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「今日、外が騒がしいですね」
「ああ、今日は縁日だからな」


いつものように肋角の膝の上でくつろいでいた闇歌は、いつもより賑やかな外の様子を肋角に言えば、肋角は煙管を吹かしながら原因である行事を述べた。
縁日、祭り。この世界にもそのようなものがあるのかと闇歌は思いつつ、肋角に寄りかかった。そんな闇歌を肋角は頭を撫でて、笑みを浮かべる。


「行ってみるか?」


煙管を片手に持ち、赤い目に優しく弧を描かせて問いかける肋角に、闇歌は柄にもなく心を弾ませた。











祭囃子がなり、提灯がぶら下がっている。笛の音が響き渡り、人々の声で賑やかな様子の神社を見て、闇歌は目を輝かせた。
そんな様子の闇歌を見て、獄卒達は笑みを浮かべる。


「闇歌ちゃん、嬉しそうだね」
「こういうのは好きなので」


笑みを浮かべる佐疫に、闇歌は無表情で目を輝かせて答える。
今にも走り出しそうな程高鳴る気分を顕にする闇歌に、皆が苦笑を浮かべた。しかし、獄卒達には不安があった。嘗て、闇歌が幼い頃に同じ縁日に連れてきた時、彼女は危険な目に会い、トラウマを植えつけられて部屋に引きこもったことがある。正直、
獄卒達は闇歌を縁日に連れてくるのは、よく思っていなかった。もう大人であるが、生者であり自分たちより脆い存在には変わりない。また、同じようなことが起こったら。それだけが不安である。
そんな獄卒達に見向きもせず、闇歌は大人しく縁日の様子を見ている。


「肋角さん、いいんですか?」
「なに、闇歌も大人だ。そう簡単に連れて行かれないだろう」


谷裂が心配そうに肋角に問いかけるが、肋角は余裕の表情で煙管を吹かしている。


「闇歌君、僕と行こうか」
「あ?こんな奴より、俺と行こうぜ!」


流れるように闇歌の隣に移動した世靄が、闇歌を縁日に誘う。しかし、直様アラタが不機嫌そうな顔をして闇歌を誘った。そうすれば、世靄とアラタの間で火花が散る。
闇歌は大層くだらなさそうにため息を吐き、周りの獄卒も呆れたように笑みを浮かべたりため息を吐いた。


「いいよ、一人で行くから」
「駄目だ」


闇歌は二人を放置して縁日の中に混ざりこもうとすると、肋角が背後から彼女の肩を掴む。
闇歌は眉を潜めて肋角を見るが、肋角は真剣な眼差しで彼女を見返した。


「今日の縁日の条件は、誰かと同行することだ」


冷たい視線で闇歌を見る肋角に、闇歌は顔を歪めた。子供じゃあるまいし、というかのように。しかし、肋角の手は、単独行動を許さないと言うように未だに闇歌の肩を掴んでいる。
諦めたように、呆れたようにため息を闇歌は吐いた。


「わかりました。なら、世靄お兄様と一緒に行きます」
「なんで!?」
「そうか。なら、これを渡そう」


世靄と同行することを述べれば、アラタが不満そうに声を荒らげた。
しかし、肋角はそんなアラタを無視し、懐から出した巾着を闇歌に渡した。闇歌は首を傾げ、巾着の中を覗き込む。中に入っていたのは、縁日では使い切れないだろう額の金品が入っていた。


「はあ!?」
「少しは遊んでこい」


闇歌は思わず驚いた表情をし、声を荒げて肋角を見つめる。そんな闇歌の表情が面白いのか、肋角は笑みを浮かべて紫煙を吐き出した。
すると、横に居た世靄が闇歌の持っていた巾着を取り上げ、肋角に巾着を返した。


「肋角さん、心配はいりません。僕が払うので」


いつもの笑みを浮かべて、懐から財布を出して言う世靄に、闇歌は目を抑えてため息を吐いた。何なんだ、こいつら。闇歌の素直な思いである。


ゆっくりと、忙しなく流れる人々を見ながら、闇歌は縁日の風景と雰囲気を楽しんでいた。獄都の縁日はいろんなものがある。宙を漂う金魚に、カラフルな水飴。他にもいろいろとあるが、現世にない出店に闇歌は少々興奮していた。
隣を無言で歩く世靄を一瞬見るが、彼は躑躅色の目を前に向けている。闇歌は直ぐに視線を出店に戻す。すると、ある店に視線が移った。
そこはお面屋であり、古くからや現在の現世で扱っているいろんなお面を飾っていた。闇歌は思わず脚を止めてお面屋に釘付けになった。立ち止まった闇歌に気がついた世靄は、一度闇歌を見つめ、彼女の視線の先にあるお面屋を見る。


