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 木舌さんは、よく私のことを子ども扱いする。とは言え私は見た目なんかは子どものままだから仕方の無い事だけど。数百年経てばお酒も飲むし獄都では成人扱いされる、お酒は未だに慣れない、美味しいと思うときもあるけど。
 少しでも大人っぽく見せようと思って、木舌さんが好きなお酒の勉強をした、それが、今日発揮されるなんて思ってもみなかった。

「ブラッディメアリーは?」
「私の心は燃えている、断固として勝つ」
「じゃあ、アプリコットサワー」
「親身です!」
「凄い……勉強でもしたの?」
「内緒です」

 獄都で良いバーを見つけたから行かない、なんて誘われたのは一時間前。度数が低いカクテルを少量ずつ口に含んで木舌さんと何気ない会話をしている時に私がフッと呟いた酒言葉に木舌さんが反応して、酒言葉クイズを行っていたところだった。

「逆引き、時の流れに身を任せては?」
「アキダクト」
「じゃあ自由」
「カンパリオレンジ!」
「名前、凄いよ! なんかおれ感動した」
「ふふっ、頑張りましたから」
「偉い偉い」

 骨ばった手が髪の毛に触れて撫でられる。酔いが少しだけ回っているのか、彼の顔はほんのり朱色に帯びている。私も、少しだけお酒が回っているのか顔が熱い。まだ一杯しか飲んでないのに。

「近いうちにカクテルだけで会話出来るかもね」
「酔ってすぐ終わっちゃいそうですね」
「名前はね、そしたらおれが全部飲んであげるけど」

 本当に、お酒が好きなんだなぁ。けど見かけるたびに飲んでるし、飲み会では彼の周りに酒瓶なんて五本なんてザラだ。一方の私は、ビールや焼酎なんかはコップ一杯で顔真っ赤になっちゃうし、カクテルなんか甘いものだと思って油断してたらすぐに酔って泣き出してしまうほど下戸……やっぱり彼も、付き合うなら長い時間お酒を飲める人が良いのかな。

「おれは、酔った後の名前を見て酒を飲むのも好きだよ」
「えっ!?」
「顔にかいてある。というか、なんとなく考えてること分かるよ」
「……」
「おれは、いつも笑顔でおれが酔っ払っていても最後まで面倒見てくれる名前の事が大好きだよ。おれと長い時間飲むために薄いお酒を頑張って少しずつ飲んで酔うのを遅らせ様とする懸命な姿も、大好き」

 ニッと緑色の目が細められる。余裕そうな笑顔で言われると、やはり彼は大人だな、っと思ってしまう。違う、今日は、私も大人だってことを見せようと心がけていたところだ、危ないまたいつもみたいに絆されてしまうところだった。

「木舌さん」
「なぁに?」
「好きです」
「……うん、おれも好きだよ」

 吃驚する様子もなく、ただ笑って答えられる。彼の中で、私はまだまだ子どもなのかな、勇気を出して余裕ありげに放った言葉が急に恥ずかしくなって、忘れようと私はお酒を一気に流し込んだ。身体の中でサイダーがはじけて、喉に噛み付く。火がついたように体内が熱くなって急に目頭が熱くなる。

「あ、名前そんなに飲んだらっ」
「だ、い、じょうぶです……」
「顔真っ赤だよ、そろそろ帰ろうか」
「や、です」

 まだ、私は彼よりも上に立っていない。少しでも、私は彼の上に立ちたい、私の言葉で彼を真っ赤にさせたい、んだ。
 酔うと勝手に溢れ出る涙を拭って、木舌さんを見れば心配そうに私を見つめるだけ。

「木舌さん」
「なに、んっ……」

 襟を掴んで顔を近づければほのかに香る甘いカクテルの匂い、酔いが回っている私にはその匂いですら十分過ぎるほどで、目を閉じてカクテルで濡れる彼の唇に自身の唇を押し当てる。幸いにも、ここはどの角度からも死角になっているから、今の様子は見られない。
 顔を離して唇を舐めれば驚きで目を見開く木舌さん、……もう少し、もう少しだ。

「名前、」
「甘いですね、美味しい」
「か、帰ろう? 悪酔いしてるよ」

 困ってるのかな、照れてるのかな。もっと、困らせたい、どうせなら、理性を崩すくらい甘い言葉で照れさせたい。

「シェリー酒」
「え」
「シェリー酒……飲みたいです」
「シェリー酒って……」
「さっきのクイズですよ」

 ふにゃりと砕けた笑顔で笑えば木舌さんは顔を真っ赤にさせて視線を私から外した。ああ、きっと照れてる。だって心臓の音が早くなってるし、呼吸も少しだけ荒くなっているもん。

「……意味は、分かってるんだよね」
「これ言うために、勉強しました」
「……本気?」
「女の誘いを、断る気ですかー?」

 ああ真っ赤だ、ゴクリと木舌さんが生唾を飲み込む音を耳に入れたと同時に私の腕を掴んで立ち上がる。ふわふわ揺れる視界の中で彼にしがみ付けばそっと耳打ちをされた、

「飲んで良いよ。と言いたい所だけど、そこまで待つ余裕無い。ごめんね」
「……構いませんよー」

 余裕ありげな笑みで見つめれば、黙って頭を撫でられるだけだった。女性が男性にシェリー酒を頼む意味、そしてそれを了承する意味、

「明日は、ずっと傍にいて面倒みるから」
「動けなくさせる気まんまんなんですね」

 悪戯っぽく言えば、店を出たと同時に唇に噛み付かれた。

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カクテル言葉でした。やはり少女の見た目をしている新胴が酒ってイメージが無いです(白目
シェリー酒の意味は「今夜は貴方に全てを捧げます」、女性が頼み男性が了承する意味は「今夜は寝かせませんよ」らしいです。……頑張って欲しいですねぇ。