五万打小説 | ナノ
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青から貰う愛情表現

 朝目が覚めたらまず、廃校で拾われた鏡の怪異きりしま?がする事は自分を拾った張本人の部屋へ行き眠っているであろう彼女を起こす事から始まっている。元々は一緒の部屋に住んでいたのだが、男女が一つの部屋で暮らすのはあってはならないときりしま?が模倣した張本人斬島が申し出を立て鏡の怪異は男性獄卒が住む部屋の廊下に設置されることになった。拾い主が大丈夫、等とフォローを入れていたが俄然として聞き入れることはせず半ば無理矢理連れて来られたようなものだ。不満は多少なりともある、だがやろうと思えば鏡を経由してどこへでも行けるのであまり騒ぐ事もせずにきりしま?は今日も今日とて彼女の部屋に設置されている彼が居る間は使われることの無かった姿見から出てきて、寝息を立てている拾い主の顔を覗きこんだ。

「……名前、もう八時だ」
「んん……」
「九時から仕事が入っているんだろ? そろそろ起きないと遅刻してしまうぞ」
「……ん」
「名前」
 
 耳元で優しく囁くように言うものの夢の中に入り言葉にならない声を吐き出す名前を見て少しだけため息を零し彼女の額を流れる髪を梳いた。任務がある事事態は昨日彼女から聞いていた、目覚まし時計一つあれば一応は起きることが出来るが如何せん寝起きは意識がおぼろげな彼女が心配なきりしま?は自主的に彼女を起こしに行っている。しかしこのままだと本当に遅刻してしまう、きりしま?はあどけない表情で寝こけている名前の唇を青色の双眸に入れ、ゆっくりと口元に弧を描くとそのまま吸い寄せられるように彼女の顔に自分の顔を近づけた。

「……おはようのキス、しちゃうぞ」

 返事が無い。無言は了承、一気に気分が高揚したきりしま?は目を閉じ眠っている名前の頬に手を当ててそのまま唇を当てようとした瞬間、後ろから何か殺気だったものを感じ取った。

「……何をしている、貴様」
「!」

 地を這うほどの低い声がきりしま?の鼓膜を揺らす、気配など全く感じ取れなかったにも関わらず確かに誰かが後ろに居る。ゆっくりと後ろを振り返ればそこにはカナキリを向け殺意丸出しで自分と瓜二つの姿を青く光る眼光で睨みつける、彼の模倣元斬島が立っていた。
 自分でも分かるくらい身体が冷たくなるのを感じた、自分は怪異だ、他の怪談や怪異に比べれば力はある方だが鬼であり獄卒としてこの世を生きている彼らが相手となるとさすがに上級の怪談でも勝てる訳が無い。そこらへんはしっかりと弁えている、が、あくまで身体的な問題だ、精神面中身では彼女に拾われ与えられた情報や世の理を教えられたきりしま?も今は普通でいれば彼らと同じ一人の者として扱われている。

「俺は名前におはようのキスをしようと思っていたところだ」
「ふざけるな。なぜそんな事をする必要がある」
「起きない姫は王子のキスで目覚めるのが普通だろう?」
「お前が王子なわけあるか」
「さあ? そう言い切れるかな?」
「……」

 斬島の額に血管が浮き出た。普段は感情と表情が伴わず無表情鉄面皮な斬島の顔をここまで歪ませる事が出来るのは恐らくこの怪異だけであろう。言わなくとも分かるがこの二人は今彼らが居る空間で寝ている名前を巡る恋敵同士であり会えば必ず口論やらめんどくさいいざこざへと発展する。想われている名前自身も何となく認識はしておりなるべく二人を会わせないように努力はしているが、まさか自分を恋愛感情として好いているなんて思っておらず自分に懐く怪談から斬島が護ろうとしてくれているのだ、という認識しか持っていない。

「それより、何でお前が名前の部屋に来ているんだ」
「任務について緊急の連絡が入ったから来ただけだ。お前には関係ない」
「はっ、ご苦労なこった。俺は名前を良く起こしに行っているから今日もそのつもりだ。邪魔するな」
「黙れ。叩き壊すぞ」
「そんな事をしたら誰が名前を護るんだ」
「お前何かいなくとも俺が名前を護る」
「いや、お前は俺よりも強い事だけは確かだからな、名前は俺に任せてお前は戦ってろ」
「どうやらお前とは一度きっかり話し合わないといけないようだな」
「望むところだ。なんなら勝負ではっきりさせるか」
「(……なんだコレ)」

