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一部少しだけ下品

 名前と斬島はお互い相思相愛の恋人同士だ。恋人同士といっても二人は付き合う前とお互いの接し方はあまり変わっていない。付き合いだした当初は、斬島本人から直接聞いた佐疫以外は誰も二人が付き合っていることを気付かなかったほどだ。
付き合い始めて数ヶ月経ったとき、特務室の同僚達が集まり任務の報告会を行っていた彼等の中で木舌が偶然発した言葉によって二人の関係が仲間内に知れ渡った。

「名前、首筋のここ赤いよ?」
「え!?」
「蚊に刺された?」
「……もしかして、昨夜のか?」

 上着を脱ぎシャツ一枚だった名前のうなじに目が行った木舌は白い肌に目立つように咲いた赤色の跡を指先で突いて、言葉を発した。明確な場所を指で触れられ、衝撃的な言葉を耳にした名前は大きな声を出しうなじを手ですぐに隠した、その反応にからかうように問い掛けた木舌を他所に資料に目を通していた斬島が顔を挙げさらに衝撃な言葉を発し周りの空気が一気に変わった。
 欠伸をし、寝る体制に入っていた田噛は何かを察したのかチラッと二人を一瞥した後にそのまま机に突っ伏し、ダンベルを上げ下げしていた谷裂はダンベルを地面に落とし煙が出そうなくらい顔を真っ赤に染め上げる。資料に落書きしていた平腹は斬島の言葉なんか気にせず落書きに夢中だ。察しの良い木舌は全てを理解したのか、斬島の発言で放心状態気味の名前に向かって声を掛ける。

「え、なに? もしかして二人ってそういう関係?」
「あー、えっと……?」
「名前、その赤いのは昨夜のか?」
「斬島今それ聞くところじゃないから!」
「んぉ? なんで名前斬島に呼び捨てタメ口なんだ?」
「付き合ってるからだろ」

 起き上がった田噛はだるそうに言葉を言い放った瞬間、ずっと様子を見ながら紅茶を嗜んでいた佐疫は笑顔を崩すことなくこの微妙な空間の中に言葉を投げ入れた。

「というかみんな、知らなかった?」
「佐疫知ってたの? おれ全然知らなかったんだけど」
「俺は斬島から聞いたよ」
「佐疫は何かと頼りになるからな」
「というかわざわざ自分から私達付き合ってます、なんて言えませんよ……」
「ホウレンソウを常に心がけろと言っているだろう名前!」
「無茶苦茶ですって!」

 女性獄卒と男性獄卒の比は同じくらいだが、如何せん屋敷が男女別であり特務課に所属している者たちは名前を除き全て男性だ、浮ついたことなどよっぽどの事がない限りありえるはずがないからこそ恋愛騒動というものは物珍しく騒ぎ立てられることくらいは覚悟していたがここまでややこしくなるとは、きりきりと頭が痛んだので名前は眉間を揉む。
だが女である自分以前に獄卒だ、恋愛感情などは生前も経験した事が無かったし感情が乏しくなった今現在で好きな人が出来るなんて思ってもみなかった。しかも相手は生真面目で自分以上に感情に変化が無くましてや恋愛という単語が似合わない斬島とだ、まあ思い返せば、告白自体も告白らしいものではなかった、二人で任務を遂行した帰りにふと「名前と居ると身体が熱くなり動悸が激しくなる」というようなニュアンスの言葉を言われ気が付けば抱き締められていた。真面目故行動も素直な斬島の行動に慌てふためいたがそんな斬島だからこそ名前は惹かれ、結果付き合うことになった。

「まあけど、お前等見てれば大体察しが付くだろ。こいつ斬島にだけ呼び捨てタメ口だったし」
「あ、確かに」
「さすが田噛先輩……」
「オレ全然知らなかった! なあなあもうえっちしたのか!?」
「はっ!?」
「平腹貴様は黙ってろ!」
「いってえ! 殴ることないだろ谷裂!」

 なにも考えずに言葉を言い放つ平腹の悪いくせが出た、悪意無く発せられた疑問に名前は手に力を込めて持っていたシャーペンが音を立てて真っ二つに割れた。平腹の発言に爆発しそうなほど顔を赤くさせた谷裂はダンベルを持ち容赦なく平腹の頭をぶん殴った、とてつもなく鈍い音が響いたが平腹自身は無事だったのか頭から血を流しつつも谷裂に対抗する。

