五万打小説 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



友愛親愛最愛

 めんどくさがり屋で面倒ごとをいかに上手く抜け出せるか、早く対処出来るかということにはこれでもかというほど素晴らしい頭脳を発揮する男、口癖は多分「だるい」「眠い」「めんどくさい」気だるげに開かれた橙は大抵閉じられて場所を弁えることなく寝ている、口は悪く相手によってはすぐに手が出る。ここまで来ればかなり横暴な奴だと思う、うん私自身がそうでしたし。そんな男に好きな人が出来て付き合うと過程しよう、そしたら多分物好きな女の子からのアプローチや愛情表現が強いと思われるけれども実際は違った。男の名前は田噛でありそんな男に惚れた物好きな女の子(先輩達にさいさん考え直せと言われ拒否した結果そんな風に呼ばれるようになった)とは私のことだ。

「……やばい、お腹いっぱいになってきた……」
「今日食欲ねぇな、具合悪いのか」
「そういうわけじゃないんだけど……ごめん、ちょっと時間掛かるかも」
「あ」
「ん……?」
「無理に食う必要ねーだろ。食ってやるから食わせろ」

 夕餉の混雑している食堂で食事を取っていた私達。キリカさんに作ってもらったご飯は普段と変わらない量なんだけれども今日の私はどうやら食欲が無いらしくあと一口二口くらいまで来た所で胃袋がいっぱいになりそうだった、けれども残すのは失礼だから時間を掛けてゆっくり食べようと思い田噛に了承を得ようとしたとき、既にご飯を食べ終わっている田噛が身体をこちらに向けて口を開いた。

「え、でも」
「腹いっぱいなんだろ。苦しそうに食ってる姿なんて見たくねーっつうの」

 さっさとしろ。と言いたげに再び開かれた口と、手元にあるほんの僅かなおかずを箸で掬い上げて、おそるおそる田噛の口元まで運んだ。すると田噛はそのおかずを一口で口の中に入れるとそのまま咀嚼をしながら私を見つめる。

「ごめん、有難う田噛」
「それより、ほんとに具合悪いならすぐ言えよ」
「うん。……まだ残ってるから、お願いして良い?」
「あ」
「……自分で食べてよ」
「お前が食わせてくんねーなら食べない」

 子どもか。思わずそんな言葉が出そうになったが、黙って口を紡ぐ。

「……相変わらずラブラブだねぇ」
「いやほんと見苦しいものすみません」
「ははっ、自分で言うの?」
「自分だったら多分舌打する勢いかと」
「名前、早くしろ」
「あーはいはい……」

 二人きりならまだ分かるけど人前であーんとかどこのバカップルだよ……、公衆の場であるにも関わらず甘えん坊のように私の方に寄って口を開ける田噛に残りのおかずを差し出して放り込む。最初の方でも言ったけれども、これがあの田噛だ。否、付き合う前の田噛だ。私と付き合うようになってから人が変わったように甘えん坊になったというか、好き好きオーラが凄いというか……。
目の前に座っている佐疫先輩が苦笑を零しているのを申し訳なく思うのと恥ずかしさで顔に熱が溜まりそうだ、というか火出そう。

「けど田噛も随分変わったよねー、ほんと名前が好きなんだね」
「……悪いかよ」
「ご、ご馳走様!」

 駄目だ恥ずかしい。見せ付けてる感に居たたまれなくなり空になった膳を持って返却口に向かおうとしたら田噛も同じように立ち上がって「じゃあな」と佐疫先輩に声を掛けた。佐疫先輩は食堂で待ち合わせをしているらしく、一緒に食堂は出ないので私も「おやすみなさい」と言うと笑顔で「おやすみ。色々ご馳走様」と言われて眩暈がした。なにこの羞恥プレイ。
 言葉が出なくて恥ずかしさで悶々としつつ膳を返して食堂を出ると、後ろに居たはずの田噛が隣に並んできてそのまま手袋をしていない指が私の指を絡め取った。信じられない、これが昔並んで歩いて待ってくれと言っても無視をしてさらに歩くスピードを速めていた男なのか? けれども嫌なわけではないからそのまま手に力を入れれば田噛は更に少しだけ強い力で私の手を握った。

「だりぃ……。今日泊まっていくだろ?」
「んー……私は明日休みだけど田噛仕事だよね?」
「部屋に帰す気ねぇけど」
「まさかの拒否権無しですか」

 なら最初から聞くなよと思いたいが言ったら言ったらで色々めんどくさそうなので大人しく田噛の部屋に付いて行く。あ、だけど泊まる予定無かったから必要なものそろえてない。

