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きりしまくんシリーズだけど、二人は両想いじゃないです。

「じゃあきりしまくん行ってくるね」
「ああ任務か……。誰と一緒なんだ?」
「斬島先輩だよ」
「なんだと」

 そろそろ出なければいけないの時間なので、上着を着てベルトを締めながら鏡の中で本を読んでいたきりしまくんに声を掛けて質問に答えればきりしまくんはこれでもかというほど顔を歪めた。あ、ちょっと地雷だったかも。模倣して出来たのに、きりしまくんと模倣相手の斬島先輩は周りが軽く引くくらい仲が悪い。会ったらまあ挨拶くらいはするけれども私を混ぜて会話をするとかなり険悪な雰囲気になってしまう。
 私がどちらかと一緒に行動していれば必ずどっちかが不機嫌になるし。

「えっと、きりしまくん?」
「俺も行く」
「え!?」
「アイツなんかと名前と二人きりにさせるわけにはいかない」
「ええええ」

 ずずず、と鏡からゆっくりこちらの世界に戻って来たきりしまくんは律儀に本に栞を挟み本棚に戻すと私の大鉈を持って私と一緒に部屋を出ようとする。置いていきたいけど留守任せたら拗ねそうだし、二人を会わせたら色々面倒だし……どっちに転んでもめんどくさいな。
 えー、どうしようかな、なんて扉の前で立ち竦んでいたら私の考えを察したきりしまくんは、顔を覗きこんで寂しそうに見つめてきた。

「……ダメ、なのか?」
「(その顔は反則だろ)」
「…………名前」

 子犬みたいな表情をして、私の背中に縋り付くきりしまくんに胸が高鳴る。可愛すぎだろこの子。日々一緒に毎日を過ごしているうちに言葉を覚えていくきりしまくん、最近はかなり甘えん坊になっている気がする、なんだか弟みたいで母性本能擽られる。

「わ、分かった。分かったから……一緒に行こう」
「本当か! ありがとうな」
「じゃあ急ごう、話してたら結構時間ぎりぎりになっちゃった」
「抱えて走ろうか?」
「大丈夫! 大丈夫だから!」

 こんなことしてる場合じゃない! と私は叫び急いで部屋の扉を開けて待ち合わせ場所の屋敷へと走り出した。



「斬島先輩、遅れてすみません」
「まだ時間になっていないから安心しろ」
「有難うございます」
「ああ。……ところで、なぜお前もいるんだ」
「俺は名前を護るために来ただけだ」
「(うわあ)」

 斬島先輩と顔を会わせたら喧嘩しそうだから、鉈に入ってるか手持ちの鏡に入ってて、なんて言ったのだけれども断固として入ろうとしなかったきりしまくんに呆れつつも斬島先輩が待っている場所に行けば優しく迎えてくれる先輩。が、やはり先輩はきりしまくんに気付くと途端に顔の表情を歪めた。

「名前を護るのは俺一人で十分だ」
「お前は敵をやっつける事だけに集中すれば良いだろう? 俺はお前よりも弱いからな。だが名前を護るくらいは出来る」
「攻防くらいは出来る、邪魔だ」
「言っておくが、帰る気はないぞ」
「あ、あの二人共……」

 私はほぼ置いてけぼり状態なのに気付いていない二人は、腕を組んでお互い殺す勢いで睨み合っている、あ、目線の間に火花が見えるよ本格的にヤバくないか。
というか私は一人で自己防衛くらい出来るし、攻撃も出来るから正直護ってくれるとかはありがた迷惑なんだけれども……今これを言ったら確実に事を荒立てそうなので宥めることしかできない。

「寧ろ怪異であるお前が敵をおびき寄せれば良いだろ」
「そうしたら名前が一人になるだろう。絶対に一人にさせる気はない」
「その時は俺が傍にいる。怪異なのだから仲間を呼び出すことくらい出来るだろ。……行くぞ名前」
「う、わっ」

 今だ睨み合っている二人を宥めていると、最後は斬島先輩が言葉を吐いて無理矢理終わらせるとそのまま私の手を肩を抱くと歩き出す。うわっ、なんだか分からないけれども身体が熱くなって頬に熱が溜まるのが分かる、顔赤いの見られてないかな。
 抵抗する気もないのでそのままでいると、今度は後ろから身体を引かれて誰かに身体を抱き締められる、力強い抱擁に先ほどの熱よりも遥かに身体が熱くなる。

「名前にあまり触るな」
「き、きりしまくん」
「……名前はお前のではないだろう」
「俺がこいつと一緒に住んでいるからって妬みは良くないと思うぞ」
「……叩き壊す」
「わああああああ斬島先輩ダメですから!」

 後ろからきりしまくんにがっつりホールドされて上手く身動きが取れないけれど、カナキリを抜刀して構える斬島先輩に向かって叫ぶ。確かにきりしまくんは元は怪異だから、獄卒である私達よりは力の差は弱いけれども、彼がいなくなったら寂しいのは確かだから壊すのだけは止めて欲しい。あ、でも鏡繋ぎとめれば平気なのかな。

