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「名前、怪異は大丈夫か」
「はい! 寧ろ良い人過ぎて感謝ばかりです」

 きりしまくんと一緒に暮らしてはや数日。相変わらず私が一方的に喋り続けるだけだけど楽しい。結局あの吐き出された言葉のようなものは解明出来なかったけど。
簡単な任務中、作業をしていると斬島先輩がふと声を掛けてくれた。心配してくれていたのだろうか、笑顔で答えれば先輩は「そうか」と短く呟いた。

「なにかあったら、すぐ呼べよ」
「有難う御座います!」
「会話とか出来るの?」

 佐疫先輩が不思議そうな表情で問い掛ける、会話、かぁ、普通に話しかければ相槌はしてくれるし表情もコロコロ変わる、これは会話かな? というかコミュニケーション?

「うーん、言葉は話せないけど、とりあえずコミュニケーションは取れてますよ」
「へえ、凄いね」
「あ、でもこの前、言葉ではないんですけど言葉を発したんです」

 そう言えば斬島先輩と佐疫先輩は目を丸くする。おぉ驚いてる。だよね、私も吃驚したもん。

「……喋るのか」
「どうだろう……でも普通に喋る怪異いるし。無くは無いのかな?」
「でも会話出来たら楽しいですね、希望を持ってみます!」
「おーい名前!」

 木舌先輩に呼ばれた、なんだろうと思いつつも二人に軽く一礼をして木舌先輩の元へ走り出した。

「斬島、複雑そうだね」
「そんなことはない」
「どうだか」
「……何が言いたい」
「なんでもないよ」



「きりしまくんただいま!」

 扉を開ければ、きりしまくんは定位置のミニテーブルの傍に正座していた。私の方を見て、フッと笑いかけると持っていた本をテーブルに置いて立ち上がる。部屋の扉を閉めて彼の元へ行けば髪を撫でられる。

「え、ちょ?」

 ぐしゃぐしゃ髪の毛をかき乱されてた、混乱する中彼を見ればさっきよりも楽しそうな笑顔。うーんと、もしかして「おかえり」って言ってるのかな、え、だったら嬉しすぎる。ゆるゆると口角が上がって自然と顔がニヤける。

「?」
「んーん、なんでもないよ。ただいま!」

 もう一度言えば、またぐしゃぐしゃと髪の毛をかき乱された。

数時間後

「その後、木舌さん酔っ払って大変だったんだよ」

 ご飯も食べ終わり、お風呂も入った後は寝るまで暫し談笑。普通なら本を読んだりパソコンをしたりするのだけど彼が来てからはガラリと環境が変わった。きりしまくんは喋ることが出来ないから私が一方的に喋ってるだけだけど、普通に相槌をしたり笑ったり悲しそうな表情を見せてくれる。

「んー……一方的に喋ってごめんね?」
「……」

 ネタがつきかけたので、思わずその言葉を呟けばきりしまくんは暫く考え込んだ後に優しく頭を撫でてくれた。表情を見れば、穏やかに笑っている。凄くたくさん話しかけてるから煩わしいかと思われているかもと思っていたけどそうではないっぽい。安心して机に突っ伏している間もきりしまくんは頭を撫で続ける。掌からじんわりと熱が伝わってくるような気がして、なぜだか身体が熱くなった。

「(あれ)」
「?」

 違和感。ふっと顔を上げてきりしまくんを見つめれば不思議そうな表情で首を傾げられた、と同時に青い瞳を目が合った瞬間に顔から熱がじわじわと登りつめる。

「(んんー?)」

 あれぇ? なんだろう、自分でも良く分からないこのもやもや、そっときりしまくんの頭に手を乗せれば少しだけ砕けた笑い顔で手の上を重ねられた。ドキリ、心臓が跳ねた気がした。
ああ大変だ、もしかしたら、もしかするかも知れない。

「……えっと、寝ようか。眠くなってきちゃった」

 余計なことは考えまいとぶんぶんと頭を振って立ち上がれば、きりしまくんも頷く。また鏡の世界に行くのかな、電気を消して枕もとの小さいランプに灯りを付ければ何故かその場に正座するきりしまくん。

「きりしまくん? どうしたの?」
「……」
「え」

 顔を覗きこんだ瞬間に、額に掌を当てられた。しかも顔が妙に近いからカッと顔に火が付くくらい熱くなったのが分かる。顔が赤い私を心配しているのか、きりしまくんは難しそうな表情で私の顔をジッと見つめる。ああやばいやばいやばい、心臓が壊れそう。

