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「このスコップ重くないですか?」
「そうか〜? つーか、名前のこの大鉈めっちゃ軽いな!」
「特別製ですからね。って、振り回さないでください!」

 談話室で武器の大鉈を磨いていたらそれに興味を持った平腹、名前は子どものような平腹の目に耐えられなくなりそれを貸せば楽しそうにぶんぶん振り回している。この鉈自体サイズが結構大きい、故に振り回すだけで威力があるし斬られそうで恐いからあまりうかつに近付けなかった。平腹自身鉈に夢中で彼女に返す気配が無いので名前はならば、と思い平腹のスコップを手に取ればあまりの重さに吃驚した、というより、普段からサイズのわりに軽い鉈を振り回しているから余計重く感じるだけかも知れない。と苦笑を零す。

「ふぉおおおすっげーな! なんか楽しいわこれ!」
「あああああああ先輩そんなに振り回したらあぶなっ、」
「あ」

 ざっくり、まさにその言葉が似合う音が二人だけの談話室に響いた。鉈を構えている平腹は口をあんぐりあけてぽかんとしているし、未だに状況が理解出来ていない名前はきょとんと首を傾げるだけだった、が、違和感。頭が妙に軽いし、髪を纏めている感覚が無くなった。あわあわと表情を真っ青に変色させる平腹の視線は少しだけ名前の首元辺りに向けられていたので、自分も少しだけ視線を下に向ければ黒い髪が床に散らばっていた。

「え、あれ」
「あ、……あああ……」
「……!?」

 言葉にならない声を掠りだしている平腹を無視して、自分の首の後ろに手をやればいつも一つに纏めている長い髪の毛が無い、確認のために両手で首元や頭を触れば、臀部くらいまで伸びている髪の毛は綺麗さっぱりなくなっていた。長さ的に肩に付くくらいか、鉈を振り回していた平腹に切られたのだと漸く実感した。

「え、ええええええ!? 髪、切れた!?」
「うああああごめ、ごめんなさい名前!」
「あ、いや別に平気ですけど、」
「オレッ、そんなつもり無かったんだ! ど、どうしよう……髪ってすぐ再生すんのか!?」
「平腹先輩落ち着いてっ!」

 髪を切られた本人よりも切った本人がかなり動揺しているので、妙に平常心が生まれた。右往左往する平腹を必死に宥めるもかなり焦っている。そんなに焦る事なのか、と名前は心の中でつっこんだ。

「うあああどうしよう! すっげー切っちまった……!」
「いや、こだわりがあって伸ばしていたわけじゃないので気にしないで下さい。すぐ伸びますし」
「けど、けど名前髪の手入れとかすっげー気遣ってただろ!」
「そりゃ長いと傷みやすいですし」
「うううううごめんなぁぁぁぁぁ名前っ」

 大号泣。思わず引くくらい泣いている平腹になにも喋れない。別に名前自身、理由があって髪を伸ばしているわけではないので短くなっても特に気にはならなかった。寧ろ短くなったことによって頭が軽くなったし手入れも楽になるだろう、そんなお気楽気味に考えていたのだが斬った本人はなぜだか凄く焦っているし取り乱している。

「いや、平腹先輩ほんと大丈夫ですよ。短いと軽いし楽だし」
「けど、よお……」
「大丈夫ですって、ショート変ですか?」

 後で長さを整えなければ、と思いつつ肩までしかなくなった髪を弄って問い掛ければ平腹は涙目になりつつも首を一心不乱に横に振る。それだけで名前は満足だった。

「なら良いんです。切れた髪捨てておきましょうか」
「名前……怒ってないのか?」
「え? なんで怒るんですか」
「だって……髪切っちまったし……」
「何度も言ってますが、本当に気にしてませんよ。伸ばし続けてる理由なんて無かったですし。すぐ伸びますよ」
「……」

 子犬みたいにしゅんとしている平腹が可愛くて名前は苦笑を零しながら彼のやわらかい綿毛のような髪を撫でれば少しだけ平腹は擽ったそうに身を捩じらす。髪一つでここまで取り乱すなんて面白い人だなぁ。
 落ちた自分の髪を纏めている間、平腹がふと搾り出すように言葉を発した。

