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「名前、手」
「ん? ……っ!?」

 なんだろう、そう思いつつも右手を差し出せば、田噛は私の手を掴んで、袖を捲り上げると迷う事なく手首に噛み付いた。
いきなりの展開に目を見張ると、田噛はなんも違和感もなく私の手首から、指先まで至るところに歯を立てる。

「えーと、なにしてるの?」
「癖だよ癖」

 こんな癖あってたまるか、手を引っ込めようと力を込めれば更に強く歯を立てられて「いたっ、」と声が洩れる。
それに気付いたのか、田噛は不満そうな顔をしながらも手を離してくれた。時間にして数分くらいだと思うのに一気に私の右手には歯型がくっきり残っていた。獄卒の中でも私は結構痛みに疎いほうだけどさっきのは痛かった、ピリッと感じるくらいだけど。あれ、というかさっき癖って言ったよね。

「田噛、こんな癖あったっけ?」
「最初に言ったら色々めんどくせぇから、黙ってただけだ」

 恋人になってからだいぶ時間が経ったから溜まっていたものが解放されたのだろうか、ひりひり痛む右手を擦って田噛を見るけどやはり今一理解出来ない。というか噛み癖っていうのは何となく想像出来るけど、人の手とか皮膚を噛むのってなんだそりゃ。受け入れるべきだろうけどなんか行き成り噛まれてからの驚きと今度から私は田噛の気紛れによって噛まれてしまうのだろうか、悶々と考え込んでいたら眉間に皺が寄っていたらしく田噛が舌打ちして私の手を掴んだ。

「名前、部屋行くぞ」
「え」
「噛み足りない。もっと噛ませろ」
「(マジか)」

 直接言ってきた、しかもそれくらい当然だろうという表情で。噛まれるのか、私の皮膚噛み千切られそう、ずるずる私を引き摺る田噛はこちらを一切振り返らず自室へ一直線。血の気が引いてきた、さきほども言った通り痛みには疎い、けど噛まれるのは別の問題である。というか噛まれるために部屋に行くってどういうこと。

「田噛、やはり噛まれる身としてはあまり良い展開ではないような」
「着いた」
「聞けよ!」

 部屋に連れて行かれる前に言わなかった私も悪いけれど。あー噛まれるのかー、痛いの嫌だなー、というかもうほぼ諦めている自分がいる。どうして私は諦めが早いのだろうか。瞬時に頭の中でこんな言葉がブワッと溢れ出ている最中に田噛は私の肩を押してベッドに押し倒す。この時点でさらに嫌な予感がして冷や汗が出た。
 私を目を見た後にけだるそうな田噛は私の服のボタンを一つ一つ外しながら喋る。

「脱がすぞ」
「は!? ちょ、手だけじゃないの?」
「あ? 全身に決まってんだろ」
「ええええええええ?」

 脱がすぞって言った時点でなに言ってんだコイツ状態なのに全身噛まれるってどういうこと、こんな展開を誰が予想していただろうか。色々衝撃的過ぎて呆然としている間にも田噛は私の身体を持ち上げて上着を脱がすと今度はワイシャツのボタンを開け始めてきた、いやいやいや流されてはいけない、もうどうでも良いやーってなったら負けだ。

「服の上からで良いじゃん!」
「直接噛ませろ」

 なんで上から目線なんだ、いやそれこそ田噛イズムでしたね。言葉を交わしている間にいつの間にかワイシャツを脱がされた、この展開だとこれから起こることはアダルティなことだと思われるけど実際に起こることはただ全身を噛まれるだけか。カプリと田噛が私の肩口に歯を突き立てる、興奮しているのか分からないが皮膚を噛み千切る勢いで歯が私の肉に食い込んだ、肩だから少し骨に当たったような気がする。

「うっ、」
「あー……なるべく力入れないようにする」
「そういう問題じゃ、ない!」

 私が痛がってるのに感づいた田噛は少しだけ申し訳なさそうな顔をしてさっきよりも弱い力で肩や鎖骨に歯を入れる。彼の髪の毛を押さえてどかそうと試みるが手を掴まれて両指を絡めてきた、やばい、こうされると私が抵抗出来なくなる事を知ったうえでの行動か。田噛はつねにめんどくさがりだし、妙に頭が良い、自らスキンシップを取るタイプではないからこうして田噛からスキンシップを取られると何も出来ない、田噛がデレるなんて滅多にないし。

「……むせる」
「は?」
「甘ったるい匂いでむせそう」

 首元に顔を埋めてなにか変なコトを囁く田噛。どういうことだ、と言おうとしたらぺろりとザラついた生ぬるい舌で舐められる。くすぐったさですぐさま身を捩った。

「た、田噛……! くすぐったい」
「……」

 震える声で言ったにも関わらず田噛は気にせず舌を這わせる、ぞくぞくとした感覚が背中から痺れてきて漏れ出しそうな声を我慢するために唇を噤んでいると田噛の舌が離れる。ああ終わった、と思ったのも束の間、今度は下着越しに胸元を噛んできて「ひっ!?」と変な声が出た。

