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加茂憲紀のお嫁さん


やっぱり慣れない。旧姓の方が良かったのではないか、と改めて名前は感じた。
彼女がやや戸惑いながらも放った“加茂”、という名字の響きに、そばで聞いていた東堂は思わず同じ苗字を持つ加茂に語りかけた。

「ほう、加茂と言っているが、加茂の親戚筋か?」
「ああ、間違いではないが2ヶ月後には嫁になる相手だ」
「……はぁー……」

吐き出された言葉を聞いてしんと静まり返り、空気が変わるのを感じて、うわぁと思ったよりも先にため息が溢れた。わざわざ公言はしなくても良いよね。と入学式前に言っていたのを忘れたのか。……いや、彼にとっては聞かれたからどのような関係かを答えただけだ。そこに悪意なんてさらさらない。
普通の自己紹介で終わるはずだったのに、とんでもない爆弾が投下されて青い顔をしている新田にごめん、と心の中で謝る。
どうか誰も反応せずこのまま聞いていなかったことにしてほしいと思いつつ、とりあえず当たり障りなく言葉を紡ぐ。

「あの、まあ、そんな訳でよろしくお願いします。えっと、じゃあ先輩方のなまえ、」
「ねえ加茂くん、嫁ってどういうこと?!」

驚愕した顔の西宮が声をあげたことで願いは虚しく砕け散った。ずきりと痛む頭を指先で押さえると、今度は顔を赤らめた三輪が名前の方へ近寄り声を荒げる。

「え、本当に加茂先輩のお嫁さんなんですか!?」
「んん……まあ、えぇとですね……」
「待て三輪、私が話す。…… 名前は幼少期からの許嫁なんだ。入籍自体は卒業後の予定だったがそれを早めてな。今月で彼女は16歳になるし、私も2ヶ月後には18歳になる、だから嫁になる相手という言い方で間違ってはいないだろう」
「そっか、男の子は18歳じゃないと結婚できないもんね。それにしたって…… 名前ちゃん、本当に加茂くんでいいの?」
「おい西宮、どういう意味だ?」
「小さい頃から言われてましたし、名前すら知らない人じゃなくて、見知った仲の憲紀だから嫌だとかは思ったことないんですよ……」
「親の決めた結婚なんて、私は嫌だけど律はほんと物好きよねぇ、理解できない」
「真依ちゃん辛辣……」

苦笑混じりに顔見知りである真依に言葉を返すが、彼女の言葉には同意見だった。

「(そんなの、私だって嫌だよ)」

それが、加茂憲紀じゃなかったら。けど、好きだから受け入れられた。逃げずに、嫌だと口にせずにこの歳まで過ごしたくらいだ。加茂家の人間、もとい親世代やそれより上の人たちは、名字の家に生まれた私のことを相伝術式、かつ反転術式持ちの胎としか見てないし、兄が相伝持ちじゃない分、お前が加茂家に貢献しろ。とか言われるくらいに腐った世界で生きていくことになっても、憲紀さえいればそれでいい。憲紀のために相伝持ちの子を産まないと。例え呪力がなくとも愛し育てていくと憲紀も言ってるし、彼に限って見限るなんてことはないだろう。

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