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「さっさと返してくれないかな?」
「嫌だ……! アンタにコレを渡したら俺は捕まるんだろ!?」

 最悪だ。油断した瞬間に武器を取られるとはなんて失態。肉弾戦に持ち込みたいが生憎私にはそこまでの力が無い、上手く相手の懐に入れたとしてもすぐに捕まってしまうだろう。

「気が短い方じゃないんです。亡者如きに手を煩わせないで」
「へへ、アンタ武器なきゃ戦えないのか?」
「!」

 挑発に乗ってはいけない、先輩達にも言われた言葉だ。そこまで馬鹿ではないがやはりコンプレックスを言われると腹が立つ。
拳を握り締めて、上手い具合に隙を見て奪い返そうと思うが向こうもかなり警戒している。

「そうだな……俺の言うことを聞いたら返してやるよ」
「……言う事?」
「簡単だ、別に死ねというわけじゃねぇ」

 油断させる気か、気を抜かずにぴりぴりとした空気を保ちながら相手の言い分を聞くことにしよう。
相手の言葉を待っていると、亡者は私を指差して叫んだ。

「アンタの身体を触らせてくれ!」
「……は?」
「俺は死ぬ前に彼女が一度も出来たことがねぇ……! 結局ヤれずに死んじまったし、触れたことすらない。このまんま人生終わらせるのは嫌なんだよ!」
「お前、もう死んでるじゃないですか」
「そ、そうだけど! とにかく言う事が聞けないならこいつは渡さない」
「……」
「別に抱かせろって言ってるわけじゃねぇから良いだろ。あんた顔立ちは良い方だし胸もある、ちょっと胸とか揉むくらいでかまわねぇ」

 亡者の言い分に呆れつつも、どうするか迷う。憎き亡者に自分の身体を触らせるなんて絶対嫌だ、けれども武器を取られたままというのも困る。いっそ自害しようにもすぐに死ねるようなものは周りには無い。ここは比較的見つけ憎い空き教室だから先輩達が駆けつけてくるのも多分まだまだ先だろう。

「他に、ないの?」
「なんだよ、別に触るくらい良いだろ。……もしかして、アンタ男いんのか?」
「っ!」
「図星か。だから触らせたくねぇのか、その様子じゃ相手とはまだか?」

 唇を噛み締めて思い切り睨む。確かにまだ純潔だし、一応恋人と呼べる人もいる。だからこそ、触らせたくないんだ、初めては絶対にあの人じゃなきゃ嫌だ。けど、このままだと亡者が逃げてしまう、そしたら周りに迷惑が掛かる。

「(……自分の我儘で、迷惑は掛けられない)」

 亡者のためなら、自我を捨てるしかない。隙を見せた瞬間に武器を奪い返そう。私は震える手で自らの軍服のボタン、ベルトを外していく。

「……分かった」
「へ?」
「触るだけだろ、なら、仕方が無い」
「へ、へへ……物分りの良い女は嫌いじゃないぜ」
「お前に好かれようというつもりは毛頭ない」

 上着を脱いで、ワイシャツのボタンも外していく。ああどうしよう、まだ彼にすら触らせたことがないのに、初めての相手が亡者だなんて……、唇が震えて涙が零れそうになる。キュッと目を瞑ってワイシャツを脱ごうとしたとき、

「ぎゃあっ!?」
「!?」
「……名前に何をしようとしている」
「斬島!」

 亡者が血を噴き出して倒れた。背中には大きな傷、ふっと彼の方を見ると私の鉈を拾い上げて、もう一回刀で亡者を斬りつけた。顔は薄暗くて見え難いが、かなり怒っているようだ。

「お前如きが触っていい奴ではない」

 カナキリで相手の頭を刺す。それを最後に亡者は息絶えたらしい。いきなりの事と、安心感でその場に崩れ落ち、溜まっていた涙が一気に溢れ出した。

「はっ、きりしまっ……」
「……すまない、遅くなった」
「う、んっ」
「もう大丈夫だ」
「きりしまぁああああ〜……!」

 服のボタンを戻すことさえ忘れて、私は大好きな斬島に抱き付いた。力強く抱き締めると彼は背中に手を回して、頭を撫でてくれる。潰しちゃうんじゃないかってくらい抱きついていると、上から斬島の声が振ってくる。

