五万打小説 | ナノ
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いつか出会う君のため

「おねーちゃん!」
「こんにちは、また会ったね」
「おれ、言われた通り良い子にしてるよ!」
「ふふ、さすがだ」
「えへへ」

 別の部署の人が現世で彷徨っていた子どもを一人保護したらしいので専用施設の人が来るまでの間お世話をする。おれ達が勤める何でも課と呼ばれている特務室の依頼を任せられた名前とおれはその子どもが保護されている場所へと赴きその子どもの霊と対面した。おれも初対面だったし、名前も同じくその子とは初めて顔を合わせるのだろう、と思っていたけれども違った。部屋に入った瞬間身体の大きさと全く似つかないソファに身体を沈ませ大きな人形を抱きかかえていたその子どもの霊は名前を見た瞬間はじける笑顔を作り上げそのまま彼女に飛びついた。子どもの身体は、名前の腰くらいで彼女もしっかりと受け止めて頭をぐしゃぐしゃと撫で付けた。

「二人共、知り合いなの?」
「こちらの部署に友人が居て、子どもの扱いに困っていたらしくヘルプを求められたんです、それで短時間ですがお世話をしていて……あっと言う間に仲良くなっちゃいました」
「へえ」
「私自身子ども好きなので、だから引き受けたんです」

 ふにゃりと照れ臭そうに笑った名前が可愛くて思わず抱き締めたくなるがここは公衆の前、ましてや小さな子ども達が居るのでその衝動はグッと堪える。というかなに、名前って小さい子好きなの? じゃあ血の繋がった子どもは絶対可愛いよね、作っちゃう? なんて言葉が脳内に過ぎったけど言ったら物凄い冷たい目で見られるだろうから言わずに口を紡いだ。今だ名前の腰に張り付いているその子に目を向ける、一瞬だけ怯んだ表情を見せたので目線を合わせるべく屈んでその顔を覗きこめば、きょとんと気の抜けた表情を見せたので警戒心を解くべく小さな頭を撫でる。

「こんにちは、おれ、木舌って言うんだ」
「……きのした?」
「うん。宜しくね」
「……おねーちゃんだけ居れば良い」
「……はは」

 この野郎、お前も子ども以前に男なのか。
確かに名前は恋人の欲目無しにしても可愛い、寧ろ犯罪級レベルで可愛い。獄卒の中でも結構感情豊かで明るいし、まあでも亡者に対してはかなりのギャップを感じさせるほど冷徹無慈悲になって怒りの頂点突破しちゃったら最初はおれでも引いちゃうレベルだったけど今考えるとこれが現世で言うギャップ萌えだよね、堪らない。おれを一瞥した後興味なさげに視線を逸らして名前のお腹に顔を埋めるその子の上に乗せていた手を引っ込める。……というかちょっとくっ付きすぎじゃない? 幾ら子どもといえど名前の柔らかい肌やその小さな身体に触れて良いのは後にも先にもおれだけだと心に決めているんだけど。表情がなんとも言えない複雑なものになっていたのか名前はどこか困ったように苦笑しておれを慰める。

「ま、まあこれから仲良くなっていけば良いじゃないですか、木舌さん元気出して」
「……お酒飲みたい」
「ちゃんと仕事してください!」
「おねーちゃん、おれおねーちゃんとお話したい」
「お話だけで良いの?」
「おねーちゃんとくっ付いていられるから!」
「わ、あ……有難う」

 こいつ、女を喜ばせるテクを熟知してやがる。というか名前もなんでそこで嬉しそうにして照れてるの! 普段おれが好きとか言っても軽くあしらう技を身に付けてきたくせに……! この場には名前以外の他人は居ないと言いたげな表情で名前をソファまで引っ張り座らせるとその膝の上に座ってくるちびっ子、取り残されるおれ。名前も嫌がる素振りを見せずに笑ってるし、なにこれ。取り残されるおれの気持ちを誰か理解してくれないかな、もうやけ酒したいんだけど、自暴自棄になりたい。けどこんな事を仲間に愚痴ったら絶対くだらないと一蹴されそう、時計を見れば午後二時くらいを示していて、この任務の後にももう一つ任務がある、……そういえば何時間くらい預かれば良いんだろう。

「名前、迎えはいつ?」
「夕刻くらいと聞いていますよ。……木舌さん、隣あけましたから座ってください」
「いや、おれは良いよ」
「……居てくれないと、寂しいです」
「(なにこの子天使? 抱き締めたい)」