「痛くねぇか」
「ない、けど……、う」

 こんなところで妙な心遣いはいらない、そうか、とだけ呟かれて胸下、お腹を噛まれ続ける、噛むだけならまあ多少痛いくらいで済むけれど時折舐めるように舌を這わせてくるから困る。噛まれる度に唇の隙間から声が零れだしそうになるのを必死に堪える、やられていることは異常なのに徐々に身体に熱が溜まってくる。

「はっ……田噛、」
「……なんだよ」
「熱い、です」
「……」

 絡まれた手に力を込めて投げ掛けるように言えば、田噛は少しだけ吃驚した顔を見せた後に考え込むように眉を潜めた。私が伝えたい事が伝わっているとは思うけど断られたら泣きそう、悲しいとかじゃなくて羞恥心とかそういうので。
 田噛、ともう一度名前を呼べば悔しそうに髪の毛をかきむしって唇に噛み付かれる。

「ん、く」
「もうやめろって言われても無理だからな」

 耳元で熱っぽく囁かれて私の身体はさらに熱くなった。



「痛い、痛い」

 田噛に部屋へ連行されて約三時間くらいが経過したのだろうか、青空がいつの間にかうっすらとオレンジがかっていて任務へ赴いていた人たちも次々帰ってきていた。事を終えたあとに、泊まっていくか? と聞かれて明日は早いうちに肋角さんに用があるのでどうせなら泊まっていこうと思って休日は着ない軍服を取りに女子寮へ戻る。噛まれたところもひりひり痛むし腰も痛い。疲れきっている身体に鞭を打って廊下を歩いていると私服姿の木舌先輩がいた。

「名前〜」
「木舌先輩、どうも」
「ん? 今日休みなのに妙に疲れてるね、訓練でもしてたの?」
「いや、そういうわけでは……」
「……あれ、これ」

 悟られそうなのを避けるため誤魔化そうと視線を宙に泳がせれば、中途半端に空いた首元に視線を向けられる。しまった、熱いから第一ボタン開いて首元の襟開きっぱなしだったのを忘れていた。慌てて第一ボタンを閉めれて木舌先輩を見ればなにやら驚いた表情をしている。もう嫌な予感しかしない。

「それ、どうしたの?」
「噛まれました」
「噛まれた?」

 噛まれたあとに及んだ行為は悟られてないから誤魔化せそう。田噛の噛み癖知っていると思っていたのに木舌先輩知らないのかな。

「田噛、噛み癖あるみたいで」
「え!? もしかして身体噛まれてた?」
「……」

 なんか気まずくなって黙って頷けば察したらしい木舌先輩。恥ずかしさで顔に熱が溜まってくる、なにを好んでこんな妙に生々しい話をしなければならないのだ。気まずくなったので「じゃあ、これで」とだけ言えば「明日の任務に響かない程度にねー」と言われた。絶対呑んでるこの人。
 まあでも立ち話をしたお陰で噛み跡はうっすら消えていて痛みも引いていた。比較的深い傷ではないから治りが早いのか。

「ただいま」

 必要最低限の服を取って田噛の部屋に戻れば不機嫌そうな田噛が部屋に鎮座している。うわあ見るからにご機嫌ナナメ。

「遅い」
「ごめん」
「服そこ置いておけ、飯食いに行くぞ」
「うん」

 指示された場所に畳んだ服を置いて自室を出ようとする田噛の後を付いていっていけば、急に田噛の手が伸びてボタンを二、三個外してきて胸元を覗かれた。え、なに。

「……ほぼ消え掛けてんな」
「うん、結構時間経ってるし」
「体力は」
「うん?」
「体力は回復したか」
「まぁ、寝る前くらいには回復すると思う」
「噛み足りねぇから、しっかり飯食っとけよ」

 は? 声を出す前にボタンを閉めた田噛は私の腕を掴んで部屋を出る。噛み足りない? つまりはご飯を食べてお風呂入った後も噛まれるということ? コイツの歯おかしいんじゃないの。

「田噛、さすがにもう」
「名前、痛かったらすぐ言えよ」

 私の言葉の上に被せながら、するりと両指を絡ませてきた。

「……こうすると、何も言えなくなるの知ってるくせにっ」
「さぁな」

 余裕ありげな笑みを浮かべられた。上手い具合に丸め込まれたのが悔しくて、前を向いて歩く彼の肩に思い切り噛み付いた。

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アンケネタ噛み癖田噛。平腹との違いは分からない。というか、噛み癖ではないか……、もう一回似たようなの出すかも知れません