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14

「バレンタイン、今年は瀬尾の家に泊まる、かも」
「かもってなに?」

 夕方、久々に家を訪ねてきた霧谷はお母さんが持ってきたコーヒーを片手に、何やら煮え切らない表情をしたままぽつりと言葉を零す。ベッドに寄り掛かるように座ってココアを一口啜って、思った事を吐き出せば霧谷はさらに難しい顔をして重たいため息を零した、なんだろうこっちまで辛気臭くなる。

「瀬尾に、お前の話をしたらアタシと薺どっちが大切なの。って言われちまってさぁ……」
「あー……」

 ついに、我慢が切れちゃったのか。なるべくこっちからは連絡を取らないようにしていたのだけど、霧谷変なところで空気を読まないところあるし私が気を付けていても彼がそこら辺を重要視していなかったのか……。
 きり、と頭に痛みが走り誤魔化すようにココアを口に含んで、私はどんよりと顔を沈めている霧谷を向いた。

「うぅん……」
「ちゃんと答えたの?」
「答えたよ……。妹みたいなやつで、お前とは違う家族愛なものだって」
「ふうん……」

 難しいところではあるような気がする。この前瀬尾さんとやり取りした時に分かった、やっぱり私と霧谷は少し距離が近すぎていること、何となく前々から自覚はしていたし何とかしようとは思っていたもののやはり長年培ってきた同じ時間を変えることは難しい。いや、けれども同じ女として瀬尾さんが私に向ける嫉妬心は痛い程分かる、と言いつつも私は恋愛なんてしたことがないから分からないけれども。

「薺?」
「なんでもない。泊りなよ、私も今年は受験があって作る気は無かったし」
「友達とか良いのか?」
「学校にチョコは持ち込み禁止! それに渡す時間とか無いし」
「へえ……」

 いやいやそんな少しだけ悲しそうな顔をしないでよ。あなたにとはとびきり可愛らしい彼女、しかもお泊りが出来るオプションまで付いているんだよ。そりゃ、確かに十数年毎年欠かさず渡してきたけど、ここいらで潮時なのは今目の前に居る霧谷の話と、以前瀬尾さんと話した時で明確に分かった。
 私たちは、変わらなければいけない。必要以上に近すぎた距離を、一般的に見たら普通だと言われる距離にしないといけないのだ。今まで、そう思ったことは何度かあったけど、友達が少ない私は霧谷から離れるのが怖かった、いつも私を護って助けてくれる大切な幼馴染に依存して努力をしようともせずに、ずるずると時の流れを身に感じていた。

「まあ、元々泊まるつもりではいたけどな」
「じゃあ最初からそう言ってよねー」
「薺が寂しがるだろうと思ってな」
「彼女いるってわかってるのにそんなこと言うわけないでしょ!」
「はは、わりぃわりぃ」

 くしゃりと頭を撫でられて屈託なく笑う霧谷に少しだけ不安が募ってしまいそうになる。大丈夫なのかなぁ、今朝方学校で怒られてしまった、という話をしていたくせに私の心配なんかしてて……。
 すっかり冷めてしまったココアを一気に飲み干して、どこか浮かれ気分で私の部屋に置いてある漫画を読み耽っている。

「(……何も起こらないと良いけど)」

 この時、リズミカルな音が部屋に響き、思わず身体を揺らしてしまった。危ない、入ってないとは言えココアのカップを落としそうになってしまう、が、何とか体制を整えて立ち上がれば「携帯鳴ってんぞー」と呑気に言う霧谷がちょっとムカついたので無視して形態を手に取る。

「瀬尾さんだ」
「え?」
「ごめん、ちょっと電話してくる」
「あ、おい」

 画面に表示されていたのは着信の知らせで映っていたのは瀬尾さん。さっき霧谷から聞いた話も、過去の事を遡ってみても正直良い予感はしない。
 そもそも、最後に話したのっていつだっけ? 二月に入ってからは会ってもいないし会話すら、はたまたメールすらもしていない。ダメだ、待たせるわけにもいかないし、私は通話ボタンを押した。

「もしもし」
『------------薺ちゃん』
「お久しぶりです」
『ええ、色々と、ごめんね』

 色々がなにか、がすぐに察しが付いた。そんな事を言われてしまって、それに対してなんて言葉を返せば良いのか分からなく唇を結ぶ。
 電話越しからの空気を察したのか、そのまま瀬尾さんは何事も無かったかのように話題を振ってきた。

『あ、あのね、今度の休日暇かな?』
「休日、暇です」

 勉強がしたい。とは言えなかった、なんだか、断ったらいけない気がしてなにも考えずに即答すれば向こうからは嬉しそうな瀬尾さんの声。
 なんだか、妙な違和感がある、ぎすぎすしていたと思っていたのだけれど、そうでも無かったのかな、まあ平和に終わっているならそれで良い。

『よかった! じゃあ夕方の五時くらいに一緒に買い物行こう』
「夕方ですか?」
『うん、夕ご飯一緒に食べよう』
「はい!」
『それじゃあ、今度の休みにね』

 夕方の五時という事に違和感を覚えつつも、二つ返事で了承して通話を切った。今度の休み、買い物、バレンタインまで一週間を切っていた。

「薺? 俺帰るな」
「あ、うん」
「あと、これからはあんま会わないようにする」
「うん。私もそろそろ霧谷離れする」
「ん。じゃあな」

 電話中に決心したのか分からないけど、霧谷の顔はいつになく真剣だった。思えば、どうしてこんなに遅くまで離れることが出来なかったのか、もっと早く私から言えば、そうすれば、きっと



≪ ≫

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