射抜いた瞳は逃がさない(災藤)
※コミカライズネタバレです。
災藤さんは、とても良い人だと思う。けど、私にはその優しさも、妙に艶(あで)やかな仕草も全部苦手だった。柔らかい口調、笑うたびに細められる瞳、全部全部苦手で仕方ないのだ。理由は? と聞かれると私も良く分からないのだけれどもただ怖い、彼と話している間だけは彼の手中の中に入り込み全ての仕草や言動、私自身の頭の中が見透かされているような気がして恐ろしくて仕方が無い。
「おはよう、名字」
「あ……おはよう、ございます。災藤さん」
「元気が無いようだけど大丈夫かい?」
「はい、大丈夫、です」
怖い、瞳が、目が、顔が見れない。
見た瞬間全てを呑み込まれそうで怖くて仕方が無い。視線を上げられず口調が震えないように言葉を吐き出せば目の前の彼の身体が少しだけ揺れて、制帽の上から何か重たい物が落とされた。
「っ、」
「あまり根を詰めすぎるのは良くないよ、お前は時に無茶をする時があるからね」
「……有難う御座います」
早く、早くこの場から逃げたい。手袋越しに制帽に載せられた手は鉛のように重く感じ冷や汗が流れ輪郭を伝っていく、怖い、このまま全部を支配されそうな感覚さえ脳内を過ぎっていく。
「相変わらず、視線を合わせようとしないね」
「っ!?」
「おや、やっと目が合った」
「……っ、自分仕事があるので、失礼します」
おどけたように笑った災藤さんから少しだけ距離を置き、脱帽をし一礼してそのまま逃げるように彼から離れた。五月蝿いくらい鳴り響く心臓は収まる気配が無く運動なんかしていないのに息が荒く心臓の音が大きく脈打ち冷や汗が止まらない。手の温度がなくなってきて身体全体が冷たくなる。
「……はあぁ……苦手だ」
息が詰まるけど、怖いという感覚だけで不快感は感じない。なんだろうこの矛盾、……私は災藤さんをどう思っているのかな。