「オレ、さ……」
「はい」
「長い髪の名前好きだったんだよ……短いと落ち着かない」
「……」
「ごめんなぁ名前」
「え、あの」
「けど、短い方も似合ってるぞ……オレどんな名前も好きだからな!」

 半泣きになりながら笑顔を浮かべる平腹に名前の顔は徐々に熱を帯びていく。確かにここに来てから、生前から伸ばしていた髪は一度も切っていない、否、切っていないは御幣だ、ある程度伸びきったら整えるために梳いたり切ったりはしているが臀部から上まで髪は切った事が無かった。だから今回初めてのショートだが特別嫌な気分ではない、けれども寂しそうに言い放った名前の言葉は結構心に響いたが最後の平腹の言葉は特別な意味ではないと心に言い聞かせるが、仄かに別の意味も期待している自分もいるのは確かだった。

「あー……えっと」
「髪なんかはオマケだもんな! 名前の髪も好きだけど、それ以上に名前が大好きなんだオレ!」
「っ……!」

 コイツ、恥ずかしげもなく言い切っているから多分意味を分かっていない。あまりの恥ずかしさに制帽を目深に被る、がたがたの髪を切り揃えなきゃいけないのにこの赤い顔のまま外に出るのは無理だ、ああ髪も片付けなきゃ、そうだ、短くなった髪を見て驚く同僚達になんて説明をしようか、恥ずかしさのあまり色々な考えが脳内をぐるぐる回って混乱しそうだった。

「んぉ? 名前どーした?」
「なんでもないです。自分、髪片付けたら髪を整えにいくので……先輩どうしますか?」
「えーオレもっと名前と一緒にいたいんだけど!」
「そうは言われても……一緒に行きます?」
「良いのか!? つーかどうせならオレの部屋泊まりに来いよ!」
「は」

 この時、名前は後輩の女獄卒から、これと類似する発言をしてその子は平腹に惚れて告白して玉砕したと泣きつかれたことを思い出した。平腹は猪突猛進型で思った事をすぐに口にするが、ここまで重症だったとは……別の意味で女泣かせという異名が付くかもしれない。確かに平腹は顔立ちが整っている、性格は、ふと昔平腹を起こした時に経験したことを思い出して名前はすぐその記憶を消去した。
だとしたら下手に自惚れてはいけないな、とため息を零して名前は苦笑気味に言葉を被せた。

「お気持ちは嬉しいですが、好きでもない相手にそういう事言ったら誤解されますよ」
「ん? オレ、オマエのこと好きだから別に問題なくね?」
「いやだから、」
「名前見てたらギュッてしたくなるし、ちゅーとかしたくなるんだよなー、嫌われるの嫌だからしないけど! 夜だってたまに名前のこと思い出してオ」
「ストップ! 先輩ストップ!」

 さらさらと彼の口から零れ出る言葉に顔は赤みを増していくが最後の発言途中でさっと青白くなり急いで彼の言葉を遮る。本当にデリカシーが無い、ここまで来ると尊敬するほどだ。
どうやら、多分恋愛的感情を抱かれているらしい、名前自身悪い気がしない。名前の顔を覗きこんで、平腹はニッと爽やかな笑顔を向けて問い掛ける。

「なーなー名前」
「なんですか」
「ちゅーしても良いか?」

 思わず変な声が出そうになった、と同時に心臓がうるさいくら鳴り響いて痙攣を起こしそうだ、否、もうしているかもしれない。いっそ開き直っているような気がして清々しい。けれども、名前もなんやかんや、わが道を進んでいく平腹の事が好きだと実感しているので笑顔を浮かべて制帽を脱ぐ。

「噛み付かないでくださいね」
「おう!」

 目を開けたまま黄色い瞳が近付いてきて、忠告したにも関わらず唇を喰らいつくように噛み付かれた。

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アンケネタ。後輩獄卒のことで焦る平腹でした。
今回なんか夢主取り乱してない。
夢主、多分これを機に夏場とかはショートにしてるかなあなんて思ってます。
大鉈振り回したら多分髪どころか首持ってかれそうな気がしますがそこらへんは目を瞑っていただければ、じゃないと平腹が来ます。

お題:青春様