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- ナノ -

03

「行ってきます」
「行ってらっしゃい!」

 今日は土曜日。学校はないけれど私は母に頼まれた買い物へ行くべく早いうちに家を出る。

「(眠い……)」

 欠伸をしながらバス停まで歩いているとき、ふとあるものが目に止まったので私は足を止めて目を凝らした。

「(なに、あれ)」

 道路の隅っこに、黒いもやもやした物体が落ちていた。遠目からだからぼんやりとしか見えないけど明らかに異彩を放っている。
 ていうか、なんだかこの世のものとは思えないような感覚、私に霊感なんて無かったと思うけれど。

「(……)」

 じっと見つめていると、少しだけ変な気分になってくる。あまり見つめてはいけないと思い私は目を逸らして急いでバス停へ逃げるように走っていった。

「……」

 バス停の近くに来た時に、足が止まる。なんだ、アレ。本日二度目だけれど、さっきの黒いもやもやと同じくらい異彩がある。背が高い男性で、今の時代にそぐわない軍服? みたいなのを身に纏っている。けれど帽子を目深に被っているので顔は良く分からないがそこはかとなくイケメンオーラが漂っている。

「……」
「……(刀? 刀!?)」

 え、あの人刀持ってない? 銃刀法違反で捕まんないのかな。というかなんでみんなこんな目立つようなコスプレをしている人に目を止めないのか。
 バス停の近くにいるから嫌でもあそこに行かなきゃいけないし……ちょっと俯いてその人にチラチラと目線を向けながらもバス停に近寄る。

「斬島ぁ〜!」
「!」
「……平腹か。なんだ」
「アイツ中々見つかんねぇな! ……ふぉ?」
「ぁ」

 またまた変な人が来た。やっぱり、私の近くに立っている人と同じで軍服を着て帽子を目深に被っている。けど明らかにテンションの差がある。どうやらこの刀を持っている人はキリシマさんと言うらしい。
 しかも、キリシマさんとは逆にヒラハラさん? という人がじっと見ていた私に気付いたのかこちらに目を向けた。

「なあなあ、どっかで黒いもじゃもじゃ見なかったか!?」
「え、えっと……?」

 ずいっと顔を近づけられていきなり質問をぶつけられる。あ、よく見ればこの人目が黄色い。カラコンかな、ていうか何のコスプレだろう。こんなアニメあったっけ。
 ん? この人が言っている黒いもじゃもじゃってさっき道路で見かけたアレのことかな? 何かあったらすぐ逃げれば良いし、私は震える手でさっき歩いてきた道路を指差す。

「あ、あそこの道路に……それっぽいのが」
「マジで!? あっちだって行こうぜ斬島!」
「ああ」

 何がなんだか分からないけれど役に立てたのかな。ヒラハラさんが「じゃあな!」と私の頭をぽんぽんと叩き物凄いスピードで走り去ってしまった。嵐のような人だ。
 一方のキリシマさんはずっと落ち着いた雰囲気だった。通り際、こちらを振り向いてじっと私を見つめた。

「え、あの……?」
「……助かった。ありがとうな」
「は、い」

 目線が少しだけ交わった。この人は青い瞳をしていた。益々なんのコスプレなのか気になって仕方が無い。
 呆然としている間に二人はいなくなっていて、その間に私が乗る予定のバスが来て慌てて乗車した。

「(……不思議な出会いだったなぁ)」

 なんとなく、だけど、彼等とはまたどこかで会うような気がしてならない。本当に、気がするだけだけれども。



「(買い物終了!)」

 思った以上に荷物が多くなってしまった、上手くバランスを保ちながら店を出ると、その先に見慣れた横顔があった。

「(あれ、霧谷?)」
「お?」

 少しだけ近付いてみたら、そこには幼馴染の霧谷がいた。隣には多分彼の好きな人であろう女の人がいた。
 あまりに見過ぎたのか、霧谷がこちらに気付いて声を上げた。やばい見てたのバレた。

「薺じゃん! こんなところで何してるの?」
「買い物……霧谷はデート?」
「お、おう。まあな」

 照れ臭そうにデレデレしている霧谷の横で同じく頬を赤らめてる女の人。私と視線が合ったらにっこりと笑顔を浮かべて挨拶をした。

「こんにちは」
「あ、こんにちは。初めまして薺です」
「アタシは瀬尾。霧谷くんの同級生です」

 茶色のショートカットが、彼女が動くたびにふわふわと揺れる。日本人離れ茶色い瞳が妙に印象的だ。それ以前に小顔で色白だし可愛い。なんとなく霧谷が惚れた理由が分かるかもしれない。

「霧谷くん、この子って」
「おう、俺が言ってた幼馴染。今受験生」
「そうなの!? 確かアタシ達の学校受験するんだよね?」
「はい」

 やけにぐいぐい来るな、けれど悪い人では無いだろうしこの人話しやすい。一個だけ呟いて頷くと 瀬尾さんは更に表情を明るくさせた。

「わあ嬉しい! もしかしたら後輩が出来るかもなんだね!」
「霧谷、もしかしたらこんな綺麗な人が先輩になるかも?」
「お前ら何言ってんだよ」

 表情がころころ変わる瀬尾がとても可愛らしい。思わず本音がポロリと出てしまった。すると瀬尾さんは、もう輝かんばかりの笑顔を見せて急に私に抱き付いてきた。

「かわいー! 今度は霧谷くん抜きで二人で出かけよう? アタシこんな妹欲しかったなー」
「瀬尾、落ち着けよ」
「霧谷……私、瀬尾さんみたいなお姉ちゃん欲しかった」
「……」

 内向的な私とは対照的でとても明るい瀬尾さんは新鮮だし、同じ同性で年上なのでお姉さんみたいだ。
 霧谷とはまた微妙に違うタイプだから、仲良くなれるか不安だけど最初が好印象だから大丈夫だろう。

「連絡先交換しても良い? アタシでよければ何でも相談のるから!」
「有難う御座います!」
「(俺の存在って……)」

 可愛らしいケースに入った携帯を取り出した瀬尾さんと連絡先を交換する。今度勉強教えて貰おうかな……霧谷曰く、とても頭が良いらしいし。しかもこんな美人さんで頭が良いとか……嫉妬を通り越して憧れる。
 そのあと、三人で行動しない? と言われたけど丁寧に断って二人とは別れる。

「(帰ったら楽しみだなぁ)」

 霧谷が家に帰ったらいっぱい冷やかしてやろうと心に決めて帰路へ付いた。



≪ ≫

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