「あ、待って着替え持ってくる」
「俺の使えば良いだろ」
「いや、服は良いけど、……その、」
「あー……。どうせ付けないで寝るだろうからいらねぇだろ」
「馬鹿!」

 なに言ってんのコイツ!? 当たり前のように発せられた言葉に声が上ずる。ほんと、もうなんなの一体。頭が痛くなってきた。

「シャツは俺の着ろよ」
「良いの……?」
「荷物増えんの面倒だろ」

 そういうものかな。解散しようと思ったけれども田噛の無言の圧力で終始一緒の行動だった。先輩姉さん達に見られるの恥ずかしいから手を解こうにも一向に離してくれなかったし、子どもみたいなほんとに。
けれども嫌な気持ちにはならないし普通に嬉しいから私もあまり変なコトは言わないでおくけど、帰ってきたら姉さん達に冷やかされるのは確かだろう。纏めた荷物は田噛によって奪われ半ば急ぐ形で彼の住む部屋へと向かっていく。

「先風呂入るか?」
「いやここは部屋主からでしょ」
「お互い入ってねぇなら一緒に入るか」
「あれなんか話の流れおかしくない?」
「行くぞ」
「え、ちょ、待って……!」

 纏めた荷物はベッドに乱暴に放り出されて、私は田噛の手によって脱衣所へと連行される。待って待って待って! 一緒に入るってつまりは一緒に入るんだよね? あ、いや意味分からなくなって来た。さすがに一緒に入るっていうのは私の羞恥心の範囲を有に超えているので何とか阻止したい、じゃなきゃ死ぬ。

「ね、待ってここは個々に入ろうよ! 私食べたばっかりだし!」
「おら腕上げろ」
「話聞いて!」

 強情過ぎて尊敬する。というか何、いつの間にか制服の上着脱がれてるし有無を言わさずに中に着ていたシャツも脱がされた、なにこの追い剥ぎ、泣きたい。大声出してしまおうかと思ったけど何故だか妙に瞳を輝かせている田噛を見ていたら言葉に詰まった。なんでここで瞳を輝かせるのか私には全く持って理解出来ない。一緒のお風呂って男子にとっては憧れのものという話を聞いたことがあるけれどそうなのかな。悶々と考えているうちに服を脱がされて浴室に放り込まれる、あ、もう終わった。

「た、田噛……やっぱり恥ずかし、」
「腹括れ」
「(詰んだ)」



 普段とは違ってかなりの長湯になったがそれ相応に楽しめたのでまあ良いか。なんて濡れぼそった髪をタオルで乱雑に拭きながら田噛は息を吐いた。ベッドに寄り掛かる形で隣に座りドライヤーで髪を乾かしている名前に視線を向けるが彼女は自らの髪を乾かすことに夢中で田噛に気付く様子はない。風呂上りらしく頬は蒸気しており傍に居るだけで熱が伝わってくる、名前は田噛から借りたシャツとズボンに身を包み眠たいのか時折瞬きを数回繰り返してドライヤーを動かしていた。身長差もあり体格差も出ているため田噛のシャツは名前には大きく下手に動かすとすぐに襟元から肩が露出しそうになる。田噛が敢えて彼女に部屋着を持って来させなかったのはこれを見たかったからでもあるということは名前は知りもしないだろう。

「終わったー」
「髪なんて自然乾燥で良いだろ」
「次の日の寝癖が酷くなるの。田噛の髪乾かしてあげようか?」
「……ん」

 櫛で髪を梳かし終えた名前がドライヤーのコードを巻く仕草を見せたがすぐに止めてドライヤーを田噛に向けて問い掛けた。自分はこのままで良いと思ったのだが名前が自ら乾かしてくれるというニュアンスを含めた言葉を耳に聞き入れた瞬間一気に嬉しさがこみ上げて無表情で頷けば名前は笑って田噛に「じゃあ背中こっち」と言うが田噛はその言葉を無視して彼女の方に身体を向ける。

「……反抗期?」
「こっちの方が良い」
「ふうん? まあ良いけど」

 田噛の前に膝立ちした名前はドライヤーのスイッチを入れて熱風を田噛の髪に当てる。優しい手つきで髪の毛を梳かれる度にくすぐったさが募るがどこか心地良いものだと思って田噛は目を細めた。
 普段は一人きりの部屋に誰かが居るだけでここまで空気が変わるものなのか、付き合い始めて結構長い年月が経つが改めて幸せを噛み締める。気が付けば無意識に腕が彼女のか細い腰に伸び引き寄せ、自分の身体も名前の方に近付けて彼女の胸元に顔を埋めた。温かい体温が全身から伝わり変に力を入れれば壊してしまいそうなほど柔らかく細く小さい名前の身体からは自分が普段使っている石鹸と同じニオイが鼻腔を掠める。

「まだ終わってないよ……?」
「ん」
「たーがーみー?」
「名前」
「え? な、にぃ!?」

 足りない、その欲求が脳内を渦巻いて田噛は立ち上がりながら名前の腕を掴んでベッドに引っ張り込んだ。予測できない恋人の行動にただただ混乱する名前はされるがまま田噛の隣に寝転んで不思議そうに目の前の橙を見つめた。

