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「ハロウィンという事でお菓子を作りました」

 獄都に存在する館の食堂で、特務室に在籍する紅一点名前は目の下にうっすらと隈を作りながらもつけていたエプロンを外した。食堂に呼ばれ、早く来ていた斬島、佐疫、平腹はその光景に思わず目を丸くするもすぐに色取り取りの瞳を輝かせる。

「凄いな」
「……これ、全部手作り?」
「すっげー! うまそー!」
「キリカさん達が帰った後に食堂借りて作ってました。……作ってる途中で楽しくなってこんなにたくさん……」

 短く纏め上げた髪を解き、銀鼠色が映し出すのは長方形に並んだテーブルの上を埋めつく大量のお菓子たちだった。ハロウィンはカボチャという浅い知識しか無いまま作れる限りのカボチャを混ぜたお菓子を作っていた結果元々お菓子作りが好きなせいかとんでもない数を仕上げてしまったのだ。カボチャのプリンにマドレーヌ、ケーキは勿論クッキーにプティングや飴、その他和菓子洋菓子のカテゴリーで材料にカボチャを入れて出来得る限りずっと夜な夜な製作していたとのこと。無論食堂には思わず眉を潜めるほどの甘い匂いが立ち込めている。

「徹夜?」
「はい。寝るの忘れてました」
「お前の集中力は末恐ろしいな」
「んめー! 名前、このプリンめっちゃうまい!」
「ああ平腹先輩まだ食べちゃ駄目ですって!」

 さっそくご相伴に預かっている平腹の言葉に嬉しさも感じつつも、まだ揃うべき人数が揃っていないので慌てて止めに入る。ほぼ現世で言うスイーツパラダイス状態だから勝手に食べて良いよと言いたい所だが、どうせならみんな揃って食べたいという気持ちが名前にあった。
 平腹の腕を掴んで止めに入ろうとしたとき、残りの三人が食堂へ入ってきた。

「うわ〜、凄い甘い匂い〜」
「……なんだこの大量の菓子は」
「…………あめぇ」

 木舌、谷裂、田噛だった。何故だか木舌は酒瓶を抱えているし谷裂は食堂に立ち込める甘い匂いに眉を潜めている、一方の田噛は特に変化は見られないがテーブルに並べられたスイーツの数に思わず目を見開いた。

「現世ではハロウィンという伝統行事があるので、まあそれに参加するのも悪くないかな〜と思いましてお菓子だけ作りました」
「俺らにとっては自虐行為だけどな」
「いや、そうですけど……楽しむくらいはしましょうよ田噛先輩」

 確かにハロウィンは悪魔払いや魔よけとして行われた行事とも言われているくらいだし、それを地獄に住む鬼達が祝うなんて変わっていることくらいは分かる。けれども常日頃仕事に追われている自分達にも多少は楽しむくらいは良いだろうという軽い気持ちだ。全員揃ったので「適当に食べましょうか」とだけ口添えて名前も目の前に置いてある小さなキャラメルを口に含んだ。

「思っていたより甘くないな……」
「ね、美味しいよ名前」
「わー有難う御座います。そう言って頂けると作った甲斐があります」
「ん? これお酒入ってる?」
「チョコレートボンボンですね、木舌先輩用に結構大量のお酒入ってますよ」
「本当かい? 嬉しいな〜」
「ここで飲んで騒がれても困りますしね」
「……」

 今まさに酒瓶の酒を注ぎ、多分同じ量の酒が入っているであろうチョコレートボンボンを口に含もうとしていた木舌の手が止まった。酒を飲むかチョコを食うかどっちかにしろ、言葉にはなっていないが大きな銀鼠色の瞳はそう訴えている。
 平腹は最初に名前が止めに入ったにも関わらずそれを無視してずっとお菓子を頬張っている、チラリと平腹に視線を彷徨わせれば彼ははじけんばかりの笑顔だったのでまあ良いか。と静かに名前は笑みを作り出した。

「……美味いな」
「……」

 甘さが控えているカボチャの饅頭を一口齧り思わず惚けるように言葉を吐き出せば、クッキーを齧っていた田噛も黙って頷いた。どうやらストイック者とどこか素直ではない二人も無意識に関心してしまうほどの味ではあるらしい。
 ケーキを一口台に切り口に含めば作った張本人である名前も「ん」と満足気に笑みを零した。
 すると喉が渇いて紅茶で喉を潤していた佐疫が、黙って咀嚼をしていた名前に視線を移しふっと言葉を吐き出す。

