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 書類作成も終わり、明日は久々に休みを貰えた。風呂上りで濡れた髪をタオルで適当に拭きながら冷蔵庫から酒の缶を一本取り出す。明日の予定はどうするか、なんて考え込んでいたら部屋の扉が唐突に鳴り響いて少しだけ肩を揺らす。
 時計を見れば十時前、こんな時間に訪ねてくるとしたら任務について急ぎの質問がある部下達だろうか、しかしそんなもの電話で済ませられるが。疑問に思いながらも扉を開けば目の前には誰もいない、視線を下に向ければそこには見慣れた人物が立っていた。

「名前?」
「肋角さん〜こんばんは」
「っおい、……どうしたんだ」

 部下である名前がふらふらした足取りで俺にしがみ付く。重たそうに頭を上げて俺を見上げるその顔は朱色を纏っており、目元には涙が溜まっている。女子会と言う名の飲み会があると言っていたが……それよりもなぜ俺の部屋になんかにやって来たんだ。

「名前、部屋を間違えているぞ」
「んー……?」
「っと、……はあ、とりあえず入れ」
「お邪魔しまーす」

 送ろうと思いながらも、なぜだか別の感情がそれを邪魔する。倒れてしまいそうな彼女の身体を支えれば涙で潤んだ目で見上げてきてふにゃりと笑顔を向けてきた。仄かに赤い顔と熱い身体も相まって理性が崩れそうになるが何とか耐えてベッドに沈み込ませればお構い無しに上着を脱ぎ始める。

「名前、着替えるなら脱衣所で」
「肋角さん、脱がしてください」
「……」

 抱くのをせがむ赤子のように両手を上げてこちらを見つめる名前。はだけたワイシャツからは色白の鎖骨が浮き出ており視線をずらせば胸元がほぼ直視できる。恋人でもない男にそんなことを頼むかと思いながらも重たいため息を零して彼女の身体を直視しないようにしつつ背中を持ち上げて上着を脱がそうとすれば、不意に彼女の細い手が首元に絡みつき動けなくなる。

「名前っ」
「いい匂い……。肋角さん好きです……」
「っ、……例えおふざけでも、好きでもない男にそういうことを言うな」
「ふざけて、ないです。ちゃんと、今自我あります」
「とにかく、離れろ」
「嫌です。やっと、好きって言えたんですから」

 言葉を吐く前に目を閉じた名前の顔が近付いていきそのまま触れるように唇が合わさる、突然の行動に驚きで目を見張っていると一回だけ上唇を舐められ細められた涙で普段よりも透いている銀の双眸とぶつかる。未だ手が、身体が離れる気配はない。好き、というのは酔った勢いか、はたまた本当に恋愛感情を抱いているのか、都合の良い解釈が脳内を浸していき俺の理性を崩れさせるには十分すぎるくらいで寝転がっていた彼女の身体を持ち上げて足の上に座らせて唇に噛み付く。

「んむ、……ろっかくさん?」
「……覚悟は出来ているだろうな」

 耳元で囁けば名前は熱い吐息を吐くだけだった。



 少しだけ寒くてゆっくりと目を開ければ見慣れない景色。まずそこに違和感を感じて固まる、時間を確認するべくサイドテーブルに寝惚け眼で手を伸ばせばあるはずの時計が無い、おかしい、おかしいぞ。冷や汗を流しながら身体を少しだけ起こして掛け布団を剥がした瞬間、え、なんて言葉を吐く。

「は、え……なんで、裸」

 私の部屋のベッドはまあ普通のシングルベッドよりも少し大きい、けれどこのベッドはそれ以上に大きい、なにこれ私が三人くらい寝れそう。って違う違う、違和感はそこにもあるけど何で私裸なの、いや、下は穿いてるけどそれ以外なにも纏ってない。寝ているときに衣服を全部脱ぐなんてこと今までないし、あれ、そういえばなんか身体だるいし腰も痛い。試しに頬を抓れば痛い、夢じゃない。ベッドの下に脱ぎ散らかってる私の軍服達……というかここどこ。なんかもう嫌な予感しかしないんだけど。とりあえずベッドに横になる。

