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『日向くん!覚悟!!』



探索休憩も兼ねて、日向が浜辺をただのんびりと歩いている最中、どすっと、突然襲いかかってきた鈍い音と腹部への衝撃に、「ぐはっ」と日向の口からは、空気と一緒に情けない声が漏れていた。しかし、その痛みに打ち拉がれる間も無く、お腹あたりに感じた痛みと、寸前に聞こえた苗字の言葉を思い出して、日向はさっと青ざめていた



「苗字…?な、なんで…」



衝撃源となっている胸元を見下ろし、顔を押し付けている人物を見た。顔は見れないが、髪や服装を見る限り、やっぱり苗字で間違いなかった。



「どうして…」



コロシアイ生活で正気で居られなくなってしまったのか、それとも、自分が何かしてしまったのか、走馬灯のように昨日までの日々が思い出され、記憶を辿る。けれど、特に苗字との目立った諍いがあった心当たりは一つもなかった。



「(むしろ…俺は、苗字の事が……)」



密かに芽生えていた恋心を伝える間もなく、恋心を芽生えた相手の手で終わらせられようとしていた。けれど、咄嗟に苗字を突き飛ばそうと伸ばしかけた日向の手は、途中で空を握って、そのまま拳を下ろした



「なあ、苗字…」



せめて、こうなってしまった理由だけでも知りたかった。傷つけたのなら謝りたかった。そして、押しつけがましく思われるかもしれないけれど、自分の気持ちも……


……と、そこまで思いつめて、ある違和感に気付いた



「…って、あ、あれ?」



最初の衝撃こそ凄かったものの、落ち着いてみればそれ以降は、刺されたような激痛も無ければ、毒針でも刺されたかのような刺激も高熱もなかった。



「苗字…?」



不思議に思ってもう一度呼びかけてみれば、ぴったりとくっついている苗字の体が、ふるふると、小刻みに震えていることを感じ取った



「お、おーい…苗字?……苗字っ?!」



様子のおかしい苗字に、「まさか」と嫌な予感がして、力強く日向が苗字の両肩を押せば、「ぷはぁっ」と息をしていなかったらしい苗字が、荒く呼吸を繰り返していた



「だ、大丈夫…か?」


『う、うん。大丈夫…』



肩で息をする苗字に、一先ず苗字にも外傷がないことを確認してから日向はほっと息をつくと、苗字の呼吸が落ち着くのを見計らってから、疑問をぶつけた



「それで…苗字は何がしたかったんだ?」


『え?…ああ、えっとね…――――』





――

―――

――――――



小「自分の気持ちを伝える方法?」

 『うん…』

西「やーっと決心ついたの?もー、苗字おねぇトロすぎー。くたびれちゃったよ」

 『え?ご、ごめん?』

罪「で、でもっ、いい事だと思いますよ。気持ちを伝えるのは―――」

日「うるっさいなー、ゲロ豚の分際で意見言わないでくれるー?」

罪「ふぇ…ご、ごめんなさああい!!」

小「ま、まあまあ…実際伝えるのは大事だよ。…でも、私たちに何を相談したいの?」

 『その…どうやった方が一番効果的なのかなーって…』

澪「そりゃもっちろん!!「どーん!」と出会い頭に気持ちを伝えて!すかさず、あっつぅーいベーゼを…」

 『べーぜ??』

澪「やだなー、キスっすよキッス!苗字ちゃんからのキッスなら、そりゃもう一発でメロメロっすよ!!」

 『キッ…?!』

小「こ、こーら!いくらなんでもいきなりすぎでしょ?!」

辺「うむ…私もそう思うぞ。そういうことを簡単にするのは、流石に不埒じゃないか?」

七「でも、はっきりした方はいいかも。難しいと思うけど…遠慮したり、回りくどいと、ちゃんと気持ちが伝わり辛い…と思うよ?」

終「だな!まどろっこしーのは嫌いだ!!」

ソ「ですが!殿方へのアプローチは押しも大事です!」

澪「やっぱり、ちゅーっすよ、ちゅー!!」

小「…えーっと、みんなの意見が点でバラバラだけど、参考になりそう?」

 『う、うん!もっといろいろ、意見聞かせて!!』



――――――

―――

――



『…だから、「分かりやすく、ふしだらじゃない程度に、大胆に、過激に、どーん!と強く!!」…って言われたから』


「…それで、さっきのハグだったのか」


『うん!ちなみに、さっきの奇襲方法は、終里ちゃん直伝だよ!』


「それは…容赦ないな」


苗字の奇襲現場から少し場所を変えて、浜辺のど真ん中からヤシの木の木陰に移動して、二人座って苗字から事の顛末を話していたが、話を聞くにつれて、苗字の話に出てきた女子メンバー達の意見達に、日向は密かに痛みだした頭を押さえていた



