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11

 最近瀬尾の様子がおかしい。俺が何気なく幼馴染であり、妹みたいに思っている薺の話をした瞬間に、彼女は浮かべていた笑顔を一瞬だけ消したあとまた再びなんともなかったように笑顔を浮かべる。聞いているからに薺と瀬尾の仲は悪くないはずだ、だけど俺が薺と出掛けてばったり瀬尾と会った後から、何かがおかしくなっているのは確かだった。
前以前にかなり積極的になり俺が薺の名前を出した瞬間に別の話題に持ち込もうとする、別に嫌なわけではないけれどもなんでこんな事をするのかが分からなかった。
薺に聞こうと思ったけれどもなぜだか気が引けて何も出来ないままあの日からだいぶ月日が流れもう一月も終わろうとしていた。

「霧谷くん、おはよう」
「……ん、はよ」

 朝早めに登校したのでショートホームルームが始まるまで寝ていた俺の頭を軽く叩いて、学校にやって来た瀬尾は明るい笑顔を向けた。俺は徒歩登校で彼女は電車、しかし行く途中にある駅が最寄なのでそこで普段は待ち合わせをしているのだが今日は朝早くから先生に用があったので一人で来た。そういえば、瀬尾と付き合ってから薺とは一緒に登校することもなくなったな、まあ高校と中学ではホームルームが始まる時間も違うし瀬尾との待ち合わせ時間を考えると必然的に時間のズレが生じてしまう。ていうか、彼女持ちの時点で幼馴染のことをあまり気にする必要はないのか、けれども赤ん坊の頃からずっと付き合いがある身としては、今更関係を絶つことなんて考えられない。
 変な顔をしていたのか、隣に座った瀬尾はクスリと笑うと俺の眉間に指を添えて「皺、寄ってる」とだけ言った。眠気で頭がグラつく中緩やかに動く唇に目が行って思わず生唾を飲むが、すぐに頭を振りその手を握る。

「あー、悪い。ちょっと考え事してた」
「寝てたのに?」
「う」
「なにかあったら相談のるからね」
「……あんがと」
「そうそう、今度のバレンタインうちに泊まりに来ない?」
「え?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。周りを見れば朝が早いためか教室に人はいなく、廊下にチラホラ人がいるだけだった。教室内に響いたんじゃないかというくらい衝撃を受けた瀬尾の言葉、思わず目を見開いて彼女を呆然と見つめれば瀬尾は照れ臭そうに顔を真っ赤にさせて上目遣い気味に俺を見る。

「付き合って、初めてのバレンタインだし……、今年は張り切りたくて……」
「あ、お、おぅ……、うん、行く」
「良かった! じゃあ日程が近くなったらまた予定決めようね」

 バレンタインか、今までちらほらチョコは貰ったことがあるし、無論薺もくれた。あいつ無駄にお菓子作るの美味いんだよな、……今年はくれるのだろうか。ああ、一応バレンタインの日泊まること言って見ようかな、多分面白い反応をしてくれるだろう。
考えていたら口角がつり上がってにやけてしまった。それに気付いた瀬尾はやわらかい笑みを浮かべてる握っていた手を握り返してくれて顔を近づけた。

「なに? 楽しみ?」
「それもあるけど、一応薺に泊まるぜーって自慢しようと思って」
「……連絡、取ってるの?」
「ん?」
「薺ちゃんと」

 空気が、ぴりぴりと張り詰めたのは肌で感じ取った。笑っているけど、目の前の愛おしい彼女は笑っていない、妙に気迫ある声に俺は思わず一歩後ずさりそうになった。

「いや、最近はあまり……」
「けど、取ってるの?」
「まあ、たまに……家とか隣だし」
「なんで!?」

 発狂にも近い声をあげた瀬尾は、俺の知っている瀬尾ではなかった。



 薺ちゃんと連絡を取ってからは、なんだか気まずくてメールも電話も出来ていない。仕方が無い、少しだけそういう時間が必要だと思うしあの二人は距離を置いた方が良いに決まっている。過去の霧谷くんのデートや一緒に過ごしてきた時間を考えてみれば必ずと言っていいほど彼の頭の中には薺ちゃんがいた、会話からたまに零れ出る薺という名前、携帯のディスプレイに表示される薺という文字、彼の中にはいつも彼がとても大切にしている薺ちゃんが潜んでいる。今まで本当に仲が良いんだなー、と思うくらいだったけれども彼のことを好きになるたび、どんどん深入りしてのめり込んでいくうちに笑って許せる余裕が無くなってしまった。
 アタシの事が好きで、アタシも貴方が好きなのにどうして彼女であるアタシを放っておいて幼馴染の方に行くの?

