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「#幼馴染」のBL小説を読む
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両者お互い首っ丈

「名前〜、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」

 下に立っている木舌先輩から分厚い本を受け取り、私はそのまま空っぽの本棚に納めていく。任務、というよりかは雑用なのだが館にある図書館の司書さんのお願いで偶然一緒に居た私と木舌先輩は本の整理を手伝う事になったのだ。
 館の図書館には様々な年代別やジャンル別の本がのべ数千冊以上備わっており現世などの雑誌も取り扱っている、そのため結構ここを利用する人は多く始末書を纏めてる時に活用している人も少なくは無い。大きくそびえ立つ本棚はさすがに百八十八センチの木舌先輩でも届くはず無く、かと言って彼に脚立に乗って貰った本を運ぶのが大変、と司書さんの考慮で私が脚立に乗ることになった。

「よっと……結構な量ありますね」
「まあここ膨大な量の古書とかあるしね〜」

 再び木舌先輩から本を受け取って本棚に入れていく、と同時に今手にしているのでスペースが埋まってしまった。仕方が無い、下の方はもう入れてしまっているので一度脚立から降りて移動するしかない、下で脚立を支えている木舌先輩の方を向いて私はなるべく大きな声を出さずに言葉を発する。

「木舌先輩、ここ一杯になったので次移動します」
「了解。じゃあ脚立移動させようか」
「はい、……あれ」

 立ち上がって階段を降りようとするが、何かが引っ掛かって動けない。よくよく見てみれば足場部分に自分の制服のズボンが引っ掛かっていた、成る程これが挟まって動けないのか、脚立を跨いでいるのでこれくらいなら動かずに直すことが出来るはず。私は身体を挟まっている部分の方に傾けて、ズボンを引っ張ろうと体制を落とした瞬間、

「木舌、名前、助っ人が」
「うわあ!?」
「えっ」

 別の場所で本の整理をしていた司書さんが木舌先輩の肩を叩いた瞬間木舌先輩は行き成りの衝撃に驚いたのか一際大きな声を上げて脚立を揺らした。行き成り揺らされるものだから傾けていた私の身体はその衝撃と同時に宙へ放り出された、同時に下から何か声が聞こえる、本棚が大きい分脚立も大分高く伸ばしていたから床へ落ちたら大怪我若しくは死ぬだろう。

「(あ)」

 全てがスローモーションのように流れる中で私は無意識にぎゅっと目を瞑った。死んだらごめんなさい、ぽつりと心の中で、私は呟いた。

「名前!」
「っ……!」

 柔らかい感触が私を包み込み、そのまま多少なりとも身体に何らかの衝撃が走った。けれどもあの高さから落ちた時の痛みとは全く想定内で痛みに疎い私にとっては微弱な衝撃にしか感じられない、どさりと何かが落ちる音が響いて上からは司書さんの慌てたような声が聞こえてくる。

「いてて……大丈夫? 名前」
「あ、木舌先輩!?」
「間に合って良かった〜、けどバランス崩して倒れちゃった」

 落ちた私を抱き止めようとして、その衝撃でバランスを崩し床に倒れた木舌先輩の上に堂々と乗っている私。痛そうに頭を掻く木舌先輩の表情は笑っていたが、私は顔から血の気が一気に引いていき起き上がる事も忘れて言葉を発する。

「す、すみません! 本当にすみません!」
「いやいや大丈夫だよ〜、怪我無くて良かったよ。それより、痛いところとか本当に大丈夫?」
「はい」

 木舌先輩の大きな手が私の頭と肩に触れて、木舌先輩が起き上がる。向かい合う形で見つめあいながらも木舌先輩は私の頭や顔に触れながらじろじろと見つめてくる、……なんだろう、じっと見つめられると落ち着かない。

「自分は大丈夫ですよ。いや、自分よりも木舌先輩の方が心配なんですけど」
「ああさっきも言ったけどおれは平気、いやあけど間に合って良かったぁ」
「有難う御座います。……助かりました」
「よしよし、可愛い妹に怪我なんてさせたくないしね」

 頬を撫でられ、頭も撫でられる。少々甘いところがあるような気がするけれどもそこを含めても木舌先輩らしく私は目を細めもう一度「有難う御座います」とだけ言った。それに答えるかのように、彼の翡翠色の目も美しく細められる。

「……えっと、ごめんね二人共」
「吃驚しましたよ〜」
「ほんとごめん、タイミング考えてなかった」

 申し訳無さそうにしゅんとする司書さんに木舌先輩もおどけたように言葉を発すれば司書さんは両手を合わせ謝罪をする。まあ、確かに吃驚したけれどもお互い大怪我しなくて良かった。

