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申し訳ありませんがこの作品のみ今の段階では名前変換に対応しておりません。

「よいしょー!」
「きゃー!」


楽しげな声が聞こえた。新胴は己の得物である大鉈を持ちながら声が響き渡る方向を見れば、そこにはアラタと闇歌が一緒に遊んでいた。屈強とは言えないが、それなりに鍛え上げられているアラタの腕にぶら下がる闇歌を、アラタは勢いをつけて持ち上げる。
少々危ないと思われる行為であるが、新胴はその光景を微笑ましく見ていた。


「アラタはいい兄だな」
「お調子者ですので、少々問題はあるかと」
「あ、肋角さん、谷裂先輩」


日差しの良い庭先で遊ぶ二人を見ていれば、背後から上司である肋角と同僚であり先輩である谷裂が闇歌とアラタの様子を見て、和やかな雰囲気を醸し出して新胴に近寄った。
新胴は二人の名前を呼び、嬉しそうに微笑んで再び視線を二人に向けた。今度はアラタが闇歌を両腕で頭の上に持ち上げ、飛行機が飛ぶように移動している。闇歌も嬉しそうに声をあげて、両腕を広げて飛んでいるような感覚を楽しんでいる。


「あの二人を見ていると、本当の兄弟かと思うな」
「闇歌ちゃんも、アラタの事慕ってますからね」


子供のように燥ぐアラタと、心底楽しそうに年相応の笑みを浮かべる闇歌は、まるで仲のいい本当の兄弟のように見えた。
すると、アラタが少々疲れたようで、闇歌を地面に下ろして少し呼吸を整える。子供とは疲れを感じても、直ぐに回復するので底なしと言えるが、アラタはいい大人の姿であり、流石に闇歌とずっと駆け回っているのは疲れるようだ。
すると、闇歌がアラタの足にしがみついて彼を見上げる。


「あらちゃー、あえ、やーて!」
「お?じゃあ、これで最後な」


闇歌がアラタにおねだりをすると、条件をつけて彼は了承した。
何をするのだろうと三人が闇歌とアラタを見つめていれば、アラタが闇歌の小さな両腕を掴み、勢いよく彼女を振り回す。


「足は危ないからこっちなー!」
「きゃー!きゃー!」


三人は絶句した。これは所謂ジャイアントスイングであり、脚を掴んでいないが危険なのには変わりない。ステップを踏んで、片足でバランスを取りながら体を回転させ、遠心力で浮遊する闇歌を回転させる。
我に帰った谷裂が直様アラタに近づき、握りこぶしを振り下ろす。


「この、馬鹿者!」
「いだぁ!」


岩石のような谷裂の拳骨が、アラタの脳天に落ちる。かなりの痛みにアラタは思わず闇歌の手を離してしまい、遠心力によって吹き飛ぶ闇歌を見て新胴は顔を真っ青にした。闇歌は生者だ。何処か打ちどころが悪ければ、命に関わってしまう場合がある。
隣に立っていた肋角が直様闇歌の傍に駆け寄るが、勢いが早すぎて闇歌はもう地面にぶつかる寸前である。思わず新胴も肋角の後を追って、闇歌に駆け寄った。
すると、闇歌が空中で一回転をし、見事地面に着地した。しかも、体操選手がとるY字のポーズをしながら、自慢げな顔をしてだ。両腕を伸ばして駆け寄っていた肋角と新胴、そして谷裂は何が起きたのか一瞬理解できなかった。


「あ、ろーきゃくしゃー!」
「…闇歌、今のは」
「あのえー?あらちゃがおしぇーてくえたの!」


肋角の存在に気がついた闇歌は、嬉しそうに彼に駆け寄った。肋角が心配そうに、呆気に取られたように闇歌に問いかければ、闇歌は嬉しそうに、そして誇らしげに語った。
その瞬間、肋角の目に微かな影がかかった。


「アラタ、話がある」
「…ウィッス」


谷裂に逃げられぬよう首根っこを掴まれているアラタは、怯えたように顔を青ざめさせ肋角に返事をした。その様子を見ていた新胴は、己の得物を担いでアラタに近寄る。
アラタにフラグが立った。

「しんどーおねーしゃま!」
「わっ、と…、闇歌ちゃんどうしたの?」


新胴が廊下を歩いていれば、可愛げのある舌っ足らずの声が聞こえ、続いて足に衝撃を受けた。新胴は瞬時にバランスをとり、足に引っ付いている闇歌に問いかけた。
闇歌は嬉しそうに新胴を見つめ、微笑みを浮かべていた。


