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 女性獄卒達が住む館は、今日は全員が非番を持つという特殊な日だった。それは男性獄卒で構成されている特務室勤務の肢屋、新胴も例外ではなく特別に休みを貰えたのだった。この日の為に同僚や先輩、後輩たちは各々好きな時間を過ごしてお現世へ赴いたり他の時間枠へ出掛けているものもいるだろう。

「……あら、肢屋? あなた何をしているの」
「訓練も一通り終わったからな、休憩だ」
「そう、貴女はいつも真面目ね」
「肋角さんを護れるほどの強さが私には必要だからな」
「そう。応援しているわ、頑張ってね」
「ああ」

 肢屋はやはりこの日も己を鍛えるための鍛錬をしていた、いつもと変わらぬ時間に起床し昼過ぎまでずっと訓練をしていたらしい。鍛錬場を出てすれ違うように通った同僚に声を掛けられて淡々と会話を交わし終えた肢屋は一度食堂でお昼を摂るべく目的地へ向かっていると、同じ所轄に勤めている同僚が大きな荷物を抱えて目の前から現れた。
 一度別の場所を彷徨っていた銀の目が肢屋を捉えるとそのまま新胴は表情がぱっと明るくなり小走りで肢屋の元へ駆け寄る。

「肢屋姉さん」
「新胴、今帰りなのか」
「はい。今日は買うもの決まっていましたし」
「早朝から早起きして並んだと言っていたが、本当なのか」
「げ、その話誰から聞きました?」
「平腹だ」
「最悪……ゲーム絶対貸さないようにしよう」
「それで、買えたのか?」
「ああはい、先頭には並べませんでしたが無事手に入りました」

 現世でしか手に入らない据え置き機を買うべく早朝から早起きして現世へ降り立った新胴の手元には大きな紙袋が添えられていた。その話は一部の人しか知らないと思っていたらしいがおしゃべりな先輩のせいで漏れていることに胡乱げになりつつも新胴は肢屋に中身を見せるように紙袋を開いた。
 破れないようになのかビニール袋の下には紙袋が二枚重ねになっている、中を覗くと大きな箱と別の小さな袋が入っているようだ。

「……大きいな」
「据え置き機ですからね、ソフトも結構な数買ったんです」

 紙袋を地面に置き、中から小さな袋を取り出して肢屋に手渡す。彼女はそのまま袋から文庫本サイズのソフトを何枚か取り出して暫しパッケージを見つめる、どれもジャンルは違うものらしい。中に入っているもの含め五つ入っているのに気づき驚きで目を丸めつつもそのまま綺麗に袋に収め新胴に手渡しながら再び別の疑問を思わず投げ掛けた。

「随分買ったんだな、やる時間あるのか?」
「徹夜ですかねー、でも頼まれて買ったのもあるので」
「最近の娯楽は随分進化しているのだな」
「おかげで貯金一気に減りましたけど。……あ、」
「どうした?」

 苦笑交じりにゲームが入った紙袋を持ち上げると、そのあと何かに気付いたように新胴は背中に背負っていた若者向けのリュックからゲーム機が入っていたものとは別の袋を取り出した。

「肢屋姉さん、これ」
「これは……服?」
「はい、ゲーム買うついでに服屋にも行ってたんです、そこで凄く可愛いの見つけて」
「開けてもいいか」
「どうぞ」

 早く部屋に帰してあげるべきなのだろうけど、それよりも自分へと手向けられた贈り物が気になり手早く包装紙を解く。畳まれている衣服はどうやらパジャマのような心地の良い肌触りとあたたかな淡いパステルカラーが目に入る。普段は着物で寝起きをしている肢屋には以外過ぎる贈り物だった。

「寝間着、だよな」
「ジェラートピケっていうブランドなんです。夏の新作フェアやってて、それのツインセットが気に入っちゃって……着ないようでしたら他に回しても構わないので」
「いや、有難う。とても可愛いな」
「よかったぁ、ほぼ押し付けになってしまうますが見た時に肢屋姉さんの顔がパッと浮かんだんです」
「そうか……」

 ころころ笑う新胴の笑顔と、自分の為に、というニュアンスの込められた言葉に肢屋の心がほんのりと熱を帯びる。無意識に胸に抱くように服を押し付け微笑む。
 嬉しさが身体に染み渡りもっと気の利いた言葉はないかと模索するが嬉しいと言葉が出てこないのはどうやら人も鬼も同じらしい。
 そんな肢屋の様子を見て満足気に微笑む新胴だったが、すぐに何を思いついたのか顔を更に明るくさせて肢屋に詰め寄った。

「肢屋姉さん、もし宜しければ今晩お泊り会しませんか?」
「私は別に構わないが、新胴は平気なのか?」
「自分はこの後ゲームやるために寝て体力温存するだけです。買ったゲーム一緒にやりましょう!」
「分かった、では夕餉が終わったら新胴の部屋に向かうな」
「はい、……あ、どうせなら夕飯は一緒にしましょうよ」
「なら時間になったら起こしに行こう」
「う、お手数おかけします」
「構わない、ではまたあとでな。ちゃんと寝ておけよ」
「はい!」