「起きたか、名前」
「!」

 想像以上に身体がけだるくて痛いから上半身だけ掛け布団に包まりながら起き上がると、お風呂上りなのか上半身裸で髪の毛をタオルで拭く、上司である肋角さんが凄く良い笑顔でこちらを見ていた。さあっと血の気が引いていき最悪な事態が頭を過ぎっていく。昨夜は飲み会があって、あまり酔わないようにセーブをして飲んでいたのだ、あれ、そっから記憶が無い。なぜだか誰かと会話をしていた記憶があるのは確か……もしかして、いや、もしかしなくても。

「お、おはよう、ございます」
「おはよう。……まずはこれを着ろ。服は洗濯しておくぞ」
「はい」

 多分私の顔は真っ青だろう、それに反してなぜだか妙に上機嫌な肋角さんは彼のものだと思われるワイシャツとズボンを私に差し出して床に脱ぎ散らかってる軍服達を回収して脱衣所に消えていった。ああどうしよう、私とんでもないことしでかしたかもしれない、下着を着けてワイシャツを着れば案の定丈は膝くらいまで、これ一枚でワンピースになるじゃないか、どうせズボンはぶかぶかだろうから止めておこう。うるさいくらい鳴り響く心臓の音を必死に抑えながら床の上で正座をしていると脱衣所から肋角さんが出てきた。

「あ、あの」
「なにか飲むか」
「大丈夫、です」
「では、本題へといくか」

 服を着た肋角さんが、正座をしている私の前に座って言葉を吐く。なんだこれ、拷問か。心臓がさっきよりも早く音を立てて冷や汗も流れてきた。

「昨夜のことは覚えているか?」
「あの飲み会を早く抜けたことは……覚えてます」
「そのあと俺の部屋に来たことは?」
「……ない、です」
「そうか」

 なに、私そのまま自室へ帰らないで肋角さんの部屋にお邪魔しちゃってたの、ああじゃなきゃこんなところにいるわけないもんね。ほんとなにしてんの昨日の私を全力で殺しに行きたい。そしてその後多分致しちゃったよね、ほんと馬鹿だ、死にたい。ぎゅっと拳を握り締めて黙っている私を見た肋角さんはぽん、と私の頭に大きな掌を乗せると優しい口調で言葉を投げ掛ける。

「悪かった」
「え」
「お前に好きと言われて、その場の感情に任せてお前を抱いてしまった。……本当なら死んでも止めるべきだったのに、私欲に負けてしまった俺を殴ってくれても構わない」
「は、じ、自分好きって?」
「ああ、かなり甘えん坊だったな。自我は少しだけあると言っていたぞ」
「ああああああああああああ……嘘だろ……」

 自我ないじゃん、酒の勢いで告白しちゃうとか最低。どうせならもっと普通の場所で告白したかった。多分肋角さんも同情で私を抱いちゃったのか、それとも男の欲とかそういうので抱いちゃったのか……どっちにしても最悪だ。

「本当に、申し訳ありません……こんな形で告白しちゃうなんて」
「……信じて良いのか?」
「え?」
「昨夜言っていた、好き、という言葉は信じても良いのか?」

 いつになく真剣な表情の肋角さんに言葉が詰まる。どうして、そんなことを聞くんだろう。ああそういえば、その場の感情に任せて、なんて言っていたけど肋角さんも、もしかしたら嬉しかったのかな。だから……なんて都合の良い感情が渦巻いてごくりと生唾を飲んで頷けば、頭に乗っていた肋角さんの手が頬を滑っていき愛おし気に撫でられた。
状況が理解出来なくて呆然としていれば、細められた赤い瞳に身体がかたまる。

「肋角、さん」
「そうか、良かった。……好きではないと言われていたら罪悪感にずっと苛まれていたかも知れない」
「ん? え、それって」
「言うのが逆になったが、……俺も名前が好きだ」

 心臓がどくんと鳴り響いて。目の前が一瞬だけ真っ暗になった、両想い、ということだよね。

「あ、の……!」
「名前。俺と、恋仲になってくれないか?」

 嬉しさで打ち震えて、ただただ頷く事しか出来なかった私を、肋角さんはただ笑って抱き締めてくれた。

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アンケネタ、酔った後輩獄卒が記憶無いまま肋角さんと朝チュンを迎えるでした。
最初は恋人同士だったんですけど、たまにはということでただの上司と部下という関係にしてみました。理性に勝てなかった肋角さん。
題名:空想アリア様