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きりしま?夢全てに繋がっています。そのためきりしま?は普通に喋ります。
猿夢パロディです。

「……あれ、ここ」

 怪異が集まる廃駅で任務をこなした居た時、急に、本当に急に意識が飛んで起きたら全く別の駅にいた。
ゆっくり辺りを見回せば、薄暗く、電灯もチカチカと明暗を繰り返している。人はいない、怪異も、いない。生暖かい空気が肌に染み付き顔を歪める。

「(時空が脆くなっていたから別の場所に飛ばされたのかな)」

 怪異がいる場所は怪異に支配され空間が不安定な時があるから、たまに別の場所に飛ばされてしまうときがある。その時は原因である本体を倒せば元の場所に戻れるからその原因を探さなければ、ふっとため息を零して辺りを見回すが怪異の気配は感じられなかった。少しだけ駅内をうろつくが怪しいものが見当たらない。

「……どうしたものか」

 成す術がない、今の場所がどこかも分からないし。とりあえずしっかり自前の武器の大鉈を握り締める、いつも念入りに磨いているから斬れ味は大丈夫だろう。大鉈を担いで取り合えず線路に沿って歩こうと思い、段差を降りようとした瞬間にジリリリとけたたましい音が鳴り響いて抑揚のない男性の声が響き渡った。

「まもなく電車が来ます。その電車に乗るとあなたは恐い目に遭いますよ〜」
「……恐い目?」

 どういう意味だ、これも怪異の影響なのだろうか。取り合えず線路には下りないでホーム内で留まってみれば奥から変わったデザインの電車が現れた。その刹那、一気に背筋が凍りつくほどの嫌な気配に思わず口を塞ぐ。

「(怪異? それにしては力が強いぞ)」

 この電車も怪異の仕業だ、だがあり得ないほど妖気が強く身の毛がよだつ。これは早急に始末せねば。しかし妖気自体はこの電車にも感じられるがそこまで嫌なものではない、ということは本体は別にいるのか。
 電車を見れば数人の男女が一列に座っている。五列になっており座っているのは四人、亡者か、怪異だと思って見るが、違和感がある。え、待って……この人たち、

「(……人間?)」

 亡者や、怪異とは違うオーラ。紛れもない人間だ、どうして人間なこんな所に? ここは見た限りでは現世ではないならば、どうして? ……いや、今はそんな事で頭を悩ませている場合ではない。電車に乗って本体を倒さねば、鉈をしっかり持って電車に足を一歩踏み入れて空いていた参列目の座席に座り込む。本体を倒さなければ、どこにいるんだ。

「出発します〜」

 間延びした声で電車は動き出す。一息ついて意識を集中させる。

「(遠くから音は聞こえない、線路の奥もなにもないし……変わった臭いもしていない)」

 集中すればするほど、私の五感は鋭くなり鮮明になる。あたりを見回して景色を見るが回りは真っ暗で何も見えなかった。となると、やはり電車の中で何かが起こるのだろう、すぐ取り出せるように膝の上に鉈を置く。こうなるんだったら誰かに応援頼んでおくんだった、少しだけ恐い。
 すると、さっきも聞いた抑揚のない男性の声が車内に響く。

「次は活けづくり〜活けづくりです」
「活けづく……、え」
「アアアアアアアアアアアアア!」

 アナウンスの声が耳に入って、男性の悲鳴が響き渡った。またさっきと同じ嫌な気配が全身を包み込んで思わず後ろを振り向けばぼろきれのようなものをまとった小人が群がっていた、禍々しいほどの妖気、本体は多分あいつ等だ。男性は身体を引き裂かれて、身体の臓器を取り出されている、鼻をつんざくような臭い……人間の臭いはこんなに酷いものなのか、気がつけば肉片が飛び散っており男性は原形を留めていなかった。
 あまりの光景に呆然としていたが、達せねばならない仕事を思い出して立ち上がるため身体に力を入れる。

「怪異共がっ、……あれ」

 動けない、否、立てない。思えば手も動かないし動けるのは首だけだった。全身を何かで縛り付けられているかのようだった。どういうこと? 霊などの呪いは一切通じないのに、……何かが可笑しい。再び後ろを振り向けば男性はいなくなっていて視界を男性の前に座っている女性に向けるが彼女は表情一つ変えないでただただ沈んでいた。この人たち本当に人間なのだろうか。徐々に心臓が早鐘を打ち出す中、再びアナウンスの声が響いた。