「けどハロウィンってこういう行事なの?」
「まあ本来は仮装してトリックオアトリート、「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ」と脅しをかけるのですが、ハロウィンに気付いたのだ昨日だったので」
「へー! 人間って変なことするんだなー!」
「約数年前にケルト族がサムハインと呼ばれる死の神に仕えて死んだ後、人間の魂はサムハインで救われるという宗教から始まった。一年に一度サムハインの神をなだめるために犠牲をささげ、その日が一年の終わりの日である十月三十一日に行う。ケルト人は過酷でかたくなな民族で犠牲をささげるときは人々まで焼いて捧げた。そして、その宗教団体は、夜に黒い服と黒のフードをかぶり、トーチを照らして村ごとに訪ねては強制的に処女を生け贄とし、人身犠牲をささげ、町に行っては "処女を捧げるか、死ぬか? "と促して、処女を捧げない村は完全燃焼させてしまったという言い伝えもあるな」
「……人間とは、中々に凄いものを祝うのだな」

 無表情で未だにクッキーを頬張る田噛が抑揚の無い声で吐き出したハロウィンの言い伝えに思わず全員の手が止まった。さすがに名前もそこまでは知っていないらしく、ハロウィンは人々が仮装をして賑やかにお菓子等をする行事だと思っていたので、田噛が言い出したその伝説には流石に思考が停止何かがあるには間違いない。

「ふん、どうせその言い伝えはこちらでは関係の無い事だろう」
「言い伝えなんてそこら中にたくさんあるし、何が正しいかなんて分からないからね〜」
「そ、そうですね……今日は普通にお菓子パーティーのように楽しみましょう」

 名前もハロウィンという名目でただ、全員でこうしてお菓子等を食べたかっただけ。という下心もあったがそれを口には出さずに居る。最近はこうして特務室全員で揃って居る事事態も少なかったし、自分は女であるから中々男性達が住む館には来られない、家族、と言ったら変だけれどもこうして信頼している仲間たちと賑やかに過ごす事は何にも変えられない掛け替えのない事だ。

「……ほう、随分賑やかだな」
「おやおや。こんなにたくさん作って食べきれるのかい?」
「肋角さん、災藤さん」
「お仕事終わったのですか?」

 語弊だ、特務室は彼らだけではなかった。彼らを纏める上司が二人、肋角と災藤も穏やかな表情でお菓子を頬張っている彼らを見て言葉を投げ掛け食堂へと入り込む。二人の声に気付いたと同時に斬島が名を呼び、佐疫が質問を投げ掛けた。

「ああ、他の課の奴等が現世で調査をしていてな、今ここは暇な状態だ」
「ハロウィンと言う行事に感けて悪戯する霊達がいるからね」
「あ、やっぱりそういうのはいるんですねー」

 何でも課と影で言われている特務室組は今日、ある意味休暇を与えられていたのかも知れない。制帽を脱いだ二人に名前は取り分け皿を渡して、照れ臭そうに笑顔を向けた。

「良かったら召し上がって下さい。久々に、こうして全員でお食事が出来ますし」
「名前も行事は楽しみたい派か」
「私には寧ろ後者が目的だと思うけど?」
「え」
「……なんて」

 悪戯っぽく笑顔を浮かべた災藤の言葉を聞いて、肋角も何かを察したのか黙って骨ばった大きな手で彼女の頭を数回撫でた。ああ、やはり親と呼んでもおかしくないくらい尊敬している二人にはバレていたのか、撫でられた頭に手を添えて、名前はなんとも言葉にし難い、真綿で撫でられたかのような心のくすぐったさを身に覚えた。

「名前、こっちで一緒に食おうぜー!」
「そうだよ、作ってくれた人がそんな隅っこに居たら変でしょ?」
「お前が楽しんでるんだ、俺達も楽しもう」
「……食い過ぎるなよ」
「紅茶淹れてくるね」
「……」
「私達も頂くか」
「そうだね、せっかく可愛い娘が作ってくれたんだ」

 ふんわりと甘い香りの中で、温かい膜に包まれたかのような優しい気持ちで一杯になる。じんわりと鼻の奥が熱くなったよう泣きがするけど、気のせいだろう。大切な家族、同僚達の笑顔をしっかりと目に焼き付けて名前も足をゆっくりと動かした。

Happy Halloween

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間に合った。仮装というよりかは、ただこうして賑やかにお菓子とか頬張ってる特務室が書きたいな〜と思いましてこうった形に。凄くどうでも良いですけど、後輩獄卒はカボチャは好んで食べません。