「まあでも跡があるのと、斬島の発言から捉えるとある程度のところまでは、」
「木舌先輩黙って!」
「痛いいたい! ストップ!」
「あ、目玉取れた!?」

 きわどい部分まで曝け出されそうなのを止めるため、名前は木舌が放つ言葉を全て聞き終える前に指二本を突きたて木舌の目玉に刺しその勢いで目玉を抉り出してしまった。あの廃校に行って以来なぜだか木舌の目玉は取れやすくなっている。……これは、本格的に治療を進めた方が良いかも知れない、と赤に塗れた翡翠色の球体を木舌に返しながら心の中で呟いた。
どっちにしろ、みんなにバレてしまった、と言っても隠していたわけではないから困ったことは無いのだが妙に気恥ずかしい。言葉が思いつかなく思わず斬島の方に視線を向ければ斬島が立ち上がり、名前の肩を抱き寄せさらりと言葉を吐く。

「賑やかなのは良いが、あまり名前を困らせないでくれ」
「……お熱いことだな」
「いいなー。おれも名前みたいな可愛い彼女ほしいなー」
「その前に貴様は酒の飲む量をなんとかしろ!」
「あー……、ほら先輩達、早く会議進めちゃいましょうよ」
「俺たちでやっちゃおう? どうせ後はグループ決めるだけだし」
「そうだな、名前こっちへ来い」
「う、うん」

 ぎゃーぎゃー騒ぐほかの奴らは置いておいて、佐疫と斬島、名前は三人で纏まり資料をテーブルの上に広げ今度の任務についての会議を始めた。あまりにも騒ぎすぎて彼等の上司である肋角にしこたま叱られるのは数時間後の話である。
叱れらた後はすぐに解散したが、帰り際にふと話していた内容が斬島を変えることになる。

「けど斬島って愛情表現希薄そうだよなー!」
「確かに。好きとかそういう言葉言わなさそうだよね」
「……俺はきちんと愛情は示しているつもりだが」
「けど女って分かり易い愛情表現の方が好きじゃない?」
「……そういうものなのか?」
「もっと人前とか気にせず大胆になってみれば?」
「善処する」

 木舌と平腹の言葉の通り、斬島はあまり甘い言葉などは吐かないがスキンシップはしているつもりだった。二人きりになれば普通に身体を寄せ合ったりキスもする、けれども彼等の言葉の節々を効いていると、二人きりの時にしかしないからいけないのだろうか。
二人にからかわれた様な気も否めなくこのままだと名前にも何か言われそうだと思い斬島はもっと大胆になる決意をした。多分、普段二人きりの時に行っている行為を人前でもやってみせれば良いのだろう、安直だが多分一番彼等が求める答えに近いはずだ。



 後日、食堂で食事を取っていた名前達のところに斬島が現れた。真っ先に気付いたのは平腹で「お、斬島ァ!」と叫ぶと一斉に一緒に食べていた名前達が振り返った。口に含んでいたご飯を飲み込み、名前は座りながら斬島を見上げた。

「斬島、任務行くの?」
「ああ。連絡はするが、遅くなりそうだったら先に寝ててくれ」
「ん……分かった」

 任務はあること自体は前から分かっていたけれども、やはり虚無感はある。なるべく表情に出さないようにすっと微笑を浮かべてその場から立ち上がると「行ってらっしゃい」と胸元を軽くポンと叩く。名前が任務へ行く時は、斬島が彼女の頭を撫でる、お互いのエールの仕方はいつの間にか染み付き今でも続いている。
この時点で仲睦まじい事は十分に分かるし激励も送ったから真っ直ぐ任務へ行くだろうと誰もが思っていたが、今日の斬島は違った。立ち去る様子もなく、ただ真っ直ぐに名前を見つめている。

「斬島?」
「早く行かないと遅れちゃうんじゃない?」
「なにか用でもあるのか」
「……ああ」

 周りの反応に曖昧な生返事をしながら、斬島は深く被っていた制帽を脱ぎだして合いも変わらず名前を見つめる。さすがに恋人のみょうちきりんな態度に訝しげに表情を歪めた名前はゆっくりと首を傾けて恋人を見上げるだけだった、が、それと同時に左肩に斬島の手が置かれ、顔が一気に近くなった。何時にも増して可笑しい同僚の行動に誰もが目を丸めた瞬間斬島は、

