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この関係を何と呼ぶ?(平腹中編ネタ)


「……ん」
「あ、おい名字、」

 屋敷内を二人で歩いていた平腹と名字、他愛ない会話をしている時に事は起きた。なるべく平腹なりに気を使っていたがやはり今日もそれは発症してしまい、小さく声を上げてゆっくりと吸い込まれるように地面に倒れそうになったのを平腹は素早く受け止める。完全に力が抜け切った身体は女とて重量感がありふっと息を吐いて脱力仕切っている身体を肩に担いで地面に落ちた彼女の大鉈を拾い上げた。

「行動中はあんま出なかったのになー」

 誰にも言うわけでもなく、一人言葉を発した平腹は早足で救護室へと向かった。



「……また、発症しちゃったんだ」
「なー、呪いってめんどくせぇな」
「起きねぇな」

 ぺちぺちと頬を叩く田噛を横目に、困ったような顔をする佐疫。平腹は他人事のように話をするが、どこか表情は寂しげのように見える。救護室のベッドで静かに寝息を立てて寝ている名字の一瞥すれば彼女の傍で様子を見ていた斬島が口を動かす。

「確か、居眠り病だったか?」
「まあ正確には、ナルコレプシーって病気だけどね。そこまで酷い病気では、いやあるか……」

 ナルコレプシー、睡眠障害の一つでありいちばん基本的な症状は、昼間に強い眠気が繰り返し起こりどうしても耐えられなくなってしまう「日中の眠気」だ。特に名字の場合は怪異の呪いにより、通常の症状と同じで空腹でも関係なく、一日に何回も眠気がやって来て、酷い場合はそのまま倒れて寝てしまうことが多々ある。呪いを受けてからは獄卒たちがなるべく彼女を一人にしないように一緒に行動をしたり、彼女も彼女なりに休みの日は外に出歩かないで部屋に篭っている。

「屋敷内では倒れることなかったのに……呪い進行してるのかな?」
「すぐ目を覚ますのか?」
「オレがちゅーすれば覚めるぜ!」
「黙ってろ平腹」
「えーほんとだって! ……行くぞー」

 得意気に話す平腹を田噛が睨みつけるが、平腹は悪そびれた要素を一切見せずに夢と現の間を彷徨っているであろう名字の元に近寄ると、頬を掴み薄く開いた唇に自分の唇を押し当てた。いきなりの行動に傍にいた三人は目を見張り動きを止める。そして次の疑問はこの二人は付き合っていないはずだ、なのに堂々と平腹はキスをした、しかも先ほどの言葉から察するにはこれが初めてではないのだろう。混乱で頭の中で色々なことがぐるぐる回っている三人はただただ呆然と名字と唇を合わせている平腹を食い入るように見つめる。

「ん、名字?」
「……う」
「はあ? 起きた、のか?」
「……嘘でしょ」
「……」

 顔を離し自分の唇を舐めて囁くように眠っていた名字に声を掛ければ、それに反応したかのように名字の瞼がゆっくり開かれ、その双眸にぼんやりと平腹の輪郭を映しだした。搾り出すような声を洩らし目覚めた名字に田噛、佐疫、斬島は信じられない、とでも言いたげにその光景を見ていた。

「ぁー……もしかして?」
「そ! いきなり寝ちゃったんだぞオマエ」
「……面目ないです」

 当たり前のように会話を続ける二人を呆然と見ていたが、耐え切れなくなった佐疫が震える唇で言葉を発する。

「えっと……つまり、どういうこと?」
「だから、名字の眠気が限界だったり、寝ちゃったらオレがちゅーすれば治るんだよ!」
「全然わかんねぇよ殴るぞ」
「名字、説明してくれ」
「え、あー……それが自分でもよく分からないのですが、つまるところ……あの、平腹の先輩にキスしてもらえば……病状、よくなる、みたいで」

 困ったような顔をしつつ、ベッドから起き上がった名字はチラッと平腹を見つめあと、どこか他人事のように先ほど平腹の唇と重なっていた自らの唇を動かした。ぽつりぽつり言葉を紡いでいる間に恥ずかしくなったのか徐々に青白い顔には朱色が浮かび上がった。

「意味わかんねぇ、なんで平腹なんだよ」
「自分だって聞きたいですよ……」
「オレは別にかまわねーけどな!」
「平腹、少し黙っててね?」
「……二人は付き合っているのか?」
「付き合ってないですよ……、でも、呪いを受けたときに平腹先輩がいたから、……それとなにか関連してるのでしょうか?」
「んで毎回毎回お前等キスしてんのか?」
「いや毎回では……、事前にすれば数時間は症状がなくなるので会議とか任務前とかは、たまに……」

 今考えてみればおかしな関係性だ、同僚であり家族であり、はたまた先輩という繋がりだけの平腹と好き合っているわけでもないのにキスをするというのは……。呪いにかけられ暫く昏睡状態だった時にふと目を覚ましたら平腹がいて、何をしても起きなかったのにキスしたら起きたんだぞ! と言われた時は驚きを通して呆然としていた記憶がある。そこからキスで呪いの効力が弱まることを半信半疑ながら信じて試しにもう一度だけしてみれば本当だったので、いつしかどうしても発病したくない場面では平腹の元へ行っていた。

「早く治るといいなー、でも名字とちゅー出来なくなるのも寂しいけどな」
「か、からかわないでください!」
「……」

 今しがた理解出来ていない三人は、なぜだか痛んだ頭を抱えるしかなかった。

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