「いえお気になさらずに、……それで、何を言おうとしたんですか?」
「ああそうだ、助っ人……あ」
「……二人共怪我無くて良かったね」
「……あら〜」
「佐、疫……」

 ひくりと、木舌先輩の顔が引き攣るのが目に映った。それにつられて私も思わず身体が固まってしまう。司書さんの後ろに立っているのは、見ただけで怒りというか誰も寄せつけさせない、もはやオーラだけで人を殺せそうなほどの威力を身体から放っている恋人の佐疫が立っていた。
 笑顔で吐き出された言葉は、傍から聞いたら心配してくれているように聞こえているが不機嫌オーラなのは何となく感じ取れる。だって普段のんびりしている司書さんも若干怯えてるもん。

「え、えっとー……佐疫くん?」
「木舌」
「はい」
「名前助けてくれて、有難うね。しっかり、受け止めてくれて」
「……あはは」

 木舌先輩震えてる、司書さんも震えている。私も何だか佐疫から放たれるオーラに恐怖心しかなく思わず顔を逸らせば外套を揺らしながら佐疫がこちらへと近付いてくる。あれ、なんだろう、佐疫が近付くたびに冷や汗が出てきてまるで敵に囲まれた時のようだ。
 座ったままなのが気になったのか佐疫は先ほどから変わらない笑顔を貼り付けて私の腕を掴み立ち上がらせた。木舌先輩は放置されてる。

「名前、俺と一緒にちょっと来てくれないかな?」
「いやあの本の整理……」
「あとは木舌がやってくれるよね?」
「え?」
「やってくれるよね?」
「もちろん、全部おれがやっておくよ〜」

 だから早く佐疫連れて行って。佐疫が背中を向けて木舌先輩と話しているから良く分からないけれども木舌先輩の顔を見ていると結構やばい事は確かだ、腕を掴んでいる腕も妙に力が入っていて変に彼を刺激したら折られそうな気がする。
 言葉が思い浮かばず私は「さ、佐疫行こう」と彼の手を軽く引いて言えば佐疫は一度こちらを振り返り怪しいくらいの笑顔を向けて、「そうだね」と一言だけ言い放った。

「それじゃ、用事思い出したのですみません」
「き、気にしないで……ごゆっくり」
「またね……名前」
「おお疲れ様でした」

 あああこれ後で差し入れ持っていかなきゃ。半ば引き摺られるかのように私の腕を引っ張る佐疫に続いて私も小走りで彼の後を追っていく。



「名前」
「っ、」

 お互い無言で、連れて来られたのは佐疫の部屋だった。
部屋に入った瞬間壁に押し付けられて逃がさないとでも言うかのように足の間に佐疫の片足が割り込み、両手を押さえつけられる。これ、現世で言う壁ドンというのは聞いた事があるけれども甘い雰囲気なんて全く無く目の前の水色は怒りを物語っているのは確かだ。

「さ、佐疫」
「俺さ、木舌が名前を受け止める辺りから全部見てたんだ」
「え……」
「随分仲が良さそうだったね、見詰め合ったりなんかしちゃって……、密着してることにも慌てふためかない……正直苛立った」

 歪に歪んだ水色と、苦渋に満ちた顔で吐き出された言葉に私は何て言葉を返せば良いのか分からなくなり思わず俯いた。確かに考えが甘かった、木舌先輩は同僚でもあるけれども兄のように慕っているところもある、だからこそ変な許容範囲があやふやなところがあるかも知れない。軽率な自分の行動で佐疫を傷つけてしまったと考えると悔しくなって、唇を噛み締めた。

「……名前? なんで黙ってるの」
「ご、ごめんなさ、」
「俺は謝罪の言葉なんかいらない」
「え、っ!?」

 押さえつけられた片手で解放され顎を持ち上げられたかと思ったら佐疫の唇が私の唇に喰らい付いた。壁に強く押し付けられ逃げ場の無い私に容赦なく佐疫はキツく閉ざしていた私の唇をこじ開け普段の佐疫からは考えられないほど激しい口付けが私を襲う。

「ん、ぅっ……!」
「っ、……」
「名前、」

 舌を執拗に絡め取られ私が苦手な場所である上唇や下唇の裏も佐疫の熱い舌がちろりと這っていき足が面白いくらいに震える。支えが欲しくて私は無意識に解放されている手で佐疫の外套を掴めば佐疫は驚きで水色の目を見開いたが直ぐにそんな事気にせずに私の口内を掻き乱していく。

