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「あ、あの斬島?」

 名前が少しビクつきながら自身の恋人に声を掛けるが反応は返ってこない。ただ手を引かれて向かう場所は恐らく彼の部屋だろう。
なんとなく怒っているような雰囲気にも見える彼になんとも言えない悲しみがこみ上げてきて名前はただ俯いた。

「……」
「……」

 俯いても足が止まることはなく、ガチャッという音を耳にして顔を上げればそこは斬島の部屋だった。

「……」

 沈黙が重たい。嫌な空気がべったりと身体に張り付いている。
その空気に耐え切れず「斬島、」と言葉を紡ごうとした瞬間に再び腕を引っ張られてそのまま彼の懐に入り込む。任務は無いから、彼も私服だった。しかも偶然にも和装。

「なぜだ」
「え?」
「なぜ、俺に言わなかった」
「……?」

 上から降ってくる声に名前はただ首を傾げることしか出来なかった、が、すぐに意味を理解してなにやら勘違いをしている恋人に言葉を返す。

「吃驚させたかったの、……斬島、喜ばせたかったし」
「……」

 先ほどよりも強い力で抱き締められる。なんとなく彼の身体が熱を帯びていくのが分かる。あー、嫉妬させちゃったかな、と悟った名前は何も言わない斬島の背中に自らの腕を回して力を込める。

「ごめん。着物くれた先輩忙しそうだし、他の先輩達みんな休みが重ならなくて」
「……嫌だと思った」
「うん?」

 力が緩められ、背中に回っていた手が名前の頬に触れる。微妙に熱を帯びた手で自身の顔を上に持っていかれれば不安気な青い瞳に自分自身が映った。
 
「他の奴に、着替えを手伝わせるのが嫌だと思ったんだ」
「まあ、全部じゃないよ。ちゃんと一番下の長襦袢は着てたけど、」

 ごめんなさい、伏し目がちに謝罪を紡げば唇の横に柔い感触。斬島が少し身を屈め名前の唇の近くにキスをする。

「俺も、勝手に連れ出して悪かった」
「ううん、元々斬島の部屋行こうと思ってたし」
「しかし、」
「大丈夫だって」

 真面目だから、不機嫌な理由もちゃんと言ってくれる斬島が堪らなく愛おしい。ヘタに拗ねられるよりもこういって面と向かって言われる方が堪えると名前は斬島と付き合いだしてから身を持って実感した。

「だが、着物は似合ってる。……綺麗だ」
「うぇっ、……あ、有難う、御座います」

 こう、恥ずかしいことも恥じらいもなく言うところは未だに慣れない。褒められることは嬉しいが、直球に愛の言葉とか囁かれると名前としては毎回身が持たない。それは一生斬島に分かる事はないと思うけれど。

「名前?」
「なんでもない」

 素直な言葉は、生前過ごした幼馴染で慣れが身体に染み付いていると思っていたが、(否、幼馴染の事もほぼ記憶には無いがぼんやりと思い出すことがある)やはり相手が好きな人だとこうも違うのか、身体の熱を受け入れながら名前は斬島の懐に顔を押し付ける。

「斬島ー……嫉妬させてごめん」
「しっと?」
「うん。人間の感情」
「……そうか」

 獄卒でも元は人間、こういった潜在的な感情は残っているのかもしれない。

「気持ちいいものではない、嫉妬は」
「独占欲みたいなもんだからね。多分」

 人間だったら多分もっと独占的だよなー、何度かそういった亡者見かけたことあるし。
 今だ自分から離れようとしない名前の肩にそっと手を添えて斬島はじっと名前を見る。

「和装も、良いな」
「そう?」

 いつも見ている彼女は洋装だから和装が新鮮に見える。斬島はふっと息を吐いて名前の頭をぽんぽんと叩く。

「名前、出掛けるか」
「街?」
「ああ。今度は寝巻き用の浴衣を買おう」
「え」

 いきなりの発言に名前は素っ頓狂な声をあげる。一方の声の主は表情は崩さないがどこかうきうきと目を輝かせており机から財布を取り出して出掛ける準備をし出す。
 いや、おかしいだろ、と数秒で意識を覚醒させた名前は急いで止めに入る。

「ちょ、大丈夫だよ! 浴衣って地味に高いでしょ? 私パジャマあるし」
「浴衣の方が、脱がせやすい」
「なっ」

 馬鹿正直な斬島の発言に今度は身体全体に一気に熱が回った。彼の言っている意味が理解出来ない年ではない、現にそういう事は何回か済ませたことがあるが、いざこうして言葉にされると羞恥心というものが一気に溢れ出る。

「(こンのむっつりスケベッ……!)」

 いつか形勢逆転してやる、いっそ開き直った名前は赤い顔のまま斬島の背中に飛びついた。

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オチが行方不明。
獄卒にはどのような感情があるのか考えながら打っていくのも楽しい。新人が多分一番人間らしいと思います。
斬島さんは多分むっつり。