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「失礼します、……なにをしている」
「あ、谷裂じゃん」
「佐疫か……、!?」

 部屋に入ってきたのは谷裂先輩だった。佐疫先輩に抱かれている私を見て彼は目を見開いて後ずさった。
谷裂先輩でもこんなに驚くことがあるのか。

「おい、ソイツは誰だ……まさか、お前の」
「ふは! やっぱり勘違いするよな〜!」
「名前だよ」
「くく、仕方ないだろう」
「な、名前だと……!?」

 なんか勝手に言われてるけど、小さくなってしまった私の身にもなってほしい。威圧感が凄い谷裂先輩を見つめて「怪異にやれてしまったんです」とだけ言えばなんとも言えない複雑な表情をして私を見下ろす。怖い、威圧感が半端ない。
 
「怪異のせいでこうもなるのか?」
「ああ、妖気にあてられたら身体の細胞がおかしくなる場合がある」
「なるほど、それで名前の身体が小さくなったのか」
「ふぉ?」

 細胞を変えるってほんと迷惑な話ですね、とため息を零せば困った顔を浮かべる佐疫先輩に頭を撫でられる。
平腹先輩は今一分かってないらしい。

「あ、そうだ谷裂、この後任務は?」
「いや、今日は無い」
「じゃあ名前と一緒に服買いに行ってくれば?」
「は?」

 谷裂先輩の眉間がこれでもかというほど皺が寄った。いや、でも、と言おうとしたらすかさず平腹先輩が声を荒げた。

「えー、でも谷裂と一緒だったら誘拐犯に間違えられんじゃね!?」
「ぶっ! くくっ……!」
「……おい平腹」
「いてててててて! いてえって!」

 平腹先輩の言葉に噴き出してしまった。確かに谷裂先輩目付き結構鋭いし身長も大きいから今の私と並んで街歩いてたら誘拐犯として間違えられそう。それが彼の勘に触れたのか谷裂先輩は平腹先輩の頭をぐわしと掴んでギリギリ握り締める。
二人は置いておいて、私と佐疫先輩、肋角さんで話し合いをする。

「やっぱり私一人で女子寮戻ります。服は持ち上げて行けばなんとかなるかと」
「あぁ、それしか無いようだな。着替えたらすぐこっちへ戻って来い」
「はい!」
「途中まで一緒に行こうか」

 佐疫先輩に背中を押されて私達は部屋を出ようと扉を開けたら、目の前に斬島先輩がいた。ちょっと吃驚してお互い立ちすくんだ。

「……佐疫、その子は」
「小さくなった名前」
「です」
「……怪異にやられたか」
「先輩鋭いですね」

 さすがと言うところか。というかこんな時も表情を変えずに落ち着いている斬島先輩はなぜだかちょっと心配になる、ちゃんと感情が存在しているのだろうか。
ふっと目線を真っ直ぐにすると、斬島先輩は大きな紙袋を持っていた。

「斬島、それって」
「これか、閻魔庁の奴に古着屋に出して欲しいと頼まれたから預かったものだ。欲しいものはやると言われたが俺が着られるものはないしな」
「って子ども服じゃんコレ」
「……ほんとだ」

 差し出された紙袋を見れば、そこにはたくさんの子ども服があった。殆ど男物ばかりみたいだけど……一着目に入ったモノを取り出してみれば女の小物のワンピースだった。

「これなら名前着れそうじゃない?」
「でも、着ちゃって大丈夫なんですか?」
「大丈夫だろう。欲しかったらやると言われていたし」
「お、服あんじゃん!」
「おい平腹! まだ説教は終わってないぞ!」

 後ろの扉から平腹先輩と谷裂先輩が出てきた。この肋角さんは書類整理があるらしく五月蝿くしないように少しだけ場所移動。

「一着だけ貰っちゃえ、そのままじゃ色々大変でしょ」
「お前の服ぶっかぶかだもんな!」

 手に持っているワンピースを見つめる、真っ白くて腰辺りに大きなピンクのリボン……裾にはフリル、正直言って可愛すぎる。これ絶対私には似合わないでしょ。だけど、この祭仕方が無いか。

「……着替えてきます」
「いってらっしゃい」
「それだけで良いのか」
「女物はこれしかないみたいですし……」

 不本意だが仕方ない、着替えるためにぶかぶかの軍服を引き摺って誰も今はいない空き部屋へと向かう。誰とも擦れ違わなくて良かった、と言っても先輩達といた場所から距離はあまり無いけど。

「んっ、しょ」

 重たい軍服を脱げば一気に身体が軽くなる。開放感が凄い。幸い下着は上だけ取れてたらしく下は一緒に縮んでいた、良かった。下が何も無かったら発狂してた。
軽めの素材のワンピースを着て裾とかを整える。うーん鏡が無いから見えないけど多分似合ってない。スカートなんか全然穿かないし。

「よし、早く戻ろう」
「あれ、君こんなところでなにしてるの?」
「!」

 部屋を出た瞬間目の前で声を掛けられた、おそるおそる顔を上げれば不思議そうな顔をしている木舌さん。わざわざ屈んで私に目線を合わせてきた、おぉ子どもに優しい人の鏡だ。

「あ、木舌さん……」
「ん? なんでおれの名前……って、君……どこかで」
「名前、です」
「名前!? ……まさか」

 まじまじと見つめて思ったことを言えば更に訝しげな顔をして私を覗き込む。

「今日の任務で怪異にやれてしまって……こんな姿に」
「……本当に名前?」
「昨日焼酎瓶一本チューハイ五本呑んで眠ってたの起こしたの誰だと思ってるんですか」
「あ、名前だ」

 これで納得行くのか。まあ昨日は私一人しかいなかったし察したのだろう。姿形は身長以外は元の私だし。

「へー、面白いねー、怪異ってこんな事も出来るんだ」
「みたいですね、ってちょっと持ち上げないで下さい」

 高い高いをするように私の脇に手を通して持ち上げる木舌さん。なぜだか妙に楽しそうにしている。人事だと思って、失礼しちゃうな。
 掛ける言葉も無くて呆然とニコニコしている木舌さんを見つめれば何を思ったのかそのまま抱っこをして先輩達が待っている部屋とは逆方向へ歩き出す。

「は? 先輩、自分」
「お酒呑みたいからおれの部屋行こう〜」
「意味分からん! いや、あの」
「良いから良いから、レッツゴー」
「おいおいおいおい!」

 先輩達心配するって絶対! なんでこの状態でお酒呑もうと思えるんだこの人。頭ぶっ飛んでるのか。ぺしぺし頭を叩くも、力が上手く出来なくて適わない。

「この状態でお酒呑ませるのってなんとも言えない背徳感だね」
「あー……もうどうなっても知りませんからね」

 考えるのがめんどくさくなった。アルコール入れればもしかしたら身体も戻るかも知れない、という淡い期待を私はなぜか抱いていた。