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「……」
「……」

 廃屋に迷い込んだ亡者を捕まえるべく探索に来たまでは良かった。無事に亡者を倒し後は帰るだけだったのに、倒し損ねた怪異に捕まり変な液体を掛けられた瞬間異変は起こった。
 一緒に来ていた佐疫先輩が呆然とした顔で私を見下ろす、何かがおかしい、だってこんなに身長差なんて無かったはず、目線を真っ直ぐ前に向ければ見えるのは佐疫先輩の腿。因みに私は倒れていない、ちゃんと立っている。

「えっと……名前?」
「名前、です」
「……なんか、縮んだ?」

 ひょいと佐疫先輩が座って目線を合わせれば、頭を撫でられる。震えつつも自分の身体に目を向ければ、脱げているズボンやらブーツ、ぶっかぶかの上着、というか上着がワンピースみたいになっている。
 足元スースーするし……もしかして、いや考えるのは止めよう。

「せんぱいぃ……じぶん、」
「多分、怪異の影響で縮んじゃったんだろうね……これ戻るのかな」
「ええええええ」

 どうしよう、一生このままとか絶対に嫌なんですけど。いやいや、今はそんなことで嘆いている場合ではない。

「とりあえず、怪異倒したし……出ようか」
「はい……あ、服っ……!?」
「よいしょ」

 脱げてしまった服を全て拾い集めようとした瞬間身体を持ち上げられた。目の前には佐疫先輩の顔。そして佐疫先輩のあいた手には服。……抱っこ、されてる?

「さ、行こうか」
「や、自分歩けますけど!?」
「ここ床とか脆いし不安定なんだよ、しかも薄暗いし……名前今身体小さいし歩幅もあるでしょ? こうした方が早いよ」
「……」
 
 言われてみれば、確かにそうかも知れない。小さいと歩幅小さいから歩くの遅くなるし変な場所踏み外したら迷子になってしまう。仕方なく佐疫先輩に抱っこされるしかないのか。

「すみません……」
「なんで謝るの? 名前のせいじゃないよ」

 ふわっと笑う佐疫先輩、天使。とりあえず、館に戻るまで私は佐疫先輩に抱えられたまま戻った。

「あー! 佐疫だ!」
「やあ平腹、任務終わったとこ?」
「おう! 案外早く終わったぜ……ふぉ?」
「……」

 廃屋の別の場所にいた平腹先輩がやって来た。最初は佐疫先輩と言葉を交えていたが、腕の中にいる私に気付いた瞬間平腹先輩は不思議そうに私を見つめた。

「……佐疫、子どもいたっけ?」
「違うちがう」
「えー、でも亡者でもねぇし人間でもねぇじゃん!」
「名前だよ」

 佐疫先輩の言葉に目を丸くする平原先輩。面白い。じぃっと見つめられてる私はなんだか居心地が悪く「お疲れ様です……先輩」と声を絞り出せば真っ先に平腹先輩が声を上げた。

「すっげー! なんで小っこいの!?」
「それが良く分からなくて……多分怪異のせいだと思うんですけど、戻る方法もさっぱり」
「名前完全に詰んだな!」

 コイツ明らかに楽しんでる。楽しそうに先輩は私の頬を突いてくる。完全に遊ばれてるよ私。

「他の奴らには言ったの?」
「まだ。まずは肋角さんに報告しようと思って」
「このままの状態で行くのも気が引けますけど……」
「仕方ないよ、あの人なら何か分かるかもしれないし」

 そっか。出来れば戻る方法を肋角さんが知っていて、早急に直ればこちらとしては万々歳だ。
 最悪な事態はなるべく考えないようにして、私は早く戻りますように、と願いを込めて佐疫先輩の外套を握り締める。



 館に付き、肋角さんに任務連絡をしようと部屋に入れば明らかに私を見て驚いた顔を見せた。さすがにあの肋角さんでも驚くものか。

「名前……だよな」
「はい……」
「何があったんだ」
「怪異の影響で身体が縮んでしまったみたいです。変な液体掛けられてすぐにこのような状態に」

 佐疫先輩が説明をする、その話を聞きながら肋角さんは難しそうな顔をしてこちらに近付いたかと思えば、私の額に指先を当てた。
 ほんのりと煙草の匂いがする。

「……ふむ、僅かだが妖気があるな。恐らくその怪異の妖気にあてられて身体が縮んでしまったのだろう」
「これ、戻りますか?」
「妖気自体も微小みたいだからな、時間が経てば戻るだろう」
「よかったぁ……」

 ほっと胸を撫で下ろせば佐疫先輩が私の頭を撫でる。というかそろそろ降ろして欲しい、さすがにこの格好はちょっと照れ臭いし。
 あの、と声を出そうとしたとき、平腹先輩が声を発した。

「じゃあ戻るまではこのままなのかー」
「とりあえず服とか買いに行く? その格好だと色々まずいし」
「いえ、確か同僚にこのくらいの背丈の子がいるのでその子に借ります」

 妖怪の中までこのくらいの背の女の子が女子寮にいる。訳を話せばきっと快く服を貸してくれるはずだ。

「じゃあ行ってくるので先輩、降ろしてください」
「でも名前、そんなぶかぶかな服のまま行くのって変じゃね?」
「確かにそうだな。誰かに言って来てもらうか連れて行ってもらったほうが良いだろう」
「えっ、でも……」

 抱っこのまま女子寮行くとかなんて拷問。けれど確かに引き摺った状態の上着を着たまま行くのも変だ。かといって取って来てもらうのもなんだか悪い気がする、どうしよう。

「あ、でも俺この後別の任務があるんだ」
「オレも閻魔庁に呼ばれてんだよ」
「……参ったな、どうするか」
「あの、最悪このままでも大丈夫ですよ」
「なに言ってるの、女の子でしょ?」

 佐疫先輩に諭されるように言われる。そう言われると言葉に詰まってしまう。確かにこの格好は本当に最悪な事態に取っておきたい。けれど、佐疫先輩も平腹先輩も用事があるみたいだし……。
 うーんと肋角さん含め私達が唸っていると、ノック音が聞こえて扉が開いた。