「行ってくる」
「う、ん、……え?」

 囁くような言葉と共に、そのまま顔を近づけ斬島は名前の唇に自らの唇を重ねた。
周りの目が有るにもかかわらずなされた行動に理解出来てない名前は唇が離れたと同時に素っ頓狂な声を出し、座ってご飯を食べていた同僚達はさらに目を丸くした。

「な、え、斬島!?」
「あー! ちゅーした!」
「斬島随分大胆だね」
「つうか、場所考えろよ」
「き、斬島! 場所を弁えろ!」
「……? こうした方が喜ぶものではないのか?」

 真顔で問い掛ける斬島に悪気が無い事は分かるが、あまりにも心臓に悪すぎる。不意打ちで身体が一気に熱くなって唇が触れた部分に手を当てる。
これは、多分誰かにいらぬ事を吹き込まれたのだろう。なんとなくそれっぽいであろう人物に目を向けると、我関せずというような表情で酒を煽っている。

「……もしかして?」
「あー……まあ、大胆になれば? とは言った、かな?」
「大胆になりすぎてますから! ああもう酒飲むな!」
「良いじゃん良いじゃん、肉食系斬島とか」
「そういう問題じゃありませんから!」

 けれども、正直嫌ではなかった。なんて言葉はみんながいる手前言えなかったけれども、はあとため息を零して項垂れれば後ろから斬島の手が伸びて名前の身体に絡みついた。今だ混乱状態の名前は無言で身体を跳ねさせながらも大人しく恋人の腕の中に閉じこもっていると、斬島が不安げな表情で問い掛けた。

「……すまない、嫌だったか?」
「あ、えっと……違うよ」
「だが、普段の反応とずいぶん違うぞ。……はっきり言ってくれ」
「嫌なわけじゃない! けど、……人前だと、恥ずかしい……」
「……そうか。ならば今度は二人だけの時にするよう心がける」
「お願いします……」

 羞恥プレイ過ぎる、恥ずかしさのあまり声の大きさは控え目気味にして斬島と囁くように会話をして想いを告げたら斬島はきゅっと刻んでいた眉間の皺を緩めて少しだけ口角を吊り上げて笑った。それと同時に身体に絡み付いていた腕にも力がぎゅっとこもり思わず名前の胸も大きく高鳴った。

「なるべく早く帰る。待っていてくれ」
「……うん。気をつけてね」
「行ってくる」
「はー……」

 相手を喜ばせるためなら何でもやってしまう、食堂から出て行った馬鹿真面目な恋人に呆れてしまうが堪らなく愛おしくなり先ほどから熱が止まない頬に手を当て、息を吐き出す。そして息を整えたあと、ゆっくりと木舌の方を振り向いて笑顔を向ける。

「木舌先輩、個人的にお話があります」
「……えっとー?」
「さて、そろそろ行くか」
「そうだなー! ゲームやろうぜ!」
「俺も鍛錬に戻る。付き合え佐疫」
「仕方がないなぁ……分かったよ。木舌、あまり飲み過ぎないようにね」
「え、待ってみんなこの状態で置いていくの!?」
「先輩、どこへ行くんですか?」

 周りの空気を察してからか、木舌以外の仲間たちは各々用件を口走り席を立ち上がる。木舌の表情はどんどん青ざめて行きつられて立ち上がろうとしたがそれよりも素早く名前が彼の肩を彼女から出ているとは思えないほど力強く抑え座らせる。
目の前には死しか見えていない、落ち着かせようと彼女の顔を見た瞬間に悟った、口元だけが笑っており、目元は完全に憎き亡者へ向ける視線だった。

「(終わった)」
「純粋な斬島に変なことを吹き込んだ罪は重いですよ」
「けど、まんざらでも、」
「さようなら木舌先輩」

 叫び声を出す前に、木舌の意識はブラックアウトした。


「名前、食堂で木舌が倒れていたのだが」
「気にしないで。それより、お帰りなさい斬島」
「ただいま。……今、しても良いか?」
「……ん」

 人前だと心臓に悪いし、素直に甘えることが出来ない。やはり二人きりの方が良いな、と実感しながら名前は向けられた青い瞳を瞼に焼き付け目を閉じた。

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人前でも気にせずイチャつく二人だったんですが……よく分からないものに。
甘えん坊斬島可愛いと思います。甘えん坊好きです。

題名:Raincoat.様