「名前!」
「ひ、らはら……」
任務が無い日、久々の休日だから着替えず部屋着でレシピ作りに勤しんでいた私の部屋にノックも無しに入ってきたのは同僚であり先輩であり恋人である平腹だった。
ていうかノックしろよ、吃驚したよ。横になったままなので私は身体を起き上がらせると先に声を出したのは平腹だった。
「お前今日任務無いよな? 遊びに来たぜ!」
「ていうか、いつも行き成り入るなって言ってるでしょ。ノックして下さいよ」
「なんだよ〜、別に良いだろ! オレとお前の仲だし!」
満面の笑みでずかずか部屋に入ってきた平腹に、ため息を零しつつも、来てくれたのは嬉しいから何も言わずに彼を部屋に入れる。
「で、どうしたの今日は」
「ヒザマクラやってくれよ!」
「ひざまくら?」
言葉を思わず繰り返す。ヒザマクラ、もとい膝枕って……暫く考えているとふと浮かんだのは街に出かけたときに見た現世雑誌に載っていたもの。どちらかの膝というか腿の上に頭を乗せるというカップルとかがやるものらしい。
見たときは何も感じなかったが、というか平腹はどこからその情報を持ってきたのだろうか。
「え、もしかしてそのためだけに部屋に来た?」
「おう」
「……」
呆れて声が出ない、いや、まあ彼らしいと言えば彼らしい。後先考えずに突っ走っていくタイプだからなぁ、プライベートでも変わらない。
何も言えずにじっとしている私が気になったのか平腹は顔を覗きつつもワクワクした表情で私をじっと見る。でかい図体の割りになんだか犬みたいで可愛い。
「まぁ……構わないけど。私も特に用事ないし」
「よっしゃ! さすが名前〜!」
「わ、もう抱きつくな!」
嬉しさ余って抱き付いてきた平腹の頭を叩いて、ベッドに腰掛けてチラリと平腹を見上げる。平腹は嬉しそうに私の少し空いた場所に腰掛けるとそのままポスンと頭を乗せてきた。おぉ、なんか変な感じ。
「おぉ……」
「どう?」
「柔らかくてきもちいな〜」
顔は向こうを向いているから分からないけど、多分笑ってる。部屋着がショートパンツだから彼の短い髪が当たって少しだけくすぐったいが今は我慢だ。
「満足?」
「おう。だけどもうちょっとこのままな〜」
もぞもぞ動く平腹に笑みが零れる。手持ち無沙汰な私はやる事がないので彼の髪の毛をわしゃわしゃと撫でたり弄ったりする。それに気付いた彼は「ふぉ?」と声を洩らして顔をこちらに向けた。
「なんだよ〜」
「ふふふ、平腹の髪気持ちいい」
「?」
今一分かってない表情をする彼は、再び私の膝枕を堪能しだした。いつまでやるのかなぁ、なんだか悪くはないけど顔が見えないから寂しい。
「名前の腿柔らかいなー……短いズボンだからよく見える」
「筋肉ほとんど付いてないから……ひっ、ちょ、平腹!」
「いててて、髪の毛引っ張るなって」
「腿触るな……っ、」
ツゥ、といやらしい指先で平腹が私の腿を撫でてきた。驚きで彼の髪を引っ張るけど彼はやめるつもりはないのか今度は腿を撫でてくる。ちょ、本当にやめて欲しいんだけど、くすぐったさで足を少し動かすと平腹がこちらを向く。
「なあこんな短いの穿くのオレの前だけどにしろよ」
「え」
「だって名前の肌他の奴らに見せたくないし!」
「……あ、そう?」
「おう! すっげースベスベしてる」
一瞬だけ平腹がカッコよく見えた、けど彼はすぐにいつも通りの笑顔を向けて私の腿を触ったりする。触るな、と意味合いで髪の毛をクシャッとすると平腹が私の手首を掴む。
「おいやめろって言って、……うりゃっ」
「ぅわっ……!」
つかまれた、と思った瞬間平腹が起き上がって私はそのまま後ろに倒れた。気がついたら目の前にはイタズラっ子のような笑顔を浮かべた平腹がいて、妙に真剣みを帯びた黄色の瞳をぶつかる。
「……えっと、平腹?」
「仕返しされることくらい分かるだろ?」
「う、うん。分かった、分かったから」
どいて、と顔を逸らして言うと平腹は、嫌だ、とだけ言い放って上から私に抱き付いてきた。うぐ、と色気のない声が洩れる、いや洩れるって、重いんだけど。だけど悪い気はしないから我慢しつつ彼の背中に腕を回す。
「オレヒザマクラも良いと思ったけど、やっぱりこうして抱きつく方が好きだな!」
「顔が見えるから?」
「んー、それもあるけど……やっぱり身体全体で感じたいんだよな〜、名前の柔らかさとか!」
「……」
コイツ、恥ずかしさとか何も無いのだろうか。急激に恥ずかしくなってあー、とかうーとか出す。
「オレ名前凄い好きだ」
「私も好き、です」
耳元で平腹が笑った。