「やっぱりその服でけーな」
「んー、田噛小柄なのにね?」
「お前の方が低いだろ」
「……」
「けど、そっちの方が抱き心地は良いから好きだ」

 惚れた弱みだろうか、何を言われても嫌な気持ちはならずただただ愛おしさがこみ上げる。目の前の小柄な身体に腕を回し身体を引き寄せれば先ほどよりも温かい熱が伝わり髪に顔を埋めれば、またまた自分と同じシャンプーのニオイが掠める。吐き出された田噛の言葉に目を見開いて驚いた名前は何も言わずに田噛の背中に手を添える。
日に日に好きという気持ちが高鳴り傍にいるだけで触れたくなる、一日会えないだけで苛立ちが募り会えばすぐにその苛立ちなんか消える。我ながら自分らしくない。

「田噛にこうされるとすぐ眠くなっちゃうんだけど……」
「なら寝ろ」
「けど、……なんか勿体無い」
「……」
「うわ何々!? 苦しい!」
「(〜……可愛すぎんだろ……)」

 取って食ってしまいたい衝動に駆られるのを抑えるため田噛は更に力強く名前を抱き締めた。日常生活に放り出して大丈夫だろうか。木舌に名前馬鹿? と過去に言われたことを思い出したがあながち間違っちゃ居ないかも知れない。好きや愛してる、可愛い、なんて言葉は吐き出せないがその分の愛情表現はかなり強い、それ程までに愛おしく尊い。

「ん、んー!」
「……悪ぃ」
「本気で殺されるのかと思った……」

 苦しさで背中を叩く名前に気付いて腕の力を弱めればぜぇぜぇと肩から息をする名前の銀鼠の色と目が合った。名前は、恋人の欲目を除いても魅力的な方だと思う。明るい性格でどちらかと言えば表情は豊か、憎き相手を前にすると狂戦士っぷりを発揮する上時たま諦めが早い時が多々あるが全部ひっくるめて彼女の魅力であり名前の良いところだ。男だらけの中で働く紅一点なうえ小柄な見た目と長短所含めた性格を持っているので競争率は多分高かったと思う、そこらへんは聞いたことがないので分からないが、時折アプローチをしてくる奴は見かけたことがあるので多分そうだろう。
 そんな奴が、まさか自分に好意を向けているなんて誰が思っていたのだろうか、半ば投げやりで告白して了承を得たときは本気で夢ではないのかと疑ったほどだ。
 そんな、叶う事が無いと思っていた片思いの相手が今こうして隣に居て触れ合って近い距離で笑い合う、口にはしないが幸せで堪らない。

「あー……、ほんと、考えられねぇ」
「なにが?」
「なんでもねぇ」

 名前が居なくなったら、なんてことを考えるだけでゾッとする。過去の自分が見たら呆れるくらい今の自分は目の前の彼女にべた惚れで首っ丈状態だ。マイナス方面なことはすぐに振り払い掛け布団を持ち上げて部屋の電気を消そうと身体を起こすと、それに気付いた名前が声を発した。

「もう寝るの?」
「電気消すだけだ。簡易のは付けとく」
「さすがにまだ寝るには早いもんね」

 電気を消せば部屋が暗くなり枕元にある簡易照明がぼんやりと灯りを灯った。薄暗いオレンジ色の光の中で名前は再び隣に寝転んだ田噛の顔を見ると照れ臭そうにはにかみ田噛の手に腰を回しくっ付いてくる。敷布団と大きめのシャツがすり合って肩が露出しかかっているが敢えて田噛はなにも言わず身体を抱き寄せた。

「田噛って、随分変わったよね」
「俺は昔も今もかわらねーよ」
「ううん。……良くも悪くも、変わったよ」
「……んだよソレ」
「変えたのは、もしかして私だったり?」

 悪戯っぽく細められた銀鼠に見入られ頷きそうになったが、黙って名前の顔を持ち上げしっとりと湿った唇に喰らい付いた。否定出来ないからイラつく、数秒唇同士を合わせ最後に彼女の唇を一舐めすれば照明にも負けず劣らず顔を赤く染め上げた名前がいる。寄せていた身体も火傷しそうなくらい熱くなっていた。

「慣れねえな。そんなに恥ずかしがることか?」
「ふ、不意打ちに驚いただけだから……」
「……かまわねぇけど」

 一番最初の頃に比べたらましになった方だ。最初はこうして隣に寝ることさえ恥ずかしがって拒否していたくらいだし。これから長い時間ずっと一緒にいるのだから、徐々に慣らしていけば良いのだ。

「名前」
「ん?」
「隣、ずっと居ろよ」
「……ん、もちろん。田噛の事大好きだから」
「……」
 
 破顔した、赤みを帯びた顔はずっと昔告白した時に見せた笑顔と全く同じで、胸の奥が燻り身体が熱くなる。
緩みきった顔を隠すため田噛は名前の頬を持ち上げて再び口付けた。






------------------------------
霧村様リクエスト、後輩獄卒にデレデレな田噛でした。
いやはやもう私自身が「爆発しろ!」と叫びながら書いた一転物です。一目も憚らず田噛に甘えて欲しい、と思いながらキーボードを叩いてました。しかし田噛は一度デレると凄そうですね……、デレデレより甘えん坊?みたいな部分もありましたが、楽しかったです。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

Back