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- ナノ -

05

「薺ちゃん」
「こんにちは瀬尾さん」

 指定された場所に行ってみれば、既に待ち人はいた。厚手のコートに、真っ白いワンピース生地が妙に眩しくて目を細める。彼女に凄く似合っていた。

「ワンピース、似合っています」
「ありがとう」

 思わず言えば彼女は照れ臭そうにはにかんだ。ああ可愛らしい、幼馴染が惚れる理由が分かる気がした。多分、なんとなくだけど今回の目的は参考書の他にもう一つある。確信は出来ないけれども。

「参考書、買いに行こうか」
「はい。どこかお勧めの書店とかあるんですか?」
「もちろん」

 するりと横に並べば仄かに香る柑橘系の匂い。彼女の髪からなのか香水なのかは分からないけれども嫌なにおいではなかった。
この場所から書店はそう遠くは無く、他愛も無い会話をしているあっと言う間に着いてしまった。
お世辞にも広いとは言えないけど、本の種類は充実している書店だ。きょろきょろと辺りを見回している間に瀬尾さんは「こっちだよ」と私の手を引いて参考書コーナーへ案内してくれる、そこから一瞬だけ並んでいる参考書を見た後に何冊か手にとって私へ差し出す。

「アタシが使っていたのはコレかな、けどこっちも読みやすいよ」
「……ええ、と」
「こっちは問題数が多い方で、こっちの方は解説が詳しく載ってるけど問題数は少ないかな」
「あ、じゃあ解説多い方が良いです」
「うん、解説が多いのは他にもコレとかコレとかね」

 凄く詳しい。元受験生ってこんなものなのだろうか。幾つか品定めをした後にビビッと来たものがあったのでそれを選んでお会計をする。
それまでずっと瀬尾さんは参考書について詳しく話してくれていた、有り難い。

「瀬尾さん、本買わなくて良かったんですか?」
「うん。大丈夫だよ」
「なんか、ごめんなさい」
「ふふ、気にしないで! お腹すいたからどっか喫茶店寄ろう?」

 良い店知ってるんだ、と言って瀬尾さんは携帯を取り出してお店の位置を確認する。なんだか、お姉ちゃんみたいな人だなあ。私には兄妹がいないからこういうのはなんだかくすぐったい。まあお兄ちゃんみたいな人はいるけど、やはり同性だと何かが違う。



 店へ入ればほんのりコーヒーの匂いが鼻腔を付く、落ち着いた照明の喫茶店はテーブル席とカウンター席があって私達はテーブル席を指定した。席に付くなりお店の人がメニューを持ってきてくれて、見れみれば比較的安価な値段の美味しそうな食べ物がいっぱい記載されている。

「ここのケーキセット、美味しいよ。食べれるかな?」
「大丈夫です、お腹すいてるんで」
「よし、じゃあそれで良い?」
「はい!」

 軽食のオムライス頼んで私はタルトと紅茶、瀬尾さんはパスタとモンブランとコーヒーを頼む。

「薺ちゃん、この後どうしようか」
「私は別に。瀬尾さん行きたいところありますか?」
「うーん雑貨屋とか行きたいな」
「私も付いていきたいです」
「うん、一緒にショッピングしよう」
 
 ふんわり微笑む瀬尾さんを見ていると、ちょっとだけ顔が熱くなった。同性なのに綺麗な人だ、私も惚れちゃいそう。そうこうしている間にオムライスとパスタが運ばれてきて、暫くは軽い会話を交えつつ軽食を食べていく。

「これ、美味しいです」
「でしょ? 出来立てなのに来るの早いからよく友達と来るんだ」
「ともだち、」
「薺ちゃんはまだ中学生だから、こういうのは無いか」

 というか、あまり友達が居ないから帰りに遊んだりとか休日に遊んだりもあまりしない。話しかけたり、話しかけられたりすれば普通に笑って会話はするけど正直本当に気の合う友達がいないから関係はわりとあっさりしている。高校に入れば、気の合う友達出来ると良いな。

「……ねね、薺ちゃん」
「どうしました?」
「霧谷くんと、幼馴染なんだよね?」
「はい」

 これは、もしかして恋の相談かな。少しだけワクワクして来た。空っぽになった双方の皿を重ねてテーブルの端に置いておけば、すぐに店の人が取りに来てケーキを持ってきてくれる。

「(わあ、美味しそう)」

 イチゴがたくさん乗っているタルトにフォークを刺しながら瀬尾さんの方を見れば照れ臭そうにもじもじしながらもコーヒーを口にして言葉を紡ぐ。

「あの、仲は良いの?」
「まあ、普通の幼馴染と比べれば……家族ぐるみですし」
「じゃあ……す、好きな人とか、聞いてる?」

 直球だな、イチゴを口に含めばじんわり甘酸っぱい。咀嚼してなんて言えば良いのか考える。このまま私から伝えたいけど、それはさすがにまずいだろう。どうせなら霧谷から告白して欲しいし。飲み込んだと同時に、アイスティーを口に入れて私は口を開く。

「そこらへんはあまり……。瀬尾さん、霧谷のこと好きなんですか?」
「……」

 単刀直入に聞けば、分かりやすいくらい顔を真っ赤にして瀬尾さんはモンブランを一気に口に含んだ。図星か、ならば話は早いかも知れない。
さくりとタルト生地を切って口に運べば、そわそわしながらも瀬尾さんは私を見る。真っ白いワンピース生地に真っ赤な顔、対照的で見ていて飽きない。

「それとなく聞いてみますよ、でも、この前一緒に買い物してたじゃないですか」
「あれは、学校の備品を買いにいく名目だったから」
「でもそのあともデートしてたんでしょ?」
「デート、じゃないけど」
「映画なら立派なデートです!」

 断言すれば耳まで赤くなった。ほんと可愛らしい人だな。少なくなったアイスティーを全て飲み干して空になったお皿にフォークを置く。
瀬尾さんも気まずそうにしながらもモンブランを食べ終えた。

「今度、告白したいと思って」
「あ、えっと、とりあえず霧谷にもそれとなく聞いてみますね?」
「うん……覚悟はするから、その時は連絡ちょうだいね?」

 真っ直ぐな瞳で見られて言葉が怯む。結構真は真っ直ぐな人なのかもしれない。けど、これで二人が両想いだという事が断言できた。後はうじうじしている霧谷を説得して告白を応援しよう。

「じゃあ、出ようか」
「はい」

 お会計をして外に出れば、薄ら寒い。もうすぐ十二月になる。ああ月が替わるたびに不安が募る。
勉強も頑張りながら、二人の恋も応援しよう。



≪ ≫

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