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〜朝〜

「田噛さん! おはようございます結婚しましょう!」
「だりぃ。黙れ」

 くそ今日も今日とて失敗か。私名前は情報整理課という閻魔庁から通達される亡者のデータを管理する鬼として働いているのだけど、特務室という部署にいる先輩の一人(と言っても年齢なんて概念は無いけど生前の関係上私は上下関係はきっちりしている)田噛さんに一目惚れしてそれ以来こうして愛を囁いているのだけど毎回見事に交わされる。
 背は他の先輩と比べると少し小柄だけど、程よく筋肉は付いている。いつもだるいだるい連呼しているけどいざという時は頼りになるで、あろう田噛さん、しかもこれで頭脳明晰、ギャップ萌えたまらない。

「キスしてくれたら黙ります!」
「死ね」
「田噛さんのためならドMにもなりまったあ!?」

 ツルハシ頭に刺さった! 痛い、喋っている途中で刺されたもんだから舌千切れた。くらくらする脳内に引き換えちょっとぴりぴりする私の口内。痛みに疎くてよかった。そうこうしている間にも田噛さんはすたすたと行ってしまった、喋れないの辛い。

「名前毎回毎回よくやるよね」
「いい加減諦めたらどうだ」

 喋れないんですけど、という目で訴えかければ佐疫さんは笑いながら私の頭を撫でる。落ちた自分の舌を拾って口の中で暫しくっ付けるとあっと言う間に再生。

「いいえ諦めません! 努力は必ず実を結ぶと! 信じています!」
「言い切らないところが名前らしいね」
「……」

 斬島さんに至っては呆れてらっしゃる。谷裂さんは凄くめんどくさそうに「騒ぐなら他所でやれ」なんて言ってるし。失礼な。

「うーん……なにがいけないのでしょうか」
「なんかもう、全体的にだめなような気がする」
「え」

〜昼〜

「田噛さん、お昼です。ご飯作ったので食べますか?」
「……なにも入れてねぇよな」
「自分の愛がたっぷり!」
「いらねぇ」
「嘘ですすみません! 皆さんのと一緒に作ったので平気です!」

 任務が無いから、今日は先輩達のためにずっと食堂でご飯を作っていた。本当は田噛さんには別メニュー作りたかったけど絶対断られそうだからやめておいた。お皿によそった料理を運んですとんと田噛さんの目の前に座る。うわあからさまに嫌な顔された。田噛さんの隣に座っている佐疫先輩はちょっと苦笑してるし。

「田噛さんあーんしてあげますよ!」
「黙って食え」
「食べさせてください!」
「しばくぞ」

 ちっ。まあ分かりきっていることだけど。ふうとため息を付いて静かにご飯を食べていれば、右隣に座っていた平腹さんが私の方をじっと見る。え、なんだろう。彼の黄色い目を見て首を傾げれば平腹さんはけたけた笑って口を開いた。

「名前、ここ飯粒付いてんぞ!」
「え、うそ」
「取ってやるよ!」

 どこですか、と言う前ににゅっと平腹さんの手が伸びて唇の端に指が触れた、そして平腹さんはそれをパクリと口に含んで笑う。一瞬のことだったんだけど妙に少女マンガじみて気恥ずかしくて視線を逸らしてお礼を言えば「おう気にすんな!」と言ってくれた。優しい。

「人前でイチャイチャしないでよね〜」
「いちゃいちゃ?」
「なっ、してないですよ! 私田噛さん一筋ですから!」
「うぜぇ」

 からかう木舌さんに反論して田噛さんを見れば、凄くめんどくさそうに言葉を放たれてこちらを見てくれない。いつもは顔を一瞥してくれるのにちょっとだけズキリと心臓が痛んだ。
 いや、まあね? まあ脈無いのは分かりきってるけど、少し、いやかなり悲しい。

「……はあ」
「ん? どうしたの名前」
「いえ、なんでもないです」

 心配そうに私を見る佐疫さんが天使に見える。というか天使か、鬼だけど。

〜夕方〜

「田噛さんお背中お流ししますよ!」
「お前女子の屋敷帰れよ」

 そ、そんな冷たい目で見られると少しだけ寂しいではないか。今まで哀れみかつかわいそうなものを見る目は慣れたけど新たな視線は結構痛い。

「貴方が寝るまで傍にいます!」
「……だりぃ。平腹といろよ」
「え?」

 平腹さん? なんで平腹さんなんだろう。なんかよく分からなくて田噛さんを見つめていると何かに気付いたように顔を逸らされてしまった。

「田噛さん?」
「なんでもねぇ。帰れ」
「分かりました、お風呂入るので夜来ますね!」

 目の前でため息吐かれたけど私は諦めないぞ!
女子の屋敷に戻って浴場に行けば、何人か先輩達がいた、そして私の存在に気付いたのか一人のきさくな姉さん先輩が声を掛ける。 