「次はえぐり出し〜えぐり出しです」
「(くそっ、早く動かないと)」

 そうこうしている間にも再びさっき男性を切り裂いた小人達が出てきて、ぎざぎざのスプーンのようなもので女性の目玉を抉り始めた。

「うっ……!」

 抉った後の姿は見たことあるけど、抉るシーンなんて見たことが無い、なんともいえぬ恐怖感が募って目を背けられなかった。それに伴い湧き出る嘔吐感。女性は耳をつんざくような悲鳴をあげて、眼球を抉り出されている。鼓膜が破れそうなほどの断末魔、こんなの聞いたことが無い。どうしよう、どうすれば。

「(早く、しないと)」

 次は私の番だ。早く動かないとめんどくさい事になる、のに、身体は依然として言う事を聞いてくれない。

「次は挽肉〜挽肉です〜」
「!」

 ゾッと冷や汗が流れた。やばい、このまま動けないと殺されてしまう。いや、いっそ一度殺されて再生したら動けるだろうか、痛みにはかなり疎いから大丈夫だ、大丈夫……なのに、身体が震えて歯がカチカチと音を立てる。

「(恐いっ……どうしよう)」

 今まで感じた事のない恐怖感が溢れ出て汗が輪郭を伝っていく。なにも出来ない状態で混乱していると、さっきの小人達が現れて、ウィーンと無機質に鳴り響く機械をこちらに近づけようとしている。これが、ミンチにする道具、震える手で鉈を握ろうにも力が入らないし動けない、どうしよう、機械を持った小人は、鉈の上に軽々と乗り機械を徐々に近づけていく。

「(っ、動け動け動け動け!)」

 風圧が、どんどん近付いてくる。必死に頭の中で叫ぶけど、身体は動く気配がない。どうしてこんなことに。

「だ……れか、」

 がたがたと震えて、恐怖心が全身を包み込んで涙が零れだした。誰か、恐い、恐い、動け、動けっ。心臓は壊れそうなくらい早鐘を打っていてどうすることも出来なかった。

「き、りしまく、」

 無意識に呟いた名前、馬鹿だ、来るはずなんて無いのに。ふわりと風圧で前髪が浮いた、気がつけば機械が目を鼻の先になったと同時に私は全てを諦めて思い切り目を瞑った。

「名前!」
「!」

 機械の音と風圧が途切れて、代わりに聞き慣れた声が耳朶を打った。まさか、そんな、……確認するべく目を開ければカナキリで機械を真っ二つに切り裂いく大きな背中が目に飛び込んでくる。

「怪異風情が名前に触れるな」
「ぇ、あ……?」

 驚きで目を見開いている間にも彼はカナキリを使って怪異の本体である小人らしきものを一気に切り裂いた。

「……駅、が」

 パンッとなにかがはじけ飛ぶような音が響いて、電車の中だった景色が本来の任務先の廃駅に戻っていた。戻って来れた。息を乱したまま必死に呼吸を整えようと心臓を押さえている間にカナキリを納めた彼は私の元に近付いて頬を撫でる。涙で揺れ動いている視界を上げて、頬に触れている手に自分の手を重ねれば青い瞳は細められて彼は悪戯っ子特有の笑顔を見せた。

「大丈夫だったか、間に合ってよかった」
「き、りしまくっ……」

 鏡の世界の怪異、きりしまくんだった。わけあって一緒に住んでいて、つまるところそういった関係でもある。けれど、どうしてここに? 彼との任務では一緒に行動するか、別々の場合は私が鏡を持ち歩かなければならない、なのに、どうして? 疑問と安堵、見たかった顔が目の前にあって、様々な感情がせめぎあって我慢していた涙が溢れ出した。たまらなくなって彼に飛びつくように抱きつけば最初は吃驚したようだが私の気持ちを汲み取って優しく頭を撫でてくれる。

「恐かっただろう、もう大丈夫だ」
「……きりしまくんっ、うううううう……なんで……?」
「お前がいつも念入りに磨いている鉈のお陰で、鏡を伝ってこちらに行けた」
「そ、うなのっ……?」

 鼻水を啜りながら少しだけ身体を離して鉈を見れば、刃の部分は景色をはっきりと映りだしている、確かにこれなら、鏡の役目も果たしていてもおかしくない。これを通ってきりしまくんが来てくれたんだ。ピンチの時に駆けつけてくれるとは、それなんて王子様。嗚咽交じりの中、涙を拭いながら彼の身体にきつく抱きつけば「苦しいぞ」なんて笑いつつしっかり抱き締め返してくれる。安心する、本当に心から安心する。