「瀬尾……?」
「……っ、霧谷くんはアタシよりも薺ちゃんの方が大事なの!? ねえ!」
「おい落ち着けよ。そんな事一言も言ってないだろ?」
「言っているようなものよ! 口を開けばあの子の名前ばっかり……聞かされる身にもなってよ!」
「……」

 バレンタインの予定を立てている件は楽しかった、今から凄くワクワクして来たし何をつくろうかな、なんて会話をしながら思っていたのに彼の口から吐き出されたその名前に目の前が真っ赤に染まってアタシは大声を出して言葉を投げつける。連絡しないって約束したのに、どうしてあの子はまだ続けているの? 怒りでなにも見えなくなってじわじわと真っ黒な感情が脳内を蝕んでいく。

「瀬尾、なあ一旦落ち着けって」
「なんで!? ねえなんでよ! アタシなんかよりもあの子が大事なの!?」
「そんなわけないだろ!」
「っ!」

 廊下にも響き渡る声なのに、誰も人がいない。朝早い時間だから助かった、人が居ても多分アタシの怒りは収まることが無かったかも知れないけれど。いきなり彼が大声を出したので思わず肩を跳ねさせれば霧谷くんは切羽詰ったような表情をして私の手を引くとそのまま抱き締めた。
どくどくと心臓の音がアタシの身体から伝わってきて、荒れた私の呼吸と共にその心音も徐々に落ち着いてきている、背中に回された腕は力強くて怒りで真っ赤だったアタシの顔は別の意味で真っ赤に染まり上げる。

「霧谷く、」
「お前、考え過ぎなんだよ。たまに家を出るときに鉢合わせして会話するくらいだ、向こうも忙しいみたいだから家庭教師の予定を立てる以外はもう連絡取ってねぇよ」
「……ごめ、ん」
「良いよ。けど嫉妬してくれたのは、嬉しいと思った」
「……だって、いつも口開けば薺ちゃんだったから」
「あー……確かに認める。妹みてーな奴だから家族愛っつーのかな? ……ほんとごめんな」
「うう、ん……!」

 優しい手つきで頭を撫でられる、大きくて男の子の割には少しだけ華奢だけれどもしっかり骨ばった手は心地良くてそのまま彼の胸板に顔を押し付けるように顔を埋める。だけれども、家を出るときとかはたまに鉢合わせるんだ……二人が会っている、というい事実を聞いただけでアタシの心はモヤモヤして嫌な感情が芽生える。
 フッと目を瞑れば、嫌な空気が肌を撫でた。

「……?」
「瀬尾?」
「なんでよないよ」

 生暖かいものがふわりと靡いたけれども、それはすぐに消え失せた。
どうしよう、出来ればずっと霧谷くんの傍にいたい。そんな事は今の段階では出来ないから無理なことだけど……けれども正直あの子が邪魔だ。彼はアタシだけのものなのに……むくむくと黒い塊がアタシの中で大きくなっていき酷く気だるい。

「霧谷くん」
「ん?」
「……大好きよ」
「……ん」

 照れ臭そうに、「俺も」なんて上から降ってきた。嬉しくなってその身体を強く抱き締める、まだ人が来る気配は無いから大丈夫だろう。
この時間がずっと続けば良いのに……。けれども、本当にあの子はどうしようかな、二月に入ったらきっと忙しくなってしまう……だからこそ、あの子に言っても良いのかな。決めた、もう一月も終わるし二月が始まった休日にお話をさせて貰おう。アタシと彼の幸せを邪魔するものは許さない、例え彼が大切にしている人であろうとも。



≪ ≫

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