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 校内にあいつ等が入り込んだきたときは悪戯相手になってくれれば良いと思っていたが案の定さっくり模倣した相手に負けてしまった。
けれど楽しかったらそれで良いか、なんて思っていたあとに一人の女がどうやら俺に興味を持ったらしく俺を連れて帰った。別に学校にいないといけないわけではないのでこれも運命か、なんて思って大人しく着いていった。俺自身も、あいつ等が校内を徘徊している時に時折見かける彼女にはどこか惹かれていた、特に明確な理由は無いのだけれども、彼女が仲間と話しているときに発する声が妙に心地が良くて安心した。

「きりしま?だと斬島先輩と被っちゃうから……きりしまくんって呼ぶね」

 少しだけ濡れた唇から鈴の鳴るような軽やかな声色が響き渡りゆっくりと俺の耳朶に触れていく。目の前の少女は髪を揺らし、丸いエー玉のような銀色の瞳に俺を映しだして、ただ笑顔を浮かべるだけだった。鏡から出てきた俺の手を掴んだかと思えば先ほどよりもはっきりとした笑顔を浮かべて部屋の構造を彼是説明する。繋がれた手には他の怪異からは感じられない温かい体温が俺の冷たい肌に流れていく。思わずその手を力強く握り返せば驚いた表情を見せつつも照れ臭そうに「どうしたの?」なんて聞く。思った事を吐き出したかったけど、自分にはまだ声が出せないと気付いてただ頷くことしか出来なかった。


「本を読んで、勉強したんだ」
「え、ええ?」

 名前と日々を過ごすのにも慣れた頃から俺は暇な時に読んで良いんだよ、と彼女が勧めてくれた本を読むようになった、言葉の勉強をしたかったからだ。ある程度の仲間に聞いて分かったが、やはり莫大は書物を読むことも大切だと思い日々読みふけることに集中していた。そのお陰で、出そうと思えば出せた自分の声を読んだ本で色々な言葉を覚えてついに彼女に自らの声を聞かせることに成功した。
声質は模倣した相手そのものだが、今まで喋ったことが無かった相手がいきなりぺらぺらと饒舌に喋りだしたことに名前は混乱しており、密かに募り上げてきた想いが爆発しそうなのかただただ真っ赤になって口ごもっている。彼女が俺に好意を抱いているのは何となく、いつかは分からないが察していた、俺も彼女に持ち帰られた時から篭っていた想いは彼女と過ごすうちに大きくなりいつしか愛情を抱いていたのでその想いを伝えて両想いになる事が出来た。

「これから、宜しくな名前」
「……ん」

 照れ臭そうに自らの身体の下で頷く彼女が堪らなく愛おしく俺は笑った。
俺は鏡があればどんな鏡でもその世界へ入り込めるが、元が怪異ではない名前は廃校で俺や他の怪異達の妖気に強く当てられたあの姿見でしかこちらの世界に来ることは出来なかった。元の世界へ帰るのもその鏡でしか帰ることは出来ない。



 名前が他の男と一緒に居るところを見ると苛々が止まらないし、笑いかけたり話したりするだけで俺は何も考えられず不機嫌になってしまう。コミュニケーションというのは生きている間では必要不可欠なものだと思うが自分の好きな奴が他の異性と話しているのを見るのは心地いいものでは無かった。
 だから、どうせなら自分しかいないところに閉じ込めようと思った。好きな人は宝物と一緒だ、宝物は誰にも触れさせないように、見させないように宝箱に入れてずっと保管するものだと勉強した。だから、俺もそうしようと思った、名前は俺の宝物だ、だから鏡の世界という宝箱に大切に保管する事にした。

「……名前」
「どうしたの?」
「……好きだ」
「私も、……好きだよ?」

 鏡の世界にいる俺に気付いた名前は、わざわざこちらへ寄ってきて鏡越しに手を重ねる。ふっと笑みを浮かべて思った事を口に出せば向こうもはにかみながら俺と同じ思いを吐き出して、彼女も俺の事を大切に思っていると悟った。俺は、名前さえ居れば何もいらない、他の誰よりも彼女の事を知っているし、向こうも誰よりも俺を知っているはずだ。お互い好き合っているのならなんの問題も無い、俺は無意識に鏡から手を出して彼女の腕を掴む。

「ん?」
「好きだ。……誰よりも、お前が大切なんだ」
「きりし、」

 お前なら分かってくれるだろう。と無意識に言葉を吐くと同時に彼女のか細い腕を引っ張れば彼女は体制を崩してゆっくり鏡の中へと入り込む、全ての光景がスローモーションのようにゆっくり流れ込み倒れそうになった名前の身体を支えて、同時に渾身の力を込めて鏡を蹴り上げれば鏡は音を立てて崩れ落ちる。こちらの世界へ入り込めば、鏡が壊れても俺が壊れる事はない。誰も入ることの出来ない箱庭へ愛しの彼女を連れ込む事に成功した。
唇が弧を描き笑みを作り上げ、一方の名前は驚きと混乱でただただ呆然と俺の腕の中で粉々に砕けた鏡の破片をその銀色の瞳に映す。