「なぜ服を脱いでいる」
「亡者がっ、触らせてくれたら鉈返してくれるって……! どうする事も出来なかったし……!」
「……そのまま触らせる気だったのか」
「なわけ無いじゃん! 隙を見て奪い返そうと思ったよ」

 顔を上げて彼の顔を見ると、少しだけ不機嫌そうな顔をしていて、それすらもなんだか嫌になって私は叫ぶ。

「初めては斬島って決めてるんだから、触らせるわけないでしょ!」
「!」
「でも助けてくれてありがとう。本当に、嬉しい」
「名前」
「、ん」

 涙を拭いながら思った事を吐き出せば、顎を持ち上げられて名前を呼ばれる。なに、と言おうとした瞬間にキスをされて目を見開く。

「っ、っ」

 酸素を求めるべく薄く口を開けば、彼の熱い舌が入ってきて舌を絡め取られる。吃驚しつつも全然嫌じゃなくて、自分なりに舌を必死に動かす。

「ふ、あっ」
「……っ」

 歯茎をなぞったりなぞられたり、少し口が離れたかと思えば唇を吸われて肩がびくりと跳ねた。

「っ、ん」
「ふ、っ……」

 呼吸が声にならない声になり、唾液の音が耳に響く。
どのくらいだろうか、結構長い間深いキスを交わした後に斬島の顔が離れた。私の口元の唾液を舐め取るとじっとこちらを見つめてくる。

「斬島……?」
「なんか、変な感じだな」

 ぼそりと呟いて、斬島は私を抱き締める。初めてのキスにどきどきしながらも彼の背中に手を回すと斬島が呟いた。

「けど、……安心した」
「え?」
「名前の身体に触られてないこともそうだけど、見られていないことにも安心した」

 照れ臭そうに言い放って彼は、私のワイシャツのボタンを丁締め始めた。しかし第二ボタンまで閉めたところで、斬島が私の首元に顔を埋め、唇を押し当てる。

「っ、」
「……これで、付くのか」

 チリッと変な痛みと熱が鎖骨辺りに来て、すぐに斬島の顔が離れた。心成しか満足そうな表情をしている。なにがなんだか分からないが、さっきの彼の言葉が嬉しくて口角がこみ上げてきた。

「……どうした」
「なんでもない」

 渡された上着を受け取って羽織ると、ニヤけを隠すために口元を手で覆う。嬉しい、斬島がデレた。私としてはさっきまでの事は地獄だったけど一気に嫌なことが吹き飛んだ。

「帰るぞ」
「え?」
「亡者も捕まえたし、任務完了だ」

 亡者の首根っこを掴んで、傍に置いてあった鉈を私に手渡す。慌ててそれを受け取れば空いた手を握り締められて手を繋いだ状態で教室を出る。
 触られなくて本当によかった。

「名前、今日は泊まっていけ」
「なんで?」

 繋がられた手に力が込められて、疑問に思った瞬間彼が振り返って言葉を放った。いきなり泊まれと言われても頭を傾げるしかなかったので言葉を出せば、彼は表情一つ変えず言葉を出した。

「お前に触れたい」
「はっ!?」

 衝撃的な彼の発言に大きな声が出る、表情一つ変えやしないから冗談なんじゃないかと思う。しかし彼は真面目なので冗談を言うような人ではない、それは私が多分一番分かっているはずだ。 

「ふ、触れたいって、つ、つまり」
「……」

 恥ずかしくてこれから先が言えない、というかこれで間違っていたら私恥ずかしすぎる。
斬島はこちらを振り返り、耳から首筋に掛けてゆっくり掌でなぞって来た、ぞわぞわとした感覚が背中を走りなにも言わない彼を見つめているとぽつりと囁いた。

「明日動けなくなったら、すまない」

 私の純潔が、今日破られる。

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亡者にぶち切れきりしまん。サンホラのラフレンツェの影響で生娘の表現を純潔にしてしまう。
夢主は亡者に対してはお前、敬語とタメ口が交ったような喋りになるとか。はたして肉弾戦の場合夢主は強いのか……ただ素早いだけだからパワーで負けるだろうなぁ。