「名前、嫌なら嫌と言え」
「え?」
「お前もいつまで名前を抱き締めている。離せ」
「俺名前にくっ付いてないと死ぬから離れる気はない」
「見え透いた嘘を付くな。こっちへ来い名前」
「……!」

 力強く手を握られて、そのまま引っ張られたら今度は斬島先輩の胸へ吸い込まれるようにダイブする。そのあと素早く肩周りに手を回されてきつく抱き締められた、男の人にこうやって面と向かって抱き締められたことがない私にはかなり刺激的過ぎて恥ずかしさのあまり俯くしかなかった。

「おい、名前が困っているだろう」
「お前に渡す方が危険だ」
「はっ、なにを言っている。……部屋ではもっと恥ずかしい事をしてるもんな、名前?」
「なっ……! き、きりしまくん!」

 私の軍帽を脱がすと、そのまま頭にキスをして耳元で、しかし斬島先輩にも聞こえるように声を吐き出すきりしまくんの言葉に私は思わず叫んでしまった。断じてそんなことはない、寧ろ姉妹みたいに仲睦まじくしているぞ! しかしやけに真面目でどこか抜けている斬島先輩は、その言葉に反応したのか軽く私の身体を離すとそのまま顔を覗きこみ問い掛けた。

「名前、恥ずかしいことって、なんだ?」
「そこ突っ込むところじゃないですから!」
「今更恥ずかしがることじゃないだろう、名前」
「きりしまくんも混乱させるような事言わないで!」

 どうするんだこの事態、今だ私を抱き締めたままの斬島先輩と、頬を撫でたり見せ付けるように頭とかにキスをしてくるきりしまくん。これ任務に行けるのかな、なんだか頭が痛くなって来たので思わずため息を吐き出すとそれに気付いた二人は、多分私の頭上で睨み合っているだろうまた言い合いを始める。

「名前疲れただろう、こんなむっつりに抱き締められていればそうなるだろうな、こちらへ来い」
「寧ろお前が変なことを言ったからに決まっているだろう。絶対に名前は渡さない」
「お前のものではないだろう」
「それはこっちの台詞でもある。だがこうしてお前からこいつを護る権利はあるはずだ」
「俺は別に害は与えない」
「(あああもうどうしよう)」

 収拾が付かない。多分今声を掛けても二人には聞こえていないだろう、というかなんで私なんかを巡ってこうも喧嘩をするのだろうか。……はっ、これはまさしく板ばさみ? 私のために争わないで! みたいな感じかな。
 いやでも正直恋愛感情とか分からないし……もしかしたらただたんに私が心配だから言い争いをしているかもだけだし……ダメだ考えれば考えるほど頭が痛い。

「言っておくが、お前は所詮怪異だ、そこのところは理解しておけ」
「俺は獄卒と怪異の恋ってのはありだと思うがな」
「やはり一度お前とは話し合ったほうが良さそうだな」
「望むところだ、絶対に名前は渡さない」
「(なんかめんどくさくなってきた)」
「……名前」
「ん? あ」

 二人共言い争いに夢中だし、私だけでも任務へ行こう。思い立ったが吉日、ゆっくりと斬島先輩の腕から離れてきりしまくんが大事に持ってくれた武器の大鉈を引っ掴んで自分だけでも任務へ行こうとしたら、近くから声が聞こえたのでその方向に顔を向ければいつも見ている水色の瞳と目が合った。

「佐疫先輩」
「やあ、これから斬島と任務?」
「だったんですけど、……今あれで」
「……ああ、めんどくさそうだね」
「実際めんどくさくて……」

 廊下のど真ん中に突っ立っていた二人は、壁側に移動してなにやら神妙な顔立ちで話し合っている。あれ、時折頷いたりしてるけど……険悪な雰囲気ではないな、仲直りしたのだろうか。いやでもあんなににらみ合ったり言い争っていたのに仲直りは無いか。

「じゃあ、俺と行こうか」
「え、でも」
「良いんだ。今日は一日中暇だったからさ」
「暇なのに、仕事入れちゃって良いんですか?」
「名前は、嫌?」

 寂しそうに問い掛ける佐疫先輩に、思わず首を横に振ればにっこり笑顔を向けられて手を握られた。まあ、あの二人も後で追いつくだろうから良いか、人数が多ければ多いほど仕事も早く終わるだろうし。

「じゃあ行こうか」
「はい!」

 結局あの二人は、任務が終わるギリギリに私がいないことに気付いて慌てて任務先に来て佐疫先輩に怒られてた。というかそんな時間まで話し合ってたのか、と私は心の中で感嘆しつつも苦笑を零した。

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アンケネタ、きりしま?と斬島が夢主を取り合うでした。
メモ帳のを肉付けしたみたいになってしまったけど、楽しかった。お互いなんて呼び合っているか決めてないのでお前、で括ったけど見事に台詞が分かり難くなってしまった。このシリーズでは、後輩獄卒は誰にも恋愛感情向けてないスキンシップには慣れてない設定かな。
お題提供:山下様