 もはや名前を起こす事何て忘れきっている二人はここがどこだかなんて気にせずに睨み合い子どものように口喧嘩をする。一方忘れ去られていた名前は既に起きており、その銀鼠の瞳を薄暗い部屋の中でゆっくり開けた瞬間目の前には同じ姿をした二人組みが言い合いをしている事実を受け入れられず思わずもう一度目を閉じたが確かに鼓膜を揺るがす声は夢の中とは到底思えず、このまま寝たフリを通していたいがそうすると任務に遅れてしまうため仕方無しに寝起きで重たい身体を起こして目を擦る。
 その起き上がった姿を見逃さなかった二人は息を合わせ言い合いを止めて名前に近寄った。

「おはよう名前、中々起きなくて心配したぞ。これも全てコイツのせいだからな」
「黙れ偽者。……おはよう名前、任務についての連絡があるから知らせに来たぞ」
「お、はようございます。……あの、取り合えず着替えたいのですけど、」
「……ああさすがに寝巻きのままだとあれだもんな。行くぞ偽者」
「俺はてつだ、」
「黙れ。大人しく部屋を出ろ」

 さすが元が真面目な斬島も察したのか着替えを手伝おうとしているきりしま?の首根っこを掴んで部屋へと引きずり出した。しかし色々と心臓に悪い、ある程度の姿形まで成長した身でもあるし朝っぱら女子の部屋の前を通る斬島にも申し訳ないし、一度話し合ったほうが良いのだろうか。自らの長い髪を軽く纏め上げ顔を洗うべく名前は自室に備え付けられた脱衣所と一緒に設置されている洗面所へと続く扉へ手を伸ばした。
 

 顔を洗い歯を磨き普段の仕事着に身を包み部屋を出れば同じ姿形をしている二人は距離を離れ互いに無表情で突っ立っている。仲良くしろ、とも言えずに苦笑を零しながらも名前は「終わりました」と言うとそれに気付いた二人だが先に斬島が名前の前に立ち持っていた書類を手渡した。

「これって……」
「どうやら任務自体が無しになったようだ、向こうの人員が無事足りたらしい」
「なるほど……、ご連絡有難う御座いました。これ、渡されたの何時なんですか?」
「昨晩だ、と言っても深夜帯でな、偶然起きていた肋角さんに渡され深夜にお前の部屋を訪ねるわけにもいかないから朝来たんだ」
「うわああ本当に有難う御座います! お手数お掛けしました」
「朝からこうしてお前に会えるのだから気にしていない」
「……、」
「名前! だったら今日は一日俺と一緒にいよう」
「うわあ!?」

 さらりと言い放った斬島の言葉に顔に熱が帯び身体が熱くなったが、その瞬間二人が会話している事が気に入らなかったきりしま?は自らの腕を精一杯伸ばし名前に抱き付いた。いきなりの抱擁に驚き身体を跳ねさせれば目の前に居た斬島の表情が恐ろしいほどに歪んだ。

「名前から離れろ」
「俺は俺がしたい事をするまでだ」
「……やはり一度話し合ったほうが良いな」
「ああそうだな、お前も今日は暇なんだろう? だったら今日、勝負でもするか」
「受けて立とう」
「(なにこれどういうこと)」

 どうやら名前が眠りの世界に入っている時に二人の間で何かあったらしい。淡々と話しが進んでいく中きりしま?の腕の中で名前はただ銀鼠の瞳を丸くするしかなかった。


「で、飲み比べ対決になったの?」
「いやなんかとんとん拍子で話が進んでいき何がなんだかさっぱり」
「勝負する場所を決めている時にお前が通り掛ったからな、木舌と言えば酒だからな」
「手っ取り早いのは飲み対決だし、前読んだ本にもそういった勝負があったぞ。きのした、酒持ってこい」
「え、そのお酒って俺持ち?」
「当たり前だろう」
「なに寝惚けた事を言っているんだ?」
「ちょっと名前このダブル斬島酷くない!?」
「……」
「うわ凄くだるそうな顔!」
「この姉さんから貰った大吟醸譲りますから。こうなったら止められないんです」
「……大変だね、名前も」