「気になる?」
「ちょっとね」


世靄が笑みを浮かべて問いかければ、闇歌は世靄に気がついたように素っ気ない態度をとり、直ぐに視線を逸らす。
素直になれない闇歌の態度を見て、世靄は笑みを深めて彼女を置き去りにしてお面屋に近寄った。


「ちょっと!」


闇歌は世靄を呼び止めるが、当の本人は気にもせずお面屋に移動する。そして店主と一言二言会話をし、お面を受け取り代金を払うと闇歌の元へ戻ってきた。


「はい、これ」
「……お金」
「いらないよ」


世靄は躑躅色の目を細めて闇歌を見つめながら、手に持っていた狐のお面を彼女に渡した。闇歌はお面を受け取りながら代金について問いかけるが、世靄は拒否の意を述べる。
こうなれば素直に受け取るしかない闇歌は、お面を顔にかける。円形の穴から見える光景で視界は少し遮られるが、それでも歩くには問題ない。そのまま人ごみに流されるように歩き出せば、右手に布の感触を得た。視線を右手に移動すれば、黒い手袋をした大きな手が闇歌の手を握っていた。


「逸れると困るからね」


暖かいとは言えない、躑躅色の目を闇歌に向けて世靄が一言言えば、彼は闇歌の手を引っ張って人ごみを歩き出す。
引かれるように歩く闇歌は、世靄の手を握り返し、仮面の下で顔を赤くさせた。











「おーい、世靄!闇歌ちゃん!」


暫く手を握って縁日を散策していれば、射的をしている佐疫と一緒に傍観をしている谷裂に出くわした。佐疫は射的をしていた手を止め、闇歌と世靄に手を振る。傍に居た谷裂も二人の存在に気づいたようで、鋭い紫の目を二人に向けた。
世靄は闇歌の手を引っ張り、二人に近寄った。


「佐疫、射的かい?」
「うん。結構楽しいよ」
「店主泣いてんぞ」


世靄が楽しそうに佐疫に声をかければ、佐疫も楽しそうに笑みを浮かべて返答する。闇歌は射的屋の店主に視線を向ければ、何故か泣いていた。しかし、その理由もわかる。佐疫は普段から銃を使い、このような場でもその技術を披露したのだろう。そして、佐疫の隣に山積みになっている景品を見て、闇歌は悟った。
哀れなり、店主。佐疫に目を付けられたのが最後である。遠慮も何もない佐疫に、闇歌はため息を吐いた。
楽しそうに会話をする佐疫と世靄、そしていつものようにしかめっ面の谷裂を見て、闇歌はあることに気がついた。世靄の手が離れており、右手が留守であった。
三人は楽しげに会話をしており、闇歌はちょっとした好奇心を抱いた。闇歌は歴史が好きで、たまにだが神社やお寺を巡る。その上、あの世と言われる獄都で祀る神がどのような物なのか気になっており、本心はこの先にある本堂に行きたくて仕方が無かった。
三人は自分に気がついていないのを確認すると、闇歌はこっそりと人ごみの中に消えた。


「それで、今これだけあるんだ」
「ふーん、ぬいぐるみもあるんだ。闇歌君、よかったらもら……」


佐疫が機嫌よく景品の山を指差すと、世靄はその山の中に赤色の猫のぬいぐるみに気が付く。昔、射的で彼女の為にぬいぐるみを取った覚えのある世靄は、闇歌に視線を移して問いかける。しかし、視線を移した先には誰もおらず、世靄は勿論佐疫と谷裂も黙り込んだ。
そして暫くの間を空け、世靄が人ごみの中に戻ろうとする。


「ま、待って世靄!今肋角さん達に連絡するから!」
「おい、世靄!」


佐疫と谷裂が世靄を引き止めるが、彼は二人の声も無視して人ごみの中へ入っていく。


「お転婆娘には、少しお灸を吸えないといけないかな」


世靄は不機嫌そうに笑みを浮かべて、呟いた。

「斬島、それ美味しい?」
「ああ。食べるか?」


新胴は斬島と共に縁日を巡っていた。片手に林檎飴を持つ斬島に新胴が問いかけると、斬島は新胴に林檎飴を差し出す。新胴は嬉しそうに林檎飴にかぶりつこうとした。所で、前方に見える人物に気がついた。
新胴はその見覚えのある姿に、真顔になった。


「斬島、あれ闇歌ちゃんじゃない?」
「ん?」


新胴が指を差して示せば、斬島のその人物に視線を向ける。前方には銀色の髪を揺らし、黒地に金魚の絵があしらわれた着物を着ている闇歌の後ろ姿が見えた。
闇歌は流れに従うように、どんどん先に進んでいる。


「はぐれたのか?」
「ねえ、斬島。あの先って」
「…本堂だ」
「やばい!」


新胴と斬島は、闇歌の目指している場所を特定し、慌てて彼女を追う。しかし、人の流れと多さに、上手く先に進めず闇歌との距離は離れていく。
新胴は斬島の手を握って、人ごみを掻き分けていく。