 ああ駄目だ、今無意識に腕が動きそうになった、けど耐えろおれ。二人きりならまだしも今この空間には小さい子どもがいる、さすがに生意気といえどそんな幼子が居る前でイチャイチャしたら教育に悪い。グッと奥歯を噛み締めて空いたスペースに座り込めば名前は膝の上に乗るちびっ子に気付かれない程度におれの傍に寄り添った、あれ、なんでこんなに甘えたの? おれ抱き締めちゃうよ? 良いの? ソファの背の方から腕を伸ばして小さい名前の肩を抱けばびくりと身体を跳ねさせてこちらを睨んできた。

「木舌さんっ……!」
「なあに? それより相手してあげないとこの子拗ねちゃうよ?」
「おねーちゃんどうしたの?」
「あ、な、なんでもないよ」
「ふふ、おねーちゃん変なのー」

 笑顔は可愛らしいけれども、俺をチラッと視線を入れるたびに真顔になるちびっ子、完全に敵対視されてる。そりゃそうだ、絶対このちびっ子名前にべた惚れだし、小さい子って無条件にお姉さんとかお兄さん好きっていうし大好きなお姉さんだけなら嬉しいのにその隣に見知らぬ男が居て仲睦まじく話していたらちびっ子なりに嫉妬はするか。いや、だけど、こうあからさまにベタベタしなくても良くない? ちびっ子が後ろをよく振り返るのに気付いた名前は笑顔を崩さずに肩に回していたおれの手を軽く払った、泣きそう。その優しい笑顔をおれにも向けて欲しいよ。一人悲しく涙を堪えているとちびっ子は名前の手を取ってまじまじと見つめている、おれも握りたい。

「おねーちゃんの手小さい」
「君よりは大きいけどね?」
「おれはこれからもっと大きくなるから、いつかおねーちゃんに勝つよ!」
「……楽しみ、だね」
「……」

 あどけない笑顔を向けた瞬間、思わずおれと名前は一瞬だけ顔を歪めた。現世で彷徨っていたこの子は元はネグレクト、つまりは虐待によって死んだ子の霊らしい。母親は他所に作った男と共に失踪、自分が死んだことを理解出来ずに別の男と逃げた母親を探すため自らが死んだ場所を彷徨っていたのを現世調査していた獄卒が保護したのだ。親よりも先に死んだから賽の河原行きかと思ったらどうやら母親もこの子が死ぬ以前に持病で亡くなったとのこと、どちらにしろこの子はこうなる運命だったのかも知れない。施設の管理者に一時的に保護され自らの死因を理解出来る様になったら転生するため輪廻の輪に戻るとのこと、ここで成長するよりは生まれ変わって幸せになる方が良いに決まっている。

「あっと言う間に追い抜かれちゃいそうだね、楽しみだなぁ」
「次はおねーちゃんを丸ごと抱き締められるよ!」
「……」
「名前、なに照れてるの」
「おにーちゃんまだ居たの?」

 あ、折れた。おれ今心折れた。

「こーら、お兄ちゃんにも優しくしないと」
「おれおねーちゃんさえ居れば良いし」
「う、うーん……中々素直だね」
「……おれ、飲み物買ってくるね」
「あ、木舌さん」

 居たたまれなくなり、しかし表情は崩さずにソファから立ち上がって部屋を後にする。
落ち着け、相手はたかが子どもだ、おれに比べれば経験なんて天と地ほどの差がある。あのちびっ子が知らない名前のあんなところやこんなところまで熟知しているもん、そうだ、大人な余裕を持つんだ。備え付けの自販機で飲み物を適当に三つ買って、深呼吸をしする。おれは大人だ、あのちびっ子が大好きな名前の一応恋人なんだ、心に余裕を持て。

「お待たせ、」
「おねーちゃんぎゅー」
「ぎゅー! 甘えん坊さんめ〜」
「えへへ!」
「……」

 思わずかたまってしまった。いやいや、さっきは膝の上に背中を預ける形で座っていたよね君? なんで向き変えて名前と向き合ってるの? しかもそのまま胸に顔埋めてるし、ちょっと待ってそれおれもやりたい、というか混ざりたいんだけど!

