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09

 地獄のような模擬試験を終えて、帰ってきた成績は目標の高校をゆうに超えていて思わず大きな声を出してしまった。けれど受験が終わったわけじゃないからのんびりしていられない、霧谷に勉強を見てもらいつつたまに瀬尾さんと恋話をする。
 そんな生活を続けていて、気がつけば一月の半ばになっていた。

「霧谷〜!」
「よっ、迎えに来たぞ」

 今日は幼馴染とお出かけの日、模擬試験の出来が良かったからご飯を御馳走してくれるらしい。嬉しい、甘いモノいっぱい食べたい。そういえば十二月のあの出来事から、二人は碌にデートが出来ていないみたい、冬休み中は瀬尾さん自身が旅行だったし、他の休日はお互い多忙とのこと。明日は霧谷自身予定は入ってないけど、どうするんだろう。

「瀬尾さんとデートは?」
「無いよ。それは明日」
「わあ、今日明日と出掛けて大丈夫なの?」
「お年玉結構もらったからな、安心しろ」

 笑顔で霧谷が答えて、つられて私も笑い出す。やっぱり霧谷と居ると楽しいなあ、もう兄妹みたいな感じだし。

「やっぱり人がたくさんいるな」
「土曜日だしね」

 駅は、たくさんの人で賑わっていた。勉強で部屋に篭っていたから人酔いしそう。

「うっし、行くか」
「うん!」

 久々の霧谷とのお出かけでどこか心が弾んでいる。そういえば、最近めっきりキリシマさん達を見なくなってしまった。二度あることは三度ある、なんて言葉もあるくらいだからまたどこかで会えないかな。なぜだか、もっとあの人含め、他の人たちともお話しがしたい、という欲が渦巻いていてぐるぐる脳内を回っている。
 年はだいぶ違うかも知れないけど、知人、友人くらいにはなれないかな。

「薺?」
「! なんでもない、ケーキ食べたい!」
「はいはい、分かりましたよお嬢様」

 呆れたように頭を撫でる霧谷の手に自分の手を重ねて、私も笑った。思えば、ここから徐々に歯車は軋み、狂い始めていたのかも知れない。



「お腹いっぱい〜……」
「底知れぬ胃袋の持ち主だな……」
「うっさい」

 今日体重計乗るのが地味に恐いけど、甘いモノをたくさん食べられて私は御満悦の表情で街中を歩く。学生割でお値段は安かったら霧谷の財布の負担も軽くなっただろう。信号の待ちのところで立ち止まって、次の予定を決める。思えば事前に予定を立てておけばよかったかもしれない、まあ殆ど彼と出掛ける場合はこういう行き当たりばったりパターンが多いから良いか。今更のことじゃないし。

「次はどうする?」
「んー……、ゲームセンター?」
「良いな、欲しいものあったら取ってやるよ」
「期待はしてないけど」
「おい」

 今まで勉強で溜めていたストレスが一気に解放されそうだ、一日中学校以外でこうして外を遊び目的で出歩く事がこんなに楽しいものだなんて……受験生ってほんと尊く悲しい生き物だ。早くこの呪縛から解放されたい。

「わーい、ゲーセンゲーセン!」
「おい、危ない」
「っわ!」

 信号が青になったので、渡ろうとしたとき目の前に人が走ってきたのに気付かなかった私はそのままその人とぶつかってしまった。思ってた以上の衝撃で道路で尻餅をついてしまえば、霧谷が慌てて私を起こす。

「いたたた」
「大丈夫か? ……すみません、ほんと」
「あれ……薺ちゃんと、霧谷くん?」
「あ」
「瀬尾!?」

 なんとぶつかった相手は、霧谷の彼女さんの瀬尾さんだった。わあ、なんという偶然。二人共吃驚した表情でかたまっているし。信号の色が変わりそうだったので私はかたまる二人を押して道路から離れていく。

「吃驚した……、ほんとにごめんね薺ちゃん」
「いえ気にしないで下さい」

 瀬尾さんは、冬場ということもあって厚着をしている。黒のマフラーに、モスグリーンのコート、真っ白なレースがあしらわれたスカートに茶色いブーツ……ファッション雑誌から出てきたような可愛らしい格好をしていて私はじっと彼女を見つめてしまう。やっぱり、彼女は可愛いし綺麗だ、いっそお姉さんになって欲しい。

「つうか、瀬尾はなんでこんなところに?」
「明日のデート用の服を買いに来てた途中だったの」
「まじで!? すっげー明日楽しみ!」
「ふふっ、瀬尾くんったら」

 はにかみながら笑う瀬尾さんと、子どもみたいにはしゃいでいる霧谷。完全においてけぼりな私。とりあえず末永く爆発しろ。……これって、もしかして私帰った方が良いかな、二人共ほとんどデートとか出来なかったみたいだし。

「二人は? 買い物?」
「いや、薺の模試が終わったからちょっと息抜きってやつ」
「そうだったの? お疲れ様薺ちゃん」
「有難う御座います!」
「久々に薺とのお出掛けだからつい楽しんじまってよ」
「……そう」

 あれ、笑顔で私の頭を撫でながら言葉を紡ぐ霧谷の言葉に、一瞬、本当に一瞬だけだったけど瀬尾さんの顔が歪んだ気がした。いや、まあ気のせいだよね。

「んじゃ、俺らもう行くな」
「!」
「え、霧谷、どうせなら瀬尾さんも」
「明日があんだろ、今日はお前と約束してんだし。じゃあな瀬尾」
「ばい、ばい」

 うわあ気づけよこの鈍感! 言葉を発する前に霧谷は私の腕を引っ張ってするりと瀬尾さんの横を通り過ぎた。まあ、確かに彼の言う事も一理あるけど少しは名残惜しそうにした方が良かったんじゃ……。

「(あれ)」

 通り過ぎたあと、少しだけ振り返ったあとに違和感を感じた。瀬尾さんの身体に、なにか黒い物体が纏わり付いているように見えて思わず変な声が出そうになった。けど当の本人の瀬尾さんは纏わり付いているものに気付かず、もしくは見えていないのかそのまま何事もなかったかのように向こう側へ行ってしまった。
 私の、見間違いなのかな。

「……はあ」
「ん? ため息付くと幸せ逃げんぞ」
「すっ」
「ははっ、なに吸ってんだよ」


「……なんで、なんで、あの子なの」


 ぎしぎしぎし、歯車は、ゆっくりと歪んでいく。



≪ ≫

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