「……は、え?」
「これで、もう向こうの世界には戻れないな」

 鏡は全く同じものを映し出す、だからこちらの世界は、配置場所は元の世界とは逆だけれども普段暮らし慣れている彼女の部屋であり部屋を出れば配置に目を向けなければ普段と変わらない屋敷であり外は獄都だ。……ただ、誰もいない、こちら側の世界には鬼も妖怪も、ましてや獄卒なんてものもいない。正真正銘二人っきり。
言葉を失ってただ無意識に俺から一歩引いた名前に目を向ければ、恐怖が滲み出ている表情で銀色のエー玉は大きく見開かれ俺の好きな彼女声が吐き出される唇は小刻みに震えており歯が時折かちかちと音を立てている。どうして、名前は怯えているのだろうか、俺には一寸も理解出来なく首を傾げて彼女の方に手を伸ばせば、表情を無に変えて力強く俺の手を叩い、た、

「来ないでっ……! きりしまくん、一体どういうこと?」
「どういうこと、とは?」
「鏡側の世界に来たら、妖気に強く当てられたこの鏡でしか向こうの世界に戻ることが出来ないのは知ってるでしょ!?」
「ああ、だから壊した」
「待って、意味が分からない」

 声を荒げたかと思ったら最後は搾り出すように小さく呟き頭を抱える名前を見つめる。なにか困った事でもあるのだろうか、なんで彼女が混乱したりため息を零しているのが分からない。これからはずっと二人で生きていけるのに何か問題でもあるのか? さきほど手を叩かれた事すら理解出来なくてショックを受けそうだったのに、懇願するように名前の身体を抱き締めれば驚きで跳ね上がり、逃がさないという意味を込めて力を込めて彼女の身体に腕を絡ませる。

「なっ、なにきりしまくん」
「名前は嬉しくないのか」
「嬉し、い?」
「こっちの世界には、もう誰も居ない。俺とお前の二人っきりだけだ……それが嫌なのか?」

 鏡の世界は本来人が入り込める領域ではない、俺たちと同じような怪異が居れば話は別だが。だからこうして彼女を連れてきたのに、なにか間違いをしたのだろうか。
彼女の表情や言動が理解出来なくて名前を見ればどこか引き気味で、冷ややかだった。吐き出された声色は、かつて俺が好きだったものと同じだけど、何かが違った。

「なん、で」
「好きだから、ただそれだけの理由だ。大切な宝物だから誰にも見られることのない、触れられる事のない俺だけの宝箱に閉じ込めようと思った。……好き、という理由以外に何か必要か?」
「おかしい、それはさすがにおかしいよ」
「お前だって俺が好きなんだろう? なら問題なんて何も無い」
「っ、ん……」

 震える身体に絡めていた腕に力を込めて、片手で彼女の生気の感じられない頬に触れれば「ひ」なんて声を洩らした、やっと二人だけの世界に入れたという事実が今になり溢れ出て嬉しくなり彼女の唇に喰らい付いた。どうして名前はそんな怯えた表情をしているんだろう、分からない、嬉しいはずじゃないのか? 好きな人と、一生二人っきりの世界で暮らしていくのは俺にとっては何にも替えがたい幸せなのに。どうして目の前の名前はこんなに怯えているんだ?

「これからは誰にも邪魔されないんだ。ずっと傍に居る事が出来る」
「やだ、ねえ、冗談なんてやめてよきりしまくん」
「……大好きなんだ、分かってくれよ」

 力任せに彼女の身体を押し倒せば、名前は面白いくらい簡単に倒れた、頭を打ったら大変なのですぐ様後頭部に腕を回す。
彼女の震える手がこちらに伸びそうだったのですぐさま捕まえて頭上へ持っていけば名前はただただ首を横に振り恐ろしいものを見るかのような瞳で俺を射抜く。
俺たちは、きちんと想い合っているのにどうしてこんなにも拒むのだろうか、獄卒というのはとてもめんどくさい生き物なんだな。

「きりしまく、止めて、離して!」
「なにも恐がる必要なんて無い、どんな時でも俺が傍にいるから。……お前だって、嬉しいだろ?」
「っ……」
「死ぬのか? 死んだってどうせすぐ蘇るのが獄卒なんだろ? ああでも、俺お前のことを食べたいと思っていたんだ……死んだら、きちんと俺が食べてやるからな」

 舌を少しだけ出して、噛み千切ろうとしていた名前の舌を引っ掴んで顔を近づけ囁けば銀色の瞳は揺れ動き水を流していた。そこまで嬉しいのだろうか、だけど嬉しいならなんで死のうとするんだろうな、つくづく分からない。
けれどまあ、死んだら死んだらで好都合だ。名前の事は食べちゃいたいくらい好きだし、それは二つの意味合いで。一つは既に体験しているが、もう一つはまだやっていなかった、それは本の世界でもほぼ禁忌とされていたから避けていたがこれからはずっと二人っきりなんだ、邪魔する奴も非難する奴もいないから堂々と出来る。彼女が自ら命を落とすならその肉体は俺の好きに出来る。どうせ、生き返るんだから問題なんて何も無い。

「二人っきりの箱庭で、楽しんでいこうな」

 ずっと、一生、お前と二人きり。

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ヤンデレきりしまに一目惚れ、というコメントを頂いちゃって作成してみました。本来はもっとえぐかったんですけどいきなりそれは無いな、と思って鏡の世界に閉じ込めちゃうきりしまくんでした。
もしかしたら裏に続く。