「木舌さん目が血走ってますよ」
「待ってズルイ、おれも胸に顔埋めたい」
「なに言ってるんですか変態!」

 青白い顔を一気に真っ赤にさせて叫ぶ名前、可愛い。おれはスキンシップを我慢してるのにこのちびっ子は見せ付けるように身体を密着させておれをチラチラ見てるし……おれも名前の胸に顔を埋めたい。体格差や身長差があるから向こうがおれの胸元やお腹に顔を埋めることはあるけど逆は無い、おれの身体が大きすぎる故か……今度ベッドに腰掛けて貰っておれが膝立ちすれば良いのか、やってもらおう。
ばっちしイメージトレーニングをしている顔が変だったのか名前の胸越しにこちらをなんとも言えぬ表情で一瞥している、やめてそんな目で見ないで。

「おねーちゃんも大変だね」
「あはは……そーだね」
「え、そこは否定してよ名前!」
「いやでもなんか表情が危なかったですし……」
「おれ君の恋人なのに……」
「そうでしたっけ?」
「え!?」
「ふふ、冗談です」

 心臓に悪い、本当に疑問に思ったような表情を見せたのでおれ思わず変な声出しちゃった。
けれども名前はすぐに表情を変えて笑顔を見せたので余計なもの全てぶっ飛んだ、やっぱり好きな子の笑顔って良いね、見ているだけで幸せになれるけどちょっと今の発言はやっぱりいただけないかな。
飲み物を一応テーブルに置いておきソファには座らずに肘掛部分に寄り掛かるようにして二人を見ていれば名前の銀鼠色の瞳と目が合い、笑い掛ければ同じように笑顔を向けた、おれ達二人のやり取りに気付いたちびっ子はムッと頬を膨らませて名前の頬を両手で掴んだかと思えばグッと顔を近づけた。

「ん?」
「えへへ、おねーちゃん好き」
「わ、嬉しい事言ってくれるね。有難う!」
「……」

 ここまで来ると、余裕を持とうと思ったがどうやら無理っぽい。相手が子どもだからそれに合わせているだけだと思うけれども仮にも子どもでありその子も男の子だ、別の男に好きなんて言っている彼女の姿は見ていられない。おれってこんなに心狭かったっけ? はっと息を吐いて少しだけ二人から視線を外す。
参ったなー、元々名前は女の子だし見た目も優しそうだから人の警戒心を解くには十分すぎるくらい良い人材だ、けれどもそれが厄介だと思う日が来るとは……。申し訳ないけど、彼女には後できちんとお詫びをするから先に帰らせてもらおうかなそっちの方が良いと思うし。笑顔を崩さずに肩をトンと叩いて名前、と名前を呼べば呼ばれた本人は不思議そうな顔をして振り返った。

「おれ先にかえ、」
「お待たせー木舌くん、名前ちゃん、その子預かりに来たよー」
「!」
「わ、案外早かったんですね」
「保護先の人が早く会いたいって言ってたんでねー」

 る、と最後の言葉を言い切る前に扉が開かれスーツを着た別の部署に勤める女性がずかずかと部屋に入りながら大きな声を発した。はきはきとした声だ、聞き取りやすい。膝の上に座っているその子の頭を撫でながら名前が問い掛ければ女性は笑顔を明るくさせて手をひらひらと振る、現世で年配のおばちゃんが「あら〜!」なんて言いながらよくやる仕草におれは目を向けるが女性はすぐにそれをやめてちびっ子に近付いた。

「さあ僕、行きましょうか」
「おねーちゃんも、来る?」
「残念、私はこの後別の任務が入ってるから一緒に行けないの」
「おれ……おねーちゃんと離れたくない」

 女性が軽々とその子を抱き上げると、ちびっ子は立ち上がった名前へ顔を向けて今にも泣き出しそうな表情を見せて声を絞り出した、その声を聞いた名前は困ったように眉尻を下げて言葉を投げ掛ければ男の子はついに大きな瞳を緩ませて俯いてしまう。女性は「あらあらー、お姉ちゃんが好きなのね」なんて暢気に声を発しながら男の子をあやすように身体を揺らしているが男の子の顔は依然沈んだままだった、名前自身も困ったような表情で男の子の頭を撫でるとついにその大きな目から涙が零れた。

「っ……おねぇちゃん……」
「……また、遊びに来るから。泣いちゃ駄目だよ?」
「いやだぁっ……」

 子どもほど純粋なものは存在しない。本当に名前の事が好きなんだろう、その純粋無垢な気持ちがなんだか羨ましくておれは無意識に泣きじゃくるその子の頭の上に自らの掌を載せてぐしゃぐしゃと撫で付けた。

「うぇ……?」
「好きな子の前で涙を見せるなんて男じゃないなぁ」
「っ、おれ男だもん! 強いもん!」
「そっかそっか、じゃあ大好きなお姉ちゃんの前でも笑ってみせられるかい?」
「うん! おねーちゃんっ……ばい、ばい」
「うん。……ばいばい」

 初めておれに見せた笑顔はあどけないけど頼もしい。うん、これは将来有望だ。男の子は小さな手を伸ばし、名前も前に一度やったのか同じく手を伸ばして大小二つの掌がパチンと小さな音を立てた、と、同時に男の子は涙を乱暴に拭うとおれの方に拳を伸ばして涙声ながらも、しっかりとおれを見据えて言葉を放つ。