「はっ、あ……ん!?」
「力、もう抜けちゃった?」
「あっ、ま、待って、んっ……!」

 口内を舐られ、佐疫の細い指が私の耳に触れた。すると先ほどからぴりぴりと流れていた電流が一気に強くなったような気がして私の身体は大きく跳ねる、その瞬間、私は耳が弱い事を彼に吐露してしまった事を後悔した。否、吐露しなくてもいつかはバレそうな気がしていたが。先ほどとは全く違う反応を見せたからか佐疫は少しだけ嬉しそうに目を細めると私の耳元で艶っぽく囁いた。

「はっ、……ん、やっ……!」
「……俺のキスと、こうして耳攻められるのどっちが好き?」
「あっ、ぅっ……」

 指が耳朶を擦り、反対側の耳からは佐疫の低く色っぽい声が鼓膜を揺らしてくる。今だ片手は押さえつけられたままだがいつの間にか佐疫の指が私の指に絡まっており、快感を押し付ける場所が無い私は必死に絡まれた指に力をこめて、外套を破かんばかりに握り締める。

「ねえ、どっち?」
「っう、さ、えき……」
「なあに?」

 ずるい、普段は何も言わずにしてくれるのに。既に力の入りきらない足に力を入れながら生理的に零れた涙で佐疫を見つめるも、相も変わらず彼はそれ以上の言葉を吐き出す気配が無く、ただ無慈悲に私の耳を弄るだけだ。

「さえ、きの……っ、ひ!?」
「うん。……俺が、どうしたの?」
「あっ、っ!」

 言葉を出す前にフッと耳に息が吹きかけられ私の身体の力は完全に抜けた。地面に座り込むかと思ったがそれは私の足の間に挟まっていた佐疫の足に遮られ、片足に跨る形で私は荒い呼吸を整える。が、それも束の間、佐疫の足が私の中心部を容赦なく膝で押し付ける。

「ま、待って、んんっ……!」
「待たない」
「ひ、あっ……!」

 ぐりと容赦なくそこを押し付けられて、私の身体が有り得ないくらい熱くなる。下腹部に感じる熱も、額から流れる汗も、声も自分のでは無いみたいで頭が回らない。
 震える意識の中で佐疫の顔を見れば、先ほどとは全く別の顰め面で、彼の唇から言葉が零れだした。

「……名前と木舌を見て、俺凄く嫉妬した」
「え」

 切なげに洩らされた言葉はしっかりと私の耳に届き、顔を上げようと思った瞬間、苦しげに表情を歪ませた佐疫と目が合った。
 嫉妬した、というのは何となく分かっていたがまさかここまでとは、私は漸く力の入るようになった足で体重を支え、外套を握り締めていた手を佐疫の頬に持っていき彼の輪郭を撫でるとそのまま佐疫の唇に自分の唇を重ねた。

「名前……?」
「私は、佐疫しか見てないよ……こうして触れる度にドキドキするのは佐疫だけだもん……」
「……」
「あの、だから……私が好きなのは、佐疫だけ、あと……み、耳よりもキ、キスの方が好き……」
「……本当に、ずるいよ名前は」
「ん、む」

 絡められた手はずっと壁に縫い付けられたままだけど、キスが降り注ぐ。そのまま唇をゆっくり開けばさっきよりも優しく口内を舐られる。好き、と言ったのは良いけれどもやっぱり深いキスは慣れない、自分が自分じゃ無いみたいだ。


「ふ、あ……」
「名前、俺も名前が好きだよ。……怖い思いさせてごめんね」

 ゆっくり絡み合っていた舌が離れ、私の顎元を伝った唾液を拭いながら佐疫は申し訳無さそうに眉を下げて言葉を吐き出す。佐疫が謝る場面なんて無いのに、ああそこをひっくるめても私は佐疫の事が大好きなんだ、壁にあった手を離し、そのまま佐疫の身体に抱き付いて彼の胸板に顔を押し付ける。大好きな温度と匂い、他の誰にも変えられないこの安心感はきっと佐疫でしか感じられない。

「名前?」
「私もごめん。……大好き」
「……、うん。有難う」
「ん。こちらこそ」
「……後で木舌にも謝っておかないと」
「あー……そうだね」
「けど、もう少しだけこのままで居させて」

 背中に回る腕と、甘えるように首筋に顔を埋める佐疫。その仕草が堪らなく愛おしく私は彼の髪の毛を優しく梳いて背中に回していた腕に力をこめた。








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カル様リクエスト、木舌に嫉妬した佐疫と微裏でした。
佐疫が黒く出来たか不安でしたが…!いつもよりも意地悪なのは意識しました。正直嫉妬のシチュエーションには一番頭を使いました、結果身長差を利用して落ちた夢主を抱きとめるという方法を使いました。
佐疫くんはなんやかんや最後は夢主に優しそうですね、こうスイッチのオンオフがあるというか……そんなイメージです。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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