×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



「あれ?肢屋姉さん、どうしたんですか?」

今日はキリカとあやこが用事で不在だったので、新胴がそろそろおやつでも作ろうかと厨房に降りると、そこには眉間に皺を寄せて立つ肢屋の姿があった。

「実は白玉粉を貰ったんだが……」
「白玉粉?ああ、これですか」

新胴が肢屋の視線の先を辿ると、確かにそこには包みに入った粉が置いてあった。
市販されているものではないらしく、作り方も分量も書かれてはいない。

「白玉作るんですか?」
「作り方が分からないんだ」
「えっ……」

肢屋は料理が得意で、日頃からその腕をよく獄卒たちにふるっていた。
その肢屋がまさか白玉の作り方で悩んでいるとはと、新胴は軽く驚く。

「作り方の本を図書室で探してみたんだが、お菓子の本がどこにあるのかすら分からなかった……」
「……あそこ、広いですもんねぇ」
「なあ新胴。もし良ければ私に白玉の作り方を教えてくれないか?」
「もちろんですよ!じゃあ、早速始めましょうか!」



「まず白玉粉を計りましょう」

新胴に言われて、肢屋はそっと秤の上皿に乗せた器に粉を入れる。

「水は大体粉と同量ですけど、一気に入れずに硬さを調節しながら加えるんです」
「ふむ……」

新胴の説明を聞きながら、肢屋は真剣に粉と水を混ぜていく。

「硬さはどのくらいだ?」
「そうですね、だいたい耳たぶくらいの硬さですね」
「耳たぶ……」

肢屋は一度捏ねていた粉から手を外して水で洗い、自分の耳たぶを何度か摘んで硬さを確かめた後、その手をそのまま新胴の耳へと伸ばす。

「……ひゃっ!あ、肢屋姉さん!?」
「硬さが違う」
「えっ、えっ」

耳たぶを押さえて飛び退いた新胴は、肢屋の言葉を理解するのに時間がかかる。

「私と新胴の耳たぶでは硬さが違う。新胴の方が柔らかい」
「えっ、あっ、そういう事ですか!?」
「驚かせてしまってすまないな」
「ほんとですよ……もう」

驚きのあまりについ変な声を上げてしまった事に恥じ入りながら、新胴は摘まれた耳を手のひらで擦りつつどうにか気持ちを落ち着かせる。

「だいたい、ですからね……肢屋姉さんが好きな方で……」
「肋角さんは硬いのと柔らかいのとどちらが好みだろうか」
「肋角さんですか?」
「この粉も、前に肋角さんと一緒に行った甘味屋の主人がくれたんだ。大層そこの白玉を肋角さんが気に入っていてな……肋角さんはしょっちゅう外に出るわけにはいかないからと、是非作ってあげてくれと……あ」

穏やかに微笑みながら語っていた肢屋が言葉を切って、しまったという顔を新胴に向ける。

「どうしたんですか……?」
「……内緒だと言われていた」
「え?」
「肋角さんと甘味屋に行ったのは……内緒にしておけと……」

肋角は肢屋にとって絶対だ。
きっと肋角は、他の者にばれると自分も行きたいと騒ぎ出すから黙っていろと口止めした程度の事なのだろうけれど、肢屋にとっては機密を漏洩したものと同じように感じてしまうものなのだろうと、新胴は頷く。

「大丈夫ですよ!私も誰にも言いませんから!約束します!」
「……そうしてくれると助かる」

気落ちし眉を下げる肢屋を見て、新胴はほんの少しおかしくなる。

「肋角さんの好みなら、やっぱり硬い方じゃないですか?」
「そうか……?なら、このまま……次はどうするんだ」

気を取り直して手を再び洗い、肢屋は白玉粉をまとめて棒状にした後に、一口サイズに千切って丸めていく。
測ったわけでもないのに均等な大きさにしていく手際は見事だなと、新胴はさりげなく感心する。

「そういえば、新胴は何を作っているんだ?」

肢屋に教えながら、隣で同じように手際良く粉を混ぜて麺棒で伸ばす新胴に尋ねる。

「これですか?これは余った粉を使って、ドーナツも作ろうかと」
「白玉の粉でドーナツも作れるのか」
「普段よりモチモチとしたものになって、美味しいですよ」
「新胴の作る菓子なら間違いないな」

新胴は菓子作りを得意としていて、時折自作のレシピを生み出すほどの腕前で、そのどれもが美味しいから間違いないと、肢屋は力強く頷く。

「そちらもできたら一つもらってもいいだろうか」
「もちろん、一緒にたべましょうね」

目を輝かせる肢屋を見てはにかみつつ、新胴も力強く頷き返した。



「腹減った!!おやつ!!」

白玉とドーナツが出来上がった頃、真っ先に食堂に飛び込んできたのは平腹だった。

「今日のおやつは何?何?」
「肢屋姉さんと私が作った白玉団子とドーナツですよ」
「へえ、おいしそうだね」

続いて来た佐疫も、目の前の碗と皿を見て顔を綻ばせる。

「……ちょっと硬めだけど、美味しいね」
「硬いか?やはり新胴の耳たぶの硬さにしておくべきだったか……」

白玉を食べながら抹本が漏らした感想に答えた肢屋に、食堂に集まって白玉を食べていた一同の視線が一斉に新胴の方へ向く。

「肢屋姉さんっ!!」
「ん?なんだ?」
「ねえこれ、肢屋の耳たぶの硬さなの?」
「ああそうだ。新胴のものはもう少し柔らかい」

木舌の言葉に、肢屋は尚も平然と答える。

「へえ……そういやさあ、耳たぶの硬さって胸の硬さと同じだって言うよねえ……」

しんと静まり返る食堂の中、新胴に注がれていた視線は更に新胴の胸へと移動する。

「……ひゃっ」
「耳たぶより固くないか?」
「だって服を着てるじゃないか」
「ああ、なるほどな」

肢屋は木舌に答えながら、片手で自分の胸を揉みつつ、もう片方の手で新胴の胸を揉んでいた。

「そりゃ、胸は脂肪だからね……大きい分だけ、新胴の方が柔らか……」
「抹本!!!!」
「ひっ……」

新胴の声に、抹本が肩を竦ませる。

「今さらだけど肢屋……男の前でそんな風に胸を揉んじゃダメだよ……」

佐疫に窘められて、肢屋はそうなのか……と、新胴に謝罪し頭を下げる。

「うう……肢屋姉さんのバカぁ……」
「すまない……」
「おや、どうしたの」

そこに遅れて、災藤と肋角もやってくる。
白玉の入った碗を受け取りながら事情を聞いた災藤は、悪戯を思いついた子供のように微笑んで肋角に視線を向ける。

「どう?」
「……何がだ」
「固さは同じなのかな」
「さあな」
「肋角さんはもう少し柔らかい方が良かったですか?」
「……」
「どうなの肋角」
「食べ比べてみん事にはわからんな」
「肋角さん!!」

顔を真っ赤にした新胴が、口の端を上げる肋角にまた慌てふためく。
肢屋だけがわからず、ただ首を傾げていた。

 / 
back