「おれ、いつかおにーちゃんみたいな大きい人になるんだ」
「本当? 好きな女の子に甘えたりするだけじゃ駄目なんだよ?」
「まもることもできるよ! でも、おにーちゃんみたいにいっぱいいっぱいまもれる人になるんだ!」
「……そっか、じゃあ男と男の約束な」
「おう!」

 握ったら潰れてしまいそうな拳と、自ら作った拳をくっ付けて更にその頭を強く撫で付ければ照れくさそうにしながらも男の子は笑った。うん、良い笑顔。

「じゃあね二人共〜、子守ご苦労様!」
「いえ私も楽しかったですし」
「貴重な体験でしたよ」
「あら良かった〜、じゃあいつ子どもが生まれても大丈夫ね!」

 あっけらかんと笑った女性の言葉におれと名前は思わずかたまった。確かにそう思っていたときもあったけれども第三者の立場の人から言われるとこう、なんというかむず痒くてくすぐったい、どういう表情をすれば良いのか分からないからとりあえず咳払いをしてテーブルの上に置いてあった飲み物を取って適当に弄る。チラリと名前を一瞥すれば多少顔を赤くしながらも「そうですね!」なんて言っているし。ちょっとその発言はどう捉えれば良いのおれ。
 色々な考えがぐるぐる頭の中で巡っている間に名前は男の子とばいばいして気がつけばおれと彼女二人きりになっていた、張り詰めた空気が無くなったような気がしておれは思わずこちらを振り返り唇を動かしている彼女に向かって手を伸ばした。

「木舌さん、お疲れさまでし、うわ!?」
「あー……! やっと名前に触れられた!」
「え? えええ?」
「あの子ずっと名前にくっ付いてるんだよ? それ以前に子どもの前でイチャイチャなんて出来ないし」

 彼女の身体を持ち上げてそのまま倒れこむようにソファに沈み込む、二人分の重みでソファが少しだけ揺れるがそんな事は気にせずおれは強い力を込めて名前の身体を抱き締める。
おれの上に乗る形で寝転がっている名前はただただ慌てふためいたような表情を見せておれをじっと見つめている、可愛い、と言っても名前の頭はおれの首元にあるから表情はあまり見えないけど。嫉妬していて我慢していたものが一気に溢れ出たのか彼女の重みでさえ愛おしいので慈しむように髪を撫で付けていると名前は少しだけ身体を持ち上げておれの顔を覗きこんだ。

「名前?」
「木舌さん、子どもに嫉妬しちゃうんですね」
「……名前が好き過ぎるからかなー、愛故?」
「けど最後の、カッコよかったです」
「ふふ、有難う」
「木舌さんは、良いお父さんになってくれそうだなって思いました」
「え?」

 目を細めて笑う名前に向かっておれも笑い返して言葉を交わしていると、段々言葉が尻すぼみになっているのと同時に密着している名前の胸から伝わる鼓動が一気に早くなった、言葉の意味が一瞬だけ理解出来なくて思わず変な声を発して聞き返せば名前は何事も無かったかのようにおれの身体の上から降りると、

「行きましょう、報告に行かないと」
「え、待って名前、さっきの言葉って、」
「だけど子守って結構体力使いますね〜」
「いやいや今日あまり身体動かしてないでしょ」

 純粋なのは時に厄介ですね。なんて意味の分からない言葉を発しながら部屋を出て行く名前を追いかける。……けど、まあ子どもは良い意味でも悪い意味でも正直者だなと今回の任務で分かったので、いつか、出会うであろう我が子の発言に心が折れることは少ないだろう。

「けど、」
「うん?」
「私も、今日はあんまりスキンシップ出来なかったのでちょっと辛かったですけどね」

 ぺろっと舌を出してはにかんだ名前の姿は可愛すぎて一瞬だけ理性を失いかけた。……うん、今日の夜は任務の間出来なかったことをやろう、殆どおれの自己満足になってしまうけれども彼女はちゃんと受け入れてくれるだろう。背中を向けていた彼女の肩を抱き、引き寄せてその唇に喰らい付いた。






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pansy様リクエスト、子ども好き夢主と夢主にべた惚れなちびっ子に嫉妬する木舌でした。つい最近小さな子と触れ合う機会があったので経験を元に書かせて頂きました、小さい子は見ているだけで癒されます……。
しかし今回木舌さん大人気ない故ちょっと暴走気味に……、けれど我が子ならデレデレに可愛がるイメージがあります。子どもと一緒にお母さんに甘えたりみたいな。
お気に召さなかったらお申し付け下さい。
この度はリクエスト有難う御座いました。

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