「斬島、皆に連絡して!」
「わかった」


新胴の指示に従い、斬島は懐から携帯を取り出した。
一方、新胴達が慌てているのも知らない闇歌は、本堂に到着していた。祭り会場とは打って変わり、静かで暗い本堂を見つめて闇歌は関心した。
本堂はかなり綺麗で佇んでおり、立派なしめ縄も飾っている。現世の神社と差ほど違いがない本堂を見て、闇歌はその特徴を調べていく。


「やあ、お嬢さん、一人かい?」


熱心に本堂を見ていると、背後から声をかけられた。闇歌は声のした方向を向くと、そこには数人の男性が立っていた。気持ち悪い笑みを浮かべて、闇歌を見定めるような目で見ている。
闇歌はお面の下で顔を歪め、舌打ちをする。


「お嬢さん、一人なら俺たちといいことしようよ」
「極楽を見せてやるぜ」


下品な笑い声を上げる男たちは、闇歌に手を伸ばす。


「闇歌!」


背後で肋角の声が響く。肋角の他にも、獄卒達が勢ぞろいしており、慌てた様子で闇歌に駆け寄ろうとする。
その瞬間、闇歌は着物の裾を掴んで、男の顎を下駄で蹴り上げた。


「がっ!」
「な、何だこのアマ!やろうってぐはっ!」
「ふ、ふざけぎゃっ!」


悲鳴を上げて宙を浮く男性に、仲間が激怒したように吠えるが、闇歌は目を獣のように光らせて隣に居た男性の顔を下駄の踵で蹴り飛ばす。傍にいた男性が怯えたように吠えるが、闇歌は躊躇なく男性の急所を蹴り上げた。
何とも言えない悲鳴を上げて崩れ落ちる男性を見て、獄卒の男性陣は思わず顔を青ざめた。そのまま、男性達を伸していく闇歌に、獄卒達は言葉もでなかった。
全員地に伏せさせた闇歌は、裾から煙草を取り出し、仮面をずらして口にくわえ、ライターで火をつける。そして紫煙を吐き出すと、男どもを見下ろした。


「再起不能にしてやろうか、愚図ども」


煙草を持ち、嫌悪を顕にした顔で罵声を吐く闇歌に、獄卒達はもう何も言えなかった。しかし、闇歌は獄卒達の存在に気がついていないようで、そのまま本堂に視線を移動させて観察を再開する。


「うーん、この形なら女神を祀ってるんだろうけど、明確な資料とかないからな…。古文書とか一次資料があればいいんだけど」
「闇歌君」


煙草を吹かしながら考察を述べる闇歌に、世靄が彼女の肩を握って声をかける。そこで闇歌は世靄の存在に気がつき、背後を振り向けば怒りを顕にした獄卒達が勢ぞろいしていた。
闇歌は瞬時に危機感を感じ、逃げ腰になる。しかし、世靄が肩を掴んでいることにより、逃走は測れない。


「いろいろ言いたいことあるけど、取り敢えず境内は禁煙だよ」


躑躅色の目に怒りを宿して笑う世靄に、闇歌は平腹風に詰んだと思った。


「この、馬鹿者!」


その後、闇歌はその場に正座させられ、谷裂の説教を受けていた。肋角の説教は既に済んでおり、今は谷裂の番である。闇歌は仮面の下で不貞腐れたように頬を膨らませて、大人しく谷裂の説教を受けている。
谷裂の背後では肋角を始め、獄卒の面々が呆れたようにため息を吐いた。


「今回は貴様が撃退できたからいいものの、どうしようもない状況になったらどうするんだ!」
「いや、慣れてるし」
「なんだと!?」
「現世でもこういうのあったし、普段からストーカーとか結構居たから、特に気にしてないんだけど」


仮面越しに伝えられる闇歌の感性に、谷裂は目眩を感じた。慣れてる?ストーカー?普段から?その単語が谷裂の頭の中で回り、更に彼を混乱させる。
谷裂の動揺を見て、佐疫が彼の肩を抱いて闇歌の前から遠ざけた。そして交代するように、世靄が前に出てきて闇歌に合わせてしゃがみこむ。そして、仮面で隠されていない頬の裏を掴み上げ、思いっきり握る。


「ぐっ!よ、よみょやおにーしゃま…」
「取り敢えず、今日は帰るよ。お説教はそれから。もう一回肋角さんにもしてもらうからね」
「…ウィッス」


冷たい躑躅色の目で宣告された内容に、闇歌は素直に返事をした。





お馬鹿娘


(あの、世靄お兄様、何故私は抱きかかえられてるのですか…)
(今回のお説教だよ。このまま僕の毒の検体になってもらうからね)
(死ぬわ!)

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