「名前ちゃん、相変わらず田噛のところ行ってたの?」
「はい! まあ今日も交わされちゃいましたけど」
「ふうん、毎日毎日凄いわねぇ」
「でもさすがに迷惑がられてますけど……」
「押してだめなら引いてみろがあるじゃない」
「田噛さんを見たら求愛せずにはいられないんです!」
「……中々厄介ねぇ」

 先輩は困ったように苦笑した。さすがに私もしつこいなぁと自責の念はあるけど愛しの田噛さん見たら求愛せずにはいられない。

「まあでも嫌われないようにしなさいよ」
「が、頑張ります」

〜夜〜

「田噛さん添い寝してあげます! 現世では添い寝フレンドっていう言葉が流行っているんですよ!」
「めんどくせぇ、さっさと寝ろ」
「田噛さんが寝たら自分も部屋帰ります!」
「……」

 部屋に押しかけるのはちょっと迷惑かなぁと思っていたけど、ちょうどよく廊下にいてくれて助かった。部屋着のまま、同じく寝巻きの田噛さんに声を掛ければ心底迷惑そうな顔。あれ、なんか今日の田噛さん変だなぁ。

「田噛さん、」
「だりぃから言わなかったけど、お前ほんとめんどくさい」
「あ、えっと」
「言い寄られる身にもなれよ、うざい」
「……先輩、自分のこと嫌いになりました?」

 聞きたくないのに、言葉が出てくる。こうやってうざいとか言われるのは覚悟していたけど、それより先の言葉だけは聞きたくない。わがままなのは、承知だけど、言わないで下さい、かたかたと身体が震える。どうしようどうしよう、数秒の間を置いて、田噛さんは言葉を吐き捨てた。

「ああ、大嫌いだよ」
「っ!」

 涙腺決壊。一番聞きたくない言葉を耳に入れた瞬間に鼻の奥がツンと痛くなって涙が零れ出た。それと同時に嗚咽も出て、その場に座り込む。

「は? おい」
「うあああああああああああああ! 先輩ごめんなさいいいいいいい!」
「はあ!?」
「もうっ、もうしつこくしませんから! 嫌いっ、嫌いにはならないでください! うあああああ!」

 やばい田噛さんが目を見開いてる。珍しい焦り顔。今の私は、ただただ脳内がぐちゃぐちゃで涙をぼろぼろ流して思っていた言葉を吐き続ける。
よくよく考えれば悪いのは全部私なんだけど、そりゃあ好きじゃない人から向けられる好意ほど気持ち悪いのってないよね、そんなことすら考えてなかった。大好きな人に嫌いなんて言われたら何も考えられなくなる、早く、泣き止まないといけないのに涙が止まらない。

「おい名前!」
「ごめんなさいっ、うええええええ……!」
「ちっ。ああもう!」

 舌打ちが聞こえて身体がビクッと跳ねた、それと同時に身体が引っ張られて半ば引き摺る形で田噛さんの部屋へ入れられる。なに、もっと重大な話し合い、これからもう二度と先輩に近付きませんみたいな誓約書書かせられるの?

「うぇっ、せんぱっ……」
「あー、まず泣き止め。話しはそれからだ」

 泣き過ぎて頭痛いし喉も痛い。鼻水を差し出して貰ったティッシュで鼻をかめば田噛さんは気まずそうな表情で私を見る。
私は女の子座りしていた体制をすぐさま正座にかえるとそのまま土下座をする。

「たがみさん、めいわくかけてごめんなさ、い……! き、嫌いに、ならないでくださいっ」
「……」

 嫌いという言葉がトラウマになりそう。涙が出てくるのを必死に押さえて地面に頭をぐりぐりと擦りつける。うはあ田噛さんドン引きだろうな。

「名前、顔あげろ」
「……」
「ったく、ひでぇ顔」
「せんぱいぃ……」

 先輩がクスッと、本当に少しだけど笑ってる。ティッシュで顔を拭われて何も言えない。

「まあ正直うぜぇとかめんどくせぇとかは思ってた」
「うぅ……すみません」
「けど、正直嫌いではない、つうか嫌いになれなかった」
「え」

 なんてこったい。いきなりの発言に目を丸くする。私我ながら自分で言うのもなんだけど結構ストーカー気質っぽかったけど。呆然としていると田噛さんは視線を逸らしたまま口を動かす。

「お前が平腹と話してたとき、正直嫉妬した」
「しっと」
「嫌だったんだよ、他の奴に笑いかけるお前が」
「そ、それってつまり」

 相思相愛、言おうとした瞬間に抱き締められるもんだから吃驚。田噛さん、身体熱い。

「……めんどくせぇ。ほんとなんだよこれ」
「えっと、こ、恋みたいな?」
「……」
「痛い痛い痛い! 背骨! 背骨!」

 確信付いたら照れ隠しなのか思い切り抱き締められた。骨ボキボキ言ってるけど大丈夫かな。

「名前」
「なんですか」
「俺から目そらすなよ」

 言うのは慣れてるけど、言われるのは慣れない。私は迷わず先輩に抱き付いた。

「先輩、大好き!」
「知ってる」