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「花好きなら、これとかどうですか?」
「……ハナミズキ、ねえ」
「綺麗でしょ? 花言葉もとっても素敵なんですよ」
「ふうん。……じゃあ、これ貰おうかな」

 花言葉なんて別に興味ない。けどハナミズキ自体は綺麗な花だから買っておこう。獄都の花屋は、禍々しいものからこういった綺麗な花とかも売っているから種類は豊富だ。俺なんかは花になんて全く興味なかったんだけどまさかこうして自分が買いに来る日が来るとは。
 
「有難う御座います。彼女にプレゼントですか?」
「片思い、ですけどね。想いも告げられなくて」
「あら、それならぴったりじゃないですか」
「?」
「いーえ。なんでもないです」

 おどけたように花屋のお姉さんは笑って、ハナミズキの小鉢を袋に入れてくれた。中から覗いてみれば、薄紅色の小さな花は小鉢にたくさん咲き乱れていて、少しだけ窮屈そうだ。……これなら、喜んでくれるかな。
 亡者のマキさんは、罪を改めるため今地獄で裁きを受けている。初めて閻魔庁にやって来たときに俺が一目惚れしてそれ以来何度か会っているけど、今だに想いを伝えることが出来ていない。当たり前か、彼女は死人でいつか転生する、俺は、記憶が戻らない限りずっと、獄卒であるのだ。

「はい、どうぞ。頑張ってください」
「ありがとうございます」

 文字通り花のような笑顔を浮かべたお姉さんから花を受け取って、俺は花屋を後にした。店を出た途端なぜだか急に恥ずかしさがこみ上げてきて、知り合いに見つからないように俺は早足で閻魔庁へ帰った。



「花、……確かに綺麗だと思うけど、こんなのが好きな人とかいるんだ。女ってわかんねー」

 地獄へ赴きながら、袋に包まれたハナミズキを見て思わず呟く。
マキさんは、花を愛でるのが好きと言っていた。正直俺としては花のどこが良いのか全く分からない、彼女は花言葉なども詳しく色んな花言葉を教えてくれた。殆ど覚えてないけど。

「やっほーマキさん」
「ナマエくん」

 断末魔が響く中で声を荒げて手を振れば声に気付いたマキさんは茶色の髪を靡かせてこちらを振り返った。うん、今日も可愛い。見張りに話をして少しだけ休憩を貰えば比較的人が少ない場所に移動して談笑をする。
 小鉢は見られないように、マキさんとは反対側の方に寄せる。

「マキさんって、なんか好きな花とかあんの?」
「花なら何でも好きよ。見ててとても落ち着くから」
「ふうん? 俺はマキさん見てれば落ち着くけどな〜」
「からかわないでよ」

 うっすらと朱色に染まった頬を撫でればはにかむマキさん。きゅんと心臓が音を立ててゆるゆると口角が上がる。マキさんって、本当に可愛い。このまま、花を渡してしまおうかな。

「あのね、花言葉には本当にたくさんの意味があるのよ」
「毎回教えてくれるよね、殆ど忘れるけど」
「ナマエくん覚える気ないもんね」
「うっ」

 痛いところをつかれておどけたように頭を抱えれば、マキさんは鈴が鳴るような笑い声を上げて「よしよし、怒ってないわよ」と言いながら俺の頭を撫でる。小さな掌の割にはとても暖かくて、凄く嬉しい。

「マキさん〜、もっと撫でて〜!」
「今日は甘えただねナマエくん」

 ああほんとマキさん可愛いし、素敵過ぎて死にそう。ゆるゆる上がる口角を放置していれば、わざとらしく見張りが咳払いをする。ああもうすぐ時間か、俺は袋を手にとって、くすくす笑っているマキさんに差し出す。

「マキさん、これ」
「え?」
「プレゼント。もうすぐ転生するって肋角さん言ってたし……ちょっと早めの餞別」
「……ハナミズキ、綺麗ね」
「獄都も、春なんだ。今度お花見行こうか」

 袋を覗き込んだマキさんは、ふわりと優しい笑みを浮かべて愛おし気に小鉢に入ったハナミズキを見つめる。俺はこの笑顔が見たかったんだ、自然と浮かび上がった笑顔でマキさんを見つめていると、さっきの花屋のお姉さんとの会話を思い出したのでそのまま口を走らせる。

「あ、そうだ。花言葉も送っておくね!」
「はなこと、え!?」
「?」

 なぜだかマキさんは見る見る顔が真っ赤に染まっていき言葉を詰まらせている。あれ、俺なにか変なこと言った? 

「マキさん?」
「ナマエくん、ハナミズキの花言葉……知ってる?」
「いや、分かんないけど。送ったら喜ばれるって」
「……」

 そう言うと、マキさんは黙ったまま俯く、あれなにかまずい意味でも込められてるのかな。

「マキ、さん?」
「……私の想いを受けてください」
「え?」
「ハナミズキの、花言葉」
「!?」

 ポツリと呟いたマキさんの言葉に目を見開いて、俺は身体全体に一気に熱が回ってぶわっと熱くなった。やばい、今めっちゃ顔赤い。え、待って、俺何気にマキさんに告白しちゃった系? ああああああああああああ!? 嘘だろ!? 

「マ、マママママママキさん、俺、あの、」
「でも、ナマエくんは理解してなかったよね。花だけはもらっておくね」
「ちが、」

 悲しげな笑顔を浮かべて、マキさんは小鉢を抱き締める。なんで、なんでそんな悲しそうな顔をするの? 行き場のない感情を手で彷徨わせている間に、必死に考える。今、告白をしても良いのだろうか。いつかは転生してしまう相手に恋を、恋愛感情を抱くなんて御法度だと聞いたけど……想いは溢れたら止まらなくて、勢いに任せて俺は彼女のか細い肩を掴む。

「! ナマエ、くん?」
「……マキさん、俺な、花屋のお姉さんに送る相手の特徴言ったんだ」
「う、うん……」
「……片思い、想いは告げてないけど、って」
「え……?」
「マキさん、俺……貴女のことが好きです」

 想いは溢れ出したら止まらなくて、縋るように彼女の額に口付けた。

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アンケネタ、花言葉を理解しないままマキにプレゼントしてあわてふためくアラマキでした。ハナミズキ、綺麗ですよね。意味は確か「私の想いを受けてください」だったような。
この二人を幸せにしたいです。花を愛でることが好きだなんてマキさんまじ乙女。