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ばかなひと(ゼラ)


「ゼラって、バカだよね」

 唐突にそんな事を言ってみれば玉座に座りチェスを嗜んでいた彼は、レンズ越しの鋭い目をさらに吊り上げて、歯を見せるくらい歪に唇を開いてチェス盤をばん! と叩く。

「ば、ばか……? ノイン名前、君は、今、僕を、バカと言ったのか?」

 がたがたとチェス盤が音を立てて、並んでいた駒が崩れ落ちてく。彼の手元を彩る黒星が手元に合わせ震えているを一瞥して、息を吐く。まるで自分がバカではないようないい分に笑いそうになってしまったが、あながち間違ってはいない。彼は天才だ。
 知ってるよ。ジャイボのことだって、しょせん彼だって帝王の掌中に乗って踊らされている駒だってことを知らないの、いい気味だよね。ジャイボは彼を愛しているって言ってたっけ、ほんと、バカげてる。

「バカだよ。根拠のないバカだ、ゼラは全てを知っているようで何も知らない」

 僕、否、私のことを。光クラブメンバーの事を全て知っているようで何も知らないことなんてお見通し。僕が女の子なこと、ライチが連れてきた少女カノンは、とっくのとうに眠りから覚めていること。

「き、君は、僕の悪口を言っているね? ああ名前、君までも僕を裏切るのか?」
「違うよ。尊敬しているんだ」
「なら、なんで」
「何となくだよ。ごめんねゼラ、君が取り乱すところを見たかったんだ」
「……」

 物語は、どこへ向かっているのだろうか。冷や汗を流すゼラから一時も視線を離さず、感情をこめて謝罪を口にする。

「次そんなことを言ったら、処刑だ。名前」
「怖いなぁ、気を付けるよ」

 君と、僕と、光クラブメンバーを裏切るあいつを知らないゼラは、本当にバカだね。ああでも、そのことを言わずにこうして帝王にバカって言っている私も、相当のばかだ。

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