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「身長が高い人の頭を撫でると、喜ばれるらしいわよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、高いと滅多に頭を撫でられることってないでしょう? だからじゃないかしら」

 閻魔庁で働く、艶のある長い黒髪に色白の肌、大和撫子と髣髴とさせるほどの美人な女性獄卒の先輩は頬に指を添えてコテンと首を傾けて言葉を放った。仕草が一々可愛らしいし緩やかだから美しい。

「だから名前ちゃんも試してみたらどうかしら」
「……うーん」
「きっと喜ばれると思うわよ」

 ふわっと花が咲くような笑顔を浮かべる先輩。寧ろ身長高い人より私が今貴女の頭を撫でたい、言わないけれど。
会いにいけないことはないけど、どうしようかな、と迷っているとそれを察した先輩は穏やかな表情で言った。

「そうと決まれば行ってらっしゃいな、そしてお持ち帰りされちゃいなさい」
「!?」

 たまに冗談を本気っぽく言うから油断出来ない。でも、まぁ頭を撫でるのはやってみたい、いつもは撫でられる立場だから逆転は面白い。必要な報告は終わったので、コーヒーを淹れて休憩時間であろう彼の部屋へ行ってみよう。



「失礼します。飲み物を持ってきました」
「……あぁ、入ってくれ」

 声を確認して中に入れば、上司であり恋人の肋角さんが窓の外を眺めながら煙草をふかしていた。机の上には山積みの書類、今日仕上げなければいけないものなのかな。
コーヒーを彼の机の上に置いて傍に行ってみれば、ふっと肋角さんは私を見据える。

「肋角さん?」
「……公私混同は良くないが、休憩中なら構わないか」
「ん」

 煙草を灰皿に押し付けて、肋角さんは身を屈めて私の顔を見つめあと、ちゅ、と触れるだけのキスをして来た。ほんのり煙草の香りがする、最初は苦手だったのに今ではもう慣れてしまったのは彼と付き合いだしてそれだけ長い年月が経ったという事か。
嬉しさと恥ずかしさで口元を手で覆えば、「くく、相変わらず慣れないか」と喉を震わせながら私の頭に触れる。

「不意打ちが、苦手なだけです」
「そうか、なら今度からは先に報告しておこう」
「そ、それはそれで……」
「……」

 肋角さんの目が細められる、凄く穏やかな表情。頭も撫でられて何となく目を瞑ると本来の目的を思い出してバッと顔を上げた。いきなりの行動に肋角さんは吃驚したのか少しだけ目を見開く。

「どうした?」
「いえ、……えっと、あ!」
「ん?」

しまった、思わず声に出てしまった。

「(どうしよう……)」

 彼が立ったままでは頭を撫でることが出来ない。肋角さんと私の身長差はかなりある、私が背伸びをして腕を伸ばしても手が彼の頭に届かないという事に改めて気付いた。なんという失態。

「……」
「名前、一体どうしたんだ」

 不思議そうに見る肋角さんに、あーとかうーとか意味が分からない言葉を吐いて誤魔化す。どうしたものか、一度決めたら成し遂げたいし……数十秒考えたあとにある考えが思い立ったので私は肋角さんの腕を引く。

「肋角さん、お疲れでしょう。椅子に座ってコーヒーどうぞ!」
「あ、あぁ。頂くとしよう」

 困惑してるのが分かる、傍から見たら多分私変だし。肋角さんは書類を少し遠ざけてコーヒーを口に含んだ、いつも通りに淹れたけど不味くないかな。

「……美味いな」
「疲れてると思ってブラックにしておきましたよ」
「身に染みる。ありがとう」

 笑顔が眩しい。よくよく肋角さんの顔に目を向ければ、彼の目の下は寝不足なのかクマが出来ていた。最近はわりと頻繁に部屋に泊まらせて貰っているが、私が寝付いた後に肋角さんは帰ってきて起きた時には既に仕事に取り掛かっていることが多い。最近は激務続きばかりだから休むに休めないのかな。

「肋角さん」
「ん?」
「仕事、忙しいですか?」
「そうだな、最近はさらに忙しくなった」
「……無理しないでくださいね」
「ああ、大丈夫だ。なんだ、寂しいのか?」
「それも、ありますけど。倒れてしまったら、悲しいです」

 カップを握る手に触れて、視線を彷徨わせた後に、緋色の目を見つめる。しまった、個人的な我儘を言ってしまった、と思い慌てて訂正しようとすれば触れていた手の上に大きくて骨ばった手が重ねられる。彼の顔を見れば、少し驚いたような顔をしている肋角さんがいた。

「……まさかそう答えが来るとは思ってなかった」
「え?」
「いや、なんでもない。だが本音を聞けてよかった」
「いえ、あの、我儘言って申し訳御座いません」
「気にするな。寂しいのはお互い同じだからな」

 驚きで目を見張る。いつも先生のように、父のようにどっしり構えて後ろから見守ってくれている肋角さん、大人びた余裕のある人だと思っていたから彼の寂しい、という意外な言葉に心臓が高鳴る。寂しい、肋角さんも同じ事を思っていてくれていたんだ。

「近いうちに休みが取れる、それまでの辛抱だ」
「はい。肋角さんも、お仕事頑張って下さいね」

 手を離して、肋角さんの帽子を取ってその上からぎこちなく頭を撫でる。きっちりしたオールバックを崩さないように丁寧に数回彼の髪の上に掌を撫で付ければ肋角さんは口を軽く開いて呆然と見つめた。今まで見た事ない顔してる、子どもみたいだったので軽く微笑めばさっと視線を外されて帽子を目深に被ってしまった。

「……、」
「肋角さん?」
「なんでもない、気にするな」

 彼の耳が見る見る赤く熱を孕む、それに伴って頬も少しだけ赤みがかっていてああ照れてる、と直感的に感じた。顔は赤いがどこか嬉しそうなので、私も嬉しくなる。
いつも私が撫でられたり、甘えさせてもらっていたからこういうことで少し優位にたったような気がして妙な感覚が走る。照れさせるのって、悪くない。
 一人でそんな事を考えていると、重たいため息を零して肋角さんが口を開いた。

「名前」
「はい」
「……やる時は、きちんと報告するように」
「ふふ、分かりました」

 不意打ちは叶わんと吐き捨てて肋角さんはコーヒーを一気に体内に流し込んだ。効果覿面、頭を撫でる方も悪くないと私は身を持って感じた。

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肋角さんの頭を撫でたい。絶対撫でなれてないと思うから照れると思うていうか照れろ。
二口女のお姉さんとか登場させたい。