「あのえー、けーこってなーに?」
「けーこ?」
「うん!しゃえきおにーしゃまが、じゅーといっちょにいうーっていーてた!」
「…ああ、もしかして結婚?」
「そえ!」


闇歌は新胴を見上げ、首を傾げながら彼女に問いかけた。しかし、新胴には彼女の言っている言葉がわからず、復唱をして聞き返す。そうすれば、闇歌は佐疫が言っていた説明を述べて笑顔を浮かべる。佐疫の説明を聞いて、闇歌の単語を聞いて、彼女が問いかけたい言葉を仮定で述べれば、闇歌は同意をした。
新胴は結婚と言う単語を聞いて、彼女も女の子なんだなと内心思った。闇歌は生者であり、まだ子供である。現世に帰り、確りと成長すれば自ずと見知らぬ男性と恋に落ち、身を固めるのだろう。そう思うと、新胴は嬉しいような悲しいような複雑な思いを抱いた。


「結婚って言うのはね、大好きな人とすることで、一生傍にいますって誓うことなの」
「だーしゅき?」
「そう。だから、闇歌ちゃんもその内結婚するんでしょうね」


新胴は闇歌を抱き上げながら、彼女の糸のような髪を撫でて説明をする。闇歌は嬉しそうに新胴を見つめており、大人しく彼女に抱えられている。
いつかは結婚をし、子を成し、生涯を終えて冥府へと行く闇歌。それが彼女の定めであるのはわかっているが、新胴は己の知らない場所で闇歌が成長していくのを切なく感じた。
新胴の表情を見て、闇歌は一瞬真顔になるが、直様笑顔になって声を高らかに上げる。


「じゃあ、あーか、おーきくなったりゃ、しんどーおねーしゃまとけーこすゆ!」
「あら、本当?」
「ほーと!やくしょく!」


闇歌は笑顔で問いかけてくる新胴に、最大の最高の笑みを浮かべて彼女に小指を差だす。新胴はそんな彼女が可愛らしく思え、己の小指をその小さな、短い小指に絡める。


「ゆーびきりげんまん、嘘ついたら」
「ろーかくしゃーとけーこすゆ!」
「ぶふっ!…指切った!」
「きーた!」


闇歌がまさかの罰を述べ、新胴は少し吹いた。しかし、笑いで体を震わせながらも、新胴は最後まで約束をし、その小さな指から細長い指を解く。
闇歌は嬉しそうに笑みを浮かべて、新胴に抱きついた。小さな体を支えながら、新胴は指切りを破った場合の罰が、彼女にとっての罰になるのかと笑いながら歩み始めた。











「新胴と結婚?」
「うん!」


新胴が執務室に向かえば、そこには肋角、斬島、田噛が在室していた。
先程の新胴との約束を斬島に嬉しそうに述べる闇歌を見て、新胴は何処か和やかな気持ちになる。肋角も何処か楽しそうに闇歌と斬島のやり取りを見ていた。


「闇歌、女性同士は結婚できん。お前と新胴は結婚することはできないぞ」


しかし、真面目な性格の斬島は、彼女に残酷な事実を述べる。
闇歌は彼の言葉に一瞬固まり、そして脳内で彼の言っていることを理解すると、その大きな目を歪めて水滴を溜め始めた。
闇歌の様子を見て、新胴は焦ったように彼女を見つめ、田噛は心底面倒くさそうな顔をした。肋角は相変わらず笑っている。


「やー!やーあ!しんどーおねーしゃまとけーこすゆのー!」
「あら、でも私と結婚しないと肋角さんと結婚するんでしょ?」
「俺か。闇歌、俺ならできるぞ?」
「やあー!ろーかくしゃーいやー!やー!あーか、しんどーおねーしゃまがいーのー!」
「おい、肋角さん泣いてんぞ」


駄々をこねる闇歌に新胴は先程闇歌自身が宣言した罰を述べれば、名前の出された肋角が余裕の笑みを浮かべて闇歌に問いかける。
しかし、闇歌から出たのは全力の否定であり、どうしても新胴と結婚すると言っている。闇歌の言葉にショックを受けた肋角は、その大きな両手で顔を抑えた。
そんな肋角の様子を見て、田噛は呆れたように言った。