 斬島ときりしま?が争う理由の張本人がこんなんで良いのだろうか、まあ言い方変えれば巻き込まれているという言い方も合っているだろうけれど。困惑しきった表情の妹文の頭を軽く叩いて、この青目の対決に巻き込まれた木舌は、「(楽しそうだなぁ)」と少しだけ楽しそうに口角を吊り上げ酒を取りに自室へと行った。
 こんな真昼間から食堂で飲む訳にはいかないので対決場所は斬島の部屋になった。睨み合う形で座り込む斬島ときりしま?、そしてそれを遠くから見ている名前と木舌。二人の間には酒瓶が数十本佇んでいる、自分が飲む量を含めて持ってきたらしい、幾らなんでも多いのでは無いのだろうかと名前は訝しげに酒瓶を睨みつける。

「時間は無制限、どちらかが酔い潰れるまでの勝負だ」
「ああ、負けた方が名前に干渉しない」
「……」
「なんか漫画みたいだね」
「(人事だと思って……)……よーい、始め」

 全てを諦めきったような表情で名前が言葉を発すれば、コップに注がれた酒を二人は一気に仰いだ。

「名前は、愛されてるね」
「喜ばしいことですけど、もう少し穏便にしてくれれば」
「まあ名前がはっきりしないのも問題だと思うけど?」
「……、」
「本当は気付いてるんでしょ、けど踏ん切りが付かなくてずっとこのまま平行線を辿ってる」
「……なんで」
「ずっと一緒に過ごしていた家族だもん、それくらい分かるよ」

 気付いていない、違う、避けていた事実を改めて指摘され名前は緩めていた表情菌を硬くし言葉を失った。そこまで鈍くない、二人から成される会話から何となく向けられている感情には気付いていた、それに自分も想いは決めている。けれどそれを言ったらこれから先片方との関係性の破綻が怖くて言えなかった、そう、逃げ続けていたのだ。恋慕の情ははっきりしているのに、それを言った時、どうなってしまうのかが怖いのだ。情けない、情けなさ過ぎて笑ってしまう。

「名前?」
「……自分が幸せになれば誰かが不幸になる。逆も然り……、腹括ります」
「うん。大丈夫だよ、これくらいで嫌いになる人なんて居ないよ」
「このままにさせるなら、自分がはっきりしないといけませんね」
「……」

 何が正しいか何て分からないし、正解なんて無い。鬼になり感情が希薄になった今でもこんな気持ちが芽生えるなんて思ってもいなかった、恋愛なんてめんどくさい。けれど考えさせられるものだと、木舌から勧められコップに入った甘い果実酒を口に含んで目を閉じた。

「……お前、中々やるな」
「そっちこそ……鬼は強いと聞くがやはりそうなのか」
「怪異はどうなんだ」
「……まちまちだ」

 酒も入っているためか、二人から刺々しい雰囲気は感じられなかった。このまま、どう話を切れば良いのか迷いながらも名前は近くにあった酒瓶に手を伸ばしコップに注いだ。

「木舌、次の酒を寄越せ」
「まだ飲める余裕があるのか。どこまで持つかな」
「偽者如きが、絶対に負けない」
「ああもうほら、お酒は楽しんで飲まなきゃ」
「きのした、おかわり」
「あれ、もう飲んだの!?」
「……! 俺もおかわりだ」
「ああもうもっと味わって飲んでよね〜!」



「……」
「起きたか、名前」

 ぼんやりと霞む意識の中で、ゆっくりと目を開けばそこには皹が入っていない端正な青い目と持つ顔が映りこみ少しだけ目を見開いた。皹が無いということは斬島だろう、身体に触れる柔らかい感触が何か気になり少しだけ身を捩ればすぐに斬島が普段使っている布団だと悟って慌てて起き上がる。

「す、すみません自分寝てしまって」
「気にするな。傍にあった木舌が飲んでいた酒を誤飲して酔い潰れたんだ」
「……面目ないです」

 少しだけ酔いが残っているのか、視界がくらくらするが一度目を擦り辺りを見回せば其処には既に酔い潰れて寝こけている木舌ときりしま?の姿が見えた。勝負、どうなったんだろうか。ぼんやりと床で倒れている二人を見つめていると、少しだけ顔を潜めた斬島が名前の髪を梳いて言葉を吐き出した。

