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「てめぇが名前を甚振ったのか?」
「甚振るだなんて人聞きが悪い。彼女にはこの道具の実験台になって貰ったんだ」

 ピキリ、額に血管が浮き出る平腹を諸共せず亡者は手に持っていたお札をひらひらと平腹に見せる。平腹は落ちていたシャベルを拾い上げて思い切り握り締める。

「亡者如きが名前に触ってんじゃねーよ」
「殺すのかい? 殺しても良いけど、あのお札や刀は君には触れることができない、」

 最後まで言葉を放つ前に、亡者は札を持っていた右腕に違和感を感じた。無表情で右腕を見れば、そこにはあるはずの右腕が無く、数秒の間を置いて血が滝のように噴き出した。

「なっ、」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すはははははははは! 完膚無きまでにぶっ殺してやるよ!」

 狂ったように口角を上げて平腹はいつの間にか切り取った亡者の右腕を投げ捨てる。シャベルは既に血に染まっていて、自らの亡者の血で汚れている。事の展開が理解出来ない亡者はただ狼狽するだけで、平腹にはそれすら滑稽に見えた。先手を取って亡者に向かって走り出しシャベルを振りかぶり亡者の頭に叩きつければ亡者はその場に倒れこむ。

「ふぉ? なに勝手に倒れてんだよ、まだまだ終わってねーぞ」
「あ、ぐ」
「名前はてめぇよりも痛い思いしてんだよ、こんな生ぬるいことで済まされると思ってんじゃねーぞ」

 腹から這うような低い声を出せば、無表情だった亡者の顔が一気に絶望の表情に変わる。結局道具が無きゃ何も出来ねーのか、呆れたように平腹は渾身の力で亡者の髪の毛を引っ掴み壁に向かって叩き付けた。ぐしゃりと嫌な音が響いたがそれすら彼には届いていなく、ただひたすら無心に壁に亡者の顔を叩きつける。

「ひ、す、すみませっ、すみませんっ」
「喋んな、うるせーんだよ」
「す、すみませっ」
「喋んなっつってンだよ!」

 ひたすら謝り続けに亡者に怒りの沸点が爆発して平腹は亡者の頭を壁にめり込ませる、音を立てて壁にヒビが入ったのを一瞥して床に転がすと、持っていたシャベルで亡者の身体を突き刺す。刺さったそれが肉を裂き臓物まで届いたのを何となく感知して引き抜いては刺して引き抜いては刺しを繰り替えす。先ほどまで情けないまでに言葉を紡いでいた亡者は既に息絶えており、平腹がスコップを抜けば絡まった臓物が音を立てて引きずり出された。

「オレじゃ触れられないんだよな」

 放り投げた亡者の右腕を拾い上げて、平腹は不器用ながらもその右腕を使って名前の身体に刺さる短刀を引き抜く。すると詰まっていたものが放出されるが如く彼女の身体から血が噴き出すが平腹は物怖じすることなく今度は両手に食い込むネジを引き抜いて、額に貼ってある札を引き千切った。

「名前」

 支えがなくなり床に倒れた名前の上半身を持ち上げれば、じわりじわりと切り傷が回復していくのを見てホッと安堵のため息を零した。身体を蝕むものが取れたから、回復も出来るようになったんだ、冷たい彼女の頬を愛しむように撫でる。

「名前が治るまで傍にいてやるからな」

 返事は無い、それが平腹にとっては無性に寂しかった。いつも話しかければ笑顔で自分を見る名前の姿が脳裏に焼きついているからこそ、この状況が嫌だった。身体に目を向ければ痛々しいほど傷付いており、無くなった両足も元に戻るには時間が掛かるだろう。もう一度頬に触れればじんわりと生ぬるい体温が伝わるが、一向に彼女は目を覚まさない。

「早く目開けろよな、オマエがいないとつまんねーよ」
「お、もう切り傷治りかけてんじゃん。刺されたところも塞がってきたな」
「なー聞いてるか名前。オレ腹減ったー、オマエの作った飯食いてーな」

 寂しさを紛らわせるため、話し続ける、多分、そろそろ目が覚める。ぼんやりとした表情で自分を見つめて、「平腹先輩?」なんて聞いてくるだろう。そしたら「覚ますのおせーよ」なんて言って思い切りぎゅーってしてやる。多分吃驚しつつも笑ってくれるだろうなぁ。

