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鬼斬廃院(獄都長編ネタ)


「東南地方の廃病院に棲み着いている亡者達を片付けろ」

昔から私がこの臭いが苦手なことを知ってか上司の口から吐き出された紫煙は私を避けて渦を巻き空気の中へと溶けていく。指令中でもこうして気を遣ってくれるのは彼の親心か、それがなんなのかは分からない。
心の片隅で流れる紫煙を一瞥した後、再び上司に顔を向けて行き先を反芻する。

「廃病院……」
「今までの監視では問題は無かったがある日を境に被害が出ていると連絡が入った、が、そこへ斬島を遣わせた途端連絡が途絶えた」
「……斬島先輩の安否確認、否、亡者を始末するのが任務と捉えて宜しいでしょうか」
「ああ。……亡者を好き勝手に暴れさせるわけにはいかない。変異されたらたまらんからな」
「今回のは、そんなに多いのですが?」
「正直、かなり厄介だ」

緋色の瞳が細められ、ため息まじりに肋角さんは言葉を投げ捨てた。まさかそんな言葉が出るとは思わなくて私はただ目を見張るしかなかった。
ここまでネガティヴ気味な肋角さんは見たことがない、あの廃校の時だって凛としてたのに。妙な緊張感が走ってごくりと唾を飲み込む。

「他の奴らもじきにそちらへ向かうよう手配は打ってある。だが、あいつらの用が早く終われば、だけどな」
「それまでに片付けられるよう頑張ります」
「頼んだぞ」
「はい。失礼しました」
「……名字」
「はい?」

部屋を出よう背中を向けた瞬間に、肋角さんが声を発した、そのまま振り返ればなんとも形容し難い難しそうな表情をした肋角さんがこちを見ており、紫煙を吐き出しながら一言だけ、呟いた。

「油断して、取り込まれるなよ」
「……は、い」

最後の言葉がよく分からなかった、が、肋角さんがここまで言うのだから、今回の任務はかなり面倒かも知れない。気を引き締めなければ。大鉈を担ぎ上げ、半ば急ぐように長靴を鳴らした。

*(一気に時間飛ぶ)

「は……斬島先輩……!?」
「……大丈夫か、名字」

初めて見る霊安室に気を取られていたところを、所在不明だった斬島先輩が助けてくれた。見た限りでは、怪我とかはしてないみたいだ。抱かれていた肩に手を添えて声を荒げる。

「せ、先輩! 探したんですよ……! 無事でよかった」
「連絡機器を壊されてしまってな、それにこの姿だとヘタに動けなくて困っていた」
「……あ、え?」

斬島先輩にお礼を言いたいところだけど、その前にとてつもない違和感が喉に張り付きそのまま口からこぼれ出た。

「せ、先輩目が……変わってませんか? そ、それにニオイも……」
「……人間にさせられたんだ」
「ええええええ?」

黒い髪は変わりないけど、明らかに人間とは違う先輩の青い目は、たまに見かける人間と同じ色をしていた。そして、私たち獄卒達が持つ死者のニオイではなく、何か別の、生きているもののニオイが斬島先輩からはしている。彼が言った通り、私たちとは全く違う次元を生きている人間が、目の前にいた。

「怪異って、そんなことできるんですか?」
「一時的なものものだろう。だがロクに力が出なくてな、来てくれて助かった」

ふっと息を吐いてカナキリを帯刀する斬島先輩。武器を持っていても、人間と怪異の力の差は歴然としている。幾ら斬島先輩が強くても怪異が一気に襲ってきたら対処出来ないはずだ、ならば、今ここにいる私が彼を出来るだけ支えなければ。

「先輩、自分と一緒に行動しましょう、人間は脆いものだと言いますし……。出来うる限り貴方を護ります」
「……助かる。俺も退治には強力する」

問題の亡者たちはまだ院内をうろついている、それまでに斬島先輩を護りつつ、任務を遂行させなければ。

他の仲間が来るまで、あと数時間。

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