「きりしまくんっ、ありがとおおおお……!」
「大切な名前のためならどこへだって駆けつける」
「きりしまくんカッコよすぎぃ……だいすきです……!」
「ああ、俺も大好きだ」

 素直に思いを口に出せば、彼も素直に出してくれる。こんな素晴らしいことはあるだろうか。最初は全く話さなかったのに、今では私よりも饒舌かも知れない。最後に思い切り抱き締めて身体を離した。今顔が凄いことになってるかも。

「落ち着いたか?」
「うんっ、ほんとに有難う」
「お前の声、ちゃんと届いた」
「え」
「鏡の中にいたんだ。そしたらお前が俺を呼ぶ声ですぐに鉈を通って助けに来たんだ」
「マジ、か」
「時折様子を見ていたんだが、声を聞いた時はさすがに慌てた」

 顔に熱が溜まる。私がミンチにされそうな時に、きりしまくんは私に起こっていた事態を知らなかったけれど私がふと無意識に呟いたらしい彼の名前を聞きつけて来てくれたんだ。やはり彼は王子だった。というかなに、私きりしまくんの名前呼んでたの、恥ずかしい。居たたまれなくなって赤い顔を隠すべく俯けばきりしまくんは喉を震わせて笑う。

「ははっ、だが間に合ってよかった」
「うー……も、もう良いでしょ」

 とりあえず任務は遂行されただろう、廃駅の怪異の気配も完全に消えているし。にしても、本当あれは一体……この廃駅にいた怪異の悪戯だろうか。

「詳しくは見ていなかったから分からなかったが、あの電車に乗っていたの人間だよな?」
「うん……けど、もうこっちの世界に入り込んでるから戻れないと思う」
「そういうものなのか?」
「……多分だけどね。あの電車内で死んだ人たちは現実世界では変死扱いだろうね」

 廃駅にいたであろうあの怪異自体が現世と冥府の狭間で迷い込んだ人間を冥府へ向かわせる存在だと思う。詳しい事は肋角さんに聞かなきゃ分からないけれども。あの電車に乗った時点で既に手遅れだろう、きりしまくんがあれを倒しても電車に乗っていた人間は結局全員死んでしまうのかな。

「……あの人間達、好奇心のつもりだったのだろうな」
「向こうでは夢として扱われていたと思う、きっとすぐ覚めるから大丈夫、だなんて余裕があったんだろうね」
「好奇心は猫をも殺すか。……本当に名前が死ななくて良かった」
「再生出来るのに」
「大切な奴の死体など見たくない」

 ふっと息を吐いてきりしまくんは私を抱き締めた。なんかもう、色んな言葉を覚えていってるなぁ。
……しかしあの出来事は、リアルで気持ち悪かった。廃駅にある怪異の気配も消え去っているので大丈夫だと思うけれど。

「はー……暫くは寝るの恐いなぁ」
「隣に俺がいるから安心しろ」
「う……う、ん」

 恥ずかしげも無く言われると照れる。前はきりしまくんは鏡の世界でウロウロしていただけなのに気がつけば一緒に寝る間柄……これ以上は止めよう。恥ずかしい。

「では帰るか」
「そうだね、書類作成して報告しなきゃだし」

 手を差し出されたので、私もその手を取って握り返す。気のせいだけど、仄かに人肌のような体温を感じる。屋敷に戻るため、歩き出した瞬間、ふっと何かが耳を掠めた。


ああなんだ、人間じゃなかったんだ。ざーんねん


「なっ!?」
「名前?」

 今の、なに。辺りを見回すけど怪異の気配なんて無い、……疲れてるのかな、私。

「なんでも、ないよ」
「……よく分からないが、今日はずっと傍にいるから」
「……ん」

 あの怪異は、再び人間の元に現れるだろう。私達獄卒でもどうする事は出来ないのかもしれない。人間が想像し創り出したものが一部の信仰によって現実へとなっていく、それを人間は何一つ理解しようとしない。だからこそ、尊く、醜く、美しく儚い。

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アンケネタできりしま?ネタを頂いたものがドストライク過ぎてさっそく作ってしまいました。他にもきりしま?ネタがたくさんあって……!もうきりしま?シリーズでも作ろうかな。
アンケートで頂いた猿夢を元に作りました、獄卒達からの視点で見るというのは新鮮で楽しかったです。思い切り後味悪くしたかったんですけど無理でした!きりしま?が夢主大好きなのを伝えたかったです。

題名:空想アリア様