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「猛吹雪じゃないですか!」

 雪が暴れるように舞う中私は叫ぶ。任務があり八寒地獄の虎虎婆に来ていたのだが想像以上に寒くて身震いが止まらない。
 任務自体は怪異を倒すだけの簡単なものだったから予定より早く終わり館に戻るため足を早く動かして歩く。すると私の叫びを聞いたのか、隣にいる人物が私を見て言葉を言い捨てた。
 
「おいめんどくせぇから風邪引くなよ」
「わかって、ます……!」

 一緒に組んだ田噛先輩が心底めんどくさそうな顔をして私を一瞥する。風邪なんて好きで引くやつなんているのか。
 なるべく身体を震えさせないように鉈をぶんぶん振り回しながら歩き続ける。というかここら一帯は凍り付いているから滑る、凍っているから当たり前か。

「先輩、ここ凍ってるから滑らないようにして下さいね」
「だりぃ……」
「(聞いてない)」

 いっそ押して池に落としちゃおうか。や、後が怖いから絶対にやられないけれども。にしても本当に寒い、吹雪が舞っていて視界が悪いし足元も真っ白で見えないから上手く前に進めてるのかすら不安になる。確か、もうそろそろ大きな池があるところだったはず。

「名前、前見えるか」
「なんとなくですけど……あと一キロくらいです」
「ちっ。結構奥まで行ってたのか」
「怪異の色んな場所に散ってましたからね……っ、うわあ!?」
「っ!?」

 池を渡るべく厚めの氷の板に足を乗せた瞬間パキン、と音がして足場が無くなった。幸いにも私は体重を上手い具合に後ろへ移動させたから落ちる、ということは無いと思ったが数歩前を歩いていた田噛先輩は逃げ場がなくそのまま池に落ちる寸前だった。

「田噛っ!」
「なっ……!」
 
 自分の身体を支えるや否や、私は持ち前のスピードを生かして素早く先輩の襟首を掴み渾身の力を振り絞り後ろへ放り出す、すると遠心力で私の身体は勝手に前へ傾きそのまま冷たい池の中に身体を放り出した。

「はっ……!」

 バッシャン、水が跳ねる音と同時に全身に喰らい付くような水の冷たさに言葉を失った。

「名前!」
「つっ、めたいっ」
「ンの馬鹿っ……!」

 幸いにも池自体は浅くて座り込んだ状態の私のヘソくらいまでしか水は無かったが、やはり極寒の池、冷たさが容赦なく凍死しそうなくらいだった。
 田噛先輩が私の身体を持ち上げて池から出れば、今度は雪と吹雪が池の水によって冷やされた私の身体を痛めつける。

「……っ、……はっ……、」
「おい大丈夫……なわけねぇよな、すぐここから出るぞ」
「た……、がみせ……」
「喋るな。なるべく俺にくっ付いてろ」

 喋れないくらい震えている私に、田噛先輩は自分の上着で私を包ませるとそのまま姫抱きをして走り出す。
 一方の私は、意識が既に朦朧とし始めており、目を開けることさえ億劫だったのでそのまま意識を手放した。



「……」
「目ぇ覚めたか」

 ゆっくり目を開ければ、田噛先輩の胸に寄り掛かっていて先輩が私の顔を覗きこむ。なぜだか身体が酷く濡れていて、ゆらゆらと身体全体が揺らめく。重たい頭を少しだけ動かした下を見れば、そこはお湯だった。それに、身体全体をタオルで巻かれている。

「ここ……」
「風呂。ずぶ濡れのお前見た八寒地獄の官吏が貸してくれた」
「……」
「最初服着たままだったがお前の身体が暖かくなったから脱がしたぞ」
「え」
「……悪ぃとは思ったが、仕方ないだろ」

 顔を上げれば、ぷいっと田噛先輩は視線を逸らす。よく見れば田噛先輩も上半身裸だった。一気に恥ずかしさが溢れ出して身体全体が熱くなる。
 けど、田噛先輩私のためにこんなことまでしてくれたんだ。きっとこのまま放置されて再生するの待つものかと思ってたのに。

「死にそうな顔で俺の名前呼んでる奴を放っておくわけねぇだろうが」

 ポツリと声を洩らして、田噛先輩は濡れタオル越しに私の上半身を左腕で支え直す。一方の右手は、さっとお湯を掬いだし私の肩に掛けてくれる。なるほど、こうすれば背中と肩は冷えないか。程よい温かさと、一緒にいる田噛先輩の心音で安堵のため息が零れそうになる。

「有難う、ございます」
「良いから黙って身体温めろ」
「自分はもう、大丈夫ですよ」
「本当か?」
「……けど、」
「けどなんだよ」
「離れたく、ないです」
「……」

 身体は温まったから上がっても平気なんだけど、正直田噛先輩から離れたくなかった。朦朧とする意識の中で本音をぼやけばそれがしっかり彼の耳に届いてたらしく、チラリと視線を上げれば真っ赤になった顔に、うっすら赤い耳が目に付いた。
 先輩が照れてる。物珍しく眺めてると先輩はため息を零して私の身体を持ち上げて浴槽から出た。

「先輩?」
「このままここにいたら逆上せちまうだろ。上がるぞ」
「でも……」
「着替えたら傍にいてやるから。安心しろ」

 思わぬ発言に目を丸くしていると、「一人で着替えられるか?」と聞いてきたので頷く。
 甘えても、良いのかな。
ぼんやりとそんな事を考えていると脱衣所に付き、少しだけ水気をタオルで拭かれる。

「名前」
「はい」

 脱衣所に座らせて貰い身体を拭いていると私の後ろに移動した先輩が声を出した。なるべく早く着替えようと思い乾いた下着の上からほんのり暖かい軍服を急いで着る。先輩の方を振り向くと相変わらず背中を向けたままだった。

「着替えましたよ」
「良いから。そのままで聞け」
「?」

 なんだろう。濡れた髪を纏めながら待っていると、急に先輩が振り返り、私の耳元に顔を寄せて照れ臭そうに囁いた。

「結果的にお前を瀕死にさせちまったけど、あの時は助かった。……ありがとな」
「……!」

 言うや否や先輩が恥ずかしくなったのか勢い良く私を抱き締めた。私の心音と、田噛先輩の心音が同じくらい五月蝿い。
あまりの嬉しさに顔がにやけてるとのが分かる。
 
「……先輩、大好きです」
「……うっせぇ」

 抱き締められた背中に、力が篭った。

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アンケートでオカンな田噛があって、燃え滾ってたのに想像と全然違ってしまった。これ優しいだけじゃん。
リベンジする。絶対。裏の方も意見頂戴したいです。
けど、大切な人には世話焼きというようなコメント、凄く萌えました。