「名前、オレオマエがいないと嫌だ」
「なぁ……ほんと早く目覚ませよ」
 
 声を聞きたい、触れて欲しい、様々な思いが交差して気がつけば無意識に涙が零れる。言葉を吐いていると彼女の傷の治りが早いような気がして嗚咽交じりながらも平腹はずっと喋り続ける。

「名前、名前……なあ、なんでオレオマエの事こんなに心配してんだろーな、普通なら転がして待ってるだけで良いのに、なんで」
「平腹先輩?」
「!」

 言葉を吐き続けていると、か細い声で自分を呼ぶ声が聞こえた。乱暴に袖で涙を拭うとそこには呆然とした表情の名前がいた、刺された傷は完全に治っており、足もほぼ元通りだった。「名前〜!」とあまりの嬉しさに叫んで彼女に思い切り抱きつけば「え、え!?」と慌てたような声を出す名前。そんな事はお構い無しに目一杯抱き締めていると名前も何かを感じ取ったようで苦笑しながらも平腹に抱き付いた。

「覚ますのおせーよ!」
「えっと、ごめんなさい」
「ま、良いけどな! お帰り名前!」

 きょとんとする名前の頬を掴んでその唇に自分の唇を押し付ける。予想外の平腹の行動に名前は目を見開いて硬直、その表情に平腹はただ首を傾げるだけだった。

「どうした?」
「い、いま、え?」
「んー? オレにも分かんね!」
「なんですかそれ」
「多分オレ、オマエのこと好きだし!」

 恋愛感情は持った事がないから分からない、けどこの気持ちは普通に多分、好きと言うものだろうと感じ取った平腹は顔を真っ赤にしてあたふたしている名前を強く抱き締めた。

「んじゃ帰るか!」
「あれ、そういえば亡者」
「あぁ倒したから平気! さっさと報告行かねーと」
「え、倒した? うわっ」

 理解出来ていない名前を他所に平腹は器用に彼女の身体を持ち上げておんぶをする。落ちていたシャベルと鉈を片手で拾い上げぐちゃぐちゃになった亡者に目を向けずに歩き出した。

「平腹先輩、自分一人で」
「オマエ足完全に再生してねーだろ、早く帰らないと肋角さんに怒られそうだし」
「……」

 そう言われると言葉が詰まる。元々任務の連絡を途絶えさせてしまい応援まで呼んでもらっていたのだ、名前としても早く上司である肋角さんの元に謝罪をしに行きたいからここはお言葉に甘えようと思い平腹の首に手を回した。

「有難う御座います。迷惑かけてすみません」
「ふぉ? 別にいーけどよ」
「でも、助けに来て貰って亡者まで倒してもらって」
「んー、オレ名前に早く会いたかったからな」
「……」

 さっきの告白もあったし、顔に熱が溜まる。妙に嬉しくて思い切り首に抱きつけば平腹は「くるしーぞー」とけたけた笑った。言葉が見つからなくて黙って背中にくっ付いていれば、平腹が声を発した。

「なあ名前」
「なんですか?」
「オレ腹減ってんだよ、だから帰ったら飯作ってくれねぇ?」

 いきなりご飯の話か。思わず肩を落としそうになるが平腹らしいな、と名前は苦笑する。ご飯か、確かに自分もお腹はすいているからなにか食べたい。

「なにか食べたいものありますか?」
「名前が作るものなら何でも!」
「ふふ、分かりました」

 食堂に食材は揃っているだろう。彼のために腕を振るわなきゃな、そしてそれとなく自分の気持ちも伝えよう。

「平腹先輩」
「んぉ?」
「ご飯一緒に食べましょうね」
「おう!」

 肋角さんにもきちんと謝罪して、任務報告して、ご飯を作って食べて……任務後も忙しくなりそうだなぁ。けど多分報告の時も作るときもずっと平腹が傍にいてくれるだろう。彼の首元に顔を寄せて目を閉じた。

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お粗末。
ボコられる夢主を書きたかっただけなんです。死んだ夢主を抱き締めて涙ぼろぼろ流しながら話しかける平腹書きたかったんです。