 またあとで!と元気よく手を振って小走りで自分の部屋に向かった新胴を見送って肢屋は手元にあるパジャマをじっと見つめる。

「……」

 彼女は見た瞬間からすぐに自分が浮かんだ、と言っていたが、自分で自分が着ている姿を想像することはできずにいた。

「(可愛らしいデザインに着られなければいいが……)」

 なんてことを考えながら、一度部屋にこれを置くために肢屋は踵を返した。


「〜っ……! 肢屋姉さん、すっごい可愛いです……!」
「着慣れていないから不安だったが、大丈夫だろうか」
「全然! あ、写真撮りましょう!」
「あ、ああ」

 色違いのお揃いの服を着ている、銀の瞳が爛々と輝いて肢屋に注がれる。着替え終えて脱衣所から出てきた肢屋を見た新胴の反応に些か恥ずかしさを持ちながらも肢屋は指定されているかのように置かれている赤いクッションに腰を下ろしデバイスを弄る新胴をじっと見つめる。自分とは色違いの服を着ているのがなんだか不思議な気分だ、ぼう、と少しだけ意識を遠くへ飛ばしているとすぐさま「そうだ、」と隣から小さな声が漏れたので視線をそちらへ向けると、先ほどまではなかったものを手に持って新胴がこちらへ迫ってきた。

「髪の毛、結いませんか?」
「ゴムならあるぞ」
「それは普段使っているのじゃないですか、シュシュで!」
「しゅしゅ」

 びよんびよんと手で赤と黒のチェック柄のシュシュを伸ばしながら新胴は今だ混乱気味の肢屋の髪の毛に手を取ると手早く編み、片側おさげのように右肩に結んだ髪の毛を垂らす。シンプルだが普段はしないような髪型に少しだけ心が躍ったようだ、「肢屋姉さんおさげも似合いますね」なんて無邪気に言う新胴を見つめながら編みこまれた三つ編みにそっと触れる。自分の黒髪にくっつく赤い髪飾りに、一瞬だけあの人の事が浮かびあがり、ほんのりと身体が暖かくなる。

「……」
「肢屋姉さん?」
「、いや、なんでもない。有難う新胴」
「どうってことないですよ。じゃ、さっそくゲームを開封。っと写真写真!」
「新胴、時間はまだあるぞ。落ち着け」
「あ、えへへ、テンションあがっちゃってて」
「……そうか。私も楽しいぞ」

 ふんわりと花が咲いたように笑顔を見せた肢屋に新胴もつられて顔を綻ばせる。だがすぐにデバイスを上に構えて、肢屋の方へと身を寄せた。

「肢屋姉さん、もっとこっち、寄ってください」
「分かった。このくらいでいいか?」
「はい、じゃあここに目線向けて、」
「……」

 カシャ、と軽快な音を響かせすぐに中身を確認すればおそろいのパジャマを身に纏う二人が映し出される。

「よし、じゃあ姉さんの所にも送っておきますね」
「ありがとう、私も撮って良いだろうか」
「はい、もちろん。一杯写真撮りましょうね」
「それと、ゲームも教えてほしい」
「もちろん! 片手で食べられて手が汚れないお菓子を用意しましたよ」


 たくさん並べられたお菓子達と未開封のゲーム機、今夜は眠れない夜になるだろう。なんとなく目の前で爛々とゲームを開ける後輩を見て肢屋は再び、自然と綻んだ表情で送られた写真を見た後、そっと遠くに置き手渡されたコントローラーに手を伸ばした。



「おや、この前の女子会の写真。肢屋も持ってたんだね」
「はい。……どうしてそのことを?」
「新胴から写真を貰ってね、まあ、譲渡してくれと頼んだようなものだけど」

 後日執務室にてデバイスを使っていた肢屋の手元を災藤が覗き込むように現れた。ちょうどホーム画面に映っていた二人の自撮り写真を見て微笑ましそうに見る災藤は、何かに気付いたのか再び肢屋に声をかける。

「肢屋も写真を撮ったのかい?」
「はい。不慣れですが新胴に撮り方を教えてもらいました」
「……もしよければ、肢屋が撮った奴も頂いていいかな?」
「もちろんです」
「有難う。……ふふ、それにしても本当に楽しそうだね」
「災藤さんも次はどうですか」
「まあ、そうだね。考えておこうか」

 災藤の娘コレクションが増え、デバイスのホーム画面にしていたが故に一部の息子達から写真をせがまれたのはまた別の話だ。

 
「新胴、悪いが先ほど撮った写真を送ってくれないか」
「はい。……どうですか?」
「……? これは、」
「!? す、すみません間違えました!」

 別の場所で、新胴と肋角は作業をしていた。肋角が資料を求めてたのでそのままカメラロールを遡りコミュニケーションツールにて送ったが肋角の微妙な反応に慌てて見返せば先日の女子会、しかもこっそり隠し撮りした肢屋の笑顔を浮かべた写真だった。

「先日の集まりか」
「は、はい。あの……こっそり撮ってしまったので、その……」
「特別にこの写真で手を打ってやろう」
「……あの、まだあるんです。良ければ……」
「……」

 肢屋姉さんごめんなさい。と心の中で謝罪をしつつも肋角の柔らかい表情を見て新胴はなんともいえない、だが嬉しい気持ちになったのは間違いない。

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