「あ、あの大丈夫。大丈夫だから」

 離れて、と言おうとすれば浮遊感。きりしまくんが即座に立ち上がって私を抱きかかえると掛け布団をどかして私をベッドに沈め込んだ。よく分からなくて呆然としているとあろう事かそのまま私の布団に潜り込んで掛け布団をかける。

「え、は!?」
「……具合が、悪いんだろ?」
「!?」

 叫びそうになった、思わず身体を起こして彼を見れば相変わらず不思議そうな顔。え、待って、今喋った? 喋ったよね!? ドッドッドッと心臓が音を立てて呼吸が荒くなった。落ち着いてさっき聞いた言葉を反芻すれば、ほぼ斬島先輩と同じ声色。やはり模倣したものだから声も本人と同じなのか。いや違う違う、言葉が見つからなくて食い入るようにきりしまくんを見れば彼も上半身を起こして私を見る。

「どうした」
「ま、待って、喋れるの!? え、というか喋ってる!? えええええええ?」
「落ち着け」

 落ちついていられるか、喋る可能性はあるかもと思っていたけどまさかこんな短い期間で言葉を発するなんて聞いてないぞ。あんぐりと口を開けていればきりしまくんが悪戯っ子特有の笑顔を浮かべて私の頭を撫でる。

「言葉をたくさん投げ掛けられれば、話せるようになる」
「まじ、か」
「本当はもっと時間を有するものだが、名前とはやく会話したくて本を読んで言葉を覚えた」
「え、えええええ?」
「凄いだろ」

 ふふんと得意そうな笑顔を向けて話すきりしまくん。えーと、つまり、いっぱい話しかければ言葉を覚えていき一定の時を迎えれば怪異自ら話せるようになるということ? けどきりしまくんの場合は早く私と会話したくて、言葉がたくさん並んでいる本を読み続けて勉強したという事。けど一週間も経ってないよ、どんだけ本読んでたの。あ、そういえばさっきテーブルに置いてあった小説十巻くらいあるのに、手に持ってたのは九巻だったな、暇な間はずっと読んでいたんだ。
 もうなんか頭の中でぐっちゃぐちゃでどうすれば良いか分からない。それを汲み取ったきりしまくんは私の頬に触れて顔を自分の方に向ける。

「本のお陰もあるが、名前がたくさん話しかけてくれたから自分でも驚くくらい早く喋れるようになった」
「……」
「喋れない俺にたくさん話しかけてくれて有難うな。お前の声は聞いてて心地が良いから飽きない」
「は……はい」

 このイケメンはなんだ。眩しい。元は斬島先輩だからイケメンなのは当たり前だけど、斬島先輩が絶対に言わないような言葉を言ってくるから反応に困る。触れられた手に熱はないけど熱い。困った。

「き、きりしまくん」
「どうした?」
「これからは、どうするの?」
「ん?」
「傍に、いてくれる?」
「は?」

 素っ頓狂な声を上げたきりしまくん、私も思わず、は? と言いそうになった。なに言ってんだ私。傍にいてくれるってもはや告白みたいなものではないか。自分で言った言葉が恥ずかしくなって目線を外せば笑い声。もう一度視線をきりしまくんに向ければ彼はくすくす笑っている。

「笑わないでよきりしまくん」
「ははっ、ごめんごめん。凄く不安そうな顔してるから」
「……むう」
「俺、名前の傍を離れる気はないよ。出来ればずっとここにいたい」

 目を細めて笑いかけられて私の心臓はもう爆発寸前。笑顔が眩しすぎて目を細めそう、なにこのイケメン、斬島先輩なのに斬島先輩じゃない。ニヤけるのを隠すため布団に潜り込む、あああ完全にヤバイかも。

「名前」
「はい!?」

 ずしりと重み。布団の上から圧し掛かられた。大変だ、今なら私死ねる。五月蝿いくらい音を立ててる心臓と汗が流れそうなほど身体が熱い。多分薄い掛け布団越しからもきりしまくんに伝わっているだろう。
抱いてはいけない感情なのに、どうしよう。

「俺はさ」
「?」

 声が優しい、ギュッと目を瞑れば布団ごと身体を抱き締められる。そして、小さく、本当に囁くように言葉を放った。ダメだダメだ、これ以上なにか言われたら私ダメになる。

「怪異と獄卒の恋って、新しいと思うんだけど?」
「!」

 残念、既に手遅れだった。

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展開が無理矢理すぎたけど、楽しかった! きりしま?の言葉は完全構造です。けど押せ押せだと私が萌えます。
持ち帰られたときに既に夢主に好意抱いていたら良いな。