「じゃ、じゃあ、闇歌ちゃんは私以外なら誰がいいの?」
「うぅ…っ、よみょや、おにーしゃ…」
「巫山戯んな」
「許さん」
「許可できん」
「駄目よ、闇歌ちゃん」
「なーで!!!」


その場に居た全員に却下された闇歌は、更に泣き喚いた。


こぽりと、フラスコの中の液体が泡を吹く。
世靄はガスマスク越しにフラスコの液体を見て、直様視線を手元の試験管に戻す。試験管の中には発行した紫色の液体が入っており、満足げに世靄は笑みを浮かべた。
すると不意に足に衝撃が走った。世靄は思わずバランスを崩しそうになるが、直様体制を整える。試験管の中の液体が少し飛び跳ねたが、少量零しただけなので些か問題はないだろう。
世靄は視線を足元に向けると、視界に入ったのは花が咲いているのでないかと思えるほど満面の笑みを浮かべる闇歌が彼の足に抱きついていた。


「よみょやおにーしゃ、いっちょにねんねしよー?」


その瞬間、世靄が持っていた試験管が割れた。世靄が思わず手を握り締めた事により、紫の液体と試験管はそこら辺に飛び散る。それでも破片や液体が闇歌にかかっていないのか世靄の考えた上でなのだろうか。
世靄は直様液体と破片で汚れた手袋を脱ぎ、ガスマスク越しに目を押さえる。そして身を震わせ、今度は両手で顔を押さえた。彼女に背を向ける形で悶える世靄に、闇歌は不思議そうに首をかしげる。


「…また勝手に入ってきたの?駄目だといつも言ってるよね」
「だーて、よみょやおにーしゃ、でちぇこにゃいんじゃもん!」
「それは君がノックも何もしないからでしょ。ほら、出て行きなさい」
「やー!いやあー!よみょやおにーしゃとねんね!」
「昼寝なら田噛がしてくれるでしょ」
「やぁー!よみょやおにーしゃ、あーか、よみょやおにーしゃがいーのー!」


世靄が居る部屋は、彼が扱う毒を生成し、実験をする部屋である。本来、この部屋には肋角すらも入ることがない。しかし、何故か世靄を慕う闇歌は勝手に侵入し、こうして彼の邪魔をするのである。以前、世靄の居ない時に入ってしこたま怒られたことがある闇歌は、それ以降は世靄の居ない時は侵入しなくなった。それでも、世靄が居るとなると話は別のようだ。
闇歌を部屋から出そうとする世靄に対し、闇歌は拒否をしてエプロンスカートを握り締めて地団駄を踏む。ぐすぐすと泣き出した闇歌を見て、世靄は一つため息を吐いた。
観念したのか、彼女の小さな体を持ち上げると、そのまま部屋を出て行く。鼻を鳴らして涙を流す闇歌の頭を撫でながら、世靄はすぐ傍にある自室へ入り、部屋の真ん中にあるソファーに闇歌をお腹に乗せて寝転んだ。


「一時間だけだよ。一時間経って起きなかったら、田噛に渡すからね」
「ほーと…?」
「いいから寝なさい」
「うー…」


闇歌の小さな背に手を乗せ、あやす様に優しく叩く世靄の表情はガスマスクで一切見えない。それでも、闇歌は涙を流しながら嬉しそうに笑みを浮かべ、世靄の胸に伏せた。
小さな手で彼の服を握り、闇歌は次第に眠そうな目をする。世靄の手は、闇歌を更に夢の中へと誘っていく。


「よみょやおにーしゃ、そえ、なーでちゅけてるの…?」
「ガスマスクのこと?」
「うん…」
「…さあ、何ででしょう」
「…いじわゆ」


眠そうな顔で、今にも眠りこけそうな闇歌は、世靄の答えに不満そうに頬を膨らませる。そして、一つ欠伸をし、闇歌は目を半分閉じながら世靄を見つめる。


「よみょや、おにーしゃ」
「何?早く寝なよ」
「あのえー…、あーか、よみょやおにーしゃ、だいしゅき…」
「……」


それだけ言うと、闇歌は完全に瞼を閉じ、夢の世界へと旅立った。
寝息を立てて安心しきったように眠る闇歌を見て、世靄は一つため息を吐きガスマスクを外す。そしてガスマスクを床に落とすと、その手で闇歌の小さな頭を撫でた。


「全く、よく寝るね…」


世靄は躑躅色の目を闇歌に向けて、ゆっくりと瞼を閉じた。





子供の夢



(後日)
(よみょやおにーしゃ、みちぇー!)
(服着なさい!)

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