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「えーと……長襦袢の次は」
「これこれ、この腰ひもと伊達締めで……」

 困ったような顔をする名前、彼女の着ている長襦袢を整え腰ひもと伊達締めを使い仕上げる。同僚であり後輩の名前が閻魔庁の先輩からほぼ新品の袴のお古を貰ったらしく、着付けを教えてくださいと俺の所に来たので着付け真っ最中だ。

「すみません佐疫先輩……何分生前でも着物は七五三以来着た事が無くて」
「名前が生まれた時代にはもう着物は廃れていたらしいしね、仕方ないよ」

 任務が無い日の名前の私服も所謂洋服しか見た事ないし。今回、長襦袢の着方は分かりましたが後が一人で出来ないです、と嘆いてきたときはちょっと吃驚したけれども。

「えーと、次は着物を羽織ってね」
「本見えますか?」
「うん。大丈夫」

 さすがに女性の着物とかはやった事がないから俺も本を読みつつ名前の着付けを手伝う。けれど、女性の着物ってどうしてこうややこしい手順なのだろうか。帯とかもキツそうだし……。

「それにしても、名前が着物なんて珍しいね」
「斬島もたまに着物着てるみたいだし……」
「ああ、一緒に和装で出掛けたいとか?」

 名前の顔が真っ赤に染まった。図星か。後輩と親友が付き合っていることは知っているけどまさかここまで親友が想われているとは。羨ましい。
確かに斬島は和装が流行っていた頃の人だし私服も和装が多い、まあ名前と付き合いだしてからは洋服も着るようになったけど。

「本当は斬島に頼みたかったけど、吃驚させようと思いまして……」
「ふふ、本当に斬島が好きなんだね」
「……」

 ついに黙って俯いてしまった。可愛い、小動物みたいな後輩の頭を撫でると不思議そうな目で見られる。下心がないと思われてるからこういったことも頼めるのかな。確かに名前のことは同僚もとい後輩としか思ってないけれど。男だから、変な風に誘われたら分からないかも知れない。

「(……ま、ないと思うけど)」

 斬島と名前は仲睦まじい夫婦みたいな感じだし。親友の恋人に手を出す卑怯なことはしない。
青地の生地に、牡丹が咲き乱れている着物を羽織り、コーリンベルト、腰ひも、伊達締めを付けていく。その次は袴下帯を付けていき、最後に袴を渡す。

「これ……ややこしいね」
「自分で縛ってみるので、指示お願いして貰って良いですか」
「もちろん。じゃあまずはここを……」

 本に書いてある通りに紐を渡したりして読み上げていくと、苦戦しながらも名前は丁寧に結びつける。
全部着れたのを確認した名前はパッと顔を上げて笑顔を見せた。

「着れました! やったー!」
「おめでとう。とても似合ってるよ」
「後は髪を結びかえれば完璧ですね」

 嬉しいのかずっとはにかみながら笑う名前に自然と俺も顔が綻ぶ。なんだろう、妹みたいな目で見てるかもしれない。
名前は上の方で纏めていた髪の毛を下ろして、どこからか持ってきた鏡を見ながら慣れた手つきで髪の毛を整える。

「凄い。結ぶの早いね……丁寧だし」
「慣れてますからね! あとはこの簪で」

 青い飾りが付いた簪を挿して名前の準備は整ったらしい。改めてこちらを振り向いた名前に一瞬だけ心臓が音を立てた。
普段洋服を着ているときはまた違った雰囲気を纏った名前は可愛いというより綺麗の言葉が似合う。
 これ斬島大丈夫かなと思いながら笑う後輩の頭を撫でる。

「なんか全然違うから、別人みたい」
「髪も服も一気に変えましたからね! 斬島吃驚すると良いけれど」
「多分、誰だ? ってなると思うよ。このまま斬島の部屋行くの?」
「はい。佐疫先輩本当に有難う御座いました、お礼はまた改めてさせて頂きますね」
「そこまで気を遣わなくて良いのに」
「自分がしたいので!」

 ああ、もう本当に良い子だなぁ。抱き締めたいという謎の欲求を必死に抑えると控えめなノック音が聞こえて見慣れた仲間が顔を出した。

「佐疫、名前をみなか……」

 斬島だった、俺の傍に立っている名前を見て目を見張っている。一方の名前は少し驚いたけれどそのまま小走りで斬島の元へ向かった。

「斬島!」
「……? 名前、か?」
「はい、本当はこのまま斬島のところへ行こうと思ったけど……」
「待て、その格好は?」
「先輩からお古のを貰ったんだ、ついでに斬島驚かせようと思って」
「一人で着たのか?」
「ううん、途中までは自分で着て、後は佐疫先輩に」
「……」
「? 斬島、わっ」

 チラッと斬島が俺を一瞥する。変なことはしてないよ、と意味合いを込めて笑うと斬島は名前の手を引っ張って自らの方に抱き寄せる。

「悪かったな。佐疫」
「構わないよ、どうせ暇だし」
「あ、あの斬島?」
「行くぞ。名前」
「ちょっ……!」

 少し後輩の身の安全が心配だけど、斬島も心成しか嬉しそうだったから大丈夫だろう。
今日は斬島の部屋には行かないようにしよう、そう思って俺は着付けの本をしまった。