせながら小首を傾げて謝るリヴに、最初はむすっとしていた審判だったけれど、ついには溜め息一つを零して苦笑いに変わり、そしてその視線の先はキルケへと向けられていた。



「怖がらせてすまないね。連れていくよ」


『怖がらせてないよ。…それじゃあまたね?』


「う、うん!またね?」


『もし、気になるなら、今度輸血パックあげるね?』



リヴを抱いたまま踵を返して進みだす審判に、「恥ずかしいよ」とするりとリヴは審判の腕からあっさりと抜け出していたが、そのまま宙に浮いて審判に並んで進み出していた



「…二人とも、いいなあ」



審判が現れた時に一瞬見せたリヴの嬉しそうな笑みも、腕の中にリヴを捕まえて、牽制の意味で一瞬見せた審判の珍しく冷たい笑みも、そして今、同じ高さで寄り添う二人の背に、キルケは小さく笑みを零しながら、キルケもソファから立ち上がり、いつか貰う血の味を楽しみにしながら、部屋へと戻って行った。

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