『でもやっぱり、付け焼き刃じゃ上手くいかないね…』


「い、いや…成功しなくて正解だったんじゃないか?」



とりあえず、心の中で苗字の意図とは違う理由で死ななくてよかったと、再度日向がほっと息をついていると、じっと様子を窺っていた苗字まで溜め息をついていた



『やっぱり、上手くいかないな…』


「苗字…?」


『まだ…まだ日向くんに伝えきれてない。本当は…もっと苦しいの』



日々募っていった思いは、誰かに相談してでも伝えたかった想いは、いつの間にか言葉だけで伝えるには足りなくなっていた。



『それに、さっきのぎゅーってした時よりも、今は…ずっとずっと苦しい』


「それは…苦しいだけ、なのか?」


『……ううん。だけど、やっぱり苦しいよ』



さっきの行為で少しは得られると持っていた満足感や、一時的な幸せはあったものの、またそれ以上に苦しさが増したようだった。言葉や表現の仕方がもっと分かっていればよかったのか、だとしたらどうやったら上手に伝えれるのか、ぐるぐると苗字が思考を巡らせていると、傍で同じく何かを考えだしていた日向が、徐に口を開いていた



「なあ、苗字。ちょっといいか?」


『んー…?』


「その…い、嫌だったら言ってくれよ?!」



何故か不自然に上擦り声な日向に「何が?」と苗字が聞くよりも先に、ふわり、と、苗字は横に座っていた日向に抱きしめられていた。



「…どうだ?苦しく、ないか?」


『……うん。苦しくはないよ?』


「そっか。…さっきの苗字の気持ちは嬉しかったけど、きつく一気にしなくても、これだけでも、ゆっくり時間をかければ、少しずつ、でも、確実に気持ちは伝わっていくんじゃないか?」



ただ囲うように。引き寄せるように。少しでも苗字が振り払えば簡単に引き離せる腕の輪。けれども、圧迫感がないだけで、おずおずと名前が腕を日向の背に回してくっつけば、直ぐ傍で感じる日向の体温は日向の言う通りさっきと変わらなくて、苗字が顔を少し横に向ければ、奥で響く日向の少しだけ早い心音が聞こえていた。



『……動いてる』


「いや、止まってたら困るから…」


『あ、なんか今の私の台詞。妊婦さんのお父さんの台詞みたい』


「だったら普通、俺と苗字が立場逆じゃないか?」



「発見」と言わんばかりに嬉々としていう苗字に、日向は思わずツッコミを入れてしまったが、それにキョトリと目を瞬かせて日向を見る苗字に、日向は自分の発言をもう一度脳内で再生して、はっと我に返っていた



「い、いや!あの、ふ、深い意味なんてなくて!!」


『それは…』



ぽつりと零した苗字の言葉に、何故か必死に弁解しようとした日向の口は途中で空気を飲み込み、恐る恐るその続きを待った。そんな日向に対して、苗字は少しだけはにかみながら、さっき自分からしたハグとは違い、優しく、日向の背に回した手に力を込めていた



『日向くんとなら…。きっと、幸せそうだね』



きっと、深い意味なんてないんだ。そう頭では分かっていても、受け入れられた事には変わりなくて、気づけば日向は、きつく、苗字の事を抱きしめていた。



『…日向くん、さっきの反論は?』


「ご、ごめん…」



苗字の言葉に日向はすぐに謝った。けれども、日向の腕の力が弱まる事がなかったのは、腕の中で名前が笑っているのを気づいていたからだった。



『えへへ…日向くん、大好きだよ』


「俺も…苗字が好きだ」



ゆっくりと顔を近づける日向に、苗字は反射的にキュッと目と瞑った。けれど、「あっ」と近くで聞こえた日向の声に、不思議そうに苗字は目を開けば、寸前に迫った日向の顔は、困ったように視線をさ迷わせていた。



「その…まだ今の段階でキスするのって……やっぱだめなのか?」



昨日の話を思い出してくれたのか、律儀に聞いて待ってくれている日向に、可笑しさと愛しさに苗字は笑みを零していた。



『私からじゃなくて、日向くんからしてくれるなら…関係ないよ』



腕の中で悪戯っ子のように笑う苗字に、つられて日向も目を細めて笑うと、今度こそ、苗字の唇に口づけを落としていた。

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