「すまなかった」
「え?」
「勝負の賭け事にお前を使ってしまったことだ。本当はこんな事をしても意味が無い事なんて分かりきっているのに、お前とアイツを見ていると我を忘れてしまう」
「……斬島先輩」
「あいつとも話し合った、こんな事をしても意味が無いと。お前の意見を聞かず勝手に言い争いをしてお前を困らせている事も。……今後はこんな事は無いようにする」

 苦渋に満ちた言葉が吐き出される度に心臓が痛く締め付けられる。この二人は、どこまでも自分のこと想ってくれているのだ、申し訳なさや有り難さ、様々な気持ちが鬩ぎあい名前は唇を噛み締めて憂いに沈んだ斬島の頬を指で撫で付ける。

「……名前?」
「有難う御座います。私も、気持ちはついているのにうじうじしていました、……漸く言える決心が付きました」
「……」

 その言葉だけで何かを察した斬島は、唇を紡ぎ揺ぎ無い青色の瞳をこちらへと向けた。どこまでも自分のことを考えてくれる人、ちょっと困ってしまう事もあったけれどそれは恋愛感情というものを知らない自分達だから当たり前だ。二人の者から想われることも、未経験だからこそ恋い慕う相手が居るにも関わらず目を逸らしていた。けれど、そんな事をしても意味が無い、銀鼠を吊り上げ名前は斬島の顔を見つめ柔らかく微笑んだ。

「斬島先輩、好きです。……ずっと言えず、黙っていてすみませんでした」
「……本当か」
「きりしまくんが好きって言った方が良かったですか?」
「そんな訳あるか。……名前、好きだ」
「はい。私も、好きです」

 いつから、と聞かれても分からない。ただきりしま?とは違って何気なく放たれた言葉も仕草も世辞だと分かっていても嬉しく心が温かくなる。無論きりしま?と居て話しても楽しい、けれども斬島とは少しだけ違っている事くらいは気付いていた。僅かに和らいだ青色の瞳を目に入れていればするりと髪を梳かれ、そのまま斬島の身体が名前に寄せられる。

「お前のその言葉を、叶わないと思いながらもどこかで待っていた」
「……うん」
「まさか今、そんな願望がこうして叶うなんてな」
「……うん」
「名前、有難う」
「こちらこそ、有難う。……っ、」

 斬島の背中越しに、寝ていたはずのきりしま?と目が合った時は身体が硬直した。けれどもきりしま?は目を細め緩やかに笑みを浮かべると「やっとだな」と口だけを動かしてそのまま背中を向けてしまった。その意味が、一瞬理解出来なかったけれどもすぐにきりしま?は自分の想いに気付いていたのだと悟った。考えればそうだ、もし自分が仮にきりしま?を恋い慕っているならば彼はすぐにでも行動に移し想いを伝えていただろう。もしかしたら中々お互いの気持ちを言わない自分達に痺れを切らしてこんな事をしたのかもしれない、後で何かお礼をしなくては。そんな事を考えながらゆっくりと斬島の背中に手を回した。



「きりしま?ももしかして気付いてた?」
「何となくだがな、アイツの気持ちはは言わずもがな分かっていたが名前がアイツを見る時の目とかが微妙に他の奴等と違うのはすぐ気付いたぞ。いや、俺を拾ってくるとき辺りからか?」
「なーんだ、じゃあ最初から知ってたんだ」
「やっとくっ付いたな。けど俺も名前の事は好きだから諦めないけど」
「……程ほどにね」








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抹茶クリーム様リクエスト、斬島ときりしま?で夢主の取り合いでした。
本気で悩みました、ええもう本当に頭を抱えましたよ、落ちです!もうどっちも好きな故考えに考え抜いた結果やはり主人公だな、と思って斬島落ちに仕立てきりしま?はある種キューピット役に回って貰いました。しかし取り合いからの落ち、というのは初めてだったので夢主の感情描写は難しかったです。けれどとても楽しかったです、多分今後も